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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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火星圏遠征編12

 翌日に営倉まで迎えに来たのは兵士だけではなく、パイロットスーツを着込んだカリーナと少し小柄なハンサムな男性が一緒だった。二人でセットの印象があったユーハンとは今日は一緒ではないようだ。

 ハンサムな男性が俺にパイロットスーツを渡してくれた。近づいたことでようやく彼がアンドロイドであることがわかった。

「カリーナの戦術AIか?」

 俺がそう問うとアンドロイドは

「はい。パーヴェルと申します。」

と丁寧に自己紹介をしてくれた。US軍にはまだ居ないがユーラシア連邦には男性型も居るようだ。

 俺はパーヴェルから自分のパイロットスーツを受け取ると営倉内に戻って手早く着替えた。カリーナがわざわざ出向いてきたのはきっとシミュレーションが待ちきれないからだろうと踏んだのだ。着替え終わった俺は手錠を掛けられ、スペース・トルーパーの格納庫へと連れて来られた。

 スペース・トルーパーの格納庫には5機の『スヴァローグ』が鎮座していた。通路にはユーハンとその戦術AIであろうガイノイド、そしてヴァレリーが居た。

「グレン殿にはそちらのスペース・トルーパーを使用して貰う。」

「わかった。」

 俺はユーハンが指示したスペース・トルーパーの前に移動した。それを見てヴァレリーも俺に傍に移動してきた。兵士に手錠を外して貰い、そのまま『スヴァローグ』へと乗り込んだ。

 スペース・トルーパーのコックピットは古今東西どの国のものでも狭いようだ。俺がパイロット用の座席に着くと、ヴァレリーもコックピットへ入ってきた。そしてそのまま手早く戦術AI用の座席に着いた。すぐにコックピットの扉が閉じ、ヴァレリーの座席が少しせり上がってきた。そのせいか『ヘーニル』よりヴァレリーとの距離は近かった。

「起動チェックを開始します。」

 そう言うとヴァレリーは手を差し出してきた。固定具を付け終えた俺がその手を握るとヴァレリーの声がナノマシンを通して聞こえくる。

《これならば盗聴される心配がありません。》

《わかった。この2日間の事を教えてくれ。》

 俺はヴァレリーに会えていなかった2日間の事を聞いた。

《残念ながら私が蓄積していたグレンのデータはクサヴェリーに全て吸い出されてしまいました。》

 生みの親であるクサヴェリーが居る時点でヴァレリーからのデータの流出は避けられなかった。

《それは仕方がない。ヴァレリー自体に何かされなかったか?》

 クサヴェリーならブービートラップの一つや二つ仕掛けていてもおかしくない。俺は警戒して聞いてみたが

《今のところありません。昨日急遽『スヴァローグ』のソフトモジュールを導入しただけです。》

と拍子抜けする回答だった。ソフトモジュール導入は今日のシミュレーションのためだろう。

《他に何か気づいたことは?》

《情報としては、この艦隊はマーズ・ラグランジュ・ポイント1へ戻る途中のようです。あとUS軍は輸送艦隊ではなくこちらの艦隊を追っているようです。》

 最初の情報は想定内だ。そしてUS軍が輸送船団ではなく、こちらの艦隊をターゲットにしたと言うことは荷電粒子砲の威力を脅威と見做したからだと思われる。US軍がこの艦隊に勝てば案外早く解放されるかもしれない。

《グレン殿。準備が整いました。》

 ユーハンから通信が入った。ヴァレリーとの会話はここまでだ。ヴァレリーは頷いている。俺はヴァレリーから手を離すと操縦桿を握った。

「こちらも準備は完了している。」

《こちらはカリーナと2機で相手をする。性能と武器については同条件に設定してある。》

「それで問題ない。」

《他に何か質問は?》

「できればシミュレーター開始後5分ほど時間が欲しい。」

《えーっ?!》

 カリーナが不服そうな声を上げた。

《足りますか?》

《十分だ。》

《では開始300秒後に攻撃を開始します。》

 ユーハンは見た目に反して大分優しい性格のようだ。カリーナは戦闘狂以外の何者でもない。早く戦いたくて仕方がない様子だ。

「感謝する。」

 俺は感謝を述べて通信を切った。

「ヴァレリー。コネクト開始だ。」

「コネクト開始します。」

 一瞬の間のあと、視界はシミュレーター世界の宇宙空間を映していた。体を少し動かしてみるが違和感は特になかった。『スヴァローグ』は『ヘーニル』に近い設計なのかもしれない。

「戦況モニターの位置が違うな。」

 真っ先に気づいた違和感はそれだった。いつもと違う場所に文字列が並んでいる。そしてその文字列の内容がちんぷんかんぷんだ。

《言語設定で英語への変更はないようですね。》

 ユーラシア連邦のスペース・トルーパーに英語しかできない人間が乗ることなど想定していないだろう。

「そいつは困ったな。数字は読めるだろうから数字情報だけを表示してくれ。」

《了解。》

 戦況モニターは数字情報だけになったが何か違和感を感じた。

「この数字の単位はなんだ?」

《メートルですね。》

「げっ。マイルじゃないのか。」

 よく考えば当然なのだが、通りで違和感を感じるわけだ。これなら表示させない方がマシと言うものだ。

「距離関係も要らないな。残弾と残推進剤量ぐらいでいいか。あとはヴァレリーの判断で教えてくれ。」

《了解。》

 戦況モニターは随分とすっきりした。

「さて、じゃあ準備運動と行きますか。」

 俺は『スヴァローグ』の性能を確かめるべく様々な動きをしてみた。

「確かに悪くないな。」

 一頻り動かした感想はそれだった。反応速度も悪くない。やはり『ヘーニル』に近い感触がある。

《そろそろ300秒を経過します。》

 ヴァレリーからの報告が入るや否や耳慣れない警告音が鳴った。

《敵からの攻撃です。》

 予定時刻通りの攻撃開始に俺はユーハンの性格を感じた。敵からの攻撃を避けながら、攻撃された方向に向かって動き出した。敵機はコンビネーションを使って攻めてくるが、2機程度の攻撃では正直プレッシャーとしてはかなり弱い。相手の攻撃を避けながらよく観察をする。

 片方の意匠は見覚えがある。先日やり合った機体だ。あいつは強いので後回しだ。先に倒すならもう1機の方だ。動きを見る限りはそれほどでもない。俺はのらりくらりと避けながら徐々に距離を詰めて行った。

 そして攻撃範囲に入るや弱いと見た方に徹底的に攻撃のプレッシャーを与えていった。強い方が援護のために攻撃を強めるが、弱い方は反撃に出る余裕すらないため、俺の負担は先ほどよりも低くなった。

 ついには強い方が見るに見かねて接近戦を挑んできた。切り替えのタイミングとしては上等だ。もう少し追い込んでいたら、きっと弱い方が自滅して撃墜していたと思われるからだ。

 俺たち2機はプラズマ・ブレードでの近接戦闘に入った。お互い当たれば即退場だが、俺は短期決戦を選んだ。敵の斬撃をあえて腕で受け、返す刀でカウンター攻撃をコックピットにぶち込んだのだ。

 スペース・トルーパーは攻撃を受けると著しく能力が低下してしまうので、そのような戦い方はセオリーにはない。完全に敵の意表を突いて強い方を退けた。もう一機が慌ててこちらを攻撃しだしたが、隻腕であっても負ける要素がないほど腕の差は歴然だった。あっさりと敵の懐に入りコックピット破壊してシミュレーションは終了した。

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