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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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理想都市編8

 事態は流動的で絶対に助けられるとは言い切れない。しかしミサイルの撃墜に失敗すれば数千万と言う多くの命が失われる可能性がある。市井の人たちを巻き込みたくないと言う義務感だけが俺を突き動かしていた。果たして俺はミサイルを撃ち墜し『ノーヴィ・チェレポヴェツ』を守ることが出来るのだろうか。

 スペース・トルーパーでミサイルの迎撃は勿論可能だ。だが専用の武装が必要となる。基本的にスペース・トルーパーの武装はスペース・トルーパーと戦うための武装であり、火力は高くはない。まずそれが俺の不安を掻き立てた。

《まずはミサイルに近づきましょう。対処する時間を稼ぐ必要があります。》

「了解。」

 しかし状況は俺に考える時間を与えてくれない。『ノーヴィ・チェレポヴェツ』から戦場と思われる方向へと移動を始めた。何故推測なのかと言えば、戦場の座標情報は戦況モニターで提供されるべき情報だからだ。

 他のスペース・トルーパーや艦船などのセンサー類から得られた情報を統合したものが戦況モニターで表示されており、現在単騎で作戦行動中である俺は自機のセンサー類の情報のみが全てとなる。その為『バルバロッサ』の持っていたクサヴェリー艦隊の移動方向から、戦場の位置を推測しているのが実情なのだ。

 もし予想地点よりも離れている場合は、移動のための時間が必要となる。またミサイルを破壊する場合は出来る限り『ノーヴィ・チェレポヴェツ』から遠いところで破壊することが望ましい。近隣で爆発したとしても影響は免れないからだ。だからできるだけ距離を稼ぐ必要があるのだ。


「ヴァレリー。US軍のミサイルについて、情報を持ってないか?」

《私のローカルに情報があります。》

「…ツいてるな。」

 ダメ元で聞いてみたが、ヴァレリーは情報を持っていると言う。

《US軍に採用されていて対『シリンダー』に効果があるものをリストアップしました。》

 ヴァレリーがリストアップしてくれたミサイルの諸元を確認していく。詳細情報はなく最新でもないがミサイルの情報をヴァレリーが持っていたことは明るい材料だった。

「このリストの物なら弾頭を撃ち抜けば誘爆させられそうだ。」

《そうですね。古典的な接触起爆と距離起爆のハイブリッド型です。スペース・トルーパーの弾でも弾頭部分に当てられれば十分起爆可能かと思います。》

 戦況モニターが使えない件とは打って変わり、その情報は暗闇に差す一筋の光のようだった。諸元に拠れば懸念していた火力の問題は解決しそうだ。もし仮に現在の武装で火力が足りなかった場合は、機体をぶつけて爆発させるしか方法がなかった。そうなると2発飛んで来た時点で対処が不可能となる。そして捨て身である俺も無事では済まなかっただろう。

 あとはクサヴェリーの部隊が撃ち漏らすミサイルの数が問題だ。多すぎれば、俺単騎ではとても対応できない。クサヴェリーの部隊がどれだけ撃ち落としてくれるかに掛かっていると言っても過言ではないだろう。

《ミサイルは前方指向性が強いと考えられるので、安全を取るならば角度を付けて射撃をする必要がありそうです。》

「そうなると難易度が上がるな…。」

《はい。》

 ミサイルを正面から迎撃するのが一番簡単だ。ミサイルは基本的に直進するし、正面からであれば弾頭部分も大きく見えている。しかし前方指向性があると言うことは正面から迎撃すると爆破に巻き込まれる可能性があると言うことだ。かなりのスピードで移動しながら迎撃となるので巻き込まれることはないと思われるが、仮に巻き込まれてしまうと『シリンダー』をも破壊する威力だ、命の保証はないだろう。

 つまり安全に迎撃するためには正面より角度がある位置から射撃を行い、爆破に巻き込まれないようにするのがいいと言うことだ。しかし角度がある位置からとなると必然的に的は小さくなり、更には起爆を誘発させるための衝撃も足りなくなる可能性もある。失敗の確率が増え難易度が上がる。全てのミサイルを撃ち落とすためにはリスクの配分が重要になってくるだろう。

 色々思案していると警告音が鳴り響いた。

《センサーに反応。ミサイルです。数3。》

 落ち着く間もなくその時がやってきた。しかし3発なら単騎でもなんとか対応できそうだ。方向も概ね合っていたようで想定の方角からミサイルがやってくるのがわかった。

「できるだけ距離を稼ぐ。ギリギリのラインで反転だ。ヴァレリー、反転のタイミングを教えてくれ。」

《了解。》

 ヴァレリーをぶっつけ本番でリスクの高い作戦に巻き込んでしまったことに対し、俺はすまない気持ちで一杯になった。

「ヴァレリー、すまない。そして俺の我儘でこんな作戦に付き合わせてしまって。」

《謝らないで下さい。グレンは多くの市井の人の命を守ろうとしています。私はそのお手伝いをできることが嬉しいです。》

 ヴァレリーのその言葉は俺を奮い立たせた。ヴァレリーが居たからここまで来れたし、ヴァレリーが居るから俺は過去のトラウマを乗り越えるために『ノーヴィ・チェレポヴェツ』を助ける力があるのだ。

