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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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エピローグ

 樹脂と金属のインテリアに囲まれた席で僕はぼーっとモニターを見ていた。次々と切り替わる画面は大概は真っ暗で、後方のカメラには小さく<ルナ>が見えている。僕の住む<マンホーム>は遥か彼方だ。

 どうしてこんな事になってしまったのだろうか。事の発端となった時の記憶を思い出すと原因は僕の一言だった。ただその一言は『宇宙に行ってみたい。』そう言っただけだ。普段なら母さんにジョークと捉えられて終わる何気ない会話だ。だがその場にはグレンおじさんが居た。そう。全ての元凶はグレンおじさんだ。

 グレンおじさんは年に1回ぐらいの頻度でうちに遊びにやってくる、20代ぐらいに見えるおじさんだ。隣にはいつも超美人なガイノイドのヴァレリーを連れていて、職業はCEOと豪語していた。CEOと言うと会社で一番偉い人なので、20代のグレンおじさんが成れるものなのか僕は疑っている。ただ羽振りは良くて、僕はグレンおじさんにゲーム機を買って貰った事がある。

 改めて考えると変なおじさんだ。母さんは親戚ではなく昔からの友人だと言っていたっけ?その変なグレンおじさんが僕の一言に対して『じゃあ連れてってやろう。』と言うと、あれよあれよと言う間に僕は宇宙まで連れて来られた。自分から宇宙へ行きたいなんて言った手前、ジョークだとも言い出せず、僕は今グレンおじさんの会社が所有する『エーリュシオン』と言う輸送船に乗せられているのだ。この船が向かっているのは、ソル・ラグランジュ・ポイント2と言うところだそうだ。地球圏の中で一番外側にあるUSの領土だ。

 僕は外の風景を見るためにブリッジに居座っている。そうでなければ宇宙に来た意味がない。だが余りに代わり映えしない風景に少々飽きが来ていた。。

 何か刺激はないか。そんな事を考えていた僕に罰が当たったのか船内に突然アラート音と共に警告アナウンスが流れた。

《応答のない所属不明の艦船がこちらに向かって来ています。乗組員は直ちにブリッジに集合して下さい。繰り返します。応答のない…》

 僕は突然のアナウンスに驚き戸惑った。僕以外誰も居なかったブリッジに、続々と乗組員たちが集まってきた。グレンおじさんとヴァレリーもブリッジへとやってきていた。いつ見てもヴァレリーはきれいだ。僕にもとても優しい。

「呼びかけへの返答は?」

《回答ありません。》

 AIの返答を聞いてグレンおじさんはモニターをしばし見つめていた。そして

「『カストル』を持ってきておいてよかったな。」と言った。

 『カストル』とは何の事だろう?他の乗組員たちはその言葉に頷いていた。

「所属不明艦は宙賊として対応する。各自戦闘に備えろ。」

 グレンおじさんはそう命令を下すとブリッジを出て行った。その後には秘書のヴァレリーもついて行く。グレンおじさんが他の乗組員たちに命令を下す姿を目の当たりにすると、やはりCEOと言うのは本当かもしれないと思い直した。

 しかし宙賊かぁ…。いや?宙賊だって?それは宇宙を根城にした無法者たちの総称だ。『エーリュシオン』のような輸送船を襲って積み荷を奪っていく。<マンホーム>に住む者からしたら縁遠い存在であり、ニュースでしか聞かない存在だ。どうやらその存在が今すぐ側に居るらしい。

「フィリップ君。船外服に着替えよう。」

 そう声を掛けてくれたのはトニーさんだ。トニーさんはグレンおじさんも頼りにしているベテランだ。この『エーリュシオン』の船長でもある。トニーさんは僕をフィッティングルームに連れて行って、船外服を着せてくれた。そして再びブリッジへと戻ってきた。

「ブリッジが一番安全だ。そこの席に座っていなさい。」

 トニーさんはそう言って僕をブリッジの一席に座らせてくれた。

《所属不明の艦船より飛来物あり。》

 アナウンスと共にもたらされた映像には人型の何かが映っていた。その姿を見て僕は息をのんだ。映像でしか見たことはないがスペース・トルーパーだ。宇宙空間における戦闘機。それが僕の乗っている輸送船に向かってきているのだ。それも3機も居る。

