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星の海で会いましょう  作者: 慧桜 史一
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邂逅編1

 樹脂と金属のインテリアに囲まれた席で俺はぼーっとモニターを監視していた。数秒で切り替わる画面を眺めるだけの簡単なお仕事だ。監視画面に映し出される外の景色は大概は真っ暗で、辛うじて遠くで星の瞬きが見える。船の各部も順次映し出されるが特に問題はなさそうだ。


 俺が乗船している輸送船『エーリュシオン』は、ルナ・ラグランジュ・ポイント2とソル・ラグランジュ・ポイント2との輸送業を生業としている宇宙輸送業者だ。事業主は俺の養父であるサムだが、実態は大手の下請けである。俺は夏休みを利用して、養父の仕事の手伝いをしている。一応3級航宙士の資格は持っているが、うちの船員は全員持っている資格だし、下っ端駆け出しの俺にできる仕事はそう多くない。夜間の監視業務は、そう言った下っ端駆け出しにやらせるには持ってこいの仕事であり、人件費を削りたい養父と小遣いが欲しい息子との利害が一致した結果、学校の休み期間を利用して仕事を手伝っているというわけだ。現在は手元のパック飲料のカフェ・オ・レを啜って眠気をごまかしつつ監視業務に当たっている。


「グレン。もうちょっとで交代だから。」

 声を掛けてきたのは後方のキャプテンシートに座るトニーだ。今、ブリッジには船員の俺と船長代理のトニーしか居ない。余程眠そうに見えたのだろうか。一応まじめに仕事をしているつもりだったのだが。トニーは、うちの会社の中では若手なので兄貴分のような存在だ。他の船員はベテランが多いので必然トニーとは仲が良い。

「了解。船長代理。」

 ちらりと時計を見ると標準時で7時半を回っている。もう直ぐ交代要員がブリッジにやってくるだろう。そうすれば引継ぎを行って本日の業務は終了だ。一眠りして学校の課題でも片付けようと考えていた。


《進路上に障害物あり》

 突然アラート音と共に警告アナウンスが流れた。

「なんだ?」

 更に警告アナウンスが流れる。

《救難信号をキャッチしました 直ちに救助を開始して下さい》

 俺はコンソールを操作し、ブリッジ前面にある大型ディスプレイに物体を表示させた。

「最大望遠にします。」

 更にコンソールを操作すると、障害物を思しき物体を拡大した。

「あんまり大きくなさそうだな。船じゃないのか?」

 普通に想定されるのはトラブルで難破した船だが障害物はそれほど大きくなかった。個人用のレジャーシップだろうか?それにしてはラクランジュ・ポイントから離れすぎている。最大望遠にしても障害物は小さな点にしか見えなかった。船のAIが画像を解析し補正を行っていく。

「人型・・・?」

 トニーがそう呟くと俺も人型に見えてきた。

「スペース・トルーパーってこと?」

 人型と言っても人間大であれば輸送船である『エーリュシオン』のサイズからは障害物とは認識されない。レーダーにも引っかからないであろう。障害物と認識される大きさであるならば、宇宙空間での人型高機動戦闘兵器であるスペース・トルーパーだと考えられる。

「恐らくな。」

「いつから漂流してるんだろう・・・。」

「最近であって欲しいね。死体とご対面はごめんだ。」

 トニーはそう言うと船内放送を始めた。

《ブリッジから各員へ。救難信号をキャッチしたため停船シークエンスに入る。3分後の衝撃に備えよ。》

「船長代理。俺はどうすれば?」

「グレンは格納口と荷下ろし場のチェックだ。人が居ないか確認しておけ。」

「了解。船長代理。」

 俺は目の前のコンソールを操作し、船の側面にある格納口と荷下ろし場のチェックを開始した。宇宙港との接続の関係上、荷物の搬入を行う格納口は船体の左側面にある。スペース・トルーパーの大きさを収容するならば、格納口から船内に入れるしかない。格納口を入ってすぐの場所は荷下ろし場と呼ばれ、荷台へ輸送物を格納するための広い作業スペースだ。そこにスペース・トルーパーを入れるためには、空気がある荷下ろし場から空気を抜く必要がある。センサーを確認するも生体反応はなし。行動予定表にも作業は特に入っていなかった。

