進路編3
キム先生は「疲れたから自室に戻るわ。」と言い、案内をグレック先生に任せて帰って行った。俺、ヴァレリー、グレック先生の3人は居住棟と呼ばれる場所へやってきた。
「この部屋を使ってくれ。」
グレック先生に案内された部屋はこじんまりとした一人部屋でそれほど広くはない。『エーリュシオン』の部屋の広さと変わらないぐらいだ。先生曰く基地で一人部屋は士官以上にしか割り当てらないので待遇は良いそうだ。部屋にグレック先生、ヴァレリーと3人だとさすがに狭い。
「さて解散する前にさっきの答え合わせをしておこう。」
グレック先生はヴァレリーを見やりながらそう言った。
「さっきの答え合わせ?」
「キム少尉とHTX-02の会話のやりとりを気にしてただろう。」
さっきのよくわからない会話か。ヴァレリーに怒られた手前あまり突っ込みたくはないんだけどな。なんだかヴァレリーは無表情になってるし。
「最後までよくわかりませんでした。」
「あれはね。HTX-02が自らを追い込む提案をしたから怒ったんだよ。」
「それはどういうことですか?」
「軍は実験を再開するだろうが、君が居なければ成功するまでにどれほど時間が掛かるかわからない。」
確かに前のチームは解散したと言っていたのでノウハウは散逸しているかもしれない。
「キム少尉はHTX-02の絡んだ実験に関わっていたようでね。前のような体制が組めないことを危惧しているんだろう。」
やっぱり2人は知り合いだったのか。
「そして計画が失敗したり凍結されればHTX-02はお役御免だろうね。機密情報の塊だろうし廃棄処分になるだろうね。せっかく成功のチャンスが目の前にあるのに、それをみすみす逃すようなことをわざわざするのがわからなくて怒ったんだと思うよ。元同僚なら思うところもあるだろうしね。」
なるほど。そう言うことだったのか。
「さっきも言いましたが、私はグレンの最良と思う提案をしただけです。」
普段は表情が豊かなので無表情だと怖いな。俺にとっての最良はヴァレリーにとっての最良にはならないのだろうか。
「ヴァレリーはどうなりたいとかあるの?」
「AIの私に希望や欲はありませんよ。」
すげなく回答を断られたが、グレック先生からフォローが入った。
「別に希望や欲じゃなくてもいいだろ。人間は生まれてきた意味を探さなきゃならないぐらい選択肢があるからそのように生きているだけで、AIには生まれてきた時から目的があるだろ。」
「私はパイロットのイメージ・フィードバック・システムへの順応適正を向上させることを目的として製造されています。」
「ならそれがやらなければならないこと、延いてはやりたい事なんじゃないか?」
「そうですね。それでもやはりグレンである必要はありません。別の誰かであっても効果がなければ駄目なんじゃないでしょうか。」
「前の実験で一応効果が出ていたパイロットは居たんだろ?」
「はい。」
「ならあとは大きな成果か成功事例を積み上げて行く事が重要だと思うな。それが出来なければ居場所がなくなり廃棄処分だ。」
「わかっています。」
ヴァレリーは少し寂しそうに微笑んだ。その結末すらも甘んじて受け入れるということなのだろうか。沈黙が流れる。そしてそれを破ったのはグレック先生だった。
「じゃあグレン君はゆっくり休んでくれ。HTX-02はこっちだ。」
ヴァレリーは別の部屋で待機のようだ。
「待って下さい。」
俺は二人を呼び止めた。
「どうしたんだい?」
「ヴァレリーに聞きたいことがあるんです。」
「席を外そうか?」
「いえ、大丈夫です。」
俺はヴァレリーの方を向き尋ねた。
「俺はヴァレリーにとって俺は良いパイロットだった?」
ヴァレリーは少し考えて
「私の本来の目的からは逸脱しているのですが、素人のグレンと乗った『タロース』が一番私がパイロットを成長させている実感を感じさせてくれました。」
「そうか。」
「だからグレンは私の一番のパイロットです。」
「ありがとう。ヴァレリー。グレック先生もありがとうございました。」
グレック先生は大きくうなずいてヴァレリーを連れて部屋を出て行った。
二人が出て行った部屋は急にがらんとした雰囲気になった。俺はシャワーを浴びるべく裸になりシャワー室に入った。予洗されたあと全身をシャンプーで洗い、その後自動で漱がれる。シャワー室内の水分が全て回収されたら外に出れる。用意されていた簡易部屋着に着替えた。落ちついたところで明日の回答を考える。
(家に帰るか、軍に残るか。いや、ヴァレリーと行くかだな。)
最初はもう家に帰ろうかと思っていた。軍のパイロットになる気なんてなかったし、俺の居場所は『エーリュシオン』の家族だと思っていた。でも家族に類が及ぶ可能性を指摘されてしまった。しかし俺が家族と距離を置けば手は出されないかもしれない。グレック先生が言ったように、自分が軍に所属することでギヴアンドテイクを引き出して家族を守れるかもしれない。
そして気になったのはヴァレリーの居場所のことだった。結局『エーシュリオン』はヴァレリーの居場所にはなれなかった。彼女は軍でしか居られないのだ。しかもそこも追われるかもしれない。俺が居場所を追われる時はいつも誰かが手を差し伸べてくれた。両親が死んだときは祖母が。祖母が死んだときは養父さんと養母さんが俺に居場所をくれたのだ。今度は俺がヴァレリーに居場所を与える番なのではないか。そんな風に思えた。幸い俺はヴァレリーには嫌われてなさそうだ。
(そうだな。よしそうしよう。)
家族のことは准将に相談しよう。それでよい返事が貰えないなら軍に行くのを止めてしまえばいい。上手く条件が引き出せたのなら、ヴァレリーと行こう。ヴァレリーの居場所を作るために。
想いが固まったら眠くなってきた。俺はベットに入り眠りについた。長い一日が終わった。




