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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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<マンホーム>編10

 地球圏と呼ばれる<マンホーム>と<ルナ>を中心とした人類の生活圏において、重力の平衡が取れた5つのラグランジュ・ポイントは<サークル>を建設するのに適した場所である。USは地球圏にある5つのラグランジュ・ポイント全てに<サークル>を建設しており、それぞれが州として機能している。

 そしてもう一か所、火星開拓のための拠点として<マンホーム>と太陽とのラグランジュ・ポイントに<サークル>を建設している。<マンホーム>からおよそ937000マイル離れたソル・ラグランジュ・ポイント2はUSの拠点の中で一番火星に近い場所だ。

 玉石混交の情報の海からヴァレリーが導き出した答えは、US軍がソル・ラグランジュ・ポイント2に艦隊を駐留させており、その艦隊で火星艦隊の迎撃を企図していると言うことだった。

 US軍としてはどうしてもここで火星艦隊を追い返したいだろう。これより<マンホーム>に近づけばユーラシア連邦の宇宙拠点からの補給が可能になるからだ。ユーラシア連邦の宇宙の拠点は現在、ルナ・ラグランジュ・ポイント3を除く4か所のラグランジュ・ポイントにある。つまり全て<ルナ>近辺にあるのだ。

 ユーラシア連邦の宇宙政策は<ルナ>を中心に据えられており、それだけ重要な拠点であったのだ。そう考えると、やはりユーラシア連邦は<ルナ>を奪還するために火星艦隊を呼び寄せたようだ。わざわざ火星から艦隊を連れてくる必要性があるかは疑問符が付くが、どうやらサイフが言うにはユーラシア連邦内の政治事情が関わっているらしい。

 そして<ルナ>裏側にある旧ユーラシア連邦基地を攻略するならば、火星艦隊は<ルナ>からわずか3800マイルほどしか離れていないルナ・ラグランジュ・ポイント2にあるユーラシア連邦の<サークル>を前線基地とするはずだ。ルナ・ラグランジュ・ポイント2にはUSの<サークル>もあり、そこには俺の義両親と元同僚たちが暮らしている。戦線が<ルナ>に近づけば近づくほど戦争に巻き込まれるリスクが高まるのだ。事は一刻を争うところまできていた。軍事情報であるが故、詳細な情報を得る事は今の俺には難しい。情報が伝わっていないだけで、もうUS軍が負けて戦線が後退している可能性もあるのだ。

「ヴァレリー。俺は宇宙に戻ろうと思う。」

 ヴァレリーからの回答を受けて俺が出した結論は宇宙の戦場に戻ることだった。

「わかりました。グレンはどう火星艦隊と戦うつもりですか?」

 もう通信機能はないのにヴァレリーには俺が考えていることが伝わっているようだ。そしてヴァレリーに指摘された事が一番の問題でもあった。

 まずスペース・トルーパーが必要だ。それがなければ俺は戦うことすらできない。直近で所属していたのは『イーンスラ』軍であるが、現状では火星艦隊との戦闘を積極的に行う理由がない。参戦するタイミングとして考えられるのはユーラシア連邦が<ルナ>の基地を奪還し、<ルナ>表側にあるUS軍基地を攻撃する場合だろう。そうなると採れる選択肢はただ一つ。『バルバロッサ』を頼るしかない。

「『バルバロッサ』を丸ごと借り上げようと考えている。」

「そうですか。しかし返しきれない借金を抱えることになるかもしれませんよ。」

 俺の回答にヴァレリーの表情は曇った。『バルバロッサ』は今、リースマン商会に雇われている身だ。だが金さえ積めば使う事はできるだろう。『トルトゥーガ』はそう言う場所だ。だがそれには莫大な費用が発生する。俺はそんな大金を持ち合わせていないが、頼るとすればそこしかないのだ。。

「俺の人生で「エーリュシオン」の皆の人生が買えるなら安いもんさ。生きていれば後はなんとかなる。」

 俺は真剣な眼差しでヴァレリーの疑問に答えた。家族だけは守らなければならない。そんな俺を見て、ヴァレリーはふっと表情を緩めた。

「グレンに覚悟があることはわかりました。リースマン商会のフロント企業がロンドンにあったはずです。そこなら連絡がつけられるのではないでしょうか。」

「そうか。それは助かるな。」

 俺は胸をほっと撫でおろした。どう連絡をつけるか見当もついていなかったが、そこはなんとかクリアできそうだ。それにロンドンならオックスフォードからそう遠くない。

「あとはどこから宇宙に行くかだ。」

 宇宙に行くには軌道エレベーターを使用するしかない。『イーンスラ』にある軌道エレベーターはサイフ曰くUSに目を付けられていると言う事だったので使用しない方がよいだろう。そうなると後2か所のどちらかから登ることになる。オセアニアにある軌道エレベーターはUS領内にあり、USが管理しているため最もリスクが高いと言える。一方ガラパゴスにある軌道エレベーターはUS本国にこそ近いが管理が南米連合のため、オセアニアよりはリスクは低いだろう。