「船長代理。荷下ろし場はクリアです。」

「了解した。空気を回収しろ。」

「空気回収を実行します。」

 俺はコンソールを操作し、荷下ろし場から空気を抜いていく。


「何があった。」

 後方から船長であり俺の養父であるサムの声が聞こえた。先ほどの船内アナウンスを聞いてブリッジにやってきたのだろう。

「スペース・トルーパーと思われる障害物から救難信号が発報されているので救助作業を開始しました。」

「何?!スペース・トルーパーだぁ?」

「船長。そろそろ停船シークエンスに入るんで座って下さい。」

 トニーはキャプテンシートを船長に譲り前の別の席に座った。俺も席でシートベルトを装着する。船長もキャプテンシートに座ってシートベルトを装着した。

《停船シークエンス 30秒前です》

 カウントダウンが始まった。《10、9,8・・・》俺は衝撃に備えて踏ん張った。船体に制動が掛かり体が前へ飛び出しそうになる。一応ブリッジには緩和装置が付いているが、それでもかなりの衝撃が体を襲う。減速が進むにつれ、体への負荷は大分と減ってきた。

「船長。どうやって回収します?」

「船外作業機で荷下ろし場に入れるしかないだろうな。トニーは船外作業機を。グレンは荷下ろし場だ。」

「了解。グレン、停船したら行くぞ。」

「了解。」


 停船後、俺は船外服に着替えエアロックに入った。エアロックの向こうに荷下ろし場があり、そこの空気はすっかり抜けている。エアロックで空気を抜き、荷下ろし場へと入った。船外服は動き難いが、宇宙港での作業では必要不可欠であるので俺にとっては慣れたものだ。俺は格納口近くの操作盤へ移動した。コンソールを操作し格納口が開ける。その先にグレーの人型が見えた。

「本当にスペース・トルーパーだ。」

 映像の中でしか見たことがない巨人がそこにあった。しかしその格好は力なく浮いているようにしか見えない。手には銃器らしきものを持っていることで、かろうじて兵器としての体面を保っている気がした。しかしその威容は十分に格好良かった。しばらく見惚れているとグリーンの小型機がやってきた。船の修理等を行うための無人の船外作業機で、船の中にあるコントロールルームから操作ができる。頭のような球体がありそこにカメラがついている。一応胴体らしき長方形があり、そこから腕が出ている。腕は長めであるが人間と同じような関節を持ち、指も五指ある形状だ。足と言うよりスラスターが2対付いているだけで、そこに人間味はない。一方のスペース・トルーパーはかなり人間に近い造形をしている。そのためスペース・トルーパーの格好のよさが余計に際立った。


 船外作業機はスペース・トルーパーに取り付き格納口へ向けて機体を押し始めた。ゆっくりとスペース・トルーパーは動き始めて、荷下ろし場へと入って行った。荷下ろし場の中ほどで船外作業機はスペース・トルーパーを止め、ゆっくりと床面へを接地させた。その不恰好さからは想像もできない器用さだ。トニーの腕がいいのだろう。


「グレン。ワイヤーで床面へ固定しろ。」

 通信機からトニーの指示が入った。

「了解。」


 船外作業機は扉から出て、格納場所へと戻っていった。俺は、両端にアタッチメントの付いた固定用のワイヤーを使って、スペース・トルーパーを床面へ固定していく。途中でベテラン船員のテッドと船外作業機の格納が終わったトニーもやってきて固定作業を終えた。

「グレン。格納口を閉めろ。閉めたら発進だ。」

 俺はまた格納口近くの操作盤で扉を閉めた。今度は発進のためにエアロックにある座席に着いた。宇宙港からの発進と違い宇宙空間からの発進に掛かる慣性力は強くはないが安全のために着席するのだ。一応シートベルトでの固定も行う。

「船長。こちらは発進準備完了です。」

 テッドが船長に報告した。


 暫くすると船は発進し、身体がシートに押し付けられたが、すぐに元に戻った。これから徐々に加速していくため、もう慣性力を感じることはない。操作盤を操作し、エアロックに空気を入れると共に荷下ろし場にも空気を充填していく。これで船外服を脱いで荷下ろし場に行くことができる。エアロックに空気が充填できたので船外服を脱いでいく。

「パイロットは生きているかな?」

「こんなところを漂流してるとなると死んでそうだがなー。」

「それは見たくないかも・・・。」

「何事も経験だよ。グレン。」

 トニーがニヤニヤしながら、バシバシと俺の肩を叩いて言った。

「おい、荷下ろし場の空気はもう入ったのか。」

 船長がエアロックに入ってきた。

「今、充填中です。もうすぐ終わりやすよ。」

 テッドが答えると、荷下ろし場の壁面にあるランプが緑になり、空気が充填された状態になったサインが出た。俺たちはエアロックの扉を開けてスペース・トルーパーの元へ向かった。

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