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第35章 英雄集結2

大変お待たせしました。

いつも皆様ありがとうございます。

ブックマークなどじわじわと増えていて、感謝感激でございます。

更新が遅くて申し訳ないです。

 ――


「戦力は問題なし。相手が相手だから、これでいいけど、運がよかったと割り切るしかないわね。物資の補給路は……」


「貴族の執務室とは思えないくらい簡素だにゃぁ」


「ん、んん、補給路も簡易結界で問題なし。戦闘時間の間の安全は保てる。周囲でマギア・ユグドラシルにアタッ……」


「このソファー気持ちいいなぁ。ふかふかぁ……」


「あっ! あちしもソファーでゴロゴロするにゃぁ。ゴロゴロ検定Aランクの腕を見せてやるにゃっ!」


「あなた達、少し静かにしなさいよ! こっちは仕事中なのよ!」


 アリスが大声を上げる。それを聞いて、首を傾げて目を丸くするのはメイとニャアシュだった。二人はソファーの上に転がりながら、アリスの方へ顔を向けて不思議そうな表情を浮かべていた。


「なに? 何なのその顔? 私、変なこと言った? 言ってないわよね? えぇ、言ってないわ。だから、その変顔やめなさい!」


 二人は不思議そうな顔をしながらも、静かに座っていた。それを見て、アリスは小さくため息を吐きながら仕事に戻っていく。だが、それも束の間の出来事だった。

 久しぶりの冒険王の家へのお泊り、久しぶりの休暇、それを得た二人のテンションは高い。故に、今の二人にはアリスの注意は意味をなさないのだ。


「ねーねー。冒険王の冒険譚聞きたーい。何か話してー」


 今度は静かにソファーを転がりながら、メイがアリスに催促をする。


「おぉ、それは是非あちしも聞きたいにゃぁ」


 それに追従するように、ゴロゴロ二号ニャアシュは催促に同意する。アリスは顔を引きつらせながら、二人を睨みつけた。


「仕事中だって言ってんでしょうがっ! 黙って待ってなさい。それができないなら、部屋から出ていきなさい」


「えぇ~」


 叱られてもなんのその、二人は転がりながら不満そうな表情を浮かべていた。


「じゃぁ、お仕事終わったら遊んでくれるー?」


 メイがソファーから顔だけをアリスを向けて上目遣いにおねだりをする。それを見て、アリスは少し困ったような表情になってしまった。


「終わったら、いくらでも付き合ってあげるから、今は大人しくしていなさい。そう、長くかかるものでもないし」


「うん、約束だよ」


 アリスは気落ちしながらも動きを止めたメイを見て僅かに胸が痛むのを感じた。


(少し、甘やかしすぎ……、かしらね。思った以上に影響も大きいようだし)


 胸の痛みをかき消すように、アリスは心の中で自嘲していた。自身の行動に呆れながらも、メイに視線を向けて彼女に起きている変化に思考を割く。


(肉体が及ぼす精神への影響、明らかに私よりも顕著に表れてる。ドワーフの持つ陽気さ、好奇心、日に日に強くなってる気もする。心配性なお兄さんにでも少し話を聞いてみる必要がありそうね)


 思考を割きながらも、書類に目を通すのを止めない。落ち着きなくアリスを見つめるメイの目があるからか、それとも貴族として身に染み付いた習性か。

 アリスはこの世界のドワーフにも会ったことがある。この世界の鍛冶技術の最高峰はドワーフなのだ。冒険者をまとめる立場にいれば関わらないはずがない。この町にも冒険者や鍛冶師のドワーフは住んでいる。

 彼らは陽気で酒好きで、仲間思いで頑固でもある。なによりも、どこか子どものような純粋さも併せ持っていた。

こうして見てみると、メイは生粋のドワーフと言っても差し支えないくらいだった。元々そうだったのか、こっちに来てそうなったのかはアリスにはわからない。だから、兄である王牙に聞いてみる必要性を感じていた。


「あちしにも優しくしてほしいにゃぁ……」


「子持ちの人妻が何言ってるのよ。もっと落ち着くなり、しっかりしなさいよ。そんなんだからギルドマスター(笑)とか言われるんじゃないの」


 転がりながら要求してくるニャアシュに、視線を向けることもなく呆れた様子でアリスが言葉を返す。それを聞いてニャアシュはソファーのクッションに顔を埋めて唸りだしてしまう。声がクッションの中で篭って、ホラー映画の唸り声のようにも聞こえていた。


