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第35章 英雄集結4

かなり遅れましたが、お待たせしました。

いつも皆様ありがとうございます。

今回は場面変更に4行空けてみました。

しっくりくるマークが思いつかなかったんです。

「おい、どうした。そのエルフはお前の知り合いか?」


 王牙がカイトに声をかけるが、彼は驚愕した表情のまま固まってしまっていた。カイトの後ろにはもう一人、黒髪の男もいたが、そっちはしきりに首を傾げるだけだ。

 カイトの目の前にいるオーパルは一度口を開いた後は、何も言わず笑みを浮かべるだけである。状況を理解できない二人は、その様子を見ていることしかできなかった。

 長い沈黙が続く。場所は酒場、周りは喧騒に包まれているが、この一角だけぽっかり穴が開いたかのように静まっている。その中で最初に動いたのは、カイトでもオーパルでもなく、オーパルの監視役を担っていたレオンギアだった。


「この男の監視は私が行っている。安心していい。と、言っても、連れ出した領主本人は監視の必要性を感じていないようではあるがな」


 その言葉はカイトが正気に戻るのに十分な効果を発揮した。領主、すなわちアリスがオーパルを連れ出した。その事実に驚愕しつつも、今度は意識をはっきり持つことができた。その分、思考が頭の中で渦巻いているので、会話を行うことはできていないが。


(え、アリスがコイツを釈放した? 何がどうしたらそうなるんだ。やばい、わけわかんない)


 取引があったことにすぐに行きつかないのは仕方ないことだろう。当のオーパルはそんなカイトの様子を見て、苦笑いを浮かべるばかりだった。彼自身も取引の結果とはいえ、あっさり牢屋から出されたことには、僅かとはいえ驚きがあった。

 実際に聞いてみれば、あまりにブラックな『F』ランクの職場事情など、下手をすれば牢屋の方がマシだったのでは思うような話だったりもした。使えるものは何でも使う、とでも言うかのようなアリスの対応に納得はしたが、半ば騙されたような形になったことには遺恨がないわけはない。だからといって、何かしようとも思ってはない。

 そんな諸々の事情を知っている自身ならともかく、何もしらない目の前の竜騎士が困惑している様子には同情を隠せないでいる。


「マァ、ソノなンだ。オマえさんの状況ニはドう情はすルが、ちゃんト取ヒきの上デの釈放なんデカん弁してクレ」


 フォローというより、簡単な状況説明をしてカイトの頭に浮かんでいる疑問の答えを口にする。そもそも、テーブルの前で男三人がずっと突っ立っている状況も割と目立つ。オーパルとしてはさっさと座って落ち着いてほしい思いも多分にあった。目立ちたくない理由があるわけではないが、目立ちたい理由もない。


「イまは敵ジャなイからナ。座ったラドうだイ。もチロん、後ロのふタリモ一緒にナ」


 お前ら目立つから、さっさと座れよ。とはさすがに言うつもりはないので、言葉を選んで三人に着席を促す。単純に男三人に見下ろされるのはいろんな意味で堪えるものがあるのも理由だが、あえてそれを悟らせることはない。

 幸い三人ともそれを聞いて周りを見渡したあと、まだ目立っていないことを確認してすぐに着席してくれた。

 それなりの筋肉を持つ男四人とロボット一体が囲うテーブルは現代ではむさいというか、異質にも見えるが、冒険者の集うこの町では不思議ではない。ロボットだけはどっちにおいても異質と言えるのだが、それは置いておく。





――夢を見る。起きて見る夢。寝て見る夢。どちらも変わりはない。どちらも願いの一つの形。

『彼女/彼』の見る夢は『願い/贖罪』の一つの形。それに果てはなく、終わりは見えない。ただ、ただ延々と叶わぬ『願い/贖罪』を繰り返すだけ。『救い/終わり』はない。『救い/終わり』を求めないから。

そこは赤い闇。水底の闇。流してきた血の分だけ深く、暗くなっていく。そこにヒトもバケモノも関係ない。等しく深く、暗くなっていく。


(廻る。まわる。マワル。ただ『私/俺』は廻り続ける。許されない。許されたくない。でも……)


 その目で見るのは、水底でも、水面の先でもない。そこにはないナニカをただ見据える。


(答えが出る。やっと、一つの答えが出る。長い、長かった)


