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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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火星圏遠征編9

《どうなってんだ!》

 アーヴィンが取り乱して怒鳴った。突然巡宙艦が何の前触れもなく破壊されたように見えたからだ。巡宙艦を撃沈しようとすればミサイル以外ありえない。しかしそう言った物は一切確認できなかったのだ。予兆としてはヴァレリーが報告した高エネルギー反応だけだ。

「ヴァレリー。さっきの高エネルギー反応はなんだ?」

《おそらく荷電粒子砲だと推察されます。》

「荷電粒子砲?」

 聞きなれない名前に俺は思わず聞き返した。

《端的に言えばビーム兵器です。様々な問題があり、未だ実用化はされていないはずです。》

 よくわからないが、巡宙艦の装甲を貫通したように見えたことから凄まじい破壊力を持つ兵器であることは理解した。

《スヴェンリーダーから各機へ。先ほどの『ロッキー』攻撃の原因を特定するため、ローク隊と共に天頂方向を偵察する。》

《了解。》

「了解。」

 中破した1機を除く9機のスペース・トルーパーは、一転天頂方向へ進路を変えた。偵察のため各機は固まらず距離を大きく取り、索敵範囲を広げた陣形となった。しばらくすると

《巨大構造物を検知。》

 索敵に人工の構造物が引っ掛かったようだ。視界端に宙図が表示され、巨大構造物と言われた物のポイントが示された。

《おいおい。なんだこのデカブツは。》

 アーヴィンが驚くのも無理はない。示された情報からその大きさが『リオ・グランデ』を遥かに凌ぐ大きさだったからだ。<シリンダー>にも匹敵する構造物が荷電粒子砲なのだろうか。そしてそれはかなりの速度で俺たちから遠ざかっていることもわかった。

《正体不明の機影確認。大きさからスペース・トルーパーと推察されます。数40。》

 おそらく巨大構造物の護衛だろう。拡大されたスペース・トルーパーは輸送船団の物とはまた別の新型機体であった。

《また新型?!》

 シェリルの悲鳴にも似た叫びが聞こえた。先ほど未知の新型機に一杯食わされたばかりだ。

《応援を要請している。だがあれを逃すわけにはいかない。このまま本隊は逃げている巨大構造物を追う。》

 スヴェン隊長から悲壮な決意をした指示が発せられた。新型機に対して兵力差は4倍以上だ。あれほどの強力な兵器の護衛が弱いはずもないだろう。

《敵機接近。》

 アラート音と共にヴァレリーからも警告が飛ぶ。どうやら1機だけが突出してきたようだ。それは新型機の中でも少し意匠の違う機体だった。

《なめんな!》

 アーヴィンが必殺の間合いと思われる距離で撃ち込んだ弾はいとも容易く避けられた。そしてそのまま流れるような動きでアーヴィン機の銃を持った腕は切り払われた。

《なっ?!》

 その動きを見た時、直観的に俺達と同じくナノマシンを強化された者の動きであることを悟った。開発者であるクサヴェリーがユーラシア連邦に居る以上、遅かれ早かれこう言った状況になることは予想できたことであった。

 俺は強引にアーヴィン機と敵機の間に機体を割り込ませ、アーヴィンの機体にプラズマ・ブレードを振り下ろそうとするその腕目掛けて『ヘーニル』のプラズマ・ブレードを振るった。

 しかし敵機はプラズマ・ブレードを振るうのを止めただけでなく後退までしてみせた。俺のプラズマ・ブレードは何もない空間をむなしく切り裂いただけだった。

「アーヴィン!退がって!」

 俺は敵機と数合やりあったが、撃墜することはできなかった。そんなことができるのはクリストフ以外に知らない。やはりナノマシンが強化されたパイロットであることを確信した。

(こいつはヤバいな。)

 そしてそれは最悪の状況を意味していた。今、相対しているこの機体は俺と同等レベルだ。更にすぐ後方にはあと39機の敵機が迫っている。それらのレベルはわからないが、仮に同レベルだとすれば一瞬で俺たち9機は全滅するだろう。

 敵機の目標はアーヴィンから完全に俺に切り替わったようだ。更に数合やりあうが決着は着かない。お互いが普通の相手であれば必殺の間合いにも関わらず、相手を撃墜できないでいた。その隙にアーヴィンはなんとか後退することができたようだ。だが戦線にはもう加われないだろう。

(他の機体のレベルは低いことを祈ろう。)

 そうしている間にも残りの39機も戦場へとやってきてしまった。願いは届いたのか意匠が違う奴ほどのレベルではなかったが、39機対7機と言う圧倒的な兵力差に自軍は劣勢に立たされていた。数の暴力は凄まじく瞬く間にシェリルとローク隊2機が戦闘継続不能となっていた。

《撤退する!》

 スヴェン隊長が絞り出すような声で指示を下した。しかしスヴェン・ローク隊の半数が戦闘できない状況となっており、遅きに失した感はある。なんとか部隊を無事に撤退させなければならない。俺も自軍を支援するべく相手をしている敵機を引きはがしに掛かった。うまく隙を突けたと思ったのも束の間、横合いからまた少し意匠が違う機体がこちらに攻撃を仕掛けてきた。

(こいつもかなり素早い。)

 うまく1機を撒いたはずなのに、1対2を強いられるはめに陥っていた。

《更に6機来ます。》

 2機と戦うのも精いっぱいなところへ更に6機が合流し、合計8機を相手にすることになった。明らかに『ヘーニル』を潰しにきている。

《グレン!撤退しろ!》

 こちらへの圧力が強まった分、スヴェン隊長たちは少し楽になったようだ。

 戦況モニターには友軍の救援が向かって来ている情報も入っている。ある程度後退できれば隊長たちはなんとか逃げ延びられるかもしれない。

「俺のことは置いて撤退して下さい!これから隙を作ります!」

 俺は8機の敵を引き連れながら、残り32機の集団へと飛び込んだ。


「ヴァレリー。すまないが付き合って貰うよ。」

《お供します。》

 1対40と言う暴力的な戦力差はすぐに機体へと跳ね返ってきた。残り推進剤と残弾が少ないことを示すアラートが鳴り続けている。補給なしで2戦目を戦っていることも拍車をかけた。帰れないことを知りながら、俺は生き残ることで戦場を掻き乱し続けた。


《推進剤尽きました。》

 ヴァレリーの宣告の瞬間、『ヘーニル』は動かなくなった。一気に被弾し、両腕と左脚が動かなくなったことを示す戦況モニターが表示される。俺は死を覚悟したが、それ以上撃たれることはなかった。

 戦況モニターを確認するとスヴェン隊長たちは逃げおおせることが出来たようだ。最期にいい仕事ができたとほっと一息ついた。

 動くことも出来ずしばらく漂っていると、先ほどの意匠が違う機体と、もう1機が『ヘーニル』を運び始めた。

「捕虜か…。」

《そのようですね。》

 想定されていた事態とは言え頭が痛い。俺たちは敵艦船まで曳航されて行った。

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