「だっでぇ、あぢしぃ、猫だしぃ……」


「種族を言い訳に使わないの。真面目な猫系のビーストだっているんだから……。それ以前にあなたの子ども達も真面目よ」


 子どものことを引き合いに出されて、ニャアシュは足をジタバタさせて更に唸りだす。アリスはそんな様子を耳と肌で感じながら、小さくため息を吐く。書類を机の上に放り投げて、ニャアシュへと視線を向ける。


「仕事を投げ出すことだけはしないから、感謝はしてるわよ。ここのギルドマスターなんて、高LVの冒険者じゃないと務まらないもの。あなたがいてくれて助かってるわ」


「おっ、デレた!」


 仕方なくといった風にアリスがフォローを入れると、ニャアシュは水を得た魚のように生き生きとした表情で顔を上げた。その言葉と表情に釈然としないものを感じたアリスは、あえて一言付け足す。


「投げ出さないだけで、仕事の出来は散々だから、尊敬はできないけどね」


「おぉぅ、上げてから落とすのかにゃぁ」


 猫耳を伏せて落ち込むニャアシュの姿を見ながら、アリスは小さく鼻を鳴らして書類を再び手に取る。


(フォローしただけマシだと思ってほしいわね。ったく、なんで私が……)


 ビーストの特徴は元になった動物に似る。猫系のビーストであればどこか気まぐれに見えたり、犬系であれば集団行動を好んだりなどする。

 アリスは再び書類に視線を移しながら、思考の何割かを別のことへと割いていた。余談だが、思考を割いていても書類の内容が頭に入ってこないということはない。


(種族的な特徴ね。ビースト、ドワーフ、転移直後にすでに大きな影響のあった機械人。そして、私達吸血鬼。他の転移者も大なり小なり影響があるみたいだし……。何か、少し違和感があるわね)


 答えの出ない思考を巡らせながら、気づけば書類もほとんど読み終わっていた。後は数枚の書類に印を押せば仕事は終わりである。

 その様子を見て、仕事の終わりを感じたのかメイが目を輝かせていた。


(考えても仕方ないわね。その辺も要研究ってところね)


「ふぅ、仕事も終わったし……」


「お風呂ー!」


「飯にゃー!」


 アリスが書類を置いて立ち上がろうとすると、二人から声が上がった。アリスは身体を持ち上げようとした姿勢のまま固まって、二人の方へと視線を向ける。


「少し休憩させてちょうだいよ。私だってソファーでのんびりする権利くらいあるはずなんだけど?」


 アリスの愚痴を聞いて、メイは転ばせていた身体を起こしてソファーの上に座り込んだ。


「んみゅぅ、それじゃっ、こっちこっち! 私の隣―!」


 メイはそのまま自分の真横を叩いて隣に座るようにアリスへ促す。アリスはそれを受けて、体を黒い群へと変えてしまった。そして、黒い群れ、コウモリがメイの横に集まるとアリスの形を作っていく。


「いきなりだとびびるにゃぁ」


 アリスは驚く二人の反応を無視して、メイ抱き寄せる。そのままメイの頭を撫で始めた。表情は穏やかだが、どこか影があるようにも見える。


「冒険王疲れてる? 私達お邪魔だった?」


 メイは撫でられながら、上目遣いにアリスを見つめた。アリスはそれを優し気な表情で見つめながら、メイの髪を手櫛で梳いでいる。


「疲れてはいるけど、邪魔だなんてことはないわ。騒がしく喧々囂々としているのも悪くはないわ。だから、あなたはそのまま、そのままでいいのよ」


 アリスが言っていることは事実である。確かに騒がしい状況に怒りもするが、それでも邪魔とは思ってはいない。だが、疲労しているのも事実。疲れた表情を隠すこともできなかった。そこをメイに突かれたのだ。


