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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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士官学校附属高校編8

 最終的な噂の着地点はヴァレリーは慰安要員としてセックスボットであり、俺はセックスボット最大手のオクシデント・インダストリーの御曹司であるとのことだった。そのコネを使って俺は士官学校に入ったらしい。マジかよ。知らなかった。

 俺も軍に入るまでは、スペース・トルーパーは全てヴァレリーのような戦術AIがセットで付いてくるものだと思っていた。しかし実際には戦術AIはあるが、あんな美人ガイノイドではなくコックピットに固定された箱である。音声入力を使用するため発音などの個人カスタマイズは反映できるが、設定の入れ替えはカードによるデータ移管らしい。そんな状態なので、ヴァレリーをスペース・トルーパーの戦術AIだなんて言ったって信じて貰えるわけがないのである。

 寮に帰った俺は詳細な報告書を作成しテオ博士に送った。事態の収拾を図って貰うためだ。多分テオ博士ではどうにもならないので更に上層部に報告書は上げられることだろう。解決の糸口はまったく見えないので、俺は現実から逃避し黙々と課題を片付けることにした。


 翌朝、全校生徒に対し校長から俺に関するガイノイドについては軍事機密に当たるため校内及び寮内での言及を禁止する通達が出された。報告書が結構上層部まで上がったのかもしれない。滅茶苦茶迅速だった。

 昼休みに悪びれもせずにクリストフがやってきた。

「いやー、グレン君のせいでたっぷり絞られたよ。」

「どう考えても自業自得だろ。」

 誰かにこってり絞られたらしい。少し溜飲が下がった。

「それにしてもグレン君は不思議なコネを持ってるね。まさか校長から注意を受けるとは思わなかったよ。」

「俺はオクシデント・インダストリーの御曹司じゃないぞ。」

 クリストフは笑いながら

「グレン君は食えないね。」

と言ってきた。お前が一番食えないんだよ。

「僕は君が何者か知りたいだけなんだけどねぇ。」

 人好きのする笑顔でいけしゃあしゃあと言い放った。俺が何者かを知るために手段を選ばなさすぎだろ。強引なやり方は態度を硬化させるだけだと思うんだけどな。俺から結構情報が出ないので揺さぶりにきたのかもしれないが・・・。

「クリストフほどのコネを持った人間が気にする程の人間じゃないよ。俺は。」

「本当に君は興味深いよ。」

 そう言うとクリストフは席を立って

「ではまた。」

と去って行った。何しにきたんだろうか。ただの敗北宣言? いやいやそんなタイプじゃないな。それに託けて何か情報を得ようとしてきた感じだな。油断ならないやつだ。


 その後、しばらくはクリストフから絡まれることはなかった。俺は課題と授業を必死にこなしていたし、休日には研究所に行きヴァレリーと様々なシチュエーションでのシミュレーションをこなすと言う多忙な日々を過ごしていた。そんなある日、研究所に行くと見慣れた顔が居た。

「やぁ、グレン君。」

「クリストフ!? なんでここに。」

 突然降って湧いたようにクリストフが現れた。なんの脈絡もなく研究所に居ればそりゃびっくりするよ。

「おはよう。グレン。紹介しよう。今日から被検体2ndパイロットとなるクリストフだ。」

 テオ博士から淡々と紹介された。2ndパイロットだって?

「どういうことですか博士?」

「機密の実験とは言え人員が少なすぎるだろう。僕とエルマ君と君の3人しか居ない。」

「確かに少ないですがそのようなものかと・・・。」

「現在のフェーズは基礎データを取得する先行着手のようなものさ。予算も限定的だったしね。」

 少ない予算だったので人も少なかったらしい。

「この度目出度く予算の目処が立ってね。これから徐々に人員が増える。その第一弾が彼だ。」

「そう言うことなんで今日から僕は君の同僚だ。よろしくね。」

 相変わらず人好きのする笑顔で挨拶してくるクリストフ。こいつは何を考えているのかさっぱりわからない。

「さて僕のビジネス・パートナーも紹介しよう。サンドラ。」

 クリストフの後ろから亜麻色のミディアムヘアの美女が出てきた。雰囲気はヴァレリーによく似ている。顔はヴァレリーより更に幼い感じで10代と言われてもおかしくない。浮世離れした美人さからして、ヴァレリーと同じ作者の同型ガイノイドなのだろう。しかしわざわざ顔を変えるとは製作者は趣味に走りすぎなのではないだろうか。

