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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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火星圏遠征編11

 翌日、それほど朝早くない時間に兵士たちがやってきた。クサヴェリーの命令で俺を連行するよう命令されたとのことだ。2人に銃を突き付けられながら残りの1人に手錠を嵌められ、昨日の応接室へと連れて来られた。

 応接室にはすでにクサヴェリーが居て、昨日と同じ席に座っていた。背後には昨日と同様に屈強な男性兵士と小柄な女性兵士が立っていた。小柄な女性は昨日の去り際と違い、心なしか表情が硬くなっているように見えた。

 俺も昨日と同じ席に座るとクサヴェリーが話始めた。

「グレン君。待っていたよ。昨日はカリーナが失礼をしたようだね。」

 カリーナ?俺は一瞬誰の事かわからなかったが、クサヴェリーの背後に立つ小柄な女性の顔が目に見えて強張っていることで理解した。

「失礼なこととは?」

 俺が失礼の意味を問いかけると、クサヴェリーはにやりと笑い後ろを振り返った。カリーナの顔は今度は青くなっていた。クサヴェリーは再びこちらを向き話を続けた。

「ヴァレリーが返ってくると言う希望を持たしてしまったかと思ってね。残念ながらそれは無理だ。」

「なるほど。」

 カリーナは去り際に自信満々にヴァレリーを連れてくると言っていた。カリーナの表情から察するに気軽に返す旨を伝えて逆に叱責されたのだろう。

「それでこちらに寝返る話は考えてくれたかね?」

 クサヴェリーはカリーナの話は終わったとばかりに質問を変えてきた。

「お断りだ。」

 俺は即答した。クサヴェリーは余裕の笑みを浮かべたまま頷いた。

「了解したよ。君の処遇については条約に則った捕虜とさせて貰う。」

「それで問題ない。」

 これで即座に殺される事はなくなったはずだ。マーズ・ラグランジュ・ポイント1で裁判が実施されれば即日銃殺もあるかもしれないが、条約で捕虜は裁判を経なければ処分が下ることはない。殺されなければ捕虜交換などで国にも帰れる可能性も残るが、交換が実施されるまではマーズ・ラグランジュ・ポイント1でかなりの期間を過ごす覚悟をしなければならないだろう。

「さて、では話題を変えて君にお願いがある。」

 クサヴェリーは相変わらずにこやかな笑顔でそう言い出した。

「お願い?」

 その胡散臭さから嫌な予感しかせず俺が怪訝な顔をしていると、クサヴェリーは特に気にした様子もなく話を続けた。

「私の後ろにいる兵たちに訓練をつけて欲しくてね。」

「俺に何のメリットが?」

 俺が断ろうとすると機先を制してクサヴェリーが続けた。

「勿論タダでとは言わない。当然だがヴァレリーと一緒にシミュレーションに参加して貰う。彼女に会う機会を与えるのがメリットだ。」

 なるほど。それは魅力的な提案だ。確かにヴァレリーの状況も把握しておきたい。しかし俺は返事を飲み込むとこれをチャンスだと考えた。もしかしたら相手に要求を飲ませる唯一の機会かもしれない。

「不足かね?」

 俺が沈黙しているとクサヴェリーが問いかけてきた。

「まぁな。あんたには聞きたいことがある。それに答えてくれるなら、その訓練に参加しても良い。」

 俺がそう言うとクサヴェリーは興味深そうな顔で俺を見つめた。ふとクサヴェリーのお供の2人を見ると、男性の方は驚いた表情でカリーナは喜色満面と言った表情だった。

「聞きたいと言う内容を聞かせて貰ってもいいかな?」

 答えられることと答えられないことがあるだろうから当然の対応だ。

「お前の目的はなんだ?」

 俺が単刀直入に聞くとクサヴェリーはニヤリと笑った。

「いいだろう。その条件を飲もう。」

 クサヴェリーにとっては想定の範囲内の質問内容だったのだろうか?すんなりと追加した条件が通ってしまった。

「クサヴェリー様!訓練は何時できますか!」

 ずっと沈黙を守っていたカリーナが唐突に会話に参加しクサヴェリーに問い掛けた。どうやらシミュレーションの件が決定したためテンションが上がってしまったようだ。隣の男性兵士は驚いた顔でカリーナを見ている。クサヴェリーは座ったまま後ろを見ると

「準備も必要だから明日だな。」

と答えていた。

「了解です!ユーハン!明日に向けて訓練するわよ!クサヴェリー様!失礼します!」

 カリーナはユーハンと呼ばれた男性兵士にそう告げると、クサヴェリーに敬礼してから脱兎の如く部屋を出て行った。

「失礼致します。」

 ユーハンも困った顔をしながらクサヴェリーに敬礼するとカリーナを追いかけるように部屋を出て行った。

「慌ただしい奴らですまないな。カリーナは強い相手と戦うことに目がなくてね。パイロットとしての君に一目惚れしたようだ。」

 やれやれと言った表情でクサヴェリーが言った。確かに昨日のカリーナの態度は俺とシミュレーションがしてみたくて仕方がないと言う印象を受けた。

「さてシミュレーションで使用する機体だが、『スヴァローグ』を使って貰う。君の『ヘーニル』とでは規格が違うからシミュレーションが難しいのでね。」

 『スヴァローグ』は恐らく荷電粒子砲の防衛隊が使用していたスペース・トルーパーだろう。

「俺を新型に乗せていいのか?」

「情報が漏れることはないだろうし、乗ればこちらに寝返ってくれるかもしれないだろう?念のため推進剤は抜いておくように指示しておくがね。」

 どうやら『スヴァローグ』と言う機体にかなりの自信があるようだ。そして推進剤を抜かれていれば脱出はままならないだろう。

「あとは…、ヴァレリーはその機体を扱えるのか?」

 操縦についてはイメージ・フィードバックなので問題ないと思うが、補助を行うヴァレリーは対応したモジュールが必要だろう。それこそ規格的に適合するのだろうか。

「私とアーシュラが乗っているからそこは問題ない。」

 姉妹機であるアーシュラができることはヴァレリーも問題なくできるのだろう。

「他に質問は?」

 俺が頭を振るとクサヴェリーは

「ではまた明日のシミュレーションの時間に迎えに行かせる。グレン君をお送りしろ。」

と俺の背後に控えていた兵士たちに指示を出した。兵士たちはクサヴェリーに向かって一斉に敬礼し俺に退室を促した。そのまま3人の兵士に連れられて俺は営倉へと戻った。兵士たちは去り際に今日の分の食料と飲み物を置いて行った。

(明日はヴァレリーに会えるのか。なら聞くことを考えておこう。)

 俺は少しウキウキしながらさっそくヴァレリーへの質問を考え始めた。

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