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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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進路編1

「はじめまして。私はドーソンと言うものだ。階級は准将で君をスカウトしたい部隊の責任者に当たる。」

 男性は准将らしい。めちゃくちゃ偉い人ではないだろうか。先生2人の態度からしてそんな気はしていたが。

「はじめまして。グレンと言います。一体何故俺をスカウトしたいのでしょうか。理由がよくわからなくて。」

 ドーソン准将は深く頷きながら話始めた。

「それはそうだろうね。私も君の立場ならばそうなるよ。ただ話すと長くなるので掻い摘んで話させて貰うよ。ある天才が1つの計画を立案した。」

 ふとヴァレリーを見ると少し沈んだような顔をしていた。どうしたんだろうか。

「それはイメージ・フィードバック・システムの効率を劇的に上げる理論だった。イメージ・フィードバック手術はほとんど失敗はないが、手術後の効果にばらつきがある、所謂個人差というものが激しくてね。軍の中でも品質の向上は喫緊の課題でもあるのだよ。軍はその計画を承認し必要な物を作成・建造した。それが君が拾ったスペース・トルーパーとガイノイドだ。」

 ヴァレリーはイメージ・フィードバック・システムの効率化のために作られたのか。

「ガイノイドには個人差の原因となっているナノマシンの組成をより効率的な組成に書き換える能力があってね。専用のスペース・トルーパーとの訓練で個人差を是正し、イメージ・フィードバックの効果を引き上げる実証実験を行っていたんだ。このシステムが完成すればパイロットの質を揃えることができる。だが当初は実験の結果が芳しくなくてね。しかしテストを進める内に修正の目途が立ち、結果が出始めた頃に不幸な事故でガイノイドとスペース・トルパーを失ってしまったのだ。」

 ヴァレリーがあそこを漂流していたのはその事故のせいだったのか。パイロットは脱出したと言っていたが・・・。

「結局計画は一時中断を余儀なくされた。チームは解散しバラバラになってしまった。しかし結果から言えば上々だ。ガイノイドとスペース・トルーパーも手元に戻ってきたし、ナノマシンの組成変更の効果が見られるパイロットが現れた。我々は計画を再開させたいのだよ。」

「俺がその性能が向上したパイロットと言うことですか?」

「その通りだ。君には自覚がないかもしれないが、これまでのスペース・トルーパーでの実績とグレック曹長からの報告を見る限り君のイメージ・フィードバックの性能は向上していると結論付けられた。」

「だから被険体として雇いたいと言う事ですか。」

「その通りだ。話の理解が早くて助かるよ。」

「質問しても良いですか?」

「答えられる範囲なら答えよう。」

「軍の力と言うか権力を使えば他の被険体は比較的容易に見つかるのではないですか?」

「それは逆だよ。グレン君。軍というものは規律がなければならない。まず軍のパイロットは士官である必要がある。エリートで数が少ない。それを海のものとも山のもとのもわからない実験のために多数あてがうわけにはいかない。少なくとも上層部が納得する成果が必要だ。」

 計画をより推進させようとするならば成果が出なければならないが、成果を出そうと思えばそれなりに人や時間が掛かる。しかしその成果が出そうな有望な人物が労せず見つかったならば計画的には取り込みたくなる。

「なるほど。意外と俺は重要人物なんですね。」

「我々の想定を遥かに超えてしまっているよ。まさか人民軍が<サークル>へのテロ行為を行う程だなんてね。」

「あれはガイノイドとスペース・トルーパー目当てじゃないんですか。」

「最初の襲撃はそうだろうが、2回目に追撃してきた時点で恐らく君も数に入っている。何しろ玄武型をいとも簡単に撃墜しているからね。」

 あの時は怒りに任せて撃墜してしまったが、余計なことをして目を付けられてしまったらしい。。

「もし軍に協力すると言ったらどうなるんですか?」

「先ほども言ったがパイロットは士官しかなれない。よって士官待遇での雇用となる。特殊な事例となるので制限は色々付く。雇用なので給料は出るだろう。」

「まだ高校生なんですけど・・・。」

「高校は通信制に移って貰うことになるだろうな。その辺りは応相談になる。」

「協力を断った場合は?」

「無事に家族の元へは帰すことを約束しよう。ただスペース・トルーパーとガイノイドは格安で譲って貰うことになる。」

 その時ドーソン准将の通信端末が鳴った。准将は端末を見ると

「すまないが所要で外す。軍のことが聞きたければ先ほどの2人に聞いてくれ。あとHTX-02も置いていこう。では失礼する。」

 そう言うと准将は部屋を出て行った。准将は部屋の外で待機していた2人の先生に何かを告げて移動していった。そして代わりに2人の先生が部屋の中へ入ってきた。

「軍の事を教えるように言われたが何か聞きたいことはあるかい?」

 グレック先生は席に着くなりそう聞いてきた。俺は軍人に興味がなかったから浅く知らないことから聞くことにした。

「給料は良いんですか?」

「良くはないな。悪くもないと思うがね。君はパイロットになるなら少尉の方が参考になるかな。」

 話を向けられてキム先生は

「パイロットは給料いいわよ。」

と言い放った。

「このぐらいです?」

 グレックは指で数字を表した。まぁまぁな金額だ。

「これぐらいよ。」

 キム先生はさらに多い数字を指で表した。グレック先生はぎょっとした表情をして

「士官と下士官の差か・・・。」

と落胆していた。給料は悪くないらしいが勤務はかなり過酷そうだ。2人の所属している部署は諜報部なのであまり参考にならないかもしれない。俺は養父さんの仕事を手伝うつもりで高校も選んだから、別の職業に就くなんてことは考えたことがなかった。

 准将は協力しなかったとしても家には帰れると言っていた。養父さんと養母さんが居るあの場所は俺が孤児になってしまう時に居場所をくれた大切な場所だ。それに学校の友達だって居る。ダニーやネイト達とまだ2年一緒に学校へ通うのもいいだろう。それならばヴァレリーとは別れることになってしまったとしても、家に帰って日常の生活を送るのもいいのではないかと思い始めた。

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