 あと少し、あと少しの先に求めたモノの一つがある。それは僅かに残された希望。自身を誤魔化すことのできる希望。ただそれを求めている。

 手を伸ばす。伸ばした腕に感じるのは自身を水底へと引きずりこもうとする意志。それに抵抗することなく、それでも腕を伸ばし続ける。

 ただ、口が小さく動いた。





――


「……ごめんなさい」


 アリスの薄っすらと目を開けると、そこに見えたのはベッドの天蓋だった。顔に感じる濡れた感触を拭おうと、左腕を動かそうとするが何かに抑えられているように動かない。腕に感覚を向けてみれば、そこに重さを感じることができた。

 視線を横に向けてみれば、寝息をたてるメイの顔が見える。彼女が腕にしがみついているのが動かない原因であるようだった。幸せそうに眠る少女の顔を見ながら、アリスは自然と慈愛に満ちた笑顔を浮かべていた。


 ――私に子どもがいたなら……


 そこまで考えて、頭に鋭い痛みを感じて、その考えを否定するように頭を振って振り払う。


(今更だけど、完全にメス堕ちしてるわよねぇ。男だった時間の二倍はこの身体なんだから、メス堕ちもクソもないんでしょうけど)


 自然と空いている腕をメイの方に伸ばして、指先が頬に触れようとする。触れる寸前、腕を止めて彼女の顔を見つめる。眠る少女の顔を見つめながら、喉元から熱が沸き上がるのを感じていた。熱は顔全体に回り、熱い吐息が口から漏れ出している。

 アリスは口の端から唾液が一筋、流れていくのを感じていた。感じるのは強い渇きと、猛り狂う欲求の嵐だった。目の前で眠る無垢な少女はアリスの目には、とても甘く、魅力的に見えていた。

 摘み取ることはしないと決めている。決めているからこそ、余計にそれは魅力的に映る。そんな自分がアリスにはとても醜く思えた。


(それはダメ。それだけはダメ。私は『冒険王』。この子の憧れで、大切な仲間)


 血を吸うことへの嫌悪感は失っていない。ただ近すぎて、温かくて、甘えてしまいそうになる。モアが相手でも、感じる嫌悪感は絶望と言ってもいいくらいなのだ。もし、目の前の『冒険王』を慕う少女に牙を突き立ててしまえば取り返しがつかなくなる。

 気付けば、アリスは伸ばした腕を引っ込め、その親指を血が出るほどに噛み締めていた。自分の流した血が口内を満たすが、それが渇きを癒すことはない。ただ、広がる鉄の味に不快感が沸き上がるだけだ。


(気持ち悪い……)


 それは口内に広がる味に対しての感想か、それとも自身の存在へ向けた言葉なのか、もはや頭が混濁するアリスにはわからない。頭が回らない。思考がバラバラになる。心が掻き混ぜられるような感覚に目が熱くなる。

 そんな状態だったからか、アリスは『ソレ』に気付かなかった。


(甘い……。甘くて、落ち着く、味)


 アリスの指はすでに口内にないのにも関わらず、口内に広がる血の感触が途絶えることはない。逆に甘く、親しみのある味に安心感を覚えてしまっていた。


「ぼーそー、してちゃ世話ねーですね。ホットミルク代わりってわけじゃねーですけど、これでも飲んでさっさと二度寝してくだせーな」


 聞きなれた声がアリスの耳に届いた。その声を聞きながら、瞼が重くなるのを感じる。僅かに視線を上に向ければ、自身の口に手を伸ばしているモアの顔が見えていた。彼女の顔を見ながら、アリスは安心したように瞼を閉じて闇に落ちていく。


「追加りょーきん、期待してますぜー」


 眠りに落ちる寸前に聞こえたのは、そんな愛しい従者の言葉だった。





 ――昨晩そんなことがあったからだろうが、アリスはメイの顔を直視できなかった。


「どーしたの、冒険王?」


 メイが心配そうにアリスの顔を覗き込むが、苦笑いしながら「少し寝不足なだけよ」と答えることしかできなかった。


(嘘は言ってない、言ってない、わよね?)


