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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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士官学校附属高校編9

 翌週からはなんとなくクリストフと一緒に研究所に行く事になった。研究所に着くと入り口でヴァレリーとサンドラが並んで待っていた。2人が並んでいるだけでとても様になるのは流石だ。華がある。


「おはよう。グレン、クリストフ。」

「おはようございます。テオ博士。なんだかにぎやかですね。」

「あぁ、今週からスタッフが増えたのでね。」

 今までがらんとした雰囲気の研究室にデスクと人が増えていた。奥を見るとシミュレーターが3機に増えている。更には透明の筒のような覆いが作られていた。いよいよ本格的にプロジェクトが進行するようだ。

「今日からいよいよ本格的に進めて行くことになる。紹介したい人物も居るから会議室へ行こう。」

「了解しました。」

 俺とクリストフ、そしてヴァレリーとサンドラは、テオ博士に続いて会議室へと向かった。今まで会議室なんて使ったことがなかったが、思った以上に立派な作戦会議室があった。大きな壁面は映像を投影するものだろう。緩やかなカーブを描いており、会議室のどこからでも見やすいようになっている。席は階段状になっており後ろが高く、前は低くなっているすり鉢のような形をしている。

 そして会議室には一人の女性が居た。女性は立ち上がると敬礼で俺たちを迎えた。

「貴方たちの教官を拝命したベアータ中尉です。」

 俺とクリストフも返礼で応じる。

「クリストフ候補生です。」

「グレン候補生です。」

「よろしく頼む。」

「「よろしくお願いします。」」

 ベアータ中尉は30歳前後だろうか。キム少尉よりは年上に見える。

「今日からベアータ中尉の指導の下でシミュレーションを進めていく。君たちの錬度を上げると共により実戦に近い形でのシミュレーションになる。」

「わかりました。」

「また今日からはセンサーの付いたパイロット・スーツ着用でシミュレーションを行う。各自着替えてシミュレーションルームへ集合すること。」

「了解しました。」


 俺たちはパイロット・スーツを受け取ると更衣室へ向かった。クリストフと一緒に男性更衣室に入る。

「ベアータ中尉は帰ってきたんだね。」

「クリストフは知っているのか。」

「軍では有名だよ。女性ながら月面基地の部隊長をやっていたからね。」

「へぇ。」

 俺はそういうことにはまったく疎い。

「結婚して子供ができたので引退したと聞いていたんだけどね。」

「軍は辞めてなかったのかな。」

「そのようだね。月面で僕たちの指導だけなら子育てに支障もないだろうしね。」

 最近は人工子宮も大分普及しており、出産をしない女性も増えてきている。ベアータ中尉は普通に妊娠したため月面基地の部隊長を引退したらしい。

 ベアータ中尉がどれぐらいの頻度で研究所に出てくるかわからないが、俺たちの指導だけなら週に1回だし、クリストフの言うように子育てに支障がないから教官を受けたのかもしれない。俺たちは着替え終わるとシミュレーションルームへ戻ってきた。

「テオ博士。最初は彼らの力量が知りたいのだけど。」

「では対戦してみるかい?」

「お願いするわ。」

「設定はどうする?」

「月面ならあとはなんでも。」

 ベアータ中尉は自信に満ち溢れた表情でそう言った。元月面基地の部隊長だしな。

「席はグレンが一番右で、クリストフが真ん中、左がベアータ中尉だ。」

「了解です。」

 俺はテオ博士に指示された席に着いた。向かい合ってヴァレリーが座る。隣のクリストフも対面にはサンドラが座っている。そう言えばベアータ中尉はどうするのだろうと思いベアータ中尉の方を見てみると、イヤフォンインカムを付けているだけだった。通常の戦術AIを使用するのだろうか。


「準備OKよ。」

「こちらもOKです。」

「こちらもです。」

 シミュレーションの準備は整った。

「それではシミュレーションを開始する。」

 テオ博士の号令で俺たちはコネクト状態となった。横を見ると『クロウ』に似せた『へーニル』が居た。クリストフ機のカラーは白のようだ。ちなみに俺の『ヘーニル』は実物に沿ってグレーだ。

 

