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ヴァンパイア辺境伯 ~臆病な女神様~  作者: お盆凡次郎
第2章 薬草採取専門冒険者
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第2章 薬草採取専門冒険者1

お待たせしました。第2章及び第3章開幕です。

皆様いつもありがとうございます。


 スタンピートの翌日から、アリスは町の中を歩くのにも苦労する有様だった。どこを歩いても衛兵や冒険者に声をかけられる。

 歓声を受けてもアリスには喜べなかった。その理由は戦いの最中に酷い姿を晒したことだけではなかった。

 戦いの後、多少冷静さを取り戻したことで、自分の置かれている状況が理解できたのだ。身分や職がないこともそうだが、それよりも何故自分がここにいるのか、どうすれば帰れるのかといったことが主だった。

 果てには何故誰も助けに来ないのかという、八つ当たりにも似た思いすら抱いていた。

 どんなに帰還を望んでも、望んだだけでは帰ることなど叶わず、直近の問題を解決する為に町を歩いていた。

 猫の手亭の女将に聞いた話では身分も保証もない人間に就ける職など限られていた。だから、アリスはスタンピートから数日後、数少ない就職可能な場所に向けて足を進めているのだ。


「遅かったじゃないかい、女神様」


 その建物の入り口の前で待っていたのは、討伐隊を率いていたエルフの女性だった。


「身元不明の職なしなら間違いなく来ると思ってたよ。入りなよ。今日からあんたも冒険者、正真正銘私たちの仲間だ」


 元々、冒険者になるためにここまで来たアリスだが、したり顔の女性を見てあえて通り過ぎたくなる。だが、ここで通り過ぎれば近い内に宿代が尽きることになる。

 あの後宿屋の女将は宿代はいらないと言ったが、日本人としての気質として、きっちり払わないと落ち着かないので拒否した。それでも食い下がる女将に、割引するということで妥協することになった。

 元普通の社会人であったアリスには、働いて、稼いで、それで宿を借りる方が性に合っているのだ。

 衝動を押さえ込んで女性に付いて建物に入っていく。建物の中では冒険者達が何組も集まって、相談やら会話をしていた。

 冒険者達はアリスの存在に気付くと、目を丸くして、すぐに歓声を上げ始めた。

 アリスは辟易した様子で歓声を無視してカウンターへと歩いていく。いつの間にか、カウンターの反対側に移動していたエルフの女性が見える。

 女性は手のひらを上に向けて小さく差し出して新人へのいつもの挨拶を口にする。


「ようこそ、新人さん。ここは『冒険者』ギルド。まずはあなたのLVと得意職をチェックさせてもらうわね」


 そう、ここは冒険者ギルド。冒険者達が命と信念をかけて、日夜戦いに明け暮れ、その代価として金銭や名誉を得る場所。あくまで冒険者にとってはだが。

 国から見れば、あれくれ者共を一括管理し、同時に監視するための組織だ。冒険者がどれだけの力があるのかを正確に把握している必要がある。そのため定期的にいつから、どうして存在しているのか判明していない『LV』と『得意職』の二つを計測することになる。

 それはアリスも例外ではなく、今目の前には計測の為の水晶玉が置かれている。女性はそれを両手で示して『さぁ!』と言わんばかりの表情を浮かべている。周りの冒険者も聞き逃すまいと耳を傾けている。誰もが『女神』のLVや得意職が気になって仕方ないのだ。

 アリスが戸惑いながらも、その水晶に手を差し出す。アリスはLVという言葉を聞いて、一緒に『ステータス』も計測されると考えている。彼女はまだ、この世界にステータスというものが存在しないことを知らない。

 アリスの手が水晶に触れる。水晶に目を凝らした女性は、その結果を見て一度ため息を吐いて、黙々と書類に記入を開始する。その反応を見て冒険者たちも期待はずれだったと考えて興味をなくしてしまう。とんでもない数値や職が出てきて、女性が驚いてそれを口にしてしまうのを期待していたのだ。


「あぁ、女神様、ギルマスがスタンピートの件のお礼と報酬を渡したいって言ってたから、これからちょっと時間ある?」


 女性がそう尋ねてくるのを、アリスは怯えた様子で首を縦に振るだけして答えた。日本人の性故に突然ギルマスという上の人間が出てきて、それに恐縮してしまったのだ。

 すぐに立ち上がった女性に続いてギルドの中を歩いていくと、一つの扉の前にたどり着く。女性がその扉を開けると、中には上半身裸のマッチョがいた。しかも、独特のポーズをして、恍惚とした表情をしていた。


「ギルマス、『女神様』をつれてきたよ。あと、その気色悪い筋肉しまえ、変態ハゲ」


 女性の言うとおり、ギルマスと呼ばれた男性の頭は髪の毛が一本もなく、反面顎鬚は異様に長かった。その顔立ちからかなりの年寄りだとわかるが、首から下が明らかに不釣合いだった。


「ほぉっ! もうついたんじゃな。そこにかけてもらえ。して結果は?」


 アリスは女性に促されてソファーに腰掛ける。女性はそのままギルマスに先ほどのアリスの計測結果を渡した。


「ほぉ、なるほどのぅ。よく騒ぎにならんかったもんじゃな」


 ギルマスはそう言うと、ポーズを取るのをやめてアリスの反対側に腰掛ける。


「まずは自己紹介からじゃな。この受付嬢はイェレナ。元Cランクの冒険者じゃ」


 ギルマスは続いて自身の自己紹介を始める。アリスはこの世界の冒険者が、何故かアルファベットでランク分けされていることに驚いていた。そこで、ふと、何故か言葉が通じていること、部屋の中で見られる文字に見覚えがあることに疑問を抱く。