「はじめまして。HTX-03.コードネーム『サンドラ』です。ヴァレリーともどもよろしくお願いします。」

「よ、よろしく。」

 俺はまだクリストフのショックから立ち直っていなかった。声が若干上擦る。

「クリストフには今日から参加して貰うが、シミュレーターの追加が間に合ってないので順番にシミュレーションをやってもらうことになる。」

「了解しました。」

「では始めよう。まずはグレンからだ。」

「はい。」

 俺はヴァレリーとシミュレーター席に着いた。

「あんな風に座るんだ。」

 俺にとっては普通のことだが初見のクリストフにとっては奇妙に見えるのだろう。音声認識が必要な以上、戦略AIと対面で座るのは理には適っているのだ。

 まずは軽く1対1だ。最近はテオ博士がやたら敵機の反応速度を上げているが、俺も操縦に慣れたのですっかりウォームアップ気分だ。最近は敵機の弾をギリギリで避ける練習をしながら行っている。順調に相手の射撃を避けながら敵機に近づいて行く。これ以上は避けられない距離で弾を避けると返す刀で敵機に弾を撃ち込んだ。

 シミュレーター席を下りてクリストフと交代する。すれ違いざま

「グレン君。あの距離の射撃を避けるものなのかい?」

といつも冷静なクリストフには珍しく興奮した様子だった。

「練習次第だな。」

「そうかい。じゃあ僕も頑張るよ。」

 そう言うとクリストフはパイロットの席に。向かいにサンドラが座った。

 

「ではクリストフ。よろしく。」

 テオ博士の号令でシミュレーションが始まった。俺とヴァレリーはテオ博士たちが座るオペレーター席の後ろからシミュレーションを見守る。オペレーター席からはクリストフが見ている主観視点のカメラと、戦場がどういう状態になっているかがわかる第三者視点のモニタが用意されている。反省会では第三者視点のモニタしか使わないので、パイロット視点と両方一気に見える光景は新鮮だ。

 クリストフはナノマシンの施術を受けているが、その動きはぎこちなかった。

(あー、無理だな。)

 そう思ったら、やはり撃墜された。いきなり俺と同じ難易度は無理だろう。

「博士。その難易度設定は無理じゃないですか。」

「グレンが進み過ぎてるからね。比較の必要があるのでしばらくの間はこの難易度だよ。」

 なかなか酷な気がするが、俺との比較が必要なら仕方がない。せいぜい頑張って貰うとしよう。


 再度交代して今度のシチュエーションは月面での5対1となった。月面だと遮蔽物があるので攻撃を捌き易い。最近は3機ぐらいまで落とせるようになったが、やはり弾か推進剤が切れてしまう。今度の交代の時のクリストフの表情はぽかんとしたものだった。

「5対1であんなに粘れるものなのかい?」

「練習次第ではね。俺も最初は1機も落とせず撃墜されていたよ。」

 クリストフは納得した表情でシミュレーター席に座り、開始で5分ぐらいで撃墜されていた。5対1は難しいからな。

 本日分はこれで終了となり、俺とクリストフはヴァレリーとサンドラに見送られてエレカーに乗った。

 

「グレン君はずっとこんなシミュレーションをしていたのかい?」

「月面に来てからはずっとだな。」

「そうか。」

 クリストフは何か考え込んでいるようだ。

「クリストフは何故このプロジェクトに志願したんだ?」

 クリストフは顔を上げて応えた。

「前にも言ったけど君に興味があってね。」

「俺への興味本位でここまでやらないだろ。」

「いや、君を知るためには必要だったのさ。入り込まないと機密保護のせいで何をしているのかさっぱり分からなかったからね。」

「そうか。」

「確かに本来の目的は君が参加しているプロジェクトの全貌を調査することだったんだけどね。ちょっとやりすぎてしまったので友好関係を結ぶ方へ方針転換したんだ。」

「調査ねぇ。君の軍関係者である祖父からの依頼かい?」

「うん。そうだよ。」

 クリストフはあっさりと肯定した。

「軍で出世すると言うのも大変だということさ。」

「祖父の片棒を担がされているのか。」

「最終的には自分の後ろ盾の強化になるからね。Win-Winさ。」

「確かに軍で出世するのは大変そうだな。」

 ちゃんと考えると胃が痛くなりそうだ。俺には縁のない話だから考える必要はない。


 他愛のない会話をしているうちに寮に着いた。俺とクリストフは別の寮なので停車場でお別れだ。

「じゃあまたな。」

「グレン君。これからもよろしく頼むよ。」

 クリストフは握手を求めてきた。今日からプロジェクトの同僚だ。正直ヤバそうな奴だが、それゆえに無下にはできない。俺はクリストフと握手をした。

「あぁ、よろしく。」

「じゃあ明日また学校で。」

 そしてそれぞれの寮に帰って行った。

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