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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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星の海編7

 ブリーフィングルームに着くと部屋の中は満員だった。艦内で持ち場を離れられない者以外は集合しているからだ。ブリーフィングの模様は艦内放送もされる予定だ。そしてブリーフィングルームの中はいつもとは違う空気が流れていた。緊張感や不安と言った重苦しい空気だ。

「パイロットは最前列だ。」

 誰ともなく言われた通りに俺とフリードリヒ大尉はブリーフィングルームの最前列の席へと座った。バーナードは俺たちよりも早く来ていたのか既に最前列に陣取っていた。

 正面の大型モニターにはUS軍と火星艦隊との配置が表示されていた。『ロンバルディア』でも無人の情報収集機を飛ばしているのだが、数や質はそれほどでもない。しかし表示されている情報はとても『ロンバルディア』では収集できる情報の質と量ではなかった。

「なんか情報が細かくないですか。」

 俺は隣に座るフリードリヒ大尉に小声で話しかける。

「『イーンスラ』軍経由で貰ったUS軍の戦況モニターの情報だな。『イーンスラ』軍と取引して情報を回して貰えるようにしている。」

 『ロンバルディア』は既にUS軍の戦況モニターの情報を直接手に入れられなくなっている。そのため『イーンスラ』軍と取引を行い、戦況モニターの情報を流して貰えるようにしているそうだ。

 『イーンスラ』軍はUS軍と共同で火星艦隊と対峙している。『ロンバルディア』はUS軍からも火星艦隊からも見つからない距離を保ったコースを設定していたが、この戦況モニター情報の為に『イーンスラ』軍には少し接近したようだ。

 『イーンスラ』軍が居ると言う事は元同僚のフサームたちも居るはずだ。俺は心の中でフサームたちの無事を祈った。

 入口付近がざわついたかと思うとガストーネ中佐がブリーフィングルームの中へと入ってきた。中佐は前のモニターの横に立つと厳かにブリーフィングの開始を告げた。

「それでは最終ブリーフィングを始める。この配置図はおよそ2時間前の情報だ。両軍の接近は想定より少し早い。よって作戦開始を繰り上げる。」

 作戦開始の繰り上げを聞かされて俺は静かに天を仰いだ。それはヴァレリーの起動が作戦開始に間に合わない事を意味しているからだ。覚悟はしていたがやはり少し動揺してしまった。

 中佐がコンソールを操作すると前面モニターには『ロンバルディア』の進行予定コースが表示された。計画と作戦変更によって修正されたコースが表示される。計画では火星艦隊のほぼ真後ろから強襲を掛けるコースだったが修正後は斜め上方になっており移動距離が短くされていた。

「ブリーフィング終了後、スペース・トルーパー部隊には加速フェーズに入って貰う。突入のタイミングは予定通り荷電粒子砲が撃たれる直前だ。」

 US軍は先の人民軍火星艦隊による『サークル』への砲撃によって国際世論を味方に付けることに成功した。その結果同盟関係にある『イーンスラ』軍とEU軍とが戦闘に参加している。スペース・トルーパーの数がおよそ200。それは火星艦隊が保持していると想定されている120よりかなり多いと言えるだろう。

 つまり火星艦隊は数の上では正面から戦う事は難しいと言える。地球圏の人民軍の応援を待つか、戦力差を埋めるために荷電粒子砲に頼る事になるはずで、『ロンバルディア』では荷電粒子砲を必ず使ってくると想定した作戦が立案されていた。俺たちが火星艦隊の索敵範囲へと侵入するのはそのタイミングだ。

「スペース・トルーパー部隊の目標は火星艦隊旗艦。クスタヴィの首だ。」

 前のモニターには火星艦隊の艦船の情報が表示されている。航宙母艦3に巡宙艦が10、巡宙艦の内、旗艦と思われるのが1隻。あとはミサイル艦数隻と使途不明艦が表示されていた。

 旗艦は巡宙艦より少し大きく特徴的な形をしているため間違う事はないだろう。

「スペース・トルーパー部隊は荷電粒子砲の攻撃準備を検知後、直ちに火星艦隊の索敵圏内に入り旗艦を強襲して貰う。護衛部隊のスペース・トルーパーは10~20機を想定している。」

 今回の作戦では艦艇を攻撃するため、対艦艇用ミサイルを装備して戦場に向かわなければならない。対スペース・トルーパー戦で見ればデッドウェイトに他ならない。

 今回はアタッカーである俺の機体『タロース』だけが対艦艇ミサイルを装備し、バーナードの『オーディン』とフリードリヒ大尉の『ヴォルフ』が護衛部隊の露払いをしてくれる手筈となっていた。つまり2機で10機から20機の護衛部隊の相手をしなければならない計算だ。

