実験部隊編10
《武器の偽装はどうなってる?》
俺は『ST-04』の前に居る整備兵に声を掛けた。
《ばっちりですよ。腿の装甲の裏にプラズマ・ブレードが溶接してあります。》
《確かに見た目にはわからないな。》
言われてみれば腿の装甲が分厚い気がするが、外側から見ただけではそこにプラズマ・ブレードが在るようには見えない。
《はい。スペース・トルーパーなら簡単に外せます。》
《わかった。ありがとう。》
俺はそう言ってコックピットへ向かおうとした。間もなく作戦開始時刻だ。出撃前にスペース・トルーパーの状態を確認しなければならない。
《待って下さい!》
しかし整備兵に引き留められてしまった。俺は整備兵の方へ向き直った。よく見ると整備兵は随分と若そうだ。肩を震わせながら
《必ず!必ず連絡船の人たちを助けて下さい…。お願いします!》
と切迫した雰囲気で懇願してきた。もしかするとあの連絡船に家族でも乗っているのかもしれない。俺は微笑み掛けながら
《あぁ、任せておいてくれ。必ず無事に連れて帰ってくる。》
と言って整備兵の肩にポンと触れると、床を蹴ってコックピットへと向かった。
コックピットの中にはヴァレリーが待機していた。俺はヴァレリーの頭上を通りパイロットシートへと着いた。
《ヴァレリー。ハッチを閉めて空気を入れてくれ。》
《了解です。》
コックピットのハッチが閉じるとコックピット内に空気が満たされた。俺はヘルメットのバイザーを上げると肺へと大きく息を吸い込んだ。バイザーを開けるだけで閉塞感が随分と緩和されるのだ。
「ヴァレリー。起動チェックだ。」
《起動チェック開始します。…。…。オールクリア。問題ありません。》
「了解。コネクト開始。」
《コネクト開始します。》
俺は引き続き、発進の為の準備を進めた。視界がコックピット内から格納庫内へと切り替わる。
「動作チェック開始。」
俺は各部の動作を確認する。足がいつもよりほんの少し重い。プラズマ・ブレードが溶接されているからだろう。
「ヴァレリー。足が少し重い。いつもの状態に調整してくれ。」
《了解。…。どうですか?》
俺は足の動作チェックを再度行った。ヴァレリーの調整は完璧でいつもと変わりない動きとなった。
「OKだ。コネクトオフ。」
《コネクトを解除します。》
動作チェックが完了したので作戦開始までコネクト状態を解除しておく。俺は目を閉じるとヴァレリーとの通信を開いた。
《ヴァレリー。隠し武器はどうだろうか。》
《今回のようなですか?》
《そう。不意を突く場合には良いかなって思って。》
俺はなかなか良いアイデアだと思い、ヴァレリーに尋ねた。
《デメリットの重量増をどう捉えるかですね。》
《そうかー。》
確かに武装が増えるとそれだけ重量が重くなり、先ほどのように動作にも支障が出る。
《どうしますか?》
《実現度低アイデアに記録しておいて。》
《了解です。》
俺は最近スペース・トルーパーでのこれまでの戦闘や『アスク』と『ST-05』の開発の中で思いついたアイデアをまとめている。資金などの問題はあるにせよバルバロッサが『ヴォルフ』を作製できたのだから、従来にないスペース・トルーパーを開発することでクサヴェリーとの戦いの切り札になると考えているのだ。
《グレン。作戦開始時刻です。》
《了解。》
俺は意識をヴァレリーとの通信から切り替えた。
《これよりオペレーション・サピュームを開始します。》
作戦開始を告げる通信がオペレーターから乗組員全員へと伝えられた。
「コネクト開始。」
視界が再びコックピットから格納庫内へと切り替わった。整備兵たちが退避したのを見計らって、俺は用意された推進剤タンクを持ち上げた。そしてそのままカタパルトへと移動する。アンタルの乗る『ST-05』も酸素の入ったタンクを持ってカタパルトへと移動していった。
