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ヴァンパイア辺境伯 ~臆病な女神様~  作者: お盆凡次郎
第32章 二人の吸血姫
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第32章 二人の吸血姫4

すまない。エロゲーやってたら投稿が朝になってしましました。

お待たせしました。

いつも皆様ありがとうございます。


 ――王都、騎士団本部、その場所の廊下を一人の老婆が歩いている。背中は伸び、重厚な鎧を着、腰に剣を下げた姿だ。顔のしわなどから老婆であることはわかるが、それがなければ誰も彼女が老人であるとは思わないだろう。

 彼女の周りには慌てた様子の若い騎士達が付き従っている。どうやら彼女が堂々と騎士団本部を歩くことに慌てているようだ。


「エレノーラ王妃殿下、いくらなんでもあなたが指揮するなど、問題しかないです!」


 若い騎士が口にした通り、この老婆は国王オーウェン8世の妻、王妃エレノーラだった。王妃エレノーラはかつてオーウェンの近衛騎士隊隊長を勤めていた。その能力は年老いて尚衰えることはない。むしろ、アリスのAWO式レベリングの結果、今でも王国騎士最強の五人に数えられる程である。

 付いた異名が『騎士王妃エレノーラ』である。彼女は現在でも騎士団に大きな権限を持っている。実力があり、権限も持っているが、王妃が騎士として動くなど周りの騎士達は気が気じゃない。


「あの男の不正の証拠が出たのでしょう? あれを追い始めたのはわたくし、なら引導も私が渡すべきです。陛下の許可は取っています」


 老婆とは思えない凛とした声でエレノーラは若い騎士に告げる。陛下の許可が出た。その言葉が示すとおりである。オーウェンはエレノーラの騎士としての活動に肯定的だ。オーウェン曰く『そっちでストレス発散してくれると助かる』とのことだ。騎士達の胃へのダメージは増すばかりだ。


「どうしてもご自分で動くというのですか?」


「当然です。アリスには感謝しかないわね」


 エレノーラは若い騎士の最終確認に凛とした態度で答える。その答えに騎士達は頭を抱えてしまう。答えの内容もそうだが、当然のようにアリスを爵位で呼ばず友人のように語ることにもだ。誰が聞いているのかわからないのだから、せめて爵位をつけて『グリムス辺境伯』と呼んでほしいと考える。注意しても聞いてももらえないので、もう注意することもしないが。


(グリムス辺境伯……。余計なこととは言いませんが、せめて王妃様の耳に入らないようにしてくださいよぅ)


 騎士達にはもうエレノーラを止めることはできない。内心でアリスに文句言うくらいしかできることがない。

 そうこうしている内に大きな扉の前に到着する。エレノーラは扉を勢いよく開けると口を開いた。


「さぁ、騎士の皆様、出陣の時間です!」


 久しぶりの大捕り物ということもあって、扉の向こう、騎士団本部会議室には各騎士団の団長が揃っていた。一番奥の席には驚愕の表情を浮かべる総騎士団長が座り、その隣には頭を抑える宰相アルバートの姿があった。

 今まさに会議の最中だった会議室の中は、エレノーラの登場に完全に空気が固まってしまった。もう、会議どころの話じゃない。


「何を呆けているんですか。すぐに出陣の準備をしてください」


 当の本人、エレノーラはその状況が理解できず首を傾げていた。


「殿下、止めても無駄でしょうから止めはしませんけど、あくまで領地へ赴いて証拠の押収をするだけですからね。本人は今、領地にいないみたいですので」


 諦めたアルバートが頭を抑えながらエレノーラに作戦の概要を伝える。騎士団が行うのは領地にある証拠を集めることだ。本人は現在サブネスト領にいるため、そっちはアリスに任せることになる。


「美味しいところはアリスに譲りましょう。私達騎士団は全力であの領主の不正の証拠を根こそぎ調べ上げます」


 そもそも、エレノーラが対象の貴族を追い始めたのが、アリスがしつこく妾に誘われたことが原因だ。そのため、アリスに譲るのであれば納得することはできる。


「表向きはタレこみの資料を理由にします。応じないなら押し通ります。最悪、私の王妃としての権限でゴリ押します」


 エレノーラの宣言とともに、騎士団長達が立ち上がり、剣を天井に向けて構えて背筋を伸ばす。この段階になってエレノーラの参加に異議を唱える者はいない。

 エレノーラが剣を引き抜いて騎士団長達を同じように剣を構える。


「この王国で不正をなす愚か者に鉄槌を下します。我ら騎士の剣は護るべき国のため、力なき民のためのもの!」


 エレノーラが騎士団出撃の号令を告げる。その表情は老婆とは思えぬほどに鋭く、王妃に似つかわしくない程に力強いものだった。生きる伝説となった騎士王妃の姿だ。


 ――玉座の間ではオーウェンが玉座に座っていた。オーウェンはアルバートの代理の男を側に控えさせて、謁見を繰り返していた。


「次の謁見は誰だったか?」


 オーウェンの質問を受けて、男性はリストをめくって確認する。リストから目的の欄を見つけると、小さくため息を吐いてから読み上げた。


「次の予定は一時間後です。それまでは休憩時間となります」


「おお、そうか! だが、一時間かぁ、短いな。もっと時間があればエレノーラの出陣を見送れたのだがな」


「は?」


 オーウェンの口にした内容に男性は驚いて目を丸くする。その口から漏れ出た言葉は国王に向けるような言葉ではなかった。

 それに気付いたオーウェンは意地の悪そうな笑みを浮かべて男性を見る。


「『は?』とはなんだ、『は?』とは。国王に向けて随分な反応をするじゃないか?」


 オーウェンはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら男性を弄り始める。だが、この男性はアルバートの補佐を勤めるほどの男だ。当然国王のこういった面についても聞いている。なので、一度だけわざとらしく咳をしてから落ち着いた表情をしてみせる。