 メイの向ける笑顔が眩しすぎて、昨晩の自身に向けて助走をつけて殴りたくなる気持ちが拭えない。それに加えて、嘘は言っていないが誤魔化している自分の浅ましさを感じて胸が痛んでいた。

 昨晩は別の部屋に泊まっていたニャアシュも、その光景に首を傾げていた。イカリは朝食の準備のためここにはいない。ただ、モアだけはそんな状況の中でいつもの奇怪な笑い声をあげていた。


(くっ、助けられただけにモアに文句も言えないじゃない。ほんと、昨晩の自分をぶっ飛ばしたいわ)


 四者四様の不思議な空間は、イカリが朝食を運んでくるまで続くことになった。





 ――


「いやぁ、領主様のとこは朝ごはんもおいしいにゃぁ」


 この館の朝食はいつも軽めの料理で済まされる。本日のメニューはトーストにスクランブルヘッグとベーコンとサラダ、それにスープが付いているだけだ。グリムス領の外の食材も多いので、ここではそこそこの高級品ではある。

 ニャアシュはその朝食に満足しているらしいが、メイは物足りなさを感じているのか、お腹をさすりながら空になった食器から視線を外さない。

 それに気付いたアリスが一度イカリに視線を向けると、彼はすぐに一つの皿をメイの前に置いた。そこに乗っていたのはズゥ肉を使った大きなサンドだった。メイはすぐに目を輝かせて、それにかぶりつく。その姿をアリスは小さな笑みを浮かべて眺めていた。


「さて、メイが食べてる間に、今日の予定について話すわよ。いいわね、ニャアシュ」


「ほにゃっ?」


 アリスは一度目を瞑った後、表情を戻して口を開いた。彼女と同じように笑みを浮かべて両手で頬杖をついていたニャアシュは、突然話しかけられて素っ頓狂な声を上げてしまう。


「何、変な声あげてるのよ。今日はこの後、『新人』の面談があるの忘れてたわけじゃないでしょうね?」


 アリスが呆れたような表情でニャアシュに視線を向けている。ニャアシュは心底嫌そうな表情を浮かべながら、頭の上に付いた猫耳を垂れさせる。


「忘れてないけど、もう少し忘れてたかったにゃぁ。仕事は、仕事は、もう嫌にゃ」


 ギルドマスターの仕事放棄寸前の発言に反応したのは、頭を押さえてため息を吐いているアリスではなく、口の周りにソースを付けて嬉しそうにしているメイだった。


「えっ、新人さん来るの! どんな人、どんな人! ここに来るんだから、レベルは高いよね。でもこの時期だし、もしかして日本人!?」


 メイは新人に興味津々らしく、矢継早に質問を口にする。あえて濁した言い方で『新人』とは言ったが、その主な意味はメイに教えられるようなものではない。『F』ランク、対人専門のギルド所属の戦力。そんな裏の事情を、無垢な少女に教えるつもりは二人にはなかった。

 それでもあえて答えるとすれば……。


「日本人。それもロールプレイ主義のプレイヤーよ。どんな人物かと言えば、油断できないタイプだけど、この世界の過去の英雄に興味津々のミーハー野郎ね」


 間違ってはいない。間違ってはいないが、悪意を増量した評価である。質問したメイも、あまりの評価に口を開けたまま停止してしまっている。ニャアシュに至っては苦笑いである。


「なによ? 私だって、好みじゃない人間の一人や二人、じゃすまないけど、いるのよ。その辺の逸話も冒険王物語にあったでしょ?」


「そうだけど、こう、なんというか、友人を紹介するような悪意の見え方で驚きを隠せないにゃぁ」


 二人の反応は別にアリスが他人を悪く言うことに対してではなく、まるで友人を悪意増しで紹介するような内容だったに対してだった。


「別にそんなんじゃないわよ。けど、まぁ、最初の印象に反して弄り甲斐はありそうな相手ではあるわね」


 そう言ってアリスが浮かべた笑みはどこか自嘲しているようにも見えた。


「ニャアシュはこの後すぐ会うし、メイも顔合わせくらいはあるだろうから、楽しみに待ってなさい」


 アリスがそう評する人物に、ニャアシュは少しばかり嫌な予感を感じずにはいられなかった。こういう時の自分の勘はよく当たるので、肩を落とさずにはいられなかった。


(仕事、嫌だにゃぁ。もう、誰かギルマス代わって、マジで……)


 ニャアシュの嘆きは誰にも届かない。届いても、きっと皆無視する。何故なら、この領主に振り回される立場なんて、誰もなりたがらないのだから。


垣間見えるアリスの内面をメインにお送りしました。

今回は次回への繋ぎが主な話です。

ちなみに、たまに出てくるアリスの人形はボタン目のギザ口ウサギです。

たまに、同様の熊とか猫とか犬になったりします。全部手作り。


次回も楽しみにしてくださると嬉しいです。

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