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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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襲撃編1

《緊急事態発生。緊急事態発生。第二宇宙港にて空気漏れを検知しました。総員直ちに避難を開始して下さい。繰り返します…》

 どうやら今の爆発で隔壁に穴が開いたようだ。

「ヴァレリー!近くのシェルターに避難だ!」

「待ってください。最も近くで安全なのは『タロース』のコックピットです。乗って下さい。」

 シェルターは備品倉庫の外にある。空気漏れが発生しているため倉庫の外の空気が確保されているかは不明だ。それならば現在気密されている備品倉庫は一先ず安心な場所であり、更に空気を確保できて最悪の場合に移動も可能な『タロース』の中が一番となる。俺は備え付けてある避難バッグを手に取るとヴァレリーと共に『タロース』のコックピットへ避難した。

 

 中に入りハッチを閉める。一応パイロット席に座り、固定具で身体を固定した。そして通信端末を取り出し情報収集をしようと思ったその時だった。宇宙港が振動した。

「くそ! どうなってるんだ!」

「グレン。まずい状況かもしれません。」

 ヴァレリーが自席から俺を見上げて言った。

「何がまずいんだ?」

「事故現場ですが、第二宇宙港とリニアの間です。備品倉庫の外は現在真空状態です。」

 復旧するまで生身では戻ることができない状況だ。つまりは閉じ込めらた。

「敵軍攻撃の可能性があります。緊急発進の準備を提案します。」

 『タロース』は発進準備ができていないのでまだ動かせない。緊急発進は確認事項などを大幅に減らした発進手順だ。急を要すると言うことか。

「承認する。緊急発進の準備を。」

「了解しました。緊急発進シークエンスを開始します。」

 これですぐに『タロース』は動かせるようになるだろう。

「グレン。備品倉庫に侵入者です。」

「なんだって?」

「インターフェイスを握って下さい。映像を回します。」

 まだコネクトができないのでカメラの映像だけを回すらしい。俺はインターフェイスを握った。すぐに左目にカメラの映像が映される。船外服よりももっと動き易そうな黒い服をきた集団が銃を構えて次々とうちの備品倉庫に突入してくる。

「おそらく人民軍ですね。」

「人民軍!? なんで!?」

 ルナ・ラグランジュ・ポイント2には3つの<サークル>があり、俺たちが住んでいるのはUS管轄であり、残り2つはEUと人民共和国の管轄だ。それぞれの軍はそれぞれの<サークル>でしか原則活動しない。侵略行為と見做されるからだ。最近はそんなに緊迫した情勢ではなかったので、何故その禁を破ってまで人民軍がこの場所に居るかがわからなかった。

「発進シークエンス完了。グレン。一旦ここから出ましょう。」

「わかった。コネクト開始。」

 俺の視界はブラックアウトし、次の瞬間には機体を隠すための壁が見えていた。俺は壁を突き破り開いている備品倉庫の扉から外に出るべく飛び出した。黒い船外服のやつらは『タロース』が急に動き出したことで散り散りになった。備品倉庫の扉は少ししか開いていなかったので手でこじ開ける。

 桟橋へつながる廊下へと出たが、ここからはどうすればいいかがわからなかった。

「ヴァレリー。次はどうしよう。」

 さっきの黒い船外服たちは体勢を立て直して追ってくるだろう。恐らく一番良いのは宇宙に出ることだが、出てしまったあとどうするかだ。

「US軍はこの状況を看過しないと思います。外に出て時間を稼げばUS軍が鎮圧してくれるかと思われます。」

「わかった。どこから出ればいい。」

「桟橋の扉を破壊するのが被害が最小限です。」

「よし、うちが使っている桟橋以外で船がないところへ誘導してくれ。」

「了解。まっすぐ行って左です。」

 俺はヴァレリーの指示通りに動き、桟橋の扉の前にきた。

「プラズマ・ブレード装備。」

 『タロース』は腰からブレードを引き抜き、そして扉を切り付けた。『タロース』が通り抜けられそうな大きさの四角形を切り蹴り飛ばした。一発では凹むだけだったが2発、3発と蹴ることで扉は向こう側へ飛んで行った。そこから船庫へ出ることができた。船庫には5方向は壁があるが、一か所は壁も扉もなく宇宙空間とつながっている。俺はそこから船庫を出ようとした。すると警告音が鳴った。

「すぐ外に敵影3.」

「くそっ!」

「船庫内よりは外の方が逃げ場があります。」

 俺は船庫から飛び出した。突入しようとしていた敵機は慌てて俺たちを追いかけた。敵機は全てスペース・トルーパーのようだ。

「人民軍玄武型と確認。正式採用機ではなく改造されている模様です。」

 敵は人民軍で確定のようだ。俺はシリンダーや宇宙港を縫うように飛んだ。シリンダーが近ければさすがに発砲しないはずだ。スペース・トルーパーの実弾は一定距離を飛ぶと自壊するように作られている。ある日戦闘宙域で撃たれた弾が流れ弾としてシリンダーなどに当たらないようにする措置だ。しかしあまり近い距離であると自壊する前に当たってしまう。さすがにシリンダー近辺では撃ってこないと踏んでいた。正規軍3機とやりあって勝てるとは思っていない。あとは時間を稼いでUS軍の到着を待つのだ。しかし一機が俺の予想を裏切り射撃してきた。弾は俺たちを外れ、宇宙港に当たった。

「撃ってきた!?」

 俺は鳥肌が立ったあと、心の底から湧き上がる感情を制御できなかった。

怒り

「人のところの<サークル>だからって無茶苦茶しやがって!」

 俺は反転すると、すれ違い様に射撃したスペース・トルーパーへブレードを叩きつけた。俺が急に反転したからだろう相手はこちらに反応できず、機体は肩口から腰まで切断されてそのまま流れて行った。シリンダーにぶつからないコースであることが確認できたので、そのまま再び逃げる体勢に入った。敵機も反転しまた俺たちを追い始めた。しかし暫くすると2機の敵機は撤退していった。US軍のスクランブル機が出てきたのだろう。さて俺たちはどうするか。このままだとUS軍に拘束されてしまうだろう。アンシュの言に従うならヴァレリーと離れるチャンスかもしれない。しかしそれを考えられない自分も居る。その時警告音が鳴った。

「正体不明機から電文です。読み上げます。『この状況から脱したければ座標(LLP2-YWNF238)へ来ること』 以上です。」

 やはりこのまま捕まるわけには行かない。怪しいがこの電文に従うしか突破口はなさそうだ。

「座標へ向かう。」

「了解。ナビゲート出します。」

 俺たちは指示された座標に向かった。

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