「そんなことよりも、殿下が出陣するなどという話は聞いていないのですが?」


 オーウェンもうやむやにしようと思っていたわけではないが、結果としてうやむやになりそうだった内容について男性が指摘する。指摘されたオーウェンは両腕を上げておどけてみせる。男性はその様子をジト目になって見つめている。


「詳しく説明していただけますね?」


「説明もなにも、アイツが出陣したいっつーから許可しただけだ!」


 男性はオーウェンの簡潔かついい加減な返答に頭を抱え込みたくなる。だが、ここで頭を抱えてもオーウェンを楽しませるだけだとわかっているので、過度な反応は返さない。代わりにジト目で睨み続けている。

 オーウェンも思ったほど反応が返ってこないため、座りが悪いのか身体をモジモジさせはじめる。


「もー、そんな怖い顔すーんーなーよー」


 それでもおふざけはやめないのがらしいといえばらしいのだが、男性からしたら胃が痛くなる思いだ。同時にこの国王について行ける宰相により強い尊敬の念を抱いた。あと、胃痛に耐えているだろうことに対して同情も抱いた。


「そう、大した話じゃない。ただ、我ら夫婦を繋いでくれた恩人を、情婦なんぞにしようとした愚か者をぶっ潰しにいくだけだ」


 そう言った国王が浮かべていた表情はまるで悪戯が思いついた子どものようだった。その姿を見て男性は思う。


(この人達本当に、グリムス辺境伯のことになると見境がないんですね。二度と代理なんてやるか!)


 男性の内心にある悲痛な叫びは誰に聞かれることもなく、大笑いを始めたオーウェンの声だけが玉座の間に響き渡っていた。


 ――サブネスト領にいたその男にその一報が届いたのは、男が馬車の修理を見終えて屋敷の客室に戻ってすぐだった。男の影とも言える腹心がその情報を得てきたのだ。


「ちぃっ、まさか証拠を掴まれてたとはな。しかし、いつだ? 何故掴まれた?」


 貴族の男に届けられた一報は領地に騎士団が証拠の押収に来ると言うことだった。だが、何故自分の不正が知られたのかが理解できなかった。男もまさか自分が自ら招きいれた高級娼婦がSランク冒険者以上の存在などとは思いつかなかった。

 アリスやエレミアの前では自信に満ち、何事も笑って流せていた男も、今は怒りに歪んだ醜い顔をしていた。


「王国の密偵など逆に見逃せる程度の些細な不正の証拠に誘導できていたはずだ。本命が知られることはあり得ないはず……」


 どれだけ考えても答えが出ず、何故情報が国に渡ったのか理解できない。何度も考えるが、現在の状況はあり得ないはずだった。男は前提条件が間違っていることに気付いていない。気付けない。


「もはや、なりふり構っている暇はないか……」


「領主様、何も悪い報告だけではございません」


 覚悟を決めた表情を浮かべた男に、影が話しかける。それを聞いて男は顔を上げて影と視線を合わせた。


「どうやらグリムス辺境伯は自分だけであなたに対処する予定のようです。そのため、サブネスト伯爵と離れて行動しています」


 影の『良い報告』を聞いて、男は欲望に濡れた気味の悪い笑みを浮かべる。サブネスト領到着当初は『見目だけはいい成り上がりの牝犬』がいたことで厄介だと思ったが、逆に情報をベラベラと喋り、更にエレミアを独りにして絶好の機会を用意してくれた。男は逆に感謝すらしていた。


「なら、やることは決まったな。すぐに準備にかかるとしよう。私の研究はサブネスト伯爵さえ手に入れば完成するのだ」


 影の男が大きな口を半月状にして笑う。彼は貴族の男に恭しく礼をすると、影に溶け込むように消えていく。独り残された貴族の男は小さな声で不気味嗤っている。その姿は醜い怪物が身体を揺らしているように見えた。アリスとエレミアの前では隠し続けていた男の醜い本性がそのまま現れていたのだ。欲望に身を焦がす醜いバケモノがそこにいた。


「クックッ、そうだ、あの『牝犬』ごときには勿体無いものだ。本来なら私のような純血の貴族こそがそうあるべきなのだ。そうだ、そうなのだ……」


 男は巨体を揺らして醜く嗤いながら、自身の欲望を口から吐き出す。こんな醜いバケモノになるほど男が欲する何かがアリスとエレミアにはある。それを得るためだけにかつてアリスを妾にしようとし、今エレミアを妻にしようとしているのだ。当然妾や妻にした後は、目的を果たすだけでなく、女としても十二分に可愛がってやる算段をしていた。

 男が巨体を揺らしてドアに手をかける。そして、徐々に嗤いを抑えていき、今一度仮面を被る。本性を覆い隠す仮面で、全てを奪う欲望を隠し通す。


「さぁ、始めましょうか。純血こそが貴族、純血こそが至高、純血の貴族こそ栄光を手にすべきなのです」


 ドアを開けて男が廊下に飛び出していく。再び気味が悪いだけの貴族として二人の吸血姫に接触していく。目的を果たす為に。


主人公不在の恐怖再び。

エレノーラ王妃登場。アグレッシブおばあちゃんです。


次回も楽しみにしてくださると嬉しいです。

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