《『カストル』出るぞ。》

 グレンおじさんからブリッジへ通信が入ると船体が少し振動し、『エーリュシオン』から何かが離れて行くのが船外カメラに映し出された。随分と簡素に見えるが、人型をしていることからスペース・トルーパーのようだ。大きさも宙賊のものと比べると少し小さいように思える。

 どうやらあれが『カストル』のようだ。『エーリュシオン』にはスペース・トルーパーが護衛用に積んであったようだ。

 しかし1機しか積んでいたと言っても1機だけだ。1対3。子供の僕でもグレンおじさんが圧倒的に不利な事ぐらいわかる。グレンおじさんが負けてしまうと僕らはどうなってしまうのだろうか。もう母さんに会えないかもしれない。そう思ったら急に体が震え出した。怖い。死ぬのは嫌だ。まだ死にたくない。どうしてこんな所へ来てしまったのだろう。僕はガタガタと震える体抱きしめて必死に震えを止めようとした。だが震えは一向に収まらなかった。その時、背後から肩をポンと叩かれた。叩かれた方を見るとトニーさんが僕の肩に手を置いていた。

「フィリップ君。怖いかい?」

「は…、はい。ぼ、僕は、い、生きて、か、か、帰れますか?」

 震えて上手く話せない。

「あぁ、大丈夫だ。うちの社長に任せておけ。社長はあぁ見えて宇宙最強だからな。」

 トニーさんは凄く落ち着いていた。周りの乗組員たちも皆落ち着いている。歴戦の輸送船員たちはこれぐらいのことは日常茶飯事なのかもしれない。その様子を見て僕は少しだけ冷静さを取り戻すことができた。しかし宇宙最強かぁ…。いくら僕を落ち着かせるためとは言え言い過ぎではないだろうか。

「まぁ、社長の活躍を見ておきな。」

 そんな僕の心を見透かしたように言うと、トニーさんは自分の持ち場へと戻って行った。モニターにはかなり鮮明に宙賊のスペース・トルーパーとグレンおじさんの乗ったスペース・トルーパーが映し出されていた。戦端は既に開かれ銃撃戦が始まっているようだ。敵は散開すると連動してグレンおじさんを包囲しようとしていた。グレンおじさんがんばってくれー。僕は心の中でひたすらにグレンおじさんを応援した。グレンおじさんが撃墜されれば、あの無法者たちはこの『エーリュシオン』に襲い掛かってくる。グレンおじさんだけが頼みの綱なのだ。

 1対3であるにも関わらずグレンおじさんは一向に撃墜される気配はなかった。グレンおじさんの動きはまさに神業であった。絶対当たるような至近距離での銃撃を事もなく躱すと、手に握った棒状のものを容赦なく敵機のコックピットに刺し込んでいった。これで敵は2機となった。状況的にはまだグレンおじさんが不利のはずだ。宙賊は味方がやられて激高したのかグレンおじさんに向かって襲い掛かってきた。だがグレンおじさんは相手の動きを予想しているかのように攻撃を躱すと、接近したスペース・トルーパーのコックピットにあっさりと棒状のものを突き刺した。まるでプロと素人の喧嘩だ。子供の僕から見ても技量に差がありすぎる。

 最後の1機は、味方がやられてたのを見て、慌てて逃げようとした。だがグレンおじさんには容赦がなかった。あっと言う間に追いつくと背後から棒状のものを突き刺していた。

 僕の体の震えはすっかり納まっていた。それどころか掌にじっとりと汗をかいていた。きっとグレンおじさんが凄腕のパイロットだと知っていたからトニーさんたちは落ち着いてたのだ。

 僕は今日初めて変なおじさんだと思っていたグレンおじさんが本当は凄い人だと言う事に気がついた。

 当初の目標であったクサヴェリーを倒すと言うところまで書きましたので「星の海で会いましょう」は完結とさせて頂きます。

 最後まで読んでくださった方、並びに感想・レビュー・誤字報告して頂きました全ての方に厚く御礼申し上げます。

 作品は読んで下さる方が居て初めて作品として存在できます。感想とアクセス数が最後まで書ききるモチベーションとなりました。

本当にありがとうございました。

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[一言] 完結お疲れさまでした。 完結まで楽しく読ませて頂きました。この作品に出会えて良かった。 ありがとうございました。
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