「旗艦を撃破できれば撤退だ。『ロンバルディア』も荷電粒子砲発射後に火星艦隊の索敵圏内へ侵攻する。こちらまで帰ってきてくれ。」

 前面モニターは再び『ロンバルディア』の航路が表示されているが、敵旗艦の方向へ向かって移動しており、同時に回収予定ポイントが表示されていた。

「スペース・トルーパー部隊が全滅した場合は『ロンバルディア』が敵旗艦に攻撃仕掛ける。」


 『ロンバルディア』は一般商船を装ってはいるが、その出自からして立派な戦闘艦である。宙賊船であったこともあり偽装されたミサイル発射口なども備えている。

 だが対宙砲火装備は貧弱であり、速度の為に装甲も犠牲にしている。対艦隊装備をしたスペース・トルーパー相手では旗艦に近づく事すら難しいだろう。

 つまり『ロンバルディア』が攻撃に参加すると言う事態は避けなければならない。それは全滅を意味する。

「以上が作戦となる。質問はあるか?」

 俺は静かに挙手をした。

「グレン准尉。」

「荷電粒子砲についてはどうしますか?」

 荷電粒子砲はUS軍に取って目下最大の懸念事項だ。発射直後ならば次に発射するまで少し時間に猶予もあるだろう。その間に破壊しなくても良いかとの確認だ。

「あくまで今回の目標は火星艦隊旗艦だ。よって攻撃目標からは除外している。」

 ガストーネ中佐がコンソールを操作すると奇妙な形の艦艇が表示された。

「これが使途不明艦とされている艦艇の情報だ。恐らく荷電粒子砲はこの艦に搭載されている。」

 奇妙な形と言うのは艦艇の中心を貫くように配置された砲身のような物が見える点だ。船体には輪が付いており、粒子加速器だと思われる。特筆すべきは以前火星圏で見た物よりサイズが大幅に小さくなっている事だろう。砲身部分だけならば他の巡宙艦と変わらないサイズだ。

「この艦艇の配置場所は旗艦からも離れているので撃墜は難しいだろうと判断した。」

「了解しました。」

 荷電粒子砲についてはUS軍に自分自身で何とかして貰うしかないと言う事だ。その後いくつかの質問が出て、質疑応答は終了した。

「もう質問はないな。では諸君らの奮闘に期待する。」

 そう言うとガストーネ中佐が敬礼した。ブリーフィングルームに居た全員が起立し返礼を行う。そして全員が各自持ち場へと散って行った。

 俺たちは更衣室へ移動するとパイロットスーツへと着替えた。ブリーフィングルームでの緊張感が移ったのか誰もしゃべろうとしない。着替え終わると無言で格納庫へと向かった。

「大尉。バーナード。」

 格納庫へ到着したところで俺は2人を呼び止めて拳を前へと突き出した。なんだかこのまま別れてしまうのが残念に思えたのだ。俺の意図を理解した大尉が苦笑しながら俺の拳へと自分の拳をぶつけてくる。それを見てバーナードも拳をぶつける。

「グッドラック!」

「「グッドラック!」」

 そして俺たちはそれぞれのスペース・トルーパーへと乗り込んだ。


 発進前の確認作業は全て完了した。間もなく作戦が開始される。俺の目の前にいるヴァレリーはまだ起動していない。

《作戦開始時刻になりました。各機発進をお願いします。》

「了解。」

 オペレーターから発進を促す通信が入った。

「先に行ってるよ。ヴァレリー。」

 俺はヴァレリーにそう告げると、コネクトを開始し星の海へと飛び出した。


 順次発進した俺たちは合流地点へとやってきた。そこには先に射出されていた俺たちが地球から宇宙に戻る際に使用したロケットが飛んでいた。

 ロケットには改造が施され推進剤が満載されている。このロケットを使って俺たちのスペース・トルーパーは加速する算段になっていた。先に発進していた大尉がロケットから伸びた取っ手に掴まっている。俺とバーナードもそれぞれのスペース・トルーパーに準備された取っ手に取り付いた。

「準備完了。」

《こちらもOK。》

 俺とバーナードも機体をロケットに固定すると大尉へと報告した。

《了解。カウントダウン後に加速を開始する。5、4、3、2、1、イグニッション!》

 大尉の言葉が終わるとロケットは推進剤を消費しながら猛烈な速度で加速を始めた。

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