《まずは索敵だ。》

 しかしすぐにヴァレリーから

「3時の方向に土煙です。」

とベアータ中尉発見の報が入った。

「クリストフ3時方向だ。」

《こちらも確認した。》

「左右から挟み撃ちにしよう。」

《了解。》

 俺たちは12時方向と6時方向に散った。高度を上げると丸見えになり狙われるので、俺たちも地上を進むことにした。土煙が上がるのでどちらにしてもこちらの位置もバレる。ベアータ中尉はこちら側に寄ってきた。よし、じゃあ会敵して時間を稼ごう。そうすれば背後からクリストフが攻撃できて挟撃になる。

 お互いが十分な射程距離に入った時点で撃ち合いが始まった。

「この距離じゃ当たらないな。」

「はい。流石です。」

「よし。もう少し近づくぞ。」


 射撃は当然近ければ近いほど当たり易い。それはお互いに言える事だ。普段のシミュレーションなら撃破していてもおかしくない距離。それでも当たらない。

「中尉。めちゃくちゃ凄くないか。」

「はい。動きに無駄がありませんね。月面の特性も熟知されています。」

 その時、別方向から弾が飛んできた。クリストフが戦場に到着したのだ。ベアータ中尉はそれを見るや否やクリストフの方へ転進した。判断も早い。今度は俺が背後からベアータ中尉を狙う。しかし避けられる。もしかして両方を見ながら捌いているのか?例えば右目で正面を見て左目で後方を見るなどだ。果たしてそんなことができるのだろうか。視界がずれて酔いそうだが…。

 ベアータ中尉は怒涛の勢いでクリストフに接近しあっさりと撃破した。あれだけの腕前があるとクリストフにはまだ荷が重い。

 

 ベアーター中尉は踵を返すとこちらに向かってきた。相当推進剤を使っているはずだ。短期決戦にするつもりだろう。こちらも接近し受けて立つことにした。お互いに近距離でガンガン撃ち合う展開となった。こちらの射撃を月面のクレーターなどの高低差で巧みにかわしていく。スペース・トルーパーの操縦の奥深さを感じた。最終的にはベアータ中尉の推進剤が切れて降参となった。


「グレンの技量的に私が教官でいいのだろうか。とても自信をなくしたのだが・・・。」

「俺はヴァレリーのサポートと『へーニル』の性能のおかげだと思っています。」

「それでもだよ。まだスペース・トルーパーに乗り始めて3ヶ月くらいだと聞いている。」

「そうですね。しかし反応速度だけだと思います。状況判断などはまだまだです。」

 そうか。ヴァレリーと出会ってまだそんなものか。

「そうだな。そう言った面を中心にやって行こう。」

「はい。よろしくお願いします。」

 その後3人で5対3をやったが、的確な指示と戦術の重要性をまざまざと見せ付けられた。いつもの5機をまさに圧倒したのだ。いつもやられてばかりなので気分が良い。クリストフも活躍できたので満足そうだ。


 シミュレーションが終わり着替えた俺は、ヴァレリーといつものように手を握り合い見詰め合っていた。今日までのデータからナノマシンへ調整を行うためだ。ベアータ中尉が不思議そうに見ているのでいつもより余計に恥ずかしい。クリストフの方は平然とした様子だった。あいつには緊張や羞恥といった人の心がないのではなかろうか。

「グレン。終わりましたよ。」

「ありがとう。ヴァレリー。」

「本当にそれでナノマシンの調整ができているの?」

 ベアータ中尉は腑に落ちない表情で尋ねてきた。

「俺自身もあまり効果は実感できませんけどね。手は暖かくなったりしますけど。」

「グレンは十分成果が出ているよ。ここのところの反応速度の伸びは驚異的だ。」

 テオ博士に褒められたということは順調なのだろう。プロジェクトが成功するに越したことはないのだ。

「では私は先に失礼する。」

 ビアータ中尉の敬礼に返礼した。そしてビアータ中尉は帰っていった。クリストフの処置も完了したので、俺とクリストフも寮へ帰ることにした。


 一緒のエレカーに乗り込む。

「クリストフ。伝説の部隊長はどうだった。」

「いやぁ、流石だね。手も足も出なかったよ。」

「強かったな。」

「指揮も的確だし、女性で部隊長になるだけあるね。」

「そうだな。」

 シミュレーターの敵機は大分と反応速度を上げられているはずだが、それを軽く凌駕する動きだった。デフォルト設定のシミュレーターが平均値なのだとするのなら、やはりパイロットの個人差は大きい気がしてきた。

 それはこのプロジェクトには意義があると言うことと、思った以上に俺はパイロットとして上位にいることが分かったことが今日の収穫だな。

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