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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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進路編4

 翌朝目が覚めた時刻は毎朝起きる時間と変わらなかった。着替え終わって、さてどうしようかと考えているとグレック先生とキム先生がヴァレリーを連れてやってきた。

「昨日は眠れた?」

「はい。おかげさまで。」

「そう。」

 キム先生は少し意外そうだった。今後について悩んだのではないかと考えたのだろう。考えはしたがあまり悩まなかった。4人で食堂へ行き3人で食事を摂る。当たり前だがヴァレリーは食べない。昨日の珍しいフレーバーはあまり美味しくなかったので今日は定番の味にした。食事が終わると昨日の会議室に連れていかれた。

「そう言えばキム先生は前の実験でヴァレリーと一緒だったんですね。」

 キム先生はグレック先生を見て余計なことを言ったなと目で威圧した。

「えぇ。そうよ。」

「前の実験はどんな感じだったんですか。」

 大雑把に聞いている情報だと実験がよい方向になりかけたところで頓挫したとしか聞かされていない。

「私も被験体として参加していたの。私はあまり効果は出なかったわ。一人だけ効果が上がったパイロットが居て、その人が中心の実験を始めた矢先に事故が起こったの。」

「事故の内容は聞いても?」

「残念ながら機密事項に当たるので話せないわ。」

 すげなく断られてしまった。

「効果のあったパイロットは次の計画にも参加するんですか?」

「彼はチーム解散後に退役したわ。今は何をしているかは知らない。」

 前の有望パイロットも男性か。そして軍にはもう居ないらしい。そりゃ俺の重要度上がるわ。そこで扉の方からノックの音がした。グレック先生が扉を開けるとドーソン准将が入ってきた。キム先生とグレック先生、ヴァレリーは立ち上がり敬礼した。准将はそのまま俺の前の席に着いた。先生2名はそのまま准将の後ろに立っている。ヴァレリーは俺の隣の壁際に立っている。

「おはよう。グレン君。」

「おはようございます。准将。」

「急がして申し訳ないが結論を聞かせて欲しい。」

「はい。このお話お受けします。」

 後ろに居るキム先生がビックリしている。断ると思ってたんだろうな。

「それは大変ありがたい。感謝するよ。」

 准将は手を出してきて握手を求めてきた。

「ただお受けするに当たって1つ条件を付けさせて下さい。」

 准将は握手を求めた腕を所在なさげに引っ込めて胸の前で手を組んだ。

「条件はなんだね。」

「はい。家族の身の安全を保障頂けませんか。」

「と言うと?」

 准将は怪訝な顔で聞いてきた。

「グレック先生から聞いたのですが、人民軍が俺をターゲットにするかも知れないとお聞きしました。軍に入れば俺の身の安全は保障されると思っていますが、家族に類が及ぶのは避けたいのです。」

「ふむ。グレック軍曹。」

「はっ!」

 グレック先生は直立不動だ。

「その話の確度は如何ほどだ。」

「彼の周辺で既に動きがありました。どう動くかまではまだわかりませんが、かなり高い確度です。」

「そうか。」

 そう言うと准将は少し考えて

「家族のことは私が保証しよう。」

と答えた。

「ありがとうございます。」

「それでは君を入隊させる方向で計画を進めさせて貰う。君の入隊には手続きの関係上しばらく時間が掛かるが、追って連絡があるまで普通に生活して貰っても結構だ。」

「家族に軍に入ることについて話しても?」

「少し待って貰いたい。こちらの手続きが整い次第、説明には伺うつもりだ。」

「わかりました。」

「ではよろしく頼む。」

 再び准将は握手を求めてきたので、今度はがっちりと握手を交わした。


 グレック先生とキム先生に連れられて、俺はリニアに乗っていた。一緒に居住シリンダーに帰るためだ。事故の影響からかリニアは本数を大いに減らされており、第二宇宙港も閉鎖されているため駅を通り過ぎるようになっていた。家の近所のトラムまで送って貰い先生達とは別れた。一応顔も知らない人がどこかで俺を張っていると聞かされている。

「ただいま。」

「グレン!お帰り!」

 養母さんは俺が帰ってくると傍にやってきて手を握った。養母さんの温かさが手を通して伝わってくる。

「ケガは大丈夫なの?」

「大したことはなかったよ。」

「ヴァレリーは?」

「そのことは中で話すよ。」

 俺たちはリビングへ移動した。養母さんがカフェ・オ・レを入れてくれる。どうやら第二宇宙港が破壊されたことでうちの会社は仕事を受けられなくなってしまい、休業を余儀なくされているらしい。学校も本日は休校らしい。学校はすぐに通常通りに戻るだろうが、第二宇宙港が壊れた影響はこれから出始めるだろう。第二宇宙港を拠点にしている運送会社の物流は滞ることになるので品物が不足したりするかもしれない。早く修理が終わって欲しいものだ。

 俺はカフェ・オ・レを飲んで一息ついたところで養母さんに昨日第二宇宙港で何があったのかを話した。人民軍に襲撃されたこと。ヴァレリーと共にスペース・トルーパーで宇宙に脱出したこと。そして軍に保護されたことだ。嘘は言わないようにできるだけ事実に沿って詳細を省いた話をした。そしてヴァレリーは軍預かりになったことを話した。養母さんはヴァレリーを気に入っていたのでとても残念そうだった。

 明後日には養父さんが帰ってくるが、どこから話せばいいだろうか。船庫も備品倉庫も使えなくってしまっているし業務に影響が出そうだ。

 そしてしばらくは軍の準備が整うまで待つ必要がある。養父さんと養母さんは俺が軍に入ることを許してくれるだろうか。

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