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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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邂逅編3

俺はヴァレリーと船外服を着るためにエアロックにやってきたが、ヴァレリー曰く船外服を着る前にすることがあるそうだ。

「で、何をするんだ?」

 ヴァレリーは俺に近づいてきて手を握った。ヴァレリーの手は人肌に比べれば随分温度が低いようだ。

「私の目を見てもらっていいですか。」

 俺はヴァレリーの目を見た。ヴァレリーとの身長差はそんなになくて5フィート9インチの俺より少し低いぐらいだ。よく見るとアイスブルーの瞳の奥にうっすらカメラのレンズのような物が見える。目から顔全体を見てあまりの綺麗さに何故か赤面してしまった。。

「グレン。緊張してますか?」

 顔が紅潮したことでヴァレリーは緊張と受け取ったようだ。

「ヴァレリーが美人だからね。」

と誤魔化すために軽口を叩く。

「お上手ですね。」

「ところでこれは一体・・・冷たい!」

 一体何をしているのかと問おうとしたところ、急にヴァレリーの手が冷たくなった。いや逆か。俺の手が熱くなったのだ。

「なんだこれ?」

 繋いだ手をまじまじと見るが特に変わったところはない。

「ナノマシンへ少し命令を。スペース・トルーパー用にアップデートしています。」

「目を見つめるのも?」

「そうです。目は脳に近いので。」

「ナノマシンへの命令を目から? そんなことができるんだ。」

 先ほどから驚くことばかりだ。ナノマシンは予めプログラムされた行動しかしないものだと思っていた。

「痛っ!」

 不意にズキリと頭の内側から痛みがした。

「終わりました。」

 頭痛はすぐに引いた。まだ手に熱はあるようだ。俺は手を握ったり開いたりして感触を確かめた。何か変わったという感じはしない。視線をヴァレリーに戻すとヴァレリーは少し悲しそうな顔をしていた。

「どうかした?」

 ヴァレリーは視線を外しながら

「その…。巻き込んでしまってすみません。」

と謝った。そのガイノイドらしからぬ所作に俺はまたも心を動かされた。

「俺たちの方こそ戦闘力があるおかげで死なずに切り抜けられるかもしれない。」

 ヴァレリーは顔を上げ、まっすぐこちらを見た。

「絶対とは言いませんがその通りになるよう、私が貴方を守ります。」

「よろしく頼むよ。」


《グレン。ヴァレリーは居るか。》

 通信機が鳴動しトニーからの通信が入る。

「一緒にエアロックにいます。」

《推進剤の準備ができたから補給方法を教えてくれるように伝えてくれ。》

「了解。ヴァレリー。推進剤の準備ができたから補給方法を教えて欲しいって。」

「わかりました。グレンは船外服を着たらコックピットまで来て下さい。先に行っています。」

「わかった。」

「ではまた後で。」

 ヴァレリーは軽やかに身を翻し、荷下ろし場へと向かっていった。俺は船外服の装着を始めた。


 俺が船外服を着てスペース・トルーパーの元に辿り着いた時には、トニー達はスペース・トルーパーを固定していたワイヤーを外す作業をしていた。コックピットハッチのところにはヴァレリーが待っている。その時トニーが近づいてきて一言

「死ぬんじゃねぇぞ。」

と言って作業に戻って行った。

「グレン。乗って下さい。」

 ヴァレリーに導かれて、俺はスペース・トルーパーのコックピットの中へ入った。先ほども見たがコックピットの中は狭い。内部の感じはブリッジに似た感じで樹脂と一部金属でできているようだ。色は黒に見える。照明はかなり落とされていて薄暗い。コックピットの奥には簡易な椅子のような物とレバーのような取っ手があった。

「そこがパイロット位置になります。」

俺は促されるままに椅子のようなものに腰掛けた。ヴァレリーも中に入ってハッチを閉じた。ハッチを閉じることで足元から座席がせり上がってきた。お椀型のソファーとのような形をしていて、ヴァレリーは俺と向かい合うように座った。

「取っ手を握って楽な姿勢をして下さい。位置を調整します。」

俺が取っ手を握ると取っ手位置と椅子のようなものが可動し、足がギリギリ付いて俺は椅子に足を下に伸ばしながら座ったような状態となった。ヴァレリーは立ち上がると俺の背面にある壁から固定具を引っ張り出し、それで俺を固定し始めた。固定し終えるとヴァレリーはまた先ほどの座席へと戻っていった。