「ありがとう…。ヴァレリー。」

《弱気にならないで下さい。グレンならできます。さっさと片付けて『バルバロッサ』に合流しますよ。》

「あぁ、そうだな。」

 俺はずっとヴァレリーに助けて貰ってばかりだ。ヴァレリーの言う通り、俺たちは生きて皆のところに帰るのだ。


 戦況モニターで刻々とミサイルが近づいてくるのがわかる。否が応でも緊張感が高まってきた。

《今です。》

 俺は体の向きはそのままに全力で移動方向を反転させた。

「ぐっ…。」

 凄まじい加速負荷が体に掛かる。向こうは十分な加速距離を得ている。これでも徐々に距離が迫ってきてしまうのだ。まずは正面に近い目標から順に処理していくことにした。最初の目標は今の位置からでも正面に近い場所を狙えそうだ。俺は冷静にミサイルの弾頭に狙いを定めると、ゆっくりとトリガーを引いた。

《命中。》

 遠くに大きな火球が見える。1発目のミサイルは無事爆破できたようだ。

「次だ。」

 俺は次の目標に向けて移動を始めた。角度と距離はあるが、3つ目への移動を考えると、この辺りが限界だ。俺は腹を括って、狙撃を試みることにした。息を潜め目標に集中する。時間が経てば的は小さくなり、外せば3発目に間に合わない可能性がある。プレッシャーが掛かる中、俺は再びトリガーを引いた。

《命中。》

「よしっ!」

 思わず歓喜の声が漏れた。プレッシャーを跳ねのけてなんとか命中させることができた。ミサイルは崩壊していき、火球が形成された。これで残るは1発だ。

《グレン。次のミサイルは大分進んでいます。急いで下さい。》

「了解。」

 俺は急いで次の狙撃ポイントへと移動を開始した。ヴァレリーが俺のプレッシャーになるような警告を発すると言うことはかなり切羽詰まった状況だ。

 次のミサイルが狙える位置に移動した頃には、ミサイルとほぼ並走しているような形になった。弾頭として狙える的は極めて小さい。俺は再び意識を集中し、弾頭めがけて弾を発射した。

《命中。》

 3発目も弾頭に命中することができた。しかしミサイルは爆破する気配を見せない。

《起爆確認できません。》

 どうやら弾頭には当たったようだが、起爆させるだけの威力がなかったようだ。最後の最後で失敗した。俺は目の前が真っ暗になった。

 しかしその時、頭の片隅にゴルジェイの顔が想い浮かんだ。他にもスサンナとボリス、グレープの顔が脳裏を過った。彼らを死なせたくない。

「まだだ!」

 俺は自分を奮い立たせるとミサイルへと近づいていった。もう弾頭は見えない位置だ。機体の速度はとっくにスペックを上回った速度になっている。なんとかミサイルが触れる距離まで近づいた俺は、空いた腕をミサイル目掛けて突き立てた。ギリギリ間に合ったことが功を奏して、火薬の詰まった胴体付近ではなくバーニアの辺りに取り付くことができた。『ヴォルフ』の腕は壊れてしまったが、そのお陰でミサイルからは簡単に外れそうにない。

 次にバーニア目掛けて発砲した。ほぼ0距離で放たれた弾はミサイルの推進装置を破壊した。これで軌道修正ができないはずだ。俺は銃を放り出すと両手でミサイルを押し始めた。

《コースの変動開始を確認。そのまま押し続けて下さい。》

 何の警告音かわからない音が鳴り続ける中、俺は必死にミサイルを押し続けた。どれぐらいの時間が経っただろうか。

《直撃コースを離脱を確認。グレン。もう大丈夫です。》

と言うヴァレリーの言葉で俺はミサイルの排除に成功したことを知った。

「…了解…。」

 俺は無事な手でプラズマブレードを抜き放つと、ミサイルに突き立てた腕を切り落とした。最後に止めとばかりにミサイルを蹴って距離を開ける。そして俺は減速を始めた。

 見送ったミサイルは『ノーヴィ・チェレポヴェツ』の脇を抜け、しばらく後に火球が観測された。指定された距離を飛翔したので自壊したのだろう。

 俺は『ノーヴィ・チェレポヴェツ』を、ゴルジェイ一家を守ることができたのだ。

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