士官学校付属高校編13
軍のシミュレーターを使う事は部隊の誰かと一緒にならばと使用を許可された。デイヴ中尉が次週の哨戒業務前にクリストフと一緒にどうぞと誘ってくれた。
翌週クリストフと共に月面基地のシミュレーション室へとやってくると、そこにはデイヴ中尉とジャックが待っていた。
「ジャック少尉がどうしても君たちとシミュレーションをやりたいらしくてね。非番なのに出てきたんだぜ。」
「わざわざすいません。」
「俺が好きでやってるからいいよ。」
ジャックは少尉らしい。物腰が柔らかでハンサム。ビアータ中尉が惚れるのも無理ない。
「俺も君たちとやりたいからジャック少尉とチームを組ませて貰う。すまないね。」
正規の軍人2人と学生だと普通は力の差があるので、こんなチームの組み方はしないのだが、今回はデイヴ中尉とジャック少尉が俺たちとシミュレーションをやってみたいらしい。2人ともビアータ中尉と親しいので話を聞いて俺たちとやってみたいのかもしれない。
「了解です。こちらの方こそ無理を言って付き合って頂いているので。」
クリストフが殊勝な返答をする。こいつはこういう時はそつがない。
「すいません。俺『クロウ』に乗るの初めてなんですけど。」
いきなり乗ってなんとかなるとは流石の俺も思っていない。少し練習させて欲しい。
「すいません。僕も初めてです。」
クリストフもすまなさそうに追従した。
「じゃあ最初に少し練習するか?」
「はい。お願いします。」
俺たちは練習させて貰う事にした。まず音声認識の設定が必要だ。こちらの命令を受け付けて貰えないと武装の選択もままならない。設定が完了後、コネクトを開始して操作感を確かめる。『ヘーニル』と『ローズル』は特殊な機体ではあるが、ベースは『クロウ』と聞いている。そんなに操作感は違わないと思っていたが、全然そんなことはなかった。
「クリストフ。『クロウ』ってなんか反応が鈍くない?」
《そうだね。なんと言うか水の中に居るような…。》
どうやらクリストフも感じているらしい。これは慣れるしかないか。30分ほど練習させて貰い、その後30分の制限時間で2対2をすることになった。設定はもちろん月面だ。
「よろしくお願いします。」
《手加減しないから、そっちも本気で掛かってこい。》
デイヴ中尉は手加減なしとのことだ。『クロウ』でどこまで出来るかわからないが、クリストフとはかなりの期間一緒にやっているので、その辺りは急造チームよりはやりやすいはずだ。
先に発見されたのはこちらだった。捜索方向と違う方向からの射撃が飛んできたので。これは幸い当たらなかったので事なきを得たが、最初に終わっていた可能性もあった。
「くそっ! ヴァレリーたちが居ない差が出たな。」
俺たちは索敵をヴァレリーたちに依存しすぎていたようだ。更に『ヘーニル』と『ローズル』はセンサー類が『クロウ』よりも強化されているようで、普段のレーダー範囲との感覚のずれが上手く修正できなかったようだ。弾が飛んできた方角に牽制の射撃をしながら体勢を立て直す。距離を詰めたがそこには1機しか居ないようだ。
「どこだ?」
《見当たらないよ。》
「先に見えている方を潰そう。」
俺たちは少し間隔を開けて、射線の角度が付くように敵機に寄って行く。
「捕捉。」
《こちらも見えた。》
射線が交わるように敵機に射撃を加えて行く。警告音が鳴ったその時に衝撃がきた。
「当てられた!」
視界の端にある機体のモニタに被弾箇所が表示される。右腕大破だ。角度的には高い位置からの攻撃のようだ。レーダー範囲ぎりぎり外から狙われたようだ。『クロウ』を熟知しているからできる攻撃だ。この状況はまずい。が俺が被弾したことを知って、こちらが追いかけていた方が前に出てきた。包囲を狭めながら仕留める気だろう。
「ピンチだが、チャンスが巡ってきた。先に向かってきている方を狙おう。」
《了解。》
こちらのチームも距離を詰める。俺が被弾しているので2機からの攻撃を受けるだろう。なんとか避けてクリストフに1機を撃墜して貰う必要がある。そうすれば逆転の可能性が出てくる。俺は攻撃を捨てて避け続けることにした。
俺は敵の攻撃を避け続けた。だが敵も正規の軍人だ。なかなかクリストフは沈められない。俺から攻撃がないことも読まれている可能性がある。一応は反撃しているのだが…。当てる気がないのがバレているのかもしれない。そういうところはやはり上手い。結局30分ではお互い撃墜することはできなかった。
「グレン君もクリストフ君も噂以上だな。」
「あぁ、最初の1発だけしか当たらないとはね。」
「被弾した機体であれだけ避けられると、こちらも自信をなくすよ。」
「ありがとうございます。」
被弾した機体はどうしてもバランスが悪くなり、挙動がおかしくなる。そうすると普段は避けられてる弾もなかなか避けられなくなってしまうものなのだ。そういう意味で今日の俺は頑張った。
「これ以上やると任務に支障がでそうだから今日はここまでだな。」
「来週もお願いできませんか。」
「おう、いいぞ。君たちとやるのは面白い。」
なんとか来週以降もシミュレーションを続けて行けそうな算段が付いた。




