士官学校附属高校編3
「調整完了しました。」
そう言ってヴァレリーは握っていた手を離した。前みたいに熱くはならないみたいだ。手を握ったり開いたりしてみる。いつもと変わらない。
「よし、では次のシミュレーションを開始する。」
テオ博士の合図で再びシミュレーションが始まった。
「シミュレーション・コネクトを開始します。」
俺の視界はまた切り替わり宇宙空間が見えている。
「前方敵機確認。数5。」
5機は多いな。今まで戦ったことがない未知の数だ。とりあえず近づいてみるか。射程内に入ると弾が飛んできた。しかも数が多い。
「くっ。」
弾幕が厚いため俺は後退しようとする。すかさず敵機は前に出て圧力を掛けてきた。
「ヴァレリー。どうしよう?」
「相手の数が多い場合のセオリーは弾切れを狙うか、懐に入り込むかの2択ですね。」
「どっちがいいの?」
「どちらも厳しいです。」
操縦技術はあっても戦略レベルのことはまったくわかってないな。勉強が必要だ。そもそも5対1な時点で戦術レベルでも負けている。俺は懐に入ることを選択した。高速で動き回りながら隙を伺う。が5機の連携は非常に良く、なかなか懐に入るタイミングが見出せない。近づこうとすると牽制の弾がどこからともなく飛んでくる。数の暴力とはよく言ったものだ。
<ピーッ ピーッ>
警告音が鳴る。
「何?」
「推進剤が少なくなっています。視界の右上に残量が表示されています。」
視界の端にあるFが燃料<Fuel>のFか。ここでもまともに操縦を習っていない弊害が出た。高速で動いているため数値はみるみる減っていく。ジリ貧だ。焦りからか立て続けに被弾しシミュレーションが終了した。
「ダメだった。難易度が急に跳ね上がったよ。」
「良いデータは取れているよ。」
テオ博士はそう言っているが今のシミュレーションで良いところなんかなかったぞ。
「やっぱりちゃんと勉強しないとダメだな。」
無知が身に染みる。
「グレンはまだ学校にも入ったばかりですし。」
ヴァレリーがフォローしてくれる。優しい。
「数的不利な場合はうまく避け続けて弾切れや推進剤切れを狙うしかないか。」
「そうですね。」
「よし、じゃあもう一度だ。」
今度は持久戦に持ち込んだが、また相手の弾がなくなる前にこちらの推進剤が切れてしまった。難しいぞ。
「一旦、休憩だ。」
テオ博士に言われてしぶしぶ席を降りる。エルマさんが用意してくれた飲み物を飲みながらヴァレリーと反省会をする。
「避けるのに推進剤を使いすぎだな。」
「そうですね。グレンは直線的な動きをしますから消費が激しいです。」
急制動と急加速は推進剤の消費が激しくなる。できるだけそれを意識して動くしかない。しかし近すぎると被弾する確率が上がる、かと言って遠いと弾を撃ってくれないので弾が減らない。相手を撃つ気にさせて尚且つ避けられなければならない。距離を省エネで維持する。滅茶苦茶難しいのでは?
そう言えば操縦が上手いと思った人が居たな。えーっと人民軍から逃げる時のキム先生か。なんと言うかそんなに速度はないが相手を避けていたし、規則性のある動きでもなかった。まてよ。あの時は援軍が来るのを待っている状態だからあれが省エネの動きなのかもしれない。よしやってみよう。
先ほどよりは推進剤は保ったが、それでも最後には相手の弾薬切れより先に推進剤が切れてしまった。やはり言うは易し行うは難しだな。あとは懐に飛び込む作戦か。次は速攻を狙ってみるか。
シミュレーション開始早々に1機に向かって一直線だ。相手の弾を躱して、プラズマ・ブレードを引き抜いて敵機に振り下ろした。
《被弾》
嘘だろ。腕を吹っ飛ばされた。糞! 逃げないと。しかし無情にも他の機体からの射撃により撃墜されシミュレーションは終了した。
「今日はここまでだな。」
テオ博士の宣言で今日のシミュレーションは終了した。
「ヴァレリー、来週までに教本を読み込んでおくよ。」
「はい。私も対応策を考えておきます。」
「あぁ、頼むよ。」
ヴァレリーが入口まで見送ってくれた。
「ヴァレリー、じゃあまた来週。」
「はい、グレン。くれぐれも無理しないようにして下さい。」
「わかった。」
俺は停車所でエレカーに乗り込んだ。ヴァレリーが手を振ってくれている。俺も手を振り返して寮まで帰ってきた。無理するなとは言われているが、まだまだ課題は終わる気配がない。夕食までに少しでも課題を減らそうと机に向かった。




