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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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実験部隊編2

 シミュレーションが終わり、パイロットたちはコンソール席へと集まってきた。コンソール席にはプロジェクト責任者であるモルシドと秘書官であるシファー、そしてナノマシン管理を行っているターリブが席に着いていた。

 コンソール席の前方にある大型スクリーンに各パイロットの状況が表示されている。シミュレーション中もこれでモニタリングされていたのだろう。各数値がグラフ化されており、一目で各パイロットの評価がわかるようになっていた。

 先ほどのシミュレーションでの動き通り、アンタルが圧倒的な数値を残している。その後にラビーアとカリームが続く。一方フサームは他に比べると明らかに見劣りする数値だった。やはりイメージ・フィードバック手術をしてから10年というリミットが存在しているように思える。ちらりとフサームの顔色を伺ったが、その表情はいつもより幾分硬く感じた。

《アンタルの数値が異常ですね。とても手術を受けてから1ヵ月とは思えないほど安定しています。》

 不意にヴァレリーが俺にそう告げてきた。確かにラビーアやカリームの出している数値は突出したものがあったり、逆に低すぎるものがあったりと安定していないように見える。

《才能があるとか?》

《とてもそれだけでは説明が付きません。可能性としては1年近く前に強化手術を受けたのではないでしょうか?》

 アンタルの数値は手術を受けてから1年ほど調整を続けた数値に匹敵するらしい。もしそれが1ヵ月で達成できるとなれば凄い技術革新だ。

「アンタルの数値が安定しすぎているのだが、ナノマシン強化手術を受けたのはもっと前なのか?」

 分からない事は聞くに限る。俺はターリフとモルシドに向かって聞いた。

「このグラフを見るだけでそんなことがわかるのか?」

 ターリフは驚きに満ちた表情でそう聞いてきた。完全にヴァレリーの受け売りだが、ちらりヴァレリーを見ると

《そのまま続けて下さい。》

と言ってきた。

「多少はな。」

 実際は知識などほとんどないがヴァレリーが言うなら仕方ない。困ったらヴァレリーが助けてくれるだろう。

「そうですか。さすがにUS軍所属だったことはありますね。優秀だ。お察しの通りアンタルは強化手術を1年以上前に受けています。」

 ヴァレリーの読みはズバリだったようだ。

「納得しました。」

 俺は得心が行ったと言った表情で答えた。あまり深入りしてボロを出すのも良くないと思い俺は話を終わらせた。

 その日は俺以外の各人の状態の説明と今後の方針が説明された。今後はシミュレーションを続けて各人のナノマシンの状態を調整していくらしく、その辺りはUSと変わらないようだ。


 数日が過ぎた。毎日シミュレーションをしているが、ラビーアとカリームは伸び盛りと言ったところだ。順調に調整が進んでいるように見える。一方フサームは一向に結果が出る気配がなかった。

「あまり調子がよくなさそうだな。根を詰めてもよくないぞ。」

 軍本部地下のトレーニング施設で俺はフサームに声を掛けた。フサームは結果の出ない苛立ちを自分にぶつける様にトレーニングしていた。

「あぁ…、そうだな。」

 フサームは生気のない表情で答えた。

「少し休憩しよう。」

 俺はフサームを連れて休憩スペースへとやってきた。

「少し体をいじめすぎじゃないか。」

 俺はそう言うとフサームに飲み物を手渡した。

「ありがとう。」

 フサームは礼を言いながら飲み物を受け取ると、それをあおった。その表情は憔悴しきっているように見えた。

《ヴァレリー。》

《なんでしょうか?》

 俺は自室に居るヴァレリーに話しかけた。

《フサームのことなんだが、なんとか改善する方法はないだろうか。》

 ヴァレリーはナノマシン強化について、最初期から関わっておりUS軍の全記録を閲覧できていた。恐らく世界最高水準の知見を持っているはずだ。

《私ならなんとかできると思います。ただ作戦上、私がフサームのナノマシンを管理するわけには行かないですからね。》

 ヴァレリーの存在は『イーンスラ』に取って有益すぎるとの判断から、ただの戦術AIでしかないように装っている。俺たちはヴァレリーが『イーンスラ』に接収されることを恐れたのだ。

《戻ったら教えてくれ。明日ターリブに伝える。》

《わかりました。》

「自分はもう少し出来た人間だと思っていたんだけどなぁ。情けない。」

 フサームはぽつりと呟いた。

「上手くいかないと心が弱ることは誰にでもあるさ。」

 俺はそう言ってフサームの肩をぽんと叩いた。

「スペース・トルーパーのパイロットになってからずっとエースだった。そのせいかプライドだけは高くなってしまったようだ。」

 その高すぎるプライドのせいで他のうまく行っているパイロットたちに対する嫉妬が芽生え、フサームはそれに上手く折り合いがつけられないようだ。

「その感情は今より良い結果が出れば晴れるかい?」

「…。わからない。」

 少し間を空けてフサームは答えた。

「上手く行くかはわからないが、俺には改善させられそうな方式に心当たりがある。」

「本当か!?」

 フサームは勢いよく俺の方に振り向いた。

「あぁ。だが保証はしないぜ。明日ターリブに伝えるよ。」

「ありがとう。恩に着る。」

 藁にも縋りたい思いなのだろう。

「じゃあ、今日は帰ろう。」

「わかった。」

 これでフサームは、今日はもう無理なトレーニングをしないだろう。俺たちは連れ立って宿舎へと帰った。


 翌日俺はシミュレーション開始前、ターリブにフサームの強化方式について提言を行った。ヴァレリーから一夜漬けで教えて貰った内容で心許なかったが、ターリブには伝わったようだ。

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