「それにしても、こんなめんこい子がLV250、得意職プリンセスとは、どちらも前代未聞、始めて見るのぅ」


 それを聞いてアリスは身体を跳ねさせて、怯えた様子を見せる。ギルマスはそんな彼女に対して、困ったような表情を浮かべながら、そのツルツルの頭を撫でる。


「そう、怯える必要はないんじゃがのぅ。現にイェレナはうまいこと演技して、隠し通しておったじゃろ? この話を外に漏らすつもりはないから安心せい」


 ギルマスの言葉に、アリスは再び驚愕することになる。その場にいなかったはずのギルマスが何故そのことを知っているのか、更にイェレナもそれに対して驚いている様子が微塵もなかった。


「ほぉぅ、そう驚くことでもなかろう。歳だけは取ってる爺が身に着けたスキルを駆使して観察しておっただけじゃよ。おっと、更衣室とかは覗いておらんからの」


 ギルマスは自身の髭を弄りながら、目を細めて笑う。アリスの怯えた視線は次第に薄れていく。気付けば小さく笑みを浮かべていた。

 この辺りは年の功とでも言うべきか、ギルマスは怯えた子どもの扱いに慣れている節があった。


(さすがの妖怪爺だわ。あの子の緊張を簡単にほぐしちゃったわ。覗いてたら殺すけど)


「よし、本題に入ろうかの!」


 そう言って、ギルマスはスタンピートの時の礼を言ってから、報酬の話をし始める。その額はAWOの金貨よりも高く、あまりの金額にアリスの顔が思わず引き攣ってしまった。


「町一つ救ったんじゃ。これくらいの報酬は当然じゃて」


 アリスは何も考えずに渡された報酬をアイテムボックスにしまいこむ。その様子を見て、今度はギルマス達が驚いた表情を浮かべる。


「ほぉっ! お嬢ちゃんはアイテムボックスまで使えるんじゃな!」


 この世界ではアイテムボックスは特殊な魔法への適正があって、始めて使用することができる。それを当然のように使用するアリスの能力の高さを、ギルマス達は改めて理解させられた。


「それはプリンセスとやらに関係してるのかの?」


 アリスはその質問に再び怯えた表情を浮かべる。だが、先ほどとは違って口を開いて、それに対して答えを返す。


「それはわかりません。ただ使えるだけです……」


 それは嘘だった。

 ギルマスの目が細められる。その視線を受けたアリスは身を竦めて身体を後ろに下げようとする。ソファーに深く座っていたため、それ以上後ろに下がることはできなかった。

 アリスは怯えた視線で視線を合わせる。そして……。


「そうか、わからんのじゃったら仕方ないのぅ」


 あっさりと納得して見せた。アリスは内心でほっとして息を吐く。


「いい加減なギルマスだねぇ。まぁ、私もあんたが町を救ってくれたことに感謝してるし、今更細かいことは聞かないよ」


 イェレナは呆れたように苦笑いすると、アリスに向けて小さく微笑んだ。

 アリスは胸を撫で下ろして、イェレナに対して微笑み返すと、イェレナは両手を合わせて口を開いた。


「よし、それじゃ、早速『女神様』には仕事を請けてもらおうと思うんだけど……」


 イェレナの歯切れの悪い言葉に、アリスは首を傾げてしまう。その仕草の愛らしさに、和みそうになるのを堪えながらイェレナは話を続けた。


「能力はともかく、戦闘は苦手そうだしね。おあつらえ向きのいい依頼があるよ」


 そう言ってイェレナが取り出した紙には、でかでかと『薬草採取』と書かれていた。アリスはそれを見て、自分が戦う必要がないことに気付いて安堵する。

 冒険者になると決めたアリスではあったが、戦うことに対して忌避感があった。どんな依頼があるかもわからない状況だったので、こういった採取だけの依頼がある確信はなかった。

 アリスは依頼書を手に取ると内容を熟読し始める。そこに書かれた文字は、やはり見覚えのあるものだった。

 それは地球にいた頃、集めていたAWOの設定資料に存在した『ムスエラ文字』と呼ばれるものだった。それはAWOの世界で使われていた文字で、その世界の共通語だった。この世界で使われているのは紛れもなく同じものである。

 理由はわからないが、読めるならそれに越したことはない。

 アリスは依頼書を読み進めて、ある一文で目を止めた。そこに書かれていたのは『品質に応じて報酬増額あり』だった。

 アリスにとって、それは天啓とでも言うべきものであった。というのも、アリスの補助ジョブである錬金術師は魔導具を製作する魔導技師、魔導具に書き込む魔法を作成したりスクロールを作れる魔法研究者、そしてポーションの調剤や材料調達に熟練した薬師の三つの補助ジョブをマスターした上でイベントをクリアすることで取得できる。

 材料調達に熟練しているという性質上、鑑定(植物)というスキルを持っている。これは採取前から薬草の状態などを調べることのできるスキルで、良質な薬草を採取するには必須のスキルとなる。

 どんな形で鑑定結果が見えるのかはアリスにはわからなかったが、このスキルが機能していれば採取依頼は難なくこなすことができるはずだと考えていた。

 この世界がエリアで分割されることなく、存在するモンスターがどこにでも行けるということに考えが及んでいなかったから、そう勘違いしてしまっていたのだ。


本当は一話で終わるはずだった第2章です。

ちくしょう。書いてる内に妖怪爺が変なキャラになったせいだ!


次回も楽しみにしてくださると嬉しいです。

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