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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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星の海編11

 『バーサーカー』は一直線にこちらへと向かってきた。その加速度は人間離れしている。

《人間が乗っているんだよな?》

 俺はヴァレリーに念を押して聞いた。

《内部熱源の大きさは人間大です。ただ脈拍や体温と言った生体パターンは人間離れしています。》

 人間離れか。俺はその言葉を反芻しながら牽制のために銃で『バーサーカー』を攻撃した。『バーサーカー』は最小限の動きでいとも簡単にその弾を避ける。『バーサーカー』も銃を装備しているが腰にマウントしたままで撃ってくる気はないようだ。両手にプラズマブレードを装備し、そのままの勢いで突撃してきた。

 相手は接近戦をご所望のようだ。俺も『バーサーカー』に倣い射撃を諦めて銃を腰にマウントし、両手にプラズマブレードを装備した。そして後方へと加速する。

 急激な加速で相手の突きが届かないような距離を保ち、突き出した腕に向かってプラズマブレードを振り下ろす。

 相手はすぐさま腕を引っ込めた。普通の相手ならばここで終わっているはずのカウンター攻撃のはずだった。だが相手は完全に俺の速度に付いてきている。ならば次の手だ。

 俺は制動を掛けて急激に減速した。そして膝に内蔵されたプラズマブレードを相手に向かって突き出した。相手はプラズマブレードに突っ込んでくる形になる。だがそれもプラズマブレードに当たる寸前で機体は膝を避けるように上方へと移動した。

 そして避けたと同時に間髪入れずプラズマブレードを振るってくる。俺は今度は前方向へと加速を掛けて『バーサーカー』の下方へと潜り込むようにしてその攻撃をやり過ごした。

 ほんの数秒の攻防だったが、分ったことが2つある。1つ目は相手のパイロット能力が俺よりも高い事だ。1回目の攻撃を躱されただけでなく奇襲である2回目も躱されたとなると、全ての攻撃が見えている。1対1の状況では俺が攻撃を当てる事は難しいだろう。

 相手の攻撃も今のところは避けられてはいるが、こちらは数の不利も背負っている。このまま『バーサーカー』とやりあっていれば、いずれ推進剤が尽きてクスタヴィの護衛にやられてしまうことになる。

 2つ目は相手のパイロットが恐らくカリーナであることだ。感覚的なものだが、このパイロットとは戦った事がある気がしたのだ。このレベルの攻防で一番イメージに近いのがカリーナだった。状況も踏まえるとまずカリーナで間違いないだろう。

《ヴァレリー。相手のパイロットの生体パターンでのカリーナとの適合率はいくつだ?》

《カリーナである確率は46%です。先程も言いましたが人間の数値として既に規格外です。》

《そうか…。》

 それが意味する事は俺が辿り着けなかったナノマシン強化の進化の先なのだろう。俺と同じように記憶の欠損が起こっているとは限らないが、人体に何かしら問題が発生し、それを克服するために進化したことで、生体パターンが人間の規格からかけ離れてしまったのだと推測される。その結果、カリーナと識別できなくなったと言うのが正しいのだろう。

《カリーナ機停止。》

 何故だか『バーサーカー』は俺を追ってこず。動きを止めてしまった。何かのトラブルだろうか?だがこれはチャンスだ。

 俺は片手のブレードを格納し、腰にマウントした銃を装備するとクスタヴィの方へと向かった。護衛部隊は慌てて迎撃を始める。クスタヴィの護衛はもう6機しかいない。仕掛けるならカリーナが動きを止めた今しかない。

 俺は護衛部隊の攻撃の隙間を縫ってクスタヴィに向かって攻撃を仕掛けた。

《カリーナ機。急速に接近。》

《復帰が早いな…。》

 動きを止めていたのは深刻なトラブルではなかったようだ。クスタヴィを沈めるまで止まっていて欲しかったが、そうは問屋が卸さないらしい。

 あれがカリーナだとするならば、なんらかトラブルを抱えていたとしても、クスタヴィのピンチに動かないはずはない。それほどカリーナはクスタヴィに心酔していた。『バーサーカー』がこちらの動きを牽制するために銃を抜いて必死に攻撃してきていることが、ますますカリーナである裏付けになっているように思えた。

