進路編5
その夜の夕食後、明日の学校がどうなるか確認しようと通信端末を見てびっくりした。凄い数の着信とメッセージが入っていたからだ。行方不明者で名前が出たからだろう。発見の放送後には無事で良かったとのメッセージが多数あり、その後は大分メッセージの数は減っていた。友人たちにも心配を掛けたようだ。とりあえず一斉メッセージで無事を伝えておいた。明日の学校が通常通りとわかったので課題をやってから寝た。
翌日登校するとダニーとネイトに見つかり食堂に連れていかれた。そこで一昨日の顛末を話させられた。
「グレン。一昨日の番組を見たときはマジでビビったぞ。よく生きてたな。」
「会社の備品倉庫に居たら宇宙港が壊されて、外の空気がなくなって困ったよ。」
「テロリストは見たのか?」
「どっちの?」
「うちの<サークル>にテロリストが居たとか人民軍の嘘だろ。人民軍だよ。」
「俺はずっと備品倉庫の隅で震えてただけさ。通信機器がつながらないのは本当に困った。助けも呼べないし。」
「でどうやって助かったんだ?」
「US軍に救助されたんだよ。そのあとは軍の病院で保護されてた。」
「いやー本当に無事で良かったな。」
本当のことが言えるわけもなく、事前にグレック先生から授けられていたシナリオを説明するハメになったが、シナリオを貰っていて本当によかった。説明後はそれぞれの授業に行くことになり分かれた。
それから1日の休みを挟み、養父さんたちが帰ってきた。第二宇宙港の惨状には皆ショックを受けていた。臨時的に第三宇宙港で荷下ろしをし、船庫も臨時に場所を借りている状態だ。
「グレンが無事だったのは良かったが、ヴァレリーと『タロース』は没収か。」
「見つかっちゃったからね。一応お金は少しは出る予定らしいよ。」
「折角ルナ・ラグランジュ・ポイント1で客を見つけたのにな。」
グレック先生曰くおそらく人民軍の手の者だと言う話だった。そういう意味では売れなくて良かったのかもしれない。養父さんが売るのを進めていれば下手すると逮捕されていたかもしれない。
「運が悪かったと思って諦めてよ。」
「あぁ、ツイてるんだか、ツイてないんだかわからねぇな。」
養父さんたちが帰ってきて3日目。学校へ行くとキム先生から呼び出しを受けた。
「失礼します。先生なんでしょうか。」
俺は教師棟のキム先生の部屋にやってきた。先生は予定表にがっつり予定を入れて課題質問が入れられないようにしていた。部屋の中にはグレック先生も居た。
「軍から正式に貴方を迎え入れる準備ができたとのことよ。」
「そうですか。うちの両親への説明をされるんですよね?」
「そうね。だから貴方からご両親へのアポイントを取って欲しいの。明日以降でお願い。」
「わかりました。」
俺は通信端末を出すと養父さんに連絡した。
《どうした。グレン。》
「軍の人から連絡があって明日以降にうちの家で説明がしたいって。」
《『タロース』とヴァレリーのことか。》
「それ以外にもあるんだけど、詳しい話は今夜するよ。」
《わかった。午後から空けておく。》
「了解。じゃあ伝えておくよ。」
《よろしく頼む。》
通信を切ってキム先生とグレック先生に明日の午後からなら大丈夫であることを伝えた。グレック先生は通信端末を取り出し、さっそく誰かに連絡をしている。
「今日の夜に両親には軍に行くことを伝えます。」
「わかりました。それについての許可も出ています。」
「あとガイノイドとスペース・トルーパーの件も気にしていたので、そちらの方もお願いします。」
「そちらも準備が終わっていると聞いています。」
「わかりました。」
「それでは簡単に貴方の待遇について説明します。」
キム先生は手元の端末を見ながら説明を始めた。
「貴方は宇宙軍士官学校への編入となります。士官候補生ですが、士官相当としてテストパイロットの任務にも就いて貰います。」
「士官学校は高校の卒業資格が取れるのですか。」
「そうなります。貴方が望めば大学も行けますよ。」
「大学は別に行かなくてもいいです。そもそも俺の学力で着いて行けますかね?」
「課題をまじめに出していれば大丈夫でしょう。実技は貴方の腕なら余裕です。」
「そうですか…。」
キム先生は士官学校出身だろうけど優秀そうだしな。不安しかない。
「軍は貴方の腕を見込んでスカウトしたと言うシナリオで行きます。」
「わかりました。」
「学費は免除で給料も出ます。少尉よりは少ない金額だそうですが。」
「待遇凄く良くないですか。」
「准将は計画に相当入れ込んでいるようですね。私が貰っている資料からは以上です。何か質問はありますか?」
「いつ転校になるのでしょうか?」
「明日の話し合い以降になります。準備が整い次第ですね。」
「あと宇宙軍の士官学校でどこにあるんですか?」
「場所は月です。」
「月!?」
そう言えば何かで見たことがあったような気がする。
「転校が決まったら移動ですが、スペース・トルーパーも持って行くことになるので駆逐艦か巡洋艦で行くことになります。」
えらい大事になっている気がしてきたぞ。
「住む場所は?」
「宇宙軍士官学校は全寮制です。」
寮生活か。初めてだな。
「大体わかりました。」
「明日は私たちは同席しません。説明も大佐か中佐クラスが派遣される予定です。」
「わかりました。」
「質問がなければ解散します。」
その日の夜、俺は養父さんと養母さんに軍に入ることを伝えた。軍には腕を見込まれてスカウトされたこと。士官学校を出るので高校卒業資格が得られること。テスト・パイロットとしてヴァレリーと仕事をすることも伝えた。二人は黙って最後まで聞いてくれた。そして切りがいいところで退役して会社を継ぐ気があることも伝えた。養母さんはヴァレリーが一緒なら安心ねと言い。養父さんは会社を継ぐと言ったことに感動して少し泣きそうになっていた。養父さんは涙脆いな。




