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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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火星圏遠征編14

 その時クサヴェリーの卓上に置いてあった携帯端末から呼び出し音が鳴った。

「失礼するよ。」

 そう言うとクサヴェリーは端末に触れた。通信内容を確認したのかクサヴェリーは顔を上げ

「残念ながら時間のようだ。兵士たちにグレン君を営倉に連れて行くように伝えてくれ。パイロットスーツはそのままでいい。引き継いだら2人はブリーフィングルームへ来るように。」

と伝えると立ち上がりさっさと部屋から出て行ってしまった。

「あんたたちも戦争を望んでいるのか?」

 俺は部屋に残った2人にそう聞いた。

「私はクサヴェリー様が望む世の中こそが最良の世界と信じていますから。」

 カリーナはそう断言した。一方ユーハンも

「きっと君と俺たちは今まで過ごしてきた環境が違いすぎる。少なくとも俺は今のこの環境の方がいい。」

と言い切った。俺は打ちのめされた気分でカリーナとユーハンから兵士3人へと引き渡され、営倉へと連行された。


 兵士たちは去り際にパイロットスーツを着ておくようにと言っていた。クサヴェリーの行動と、通路に響いていた微かな警告音から恐らく戦闘に入るのだろうと予想できた。しかし俺は戦闘よりも先ほどの会談のことで頭がいっぱいだった。

 クサヴェリーは技術の進歩のためにあえて戦争状態を作り出していると言っていた。確かに技術革新は進むのかもしれない。だがそのために戦争状態を維持すると言うことは俺からすれば信じられなかった。なんのメリットもないように思えるからだ。

 他の人間ならば価値観を共有できるとかと思ったが、カリーナの答えはクサヴェリーに狂信的に付き従っていることを印象付けた。彼女にとってクサヴェリーは人生を掛けてもよい対象なのだろう。

 ユーハンについては多少理性的な答えであったが、ユーラシア連邦の内情は戦争状態ですらマシだと言うのだろうか。それは国としての体を成しているのだろうか?俺には理解できなかった。

 クサヴェリーは俺を仲間に引き入れようと包み隠さず話をしたのだと思う。だがそれは俺が理解に苦しむ内容だった。

 このことを誰かと相談したかったが、俺は囚われの身でありパートナーであるヴァレリーも囚われてる。通信も試みたが距離が離れすぎているのか、はたまたヴァレリーがシールドされた部屋にいるのかで通信することはできなかった。

「くそっ!」

 考えが上手くまとまらない。そんな自分に腹が立った。ふと時計を見るとかなり時間が過ぎていた。もしかするとスヴェン隊が俺を奪還するために奮戦しているかもしれない。そう思うとさらに焦燥感が募っていった。


 しばらく悶々としているとドンと言う音とともに室内が揺れた。

(被弾した!?)

 俺はヘルメットを装着すると捕まるところがある場所へと移動した。その後微弱な振動が2~3回続いた。船が攻撃を受けているようだ。US軍がかなり押しているのだろうか。そう思った矢先、大きな振動が船を襲った。

(撃墜される!?)

 営倉にも警告音が響き始めた。営倉は情報が制限された空間である。にも拘わらず警告音が響いていると言うことはかなり深刻な状況だと言える。例えば艦船がダメージを受けて空気が漏れていると言った可能性が考えられる。俺が囚われているとは知らず、そのまま撃墜される可能性も十分ある。運が良ければ船外に放り出されても、パイロットスーツを着ているので酸素が続く数時間は生きられる。救難信号で助かる可能性はあるが、誘爆すれば死は免れないだろう。

(ヴァレリー!?)

 ふとヴァレリーの現在位置を確認すると今までとは違う場所へと移っていた。俺の感覚が正しければ船外へと放り出された可能性がある。

「ヴァレリー!ヴァレリー!」

 俺は通信回線で必死にヴァレリーを呼んだ。

《…グレ…ン!》

「ヴァレリー!無事か?」

 なんとかヴァレリーとの通信が繋がったようだ。

《無事です。グレンはパイロットスーツを着ていますか?》

「あぁ、着ている。」

《よかった。ヘルメットを着けて待っていて下さい。》

 そう言うとヴァレリーとの通信が一旦切れた。

「ヴァレリー!?」

 俺が呼びかけると通信はすぐに回復したが聞こえてきたのはヴァレリーの声ではなく男性の声だった。

《詳しい話はあとだ。出来るだけ壁から離れて扉側に寄れ!》

 その声には聞き覚えがあった。俺はその声に指示された通り営倉の扉側に張り付いた。少し間が空いて壁が引き裂かれた。室内の空気が一気に外へと流れ出し、俺も為すすべなく船外へと放り出された。

 放り出された宇宙空間で俺が見たのは記憶にない形をしたスペース・トルーパーだった。デザイン的にはUS軍のもののように見える。その機体は船外へ飛び出した俺を優しく受け止めた。

《グレン!》

 そして受け止められた手の中にはヴァレリーが居た。

「ヴァレリー?これは一体…。」

 俺がヴァレリーに理由を聞こうとした時、再び聞き覚えのある声が聞こえた。

《話はあとだ。ここから離脱する。舌を噛まないように黙っていろ。》

 そう言うと見慣れない機体は加速をして一気に艦船から離れた。移動の際に遠くに荷電粒子砲が見えた。その周辺では何かが高速で飛び交っている。どうやら戦闘が行われているようだ。おそらくUS軍と荷電粒子砲の守備隊だろう。その様子を見ているとヴァレリーが近づき手を握ってきた。

《このスペース・トルーパーと通信できます。》

《ありがとう。ヴァレリー。》

《では繋ぎます。》

 ヴァレリーは、舌を噛まないようにヴァレリー経由で通信をしてくれるようだ。

《フリードリヒ大尉。生きておられたんですね。》

 そう聞き覚えのある声は間違いなくフリードリヒ大尉の声だった。

《しぶといのだけが取り柄だからな。しかしヴァレリーからの通信なのにグレンの声が聞こえるのか。おかしな特技を身に付けたな。》

《まぁ色々ありまして…。それよりも助けて頂いてありがとうございます。》

《ギリギリ間に合ってよかった。『ノーヴィ・チェレポヴェツ』に帰られてしまうと厳しかったからな。》

 フリードリヒ大尉はほっとした様子でそう言った。

《しかし大尉が何故火星圏まで…。》

《それは話すと長くなるからまたの機会にちゃんと説明する。》

《わかりました。》

《グレン。お話し中すみませんが敵機が近づいています。》

 俺とフリードリヒ大尉の通信にヴァレリーが割り込んできた。

《このままだと追いつかれるな追っ払ってくるから少し待っていてくれ。》

 フリードリヒ大尉はそう言うと俺とヴァレリーをリリースし、方向を転換し敵機迎撃へと向かっていった。

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