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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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火星圏遠征編8

《スヴェンリーダーから各機へ。作戦は継続する。》

 大隊長の判断は作戦の継続だったようだ。敵機の数が当初の想定と違うため、撤退と言う選択肢もあったはずだが、マーズ・ラグランジュ・ポイント1で合流されるよりは、リスクが少ないと判断したのだろう。

《ローク隊と合流後、フォーメーションFで攻撃を開始する。》

《了解。》

「了解。」

 視界端に映る戦況モニターでは20秒で合流予定だ。スヴェン隊はローク隊を迎い入れるべく陣形を変更した。

《戦闘が開始されました。》

 他部隊の戦況モニターは視界には表示させていないので、気を利かせたヴァレリーが情報を報告してくれた。既に戦端が開かれたところがあるようだ。こちらもローク隊が合流し、合計10機の編隊となった。

《攻撃開始。》

 スヴェン隊長の号令で俺たちの部隊も戦闘を開始した。


《こいつら強いぞ!》

《先に『ジラント』から狙え!》

 数合の撃ち合いで新型機がかなり手強いことがわかった。『アスク』と遜色がない性能だと思える。こちらは10機で敵は『ジラント』を合わせて9機である。数的優位を生かして『ジラント』を減らそうとするが中々上手く行かない。

 『ジラント』を2機を退けたところで、こちらもローク隊の1機が中破となり戦線を離脱していった。形勢は悪くはない。あとはいかに新型機を攻略するかだ。そう思っていた矢先、戦況モニターに変化があった。

《敵新型機の増援です。40機を確認。》

 ヴァレリーが淡々と読み上げた情報は、他のパイロットたちも戦術AIから伝えられただろう。数的有利もなくなった。

《スヴェンリーダーから各機へ。撤退命令が出た。直ちにこの宙域から離脱する。》

「了解。」

《了解。》


 こちらが撤退する素振りを見せたことで敵は追撃の構えを見せた。こちらの撤退を妨害し、遅滞させることが出来れば、敵は増援部隊が間に合い、攻勢に転じることも可能だろう。

《フォーメーションIで行く。》

「了解。」

 俺は敵が突出してきたのを逆手に反転し、一気に敵との間合いを詰めた。味方は後方から援護射撃を開始する。予め訓練した通りの撤退プランの一つだ。俺は敵と味方の弾を全て避けて、敵機の集団の中へと踊り出た。

 敵が慌てふためいているのが手に取るようにわかる。避けきれないと思われる距離の射撃を避けて目の前に敵がいるのだ。俺が振るったプラズマブレードは、狙い通りに新型機の胴体部分を切り裂いた。動きを止めた敵機に援護射撃が殺到する。まずは1機。

 俺は即座に次の獲物に向かって突進する。敵が動揺している今がチャンスだ。狙った獲物を執拗に追いかけ、援護射撃の射線へと引きずり出した。狙い通り援護射撃に当たった敵に俺は追い討ちを掛けて銃を持つ腕と脚を切り裂いた。これで戦闘継続は無理だろう。

 次の獲物を探しているところで次の指示が飛んだ。

《グレン。撤退しろ。》

「了解。」

 スヴェン隊長からの指示に従い、俺は敵部隊から全速力で離脱した。追いかけて来ているようだが、一瞬で2機を戦闘不能にされたことで躊躇しているようだ。

《敵機の後退を確認。撤退完了です。》

 しばらく全力で逃げたところで、ヴァレリーからの報告が入った。俺たちスヴェン・ローク隊は無事敵部隊から撤退することが出来たようだ。戦況モニターを確認すると他部隊も順次敵を振り切って撤退できたようだ。だが隊によっては撃墜された機体もあり、かなり損耗をしているようだ。状況が気になったので俺はヴァレリーに尋ねた。

「ヴァレリー。友軍の損害状況を教えてくれ。」

《戦闘中行方不明が2機、戦闘継続不能が6機です。》

 かなり苦戦したことが見て取れる。やはりユーラシア連邦の新型機は高性能と見ていい。

《今回は完全にしてやられたな。》

 ラリーが誰ともなしに部隊内通信で呟いた。

《そうね。こちらが襲撃することを見越して仕掛けた罠のようだったわ。》

 シェリルもそれに同意する。確かに輸送船に偽装して兵数を少なく見積もらせるなどは計画的に練られた作戦のように思えた。

《あれだけの数のスペース・トルーパーが増えるとなると、今後の作戦も大幅な見直しが必要だろうなぁ。》

 アーヴィンは他人事のように言った。確かにアーヴィンの言う通りで、早急な見直しが必要だ。あと1か月でマーズ・ラグランジュ・ポイント1に到達する。それまでに対策を考える必要がある。作戦の立案は作戦部が行うので他人事でもよいが、実際に遂行するのは我々スペース・トルーパー隊だ。実際数で押せないとなるとこちらとしても頭が痛い。

《もうすぐ艦船との合流ポイントだ。今日はゆっくり休んで、あとは作戦部に任せるとしよう。》

 暗く重い雰囲気になりそうなところをスヴェン隊長が努めて明るくフォローした。確かに遠くに友軍艦船が見えてきた。さして長い戦闘ではなかったが、やはり実戦は神経をすり減らすのだろう。皆の気持ちは艦船に戻って休むことに移ったようだ。そんなふと空気が緩んだその時だった。けたたましいアラート音が鳴り響く。

《高エネルギー反応。天頂方向からです。》

 弛緩した空気が一気に張り詰めた。高エネルギー反応?

 次の瞬間、巡宙艦の1隻が盛大に火柱を上げた。

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