「握っている部分がイメージフィードバックのインターフェイスになります。」

「操縦するときは握っていればいいんだな。」

「そうです。グレン。今は意外と落ちついていますね。」

 ヴァレリーは俺をじっと見ながらそう言った。

「こんな密室の暗がりで美女と二人きりなんて緊張するよ。」

 ヴァレリーは意外そうな顔をしながら

「まだ若いのに肝が据わってますね。」

と感心した風に言った。

「修羅場はくぐってきたからね。」

 そう。あの時に比べればなんてことはない。

「グレン。船長にどの通信回線を使えばいいか確認して下さい。」

「了解。」

 俺は船外服の通信回線を開いた。

「船長。スペース・トルーパーとの通信回線はどうすればいいですか。」

《一般周波数だと盗聴されるんじゃないのか?》

「ヴァレリー。一般回線だと盗聴の可能性があるってさ。」

「それは仕方ないかと。できるだけ通信しない方がよいですが、まったく通信できないのも困りますので。」

「船長。盗聴も織り込み済みでできるだけ通信しないようにだって。」

《わかった。コードESK-31239で通信しろ。》

「了解。」

 俺は通信を切った。

「コードESK-31239だって。」

「了解しました。回線開きます。」

《こちら『エーリュシオン』どうぞ。》

「ヴァレリーです。あと何分で会敵予定ですか。」

《悪い知らせだ。足の速い小型機が先行して接近中だ。小さいからスペース・トルーパーではないと思うが・・・。あと15分もない。》

「了解です。船員の方の退避後、この場所の空気抜きと格納口の開放をお願いします。」

《了解した。グレン・・・。》

 通信機の向こうの声は神妙だった。

「なんです。船長。」

「すまない。必ず生きて帰ってくれ。」

 息子を死地に追いやることを気に病んでるのだろう。しかし俺は養父さんには感謝してもしきれない恩がある。それが返せるならば安いものだ。養父さんが気に病まないようできるだけ軽口を叩いた。

「ちゃんとご褒美を下さいよ。飛び切り良いものを。」

《あぁ・・・。》

「泣かないで下さいよ。ちゃんと帰ってきますから。」

《あぁ・・・。》

「それじゃあ行ってきます。養父さん。」

 嗚咽が聞こえたと思ったら通信が切れた。

「さてグレン。時間があまりないので発進準備を始めます。」

「あぁ。次は何をすればいい?」

「しばらく待機です。お待ち下さい。」

 ヴァレリーは目を閉じている。発進準備を進めているのであろう。1分程経っただろうか。

「機体の機能チェックは完了しました。船員の退避も終わったのでコネクト後の動作チェックをします。」

コネクトとはイメージフィードバックを使用して機体と人間が繋がった状態を指す言葉のはずだ。

「俺が操作できる状態にするってことでいいんだよね?」

「はい。その通りです。ではコネクト状態に切り替えるのでゆっくり動いて下さいね。」


 次の瞬間、俺の視界は暗転した。

「真っ暗?」

 そしてまた次の瞬間には視界は荷下ろし場の天井が映っていた。

「荷下ろし場だ。」

「スペース・トルーパーからの視界です。現在グレンはスペース・トルーパーとコネクト状態にあります。まずはゆっくり起き上がりましょう。両腕でデッキを押してみましょう。そっとですよ。」

急に視界が変わったので少し混乱したが、スペース・トルーパーは荷下ろし場に仰向けて寝た格好なので荷下ろし場の天井が見えているのだ。視界の隅には何やら文字が並んでいる。内容はよくわからないが計器類の類なのだろう。今は無視でいいだろう。俺は言われるがままに寝た状態から起き上がるよう考える。スペース・トルーパーの腕が荷下ろし場の床に着き上体を持ち上げようとする。できるだけゆっくりだ。上体が上がっていき視界が格納口を捉えた。

「グレンはこの状況から起き上がれますか?」

 今スペース・トルーパーは足を投げ出して後ろ手を衝いて座っている状況だ。起き上がるには膝を曲げた上で腕の力の反動で上体を起こすことになるだろう。俺は今考えたことをヴァレリーに説明した。

「やってみましょう。」

 俺は膝を曲げ足を寄せた。あとは反動で上体を前へ。

「上手いですねぇ。」

 絶妙の力加減で上体が浮き上がった。がそのまま体が浮いてしまった。手を伸ばし天井を軽く押し床に戻った。しかし天井と床は凹んでしまったようだ。

「ありゃ。」

「これで済んだのなら御の字ですよ。グレンは素質があります。」

「ヴァレリーは煽てるのが上手いな。」

「いえいえ。本当ですよ。このスペース・トルーパーはイメージフィードバックと私への音声命令で動かすことになります。」

「了解した。命令すれば対応してくれると。」

「はい。その通りです。それでは次のステップに進みましょう。」

「次は何だい?」

「今の動きはグレンが今まで人間の身体でやったことがある動きだと思いますが、今度は想像力も必要です。」

「それは?」

「宇宙空間をかなりの速度で自由自在に飛び回ることです。」


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