実験部隊編8
戦況モニターに流れる情報を俺は『ST-04』のコックピットの中でじっと見ていた。捜索に出ている4機からの情報が逐次表示される。
連絡船の場所は拿捕された後、杳として知れない。移動した後に欺瞞電波を使用して場所を隠蔽されていると推察される。
欺瞞電波の特徴は遠方からの観測を無効化することができる。だが近づかれてしまうと欺瞞電波の発生を傍受され、大体の居場所がわかってしまうのだ。しかし宇宙と言う広大な場所においては、十分に機能する代物だった。
当時は知らなかったがUS軍の秘密工廠であった『コンスタンツ』も同じ技術で秘匿されていたらしい。
捜索している4機は広範囲を索敵するため蛇行しながら進んでいる。戦況モニターの横に表示されている宙域図には『イーンスラ』宇宙軍が予想した連絡船の隠蔽場所の範囲が表示されている。
もし予想の範囲内に敵と連絡船が居ない場合、連絡船の救出は絶望的だ。皆が固唾を飲んで予想範囲が捜索済みとなって行く状況を見守っていた。すると
《こちらアンタル機。欺瞞電波を傍受。更に索敵に入る。》
との通信が入った。アンタルの報告は巡宙艦内の空気を一変させた。どうやら予想は正しかったようだ。巡宙艦内が慌ただしく動き始める。
《司令部より各パイロットへ。次のフェーズに移行する。》
「了解。」
発見したアンタル以外の他のパイロットたちは巡宙艦へと帰還してくる予定だ。そして補給を受けて次の作戦に備える。一方俺はアンタル機を迎えに行くため、発進の準備を始めた。
《オペレーターからトニー機へ。発進準備は良いか。》
「準備完了。いつでも行ける。」
《了解。カウントを短縮する。5、4、3、2、1、GO!》
急激な加速を受けて機体が射出される。俺は戦況モニターを確認しながら更に機体をアンタル機の方へと軌道修正した。連絡船の座標が特定されるのも時間の問題だろう。これでイニシアティブは『イーンスラ』宇宙軍へと移った。しばらくして
《こちらアンタル機。停止した船影を2つ確認。》
との通信が入った。
《こちら司令部。座標を確認。アンタル機も帰還せよ。》
《了解。だが敵が喰いついたようだ。》
味方が目視できる距離だと言うことは敵からも目視できる距離だと言うことだ。敵は1機だけなら撃墜できると踏んだのか、迎撃に出てきたようだ。戦況モニターに拠ると2機がアンタルに向かってきている。
「こちらトニー機。そちらに向かっている。もうしばらく耐えてくれ。」
《了解。なるべく早く頼む。》
アンタル機は来た航路を通らず大きく弧を描いて離脱を始めた。理由は欺瞞電波を傍受した時点で、航宙テストで使用予定であった観測機器をばらまいたからだ。これでこちらは大まかではあるが敵の動きを察知することができるようになった。
敵機はまだアンタル機を追ってくるようだ。しかしアンタル機は火器管制の問題が解決しておらず、丸腰のようなものだ。俺は急いで駆けつけるべく機体を更に加速させた。
「ヴァレリー。アンタル機の予定進路と敵機の動きから交戦ポイントを算出してくれ。」
《了解。座標出します。》
宙域図に予想ポイントが表示される。アンタル機がうまく釣り出してくれたようで、俺は側面を突けそうだ。俺は交戦ポイントに向かってスペース・トルーパーの航路を調整した。
《ヴァレリー。》
《なんでしょうか?》
俺は皆に聞かれないようヴァレリーとの直通回線で話を始めた。
《ここからは実戦だ。リミッターを解除する。》
《了解しました。》
《敵機の索敵範囲に入りました。》
俺はアンタル機を追いかける敵機の斜め前方に位置している。
《間もなく射程距離に入ります。5、4、3、2、1。》
照準が範囲外から範囲に切り替わったところで俺は引き金を引き絞った。
《頭部に命中。》
ヴァレリーが観測結果を報告してくれる。
「外れか。」
スペース・トルーパーの頭部は人体構造を模倣しているため、カメラやセンサー類が集中している。しかしそれらは胴体などに副系として装備されており、使用不能となれば即座に切り替わってしまう。そのため頭部を破壊されても戦闘は継続できるのだ。しかし撃たれた敵は慌てふためいて即座に後退を始めた。だがもう1機がアンタル機からターゲットを俺に移し攻撃してきた。
「向かってきたなら仕方がない。」
敵の戦力は削りすぎるなとの司令部から命令が出ている。俺は敵の弾を避けると照準を新たな敵に付けて引き金を引いた。
《右腕部に命中。》
武器を持った腕を破壊した。
「プラズマ・ブレード装備。」
俺はそのまま敵機に近づき、すれ違いざまに足に向かってプラズマ・ブレードを振るった。
手ごたえがあり、敵機の右足は半ばから切り落とされていた。俺が反転すると敵機は逃げようとしていた。先ほど頭部を破壊した機体はすでにかなりの距離を逃げている。
「1機を鹵獲する。」
俺は司令部にそう伝えると、逃げる敵機に追いすがって背部バーニアを破壊した。これで航行能力は、ほぼ無くなった。
俺は念の為に左腕も破壊し、敵機にワイヤーを引っかけた。そしてそのまま曳航を始めた。敵機は抵抗しようとするが、両腕と右脚、さらにメインの背部バーニアも破壊されているため、推力が出ない。
「アンタル。曳航を手伝ってくれ。」
《了解。そちらへ向かう。》
アンタル機と合流した頃には敵機はもう抵抗することを諦めていた。俺たちは敵機を曳航したまま巡宙艦へと帰還した。
俺たちは鹵獲した『白虎』を格納庫の床へと押し付けた。銃を持った兵たちが『白虎』の周りを取り囲みコックピットへと照準を付けている。そこへ整備兵たちがやってきて『白虎』を手際よく底面へとワイヤーで固定した。
コックピットが開けられ、中からパイロットを引き摺り出された。
《مُرْتدّ》
パイロットは全方向通信で何やら喚いている。暴れようとしたところを取り押さえられて後ろ手に拘束されたようだ。
パイロットが連行されるのを見て、俺はスペース・トルーパーから降りた。これでテロ組織の情報が少しでも手に入るだろう。これからパイロットに降りかかる苛烈な尋問のことを考えれば、敵ながら同情するが背に腹は代えられない。
「ヴァレリー。敵のパイロットはさっきなんて言ってたんだ?」
俺は休憩のために自室に戻りながらヴァレリーに聞いた。
「背教者どもめです。」
「そうか。」
カリーム辺りはまた怒っているだろうなと思いながら、俺は自室へと帰り着いた。




