士官学校附属高校編4
士官学校での生活だが課題ばかりではなく実習もある。軍事訓練もあるが宇宙軍としては月だけを想定した軍事訓練ばかりしても効果が薄い。それに宇宙軍は歩兵も居れば船もある、果てはスペース・トルーパーまであるのだ。覚えることが多いわけで大学教育だけでは時間が足りないので付属高校が作られたと言われている。高校では広く浅く勉強し、大学ではより専門特化していく。
そしてこの広く浅くが曲者だ。俺が一番マシなのは船に関わることだ。法律や操縦などについては前の高校でもやっていたからだ。宇宙空間での船外活動などもまだ出来る。
だが銃器の扱いや整備などはちんぷんかんぷんだ。更に船の仕組みやスペース・トルーパーの仕組みなどもう手に負えない。乗るからには必要な知識なのだろうが、それにしても専門的過ぎる気がする。そしてそういった専門的な知識について、先生はもちろんのことティーチング・アシスタントの手を借りてなんとかやって行けている状況だ。
他の生徒からしたら「なんでこんなレベルのやつが?」と思われても仕方がない。そしてそう思われたら当然こうなる。
昼休みの食堂で食事が終わった俺は、図書館で課題でもやろうと移動しようと席を立った。すると同級生のアルベルトとその取り巻きに声を掛けられた。
「やぁ、グレン君。君はスカウトで入学したそうだね。」
「えぇ、まぁ。」
正直めんどくさいことにしかならない。アルベルトは代々軍人の家系だそうで、成績もトップクラスだ。顔もいい。背は俺より低いが、身体は顔に似合わず鍛えられている。
「大変失礼だが君の様子を見ていると、とてもスカウトされるような要素が見当たらないのだけれど、何でスカウトされたんだい?」
無礼極まりない質問だが、本人は至ってまじめだ。余計始末が悪い。
「校長に聞いてみてください。」
ホイホイしゃべれる内容じゃないからな。一応極秘プロジェクトなのだ。
「コネじゃないのか?」
取り巻きの一人が言った。よし、ここは、
「コネですかね?」
ヴァレリーの。と言う乗っかり方をしてみた。
「僕は宇宙軍の将軍は全員知っているが君は誰かの孫なのかい?」
アルベルトのコネが凄すぎて、俺の冗談は掻き消えた。
「海軍ですかね? じゃあ課題を片付けなければならないのでこれで。」
俺は適当に切り抜けた。
「待ちたまえ。」
逃亡失敗。
「なんですか?」
「海軍のコネで宇宙軍に入れるわけないだろう?」
「え?そうなんですか?おかしいなぁ。」
まぁ組織が違うからな。でも俺の祖父が海軍大将なら可能性はある。残念ながら海軍大将ではないが・・・。アルベルトは当然だろうと言う顔をして
「で君の祖父は誰なんだい?」
うーん。困ったぞ。
「おいおい、転校生の彼が困っているじゃないか。」
アルベルトの後ろから貴公子然とした男が近づいてきた。背は俺より高く、なんとなく品の良さを感じる。
「クリストフか。」
アルベルトの表情が引き締まる。ん?二人はどういう関係なのだろうか。
「彼は1年分遅れている。入って2週間も経ってないだろう?」
そうだ。そうだ。上手く説得してくれ。
「だから1年分遅れてたとしても入れるだけの能力があるのではないか?」
アルベルトはさも当然と言った風だ。
「そう言われればそうか。」
あれ?同調したぞ。俺の味方じゃないのか?
「それなら今度お爺様に聞いておくよ。だから彼を解放してあげてくれ。」
アルベルトの顔がみるみる不機嫌になっていく。クリストフ君、地雷踏んでない?
「いちいち君のお爺様の手を煩わす必要はない。今すぐ彼に吐かせる。」
「まぁまぁ。無理強いは良くないよ。そうだなぁ、ここに明日のスペース・トルーパー・シミュレーターの予約がある。」
クリストフは自分の端末で予約状況を表示させながら言った。
「アルベルトが勝ったら彼に答えて貰おう。僕はグレン君と組むよ。どうだい?」
どうだいと言われても俺にメリットがなくないか。
「受けて立とう。」
巻き込まれた。
「予約席は6あるからアルベルトは4人でいいよ。」
アルベルトの機嫌がどんどん悪くなる。これはもうわざとだな。
「あとで人数が少ないから負けたとか言うなよ。」
「もちろんさ。では明日の授業が終わってからシミュレーター室に集合だ。」
「わかった。」
クリストフは頷くと俺を連れて食堂を出た。しばらく歩いたところで
「まぁまぁ、そんなに渋い顔しないでよ。ここは綺麗に収まったんだから。」
綺麗か?一応は収まったみたいだけど、俺だけ不利な条件飲まされてない?
「彼は悪い人間じゃないんだけどね。ああ言った感じだから…。明日は手加減しなくていいよ。」
それだけ言うと彼は去って行った。なんとなくだがクリストフは俺が何で転校してやってきたか知ってる気がする。そうすると…。
(あいつ滅茶苦茶性格悪くない?)
俺は課題の他にも難題を抱えてしまったようだ。




