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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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理想都市編1

 俺は『ノーヴィ・チェレポヴェツ』での入国審査を終え、人を待っていた。入国審査と移民手続きについての書類は全てヴィルヘルムが用意してくれた。

 3日間掛けて変えた顔に俺の以前の面影はない。日に日に変わっていく顔をフリードリヒ大尉は最初は興味深そうに見に来ていたが、3日目ともなると驚きと言うよりは畏怖が入り混じったような目で俺を見ていた。

 正直俺も今の自分の顔には違和感しか感じないので、出来るだけ鏡を見ないようにしている。


 入国手続きはヴィルヘルムなどの『バルバロッサ』の上陸要員も居たので寂しい感じはなかったが、移民局は閑散としていた。職員が言うには来週に輸送船団が到着し、それからは少し忙しくなる予定だと言うことだ。

[トニーさん]

[…はい。]

 一瞬自分が呼ばれていると思わなかったため、変な間が空いてしまった。ヴィルヘルムが俺のために用意した偽名は、よりによってトニーだった。以前名乗った偽名を覚えていたのだろう。一種の意趣返しだろうか?EUの住民であると言う経歴に偽造された書類だ。年齢は23歳となっており、少し年上の設定だ。

[こちらがホストファミリーになるゴルジェイさんです。]

[よろしく。]

 俺は慣れない言葉を使い挨拶をした。移民局の職員に紹介されたゴルジェイと呼ばれる男は、歳の頃は30歳半ばぐらいだろうか。少し中年太りの男だった。

[よろしくな。]

 ゴルジェイはニコリともせずに手を差し出してきた。俺は笑顔でその手を握ると力強く握り返してきた。

[では後はよろしくお願いします。]

 ゴルジェイにそう言うと移民局の職員は返っていった。

[市民カードは貰ったのか?]

[はい。]

 俺は移民局の職員から渡された市民カードをゴルジェイに見せた。

[じゃあまずは被服局だな。その後に食料局だ。]

 そう言うとゴルジェイは歩き始めた。俺はその後に付いていく。


 移民局の職員の説明によると、これから2週間は審査期間になるようだ。『ノーヴィ・チェレポヴェツ』でお試しの生活を送り、迎え入れるかを決めるらしい。一応申請者側も合わないと思えば取り止めることができるとのことだ。

 そしてその審査期間の世話をしてくれるのがホストファミリーらしい。この街では技能によって職務が割り当てられている。偽造した俺の身分証では、イメージ・フィードバック手術を受けおり、前職は宇宙空間での船外機操縦経験があることになっている。そのため割り当てられた職務は資源衛星からの資源採掘作業である。資源採掘はユーラシア連邦でもリモート操作による採掘機で行っているようだ。

 ゴルジェイは職務上の上司に当たる人間で、職務に係る人間が公私に渡り世話をすることが決まっているらしい。当然職務態度や怪しいところがないかなども審査されるのだろう。

 俺たちは『トラム』に乗り、宇宙港から街へと降りた。『シリンダー』の造りはどこも変わらない。違うところは『トラム』に料金が掛からないところだろう。俺の暮らしていた街では料金が必要だったが、『ノーヴィ・チェレポヴェツ』では無料で乗ることができた。

[降りるぞ。]

 宇宙港からの1つ目の停留所で『トラム』から降りた。ここも『シリンダー』の造りとしてはUSと変わらず、官公庁などが宇宙港近くに集中しているようだ。

 ゴルジェイは一つの建物に入って行った。俺も後に続く。中にはショウウィンドーのように服が飾られていた。『トラム』や宇宙港で見かけた人たち、それにゴルジェイが着ている服と同じ物が並べられていた。色の種類は3種類のようだ。原色ではなく落ち着いた感じの色合いだ。他にも下着や寝間着なども飾られている。こちらは1色しかないようだ。

[ここに市民カードをかざせ。]

 ゴルジェイが指さすところへカードをかざした。隣にあるモニターに何やら表示があるが、分る単語はあるものの俺には完全に理解はできなかった。

[なんて書いてあるんだ?]

 俺はモニタを指さしてゴルジェイに尋ねた。

[平服が3枚、寝間着が2枚、下着類が3枚と靴が1足の支給だそうだ。そこのゲートを通れ。]

 俺は言われるがままにゲートを通り抜けた。するとモニタに数字が追加された。

[この数字は?]

[サイズだ。あとは平服の色が選べる。]

 ゴルジェイは俺の質問に無表情ながら丁寧に答えてくれた。

[色は1種類ずつ貰えるのか?]

[あぁ、大丈夫だ。]

[入力をお願いできるか。]

 俺がそう言うとゴルジェイは端末を操作してくれた。

[これで完了だ。次へ行くぞ。]

[荷物は受け取らなくていいのか?]

[あぁ、家の近くまで自動輸送される。あとで受け取りに行くぞ。]

[わかった。]

 荷物は住居近くまで配送されるようだ。これは便利だな。

 ゴルジェイが歩き始めたので、俺はその後に続いた。しばらく町中を歩いていると平服とは違う服装をしている人を見かけた。

[あの平服でない人の服はなんだ?]

[あれはオーダーメイドで作ったんだろう。贅沢品だな。]

[贅沢品?]

[そうだ。この街では生活必需品は全て配給される。だがそれ以外の物は全て贅沢品と呼ばれている。]

 どうやら配給物資以外にも物を手に入れる手段はあるようだ。そうなるとヴィルヘルムにも商機はあるかもしれない。

[贅沢品はどうやって手に入れるんだ?]

[毎月与えられるポイントと交換する。また職務において目標を超えた成績を納めた者にもポイントが与えられる場合がある。]

[なるほど。ゴルジェイも何か貰うことがあるのか?]

[俺は専ら酒だな。]

 先ほどまで無表情だったゴルジェイが酒と言った時だけニヤリと笑った。ほどなく食料局へと到着した。食料は1日6本の『パワーバー』の配給があるとのことだ。

 ここでも市民カードを端末にかざすと何やら文字が表示された。覚束ない語学力で読んでみると何日分を受け取るかを聞かれているようだ。

[何日分ほど貰っておいたらいいのか?]

[とりあえず5日分貰っておけ。]

[わかった。]

 俺はゴルジェイに言われるまま5日分を入力した。終わったとふとゴルジェイを見ると、ゴルジェイも端末に何か入力していた。

[何をしているんだ?]

 俺がゴルジェイにそう問うと、まぶしい笑顔でこう言った。

[トニーの歓迎のための酒を頼んだんだ。]

 俺の歓迎に託けて飲みたいらしい。

[わかった。次はどこだ?]

[薬剤局へ行って終了だ。]

[それじゃあ案内を頼む。]

 俺がそう言うとゴルジェイは頷いて再び歩き始めた。

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