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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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シリンダー内の日常編4

 更衣室でネイトと会った。同じグレード10だがあまり授業は被っていない。

「よぉ。グレン。お前もこれから運動場へ行くのか。」

「あぁ、ダニーが先に行ってるんだ。」

「なら一緒に行こう。」

 俺たちは一緒に運動場に行った。運動場は学校の地下にある。人工重力の関係上地下の方が重力が強くなるからだ。微々たる差ではあるがその方が効果的であるので運動施設は地下に作られていることが多い。学校の運動場は筋トレ用の用具であったり、バイクやルームランナーなどが置かれておりどちらかというとジムといった趣だ。ダニーは筋トレをしていた。俺とネイトもアップをして筋トレに参加した。筋トレのあとは3人でルームランナーを使って競争し、昼を回ったところで上がりとなった。シャワーを浴び、着替えて3人で食堂へ行った。食堂は昼食のピークを過ぎもう閑散としており、3つあるセットのうち一つは品切れとなっていた。俺たちはそれぞれ食べたいセットを取りに行き席に着いた。

「ネイト。グレンのやつ凄いんだぜ。船外作業機の実習を一発クリアしたんだ。」

「へぇ。家の船で練習でもしたのか。」

「まさか。大事な商売道具だぜ。触らせて貰えるかよ。才能だよ。さ・い・の・う。」

とオーバーリアクションで答えておく。そうするとダニーが

「もう少し成績が良ければパイロットにもなれたのになー。」

と宣い、

「いやー、まったくだな。宝の持ち腐れだ。」

 ネイトも追従した。

「船外作業機とパイロット適性はまた違うだろ。」

と俺が反論すると。

「でもイメージフィードバックとAIで操作するんだからそんなに変わんないだろ。」

 確かに変わらないと言えば変わらないが、スピードの感覚などがまるで違う。ネイトは税関職員を目指しているので俺やダニーと違いイメージフィードバック手術を受けていない。傍から見ればそんな感覚かもしれない。

「どっちにしろパイロットなんてエリート中のエリートだから俺には無理だよ。」

「そうだなぁ。」

 軍人は沢山居るだろうが、スペース・トルーパーに乗れるのは極一部だ。士官でないと乗れないとも言うし、ヴァレリー曰く適性の問題もあるだろうから、かなりの狭き門だろう。そう考えると俺はなんの努力もなしにスペース・トルーパーに乗れてラッキーだったのかもしれない。

 

「ネイトは休み中なにしてたんだ?」

 ダニーが別の話を振ると

「俺はフットボールの練習とバイトだな。」

「えらく早い時期から練習してるんだな。」

と俺は感心してみせた。

「いい新人が入ったんでコーチの気合が入ってるのさ。」

「バイトは?」

 ダニーが聞くと

「宅配ロボットのメンテナンスさ。なかなか時給はよかったよ。」

「そうか。ダニーは何してたんだ?」

 今度はネイトがダニーに聞いた。

「俺はバイトとボランティアだな。」

「バイトはいつもの配達だろ?ボランティアは?」

 バイトはずっと続けているピザ屋の配達員だ。

「教会の炊き出しだよ。」

「グレンは?」

 今度ネイトが俺に話を振ってきた。

「俺は家業の手伝いでソル・ラグランジュ2への往復さ。」

「お前が一番いいんじゃないのか。」

「俺の技能じゃ雑用と監視ぐらいしかできないからな。」

「逆に気楽な旅行気分だろ。いいじゃないか。」

 他愛のない近況を昼食を摂りながら話した。午後からの授業はネイトは課題の提出で終わりだが病院に行くらしい。ダニーは商法の質問があるので教務棟へ。俺は商法と簿記の課題を提出するだけなので食堂で別れた。

 

 課題の提出も終えたので帰ることにした。今日はアンシュとも約束している。通信端末で15時頃に着く旨を送っておいた。学校から駅まで歩きトラムに乗る。工房の最寄り駅で降りて風俗街を通り抜けて工房までやってきた。今日も扉は開いていた。

「すいません。」

 声を掛けると奥からアンシュが出てきた。

「来たか。すまないが奥にきてくれ。」

 初めて奥にきた。相変わらず目のやり場に困る裸のガイノイドが並んでいる。奥には作業台と思われるベッドのようなものや水槽のようなものが並んでいる。水槽の中にはガイノイドが横たわっていた。俺は更に奥の小部屋に通された。コンソールが並んだ部屋で何かの作業をするのだろう。椅子が2脚あり、片方を勧められた。席に座るとアンシュは開口一番

「あのガイノイドは危険すぎる。すぐに手放した方がいい。」

と言い出した。


「あの、何かくれると言う話では?」

昨日の約束では何かくれるという話だった気がするのだが、いきなり衝撃的な話だ。

「あぁ、情報をくれてやる。あのガイノイドは軍のものだろう。」

 いきなり核心を突かれてしまった。メンテナンスで中を見ればわかってしまうだろうとは思っていたが…。

「はい。軍のものです。デブリとして拾いました。」

 一応入手の正当性を主張してみた。

「入手の経緯はどうでもいい。あれはただの軍の戦術AIじゃあないぞ。」

「どういうことですか?」

「俺は軍用AIも診たことがあるがアーキテクトが違いすぎる。普通は互換性を考慮してアーキテクトは何かしら流用されるものだがその形跡がまったくない。完全に量産機のための戦術AIとは一線を画した別の目的のために新規製造されたものだ。」

 要するに今採用されている量産機の戦略AIと全然違うものだと言う事か。軍用のAIなんて見た事がないから気にしなかったが、確かに容姿は実務のためとは言い難そうだ。一応アンダーカバーも行うような旨を話していたが、戦略AIの分を超えている気はする。

「その別の目的はわからないんですか?」

「俺は整備士であって開発者ではないからな。正直お手上げだ。」

「その目的が俺の不利益になると言うことですか。」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ただあれだけ特殊なAIだ。直接的ではないにせよ間接的には不利益を被るかもしれない。」

「例えば?」

「元は軍の物だからな。適当な犯罪をでっち上げられて取り返されるかもしれない。」

「あなたが密告すると言うことですか。」

「俺から告げることはないが、拷問でもされたら吐いてしまうさ。それだけあのガイノイドは危うさを秘めている。」

 軽く考えていたがヴァレリーは想像以上の代物だったようだ。アンシュが言うには俺の人生を大きく狂わす可能性があるようだ。

「どうすればいいんですか。」

「早急に手放すことだ。軍に正面向かって届けたっていいだろう。」

「話はわかりました。父とも話す必要があるので持ち帰って検討します。」

「あぁ、そうした方がいい。」

「いろいろありがとうございました。」

「気にするな。」

「それでは失礼します。」

 俺は工房をあとにした。その後のことはよく覚えていない。恐らくトラムで家まで帰ってきたのだろう。アンシュの言ったことが頭から離れなかった。アンシュが嘘を言っている可能性もある。例えばヴァレリーを手に入れるため俺から手放させようとしているとか。ありえそうなシチュエーションだ。しかし騙してやろうとかそう言った感情はアンシュからは見えなかった。またヴァレリーにも何か引っかかるところを俺は感じていた。何かを重要なことを隠している予感がある。

 夕飯の時も考えがグルグル回っている。結論は出ない。考えがまとまらないまま夜が更けていった。今日はもう寝ようと思い、俺はベッドへ入った。


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