 護衛部隊もこちらには近づかず射撃での攻撃を徹底している。『バーサーカー』も健在である以上、もうクスタヴィに近づくことは難しいだろう。しかしその時通信が入った。

《こちら『ヴォルフ1』。追っ手の敵機は全て片付けた。そちらに合流する。》

 戦況モニターを確認すると1機だけでこちらの宙域に戻ってくるようだ。

《『タロース』了解。『オーディン』はどうなったんです?》

 戦況モニターのログを追えばわかるだろが、『バーサーカー』を相手にそれだけの余裕はない。

《『オーディン』も無事だ。ダメージがあったから一旦『ロンバルディア』へ帰投させた。》

 どうやらバーナードも無事なようだ。だがバーナードの『オーディン』が居ないのは戦力的に痛い。

《了解。お待ちしてます。》

 状況は少しだけ好転したが、やはり戦力が足りない。ここはフリードリヒ大尉と合流して撤退するしかない。そう考えていた時だった。かなり遠くで火球が見えた。

《ヴァレリー。あれはなんだ?》

《何かが撃沈したようです。方角的には荷電粒子砲艦の可能性があります。》

 これは吉報だ。US軍が大分と圧している可能性が高い。

《スペース・トルーパーの機影12機を確認。》

 しかし警告音と共にもたらされたヴァレリーの報告で一気に緊張感が高まった。US軍が圧していると言う事は火星艦隊が下がって来ている事も意味する。ここにきて敵の増援となると離脱も困難となる可能性がある。次々と入る報告に状況が二転三転する。だがその懸念はすぐに解消された。

《こちら『イーンスラ』宇宙軍所属、フサーム隊のフサーム中尉です。ムアンマル少尉。特殊任務ご苦労様です。不肖フサーム参戦致します。》

《フサーム中尉…。》

 俺は突然のフサームからの通信に一瞬我が耳を疑った。しかし戦況モニターに映る12機のマーカーは全て友軍を示していた。どうやら『イーンスラ』軍が俺たちの作戦に合わせてここまで増援を届けてくれたのだ。地獄に仏とはこのことだ。

《無事で何よりです。皆も来てますが、積もる話は後にしましょう。》

 戦況モニターを確認するとフサーム、アンタル、カリームそしてラビーアがそれぞれ小隊を率いてここまでやって来てくれたのだ。それも火星艦隊のスペース・トルーパー部隊を突破してだ。

《助力に感謝する。》

 俺は込み上げてくるものがあり、それだけ言うのが精いっぱいだった。だがこれで戦力は十分に足りた。

《フリードリヒ大尉。クスタヴィは任せます。俺はこのエースパイロットを抑えてみせます。》

《了解。》

 任せられる戦友がいる。それが俺の心を奮い立たせた。

「来い!カリーナ!俺がお前を抑えてみせる。」

 そう気合を入れると俺は『バーサーカー』へと進路を変えた。

 『バーサーカー』との接近戦はお互いがお互いへ攻撃が当たらず、際どい攻撃を紙一重を避け続ける神経戦となった。だが先ほどまでと違い悲壮感はない。むしろ14対8と戦力差が逆転したことにより心に余裕さえ生まれていた。

 だがそれで緊張の糸が緩んでしまっていたのかもしれない。次の瞬間、衝撃と共に機体が揺れた。

《被弾!?》

《背部損傷。》

 被弾の影響でバランスを崩したところへ『バーサーカー』の強烈な攻撃が襲い掛かってきた。

《クソッ!》

 機体を必死に捻り敵の攻撃を避けようとする。だが敵の攻撃を完全に避けることは叶わず、右腕の装甲が削られる嫌な振動が伝わってきた。

 俺は全速力で『バーサーカー』から離れる選択をした。追撃されて止めを刺されると思ったからだ。だが『バーサーカー』はその隙にクスタヴィたちの元へと全速で移動していった。

 被弾の原因を探ろうと近辺を確認する。だが近辺には他には敵機は居ない。敢えて俺が引き離すようにしたからだ。

《ヴァレリー。一体何が起きた?》

《カリーナ機の背面より、伸びた第3の腕部による打撃です。損傷軽微。》

《第3の腕?》

 『バーサーカー』とは両腕を使って攻防を繰り広げていた。そこに死角から第3の腕部による攻撃を受けたのが真相のようだ。攻撃自体は大したものではなく、完全に不意を突いただけの攻撃のようだが、このような緊迫した場面では効果てきめんだった。

 俺は即座に『バーサーカー』を追いかけた。

《大尉!中尉!そいつとは戦うな!》

 俺はフリードリヒ大尉とフサームたちに警告を発した。

《ヴァレリー。損害状況は?》

《背部に亀裂。バランス再調整します。右腕の裂傷は装甲だけです。稼働に問題ありません。》

 どうやら損傷は軽微なようだ。戦闘能力の低下は少なくまだ戦える。

《フサーム。こいつは俺が引き受ける。》

《了解。》

 『バーサーカー』は、クスタヴィを守るために『イーンスラ』のスペース・トルーパー隊と戦闘に入るようだ。それを阻止すべくフリードリヒ大尉が応戦すると言っている。

《駄目だ!大尉!そいつと戦っては駄目だ!》

 だが相手は人間には無い第3の腕を使っている。それはパイロットのクオリティ・オブ・ライフを犠牲にしたモンスターであることを意味する。


 目の前に火球が見えた。それは先ほどとは違いごく近い距離だ。そしてヴァレリーの短い報告が空しく響いた。

《フリードリヒ大尉の生体反応消失しました。》

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