「そそ、これはあちしや領主様が選んだこと。だからメイちゃんは自由にすればいいんだにゃぁ」


 ソファーにしなだれながら、ニャアシュが口を開く。彼女も疲れた表情はしているが、それだけでなくどこか、満たされたような表情もしている。


「ここが冒険者の最前線で、人類の頂点である限り避けられない。それを聞いてもギルドマスターになることを選んだのはあちしで、今の状況は領主様の長い年月の積み重ねの総決算。あちし達冒険者ギルド、グリムス領支部にとっては最大の大一番だにゃ」


 ニャアシュをギルドマスターに推薦したのはアリスだ。第0級接触禁忌災害の話を聞いた上でニャアシュはその話を受けた。

 今この時、迫る決戦は彼女達にとって来るべき時であり、同時に今までの成果が試される時でもある。


「疲れる。疲れるけど、私たちが願い、目指し、守りたいモノ。それがそこにある。そこにはもちろん……」


 アリスは自身の頬をメイの額に当てて、わずかに震える腕で強く彼女を抱きしめた。


「こんな時間も、あなたの幸せも含んでいるのよ。私たちは負けない。その為の疲労ならいくらでもしてやるわ」


 アリスに抱きしめられながら、メイは口を噤んでしまう。何を言ったらいいのか、自分が何を考えているのか、わからなかった。ただ、目の前にいるのが、物語の中の主人公ではなく、生きたヒトであることだけはそのわずかに冷たい体温から理解できた。

 メイにとって、アリスは憧れの『冒険王』だった。華々しく活躍し、貴族になり、領地を得て、そして冒険者達を率いて未開の地を突き進む。漫画かライトノベルにでも出てくるような、転移者そのものだった。

 だが、目の前にいるドワーフの自分と変わらない身長の少女は、震える腕で自分を強く抱きしめている。失うことを恐れるように、手放さないように強く抱きしめている。それはメイが思い浮かべていた創作の主人公からはかけ離れていた。

 かつて自分が家から出れなくなった時、スマートフォンで読み漁って小説。当時の流行は異世界転生・転移物だった。だから、自分がこの世界に来た時、自分をその主人公に重ねた。

 この世界の厳しさを知って、その思いが砕けそうになった時に出会ったのが冒険王物語だった。かつて自分がのめり込んだ小説のような主人公の物語。当時は転移者であることは知らなかったが憧れた。そして、転移者であることを知って更にのめり込んでいった。

 今自分を抱きしめる少女は自分の思い描いた主人公とは違う。なのに、メイはそんなアリスに憧れとは違う温かさを感じていた。


「さて、お風呂、行きましょうか」


 突然、アリスは腕を離して立ち上がった。そして震えの止まった腕を大きく開いて、いつもの人を食ったような笑顔で二人に提案する。


「領主様のボデイを触り放題かにゃ!」


 ニャアシュも立ち上がって、いつもの笑顔でアリスの言葉に反応を示した。


「えっ、あなた、人妻のくせにそういう趣味なの? 付き合いは考えるべきかもしれないわね。浮気相手にされて、あなたの旦那と修羅場になったら大変だわ。主にうちの領の収入的に」


「いかがわしい言い方したのは認めるけど、そうじゃにゃいから!

 いやぁ、ほら、うちの子達の小さい頃を思い出すというか、こう母親的な欲求がね……」


 アリスが心底嫌そうな表情でニャアシュと距離を開けると、ニャアシュが必死に弁解する。


(あぁ、たまにいるわよね。子猫が大きくなっても構いすぎて煙たがられる親猫)


 ふと、アリスは日本にいた頃に見た光景を思い出して、苦笑いになる。


「ホントだから、ホントだからにゃ!」


 それを信じていないと勘違いしたニャアシュは今も必死に取り繕っている。

 そんな二人の姿を目にして、メイ何か言葉にできない感情が胸に灯るのを感じた。それがどんな感情なのか、今の彼女にはわからない。さっきまで震えていた少女が、さっきまで疲れながらも満足気な笑みを浮かべていた女性が、いつもの姿に戻ってコントのようなマネをしている。

 その姿がメイにはとても眩しく見えた。


というわけで、百合百合いちゃいちゃ回です。

次回はお風呂から再開。

基本的にお色気要素が薄いこの作品のお色気パートです。

アリスのネグリジェくらいしかいままでたぶんなかったはず。


次回も楽しみにしてくださると嬉しいです。

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