「こちらトニー機。発進位置に着いた。」
《了解。カウントダウン開始します。10、9 … … 0。》
10カウントを終え機体が射出される。続けてアンタル機も射出された。
しばらくしてアンタルから通信が入った。
《相手が条件を呑んでくれて助かりましたね。》
《あぁ。作戦の前提条件だったからな。こちらも容疑者解放を呑んでるから譲歩してくれたんだろう。》
《そうですね。ただまぁ解放は嘘ですからね。》
《あぁ、『イーンスラ』もテロリストに屈するわけには行かないからな。》
俺たちは『アラブの夜明け』が『ウデュジャーザ』の繁華街で行ったテロの容疑者解放と引き換えに、連絡船への補給を許可された。連絡船の酸素は保って数時間と言う領域にまで達している。
しかしこれは敵に近づける絶好の機会でもある。我々はオペレーション・サピュームと言う連絡船救出作戦を実行に移したのだ。
《上手く行くでしょうか?》
アンタルの声は硬く、不安が滲み出ていた。俺はアンタルの緊張を解きほぐそうと努めて明るく言った。
《いつもの動きができれば大丈夫さ。相手は旧型の『白虎』で練度もそれほど高くはない。》
さっきの戦闘で相手はそれほどスペース・トルーパーに慣れていない事がわかった。人質さえ居なければアンタルの相手にはならないだろう。
《はい。》
《俺も居る。大船に乗ったつもりでいればいい。》
《そうですね。》
先ほどより幾分声が明るくなった。これで緊張が解れてくれればいいのだが。
間もなく連絡船が止まっている宙域へと辿り着こうとした時、敵のスペース・トルーパーから通信が入った。
《そこで止まれ。》
言われた通りその場で停止すると、出迎えの『白虎』2機が銃を構えてやってきた。俺たちとは少し距離を開けて停止する。俺とアンタル機は両手を挙げて何も持っていないことをアピールした。相手が補給の許可の際に出した条件に武装解除が含まれてたからだ。
《近距離武器の格納箇所も見せろ。》
俺たちは言われるがままにプラズマ・ブレードの格納箇所を開き、何も無い事を確認させた。
《よし。次はタンクから離れろ。》
俺たちは指示に従い、運んできた酸素タンクと推進剤タンクから距離を置いた。『白虎』の1機はこちらに照準を合わせ、何かあった場合即座に撃てる体勢を取っている。もう1機はタンクに何か仕掛けれらていないか確認しているようだ。
《よし、いいぞ。さっさと作業を始めろ。》
俺はほっと胸を撫でおろした。タンクの内部にも細工が施されている。どうやら細工した痕跡は上手く隠せているようだ。
俺たちはそれぞれのタンクを回収すると連絡船へと近づいた。推進剤の補給口は連絡船の後部にある。手順書通りの場所にある補給口を開き、連絡船とタンクを接続した。タンクからみるみる推進剤が減っていく。、順調に補給できているようだ。アンタルが担当する酸素は連絡船の前部に補給口がある。アンタルの方も無事接続でき補給を開始したようだ。作戦はここまで順調に進んでいる。
現在の各機の位置は連絡船を中心として、作業をしている俺とアンタル機に『白虎』2機がそれぞれ少し距離を置いて照準を向けている。そして連絡船の正面から1マイルほどの距離に敵巡宙艦の『シャンシー』級が停泊しており、連絡船に狙いを付けている。
補給が完了し連絡船とタンクとの接続を外す。アンタル機も酸素の補給が完了し、タンクと連絡船の接続を外していた。俺はタンクを回収しようと腕を伸ばし失敗する演技をした。手に当たったタンクは連絡船の前方へと流れて行く。
《おい!何をして…。》
その行為を見咎めて『白虎』のパイロットがこちらに照準を合わせながら問いただそうとした時、辺りは眩い閃光に包まれた。