 ヴァレリーのおかげで朧気ながら今後の動きが見えてきた。兎に角時間がない。今すぐ動くべきだ。そう考えた俺はお世話になったジョン博士に宇宙へ戻る事を伝えるため、博士の研究室へと向かった。


 研究室にはジョン博士の他にバーナードもいた。俺は2人に時間を貰い、宇宙へ戻ることを告げた。

「そうかね。まだムアンマル君の症状は改善の余地はあったが仕方がない。またいつでも戻ってきなさい。」

「ありがとうございます。」

 ジョン博士は俺の症状改善のための研究を続けることを約束してくれた。他にも随分と世話になった。感謝してもしきれない。

 バーナードは俺の報告を受けた後、一言も話さなかった。何やら考え込んでいるようだ。あの事件以来、ジョン博士と雪解けしたことでバーナードの精神も随分と落ち着いた。

 俺はジョン博士たちに別れを告げると準備に取り掛かるべく研究室を後にした。次はロンドンでリースマン商会と連絡を取るか、ガラパゴスの軌道エレベーターに乗る手筈を整えるかだ。

「ムアンマル!」

 しかし研究棟から出たところで名前を呼ばれて振り返った。そこには先ほどまで考え事をしていたバーナードが居た。どうやら俺を追いかけてきたようだ。

「バーナード。どうしたんですか?」

「少し話せるか?」

「構いませんが、どうしました?」

 バーナードの顔は険しい。一体どうしたのだろうか?バーナードは辺りを見回すと

「場所を変えよう。」

と言って歩き出した。俺は言われるがままにバーナードのあとに付いて行った。バーナードは研究棟の裏へと移動した。研究棟の表側と違いこの辺りは滅多に人がやってこない。そこでバーナードは

「俺も宇宙へ連れて行ってくれないだろうか?」

と切り出してきた。

「戦いに行くんですよ?大丈夫なんですか?」

 俺はバーナードからの予想外の言葉に驚いて思わず聞き返してしまった。バーナードはもうイメージ・フィードバックの信号を常人と変わらない程度に出力は出来ている。だが常人レベルであり、一般的なパイロットと変わらないレベルだ。以前ほどの能力を発揮できるかは、まだわらかない。そもそもスペース・トルーパーに乗りこめば、また信号が送られない症状が再発するかもしれないのだ。

「わからない。だがもしスペース・トルーパーに乗れるなら、…俺の手でけじめをつけたい。」

 それはクサヴェリーを殺すことを意味していた。バーナードに取ってそれはけじめなのだ。この半年、バーナードと付き合ってみてわかったことは、彼がかなり頑固なことだ。その意思は揺るがないだろう。

「…わかりました。」

「恩に着るよ。」

 俺が受け入れたことでバーナードはほっとした表情を見せた。

「それでどう言う経路で宇宙に上がるんだ?」

 そうと決まればバーナードも行動が早い。

「今考えているのはガラパゴス経由です。」

「距離やアクセスを考えれば『イーンスラ』からじゃないのか?」

「ちょっと訳ありで…。」

 俺がバツが悪い表情でそう言うと、

「そうか。あとは監視をどうやって誤魔化すかだな。」

深くは追及せず話題を変えてくれた。だがその話題に問題があった。

「監視が付いてるんですか?」

「機密を握っている元軍人だからな。場所の追跡程度はしてるだろうさ。イングランド内の移動ぐらいなら大丈夫だろうが、他国へ移動するとなると変に勘繰られるかもな。」

「そいつはまずいですねぇ。」

 そうなると一緒に行動する俺も見つかってしまう。US軍に見つかればクサヴェリーどころではない。

「まずいのか…。軌道エレベーターを使わずにイングランド内から宇宙へ出る方法に心当たりはあるんだがなぁ。出た後が問題だ。」

「そんな方法があるんですか?」

 驚いて俺は思わず聞き返した。一体どうやって軌道エレベーターを使わずに宇宙に行くと言うのだろうか。

「100%できる保証はないが、彼らならできると言うと思うな。まぁ、百聞は一見に如かずだ。詳しい話を聞きに行ってみよう。」

 そう言うとバーナードは歩き出した。

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