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第28章 大狩猟祭6

お待たせしました。

皆様、いつもありがとうございます!


「それじゃあ、答え合わせでもしましょうか」


 アリスは武器を下げて、カイトに種明かしの続きを促した。カイトは彼女に促されて、先ほどの続きを語り始める。


「ああ、続けようか。このスキルはさっき言った通り、『魔法を使うスキル』だ」


 カイトが導き出した答えは、このスキルは陽の光を遮るだけでなく、様々なバフやデバフを常時発動するものだということだった。空に見える『月や星のようなモノ』は血の儀式やバフやデバフの魔法の魔法陣で、それを指定した対象、『光に照らされている存在』に任意に付与することができる。月や星に見えるのはそう見えるように偽装しているだけだ。


「血液を頻繁に飲むのは、SPやMPを常時消費し続けるからだろ? それでも、普通ならすぐにMPが枯渇するはずなのに、そうならないのは『世界樹の薔薇』の効果かな」


 常時スキルや魔法を発動するということは、常時SPやMPを消費するということだ。それ故にアリスは頻繁に回復を必要としていた。

 それに加えて、アリスは創世級のネックレス『世界樹の薔薇』を装備している。これはレイドボス『マギア・ユグドラシル』のドロップアイテムで、MPとINTの上昇、火と無以外の属性魔法によるダメージを軽減、そしてMP自動回復速度上昇が効果として付与されている。

 アリスが何もせずにカイトを見ているだけだった時間は、常時消費される膨大なMPの減少速度を下げる為のものだった。


「ブラッド・ウェポンの強化は血の儀式もあの空に存在するからだ。ただ一つわからないのは、ブラッド・ウェポンは血の儀式があっても、そこまで強くはならない点かな」


 アリスは口を出すことなく、カイトの答えを聞いていた。しかし、彼にも理解できない状況が存在した。それが、ブラッド・ウェポンの異常な強化だった。


「ブラッド・ウェポンの強化? あぁ、それならこういうことよ」


 そう言ってアリスは魔石を一つ、カイトに向けて投げつける。彼の目に映ったのは、『ただの魔石』だった。

 だが、その魔石はカイトの目の前まで来ると、急に光を放って爆発する。

 嫌な予感がしたため、辛うじて直撃は避けることはできたが、カイトは爆風で吹き飛ばされてしまう。


「答えは簡単。ブラッド・ウェポンを魔石で錬金して強化しただけよ」


 爆風で吹き飛ばされたカイトの耳にアリスの声が聞こえる。

 錬金術は『魔法陣』を使って、様々な物質を作り出すスキルだ。そう、『魔法陣』を使うのだ。


「まさか、錬金術の魔法陣も空にあるのか!」


 空にある魔法陣を使い、アリスは常に好きなタイミングで多くの錬金を行うことができる。一つが先ほど見せた魔石を爆弾に変える魔法陣で、ブラッド・ウェポンの強化も『この世界で生み出した』錬金術を空に浮かべている。

 錬金術の発動は魔法と違って、魔力で魔法陣を書くのではなく、書いた魔法陣に魔力を流し込むことで行われる。そのため、常時空に浮かべていても、常時発動するわけではない。


「アルス・マグナは錬金術における神に至る解法。その名を冠しているのだから、錬金術関係の機能もあって当然でしょ」


 カイトは驚愕した表情で、アリスの説明を理解した。だから、わかってしまった。


(これ、詰んだんじゃね?)


 カイトには遠距離、中距離攻撃手段が乏しい。これはカイトが防ぎながら戦うことに特化してスキルを習得しているからだ。それが一番性に合っていたし、『彼/彼女』を護ることに注力していたからだ。

 だが、この状況においてはそれが裏目に出てしまう。アリスは所有する魔石の数だけ爆弾を生み出せるし、まだ見せていない錬金術もあるだろう。その中にはAWOにはなかったものもあるはずだ。

 一方的に遠距離から攻撃されたら、近付く為に走ろうにも地雷を練成されたら、先ほどの見えない壁の魔導具を複数出されたら……。しかも、それらは効果が発動するまでどんな魔導具なのかもわからないのだ。


「考え込んでるところ悪いんだけど……」


 ――行くわよ。


 最後の一言がカイトの耳に届いた時にはアリスの姿は見えなくなっていた。広く視界を取っていたカイトの目視から一瞬で消えるのは、縮地法では不可能である。


(幻術か!)


 今回は突発的な対人戦だったため、カイトは幻術や隠密スキルの対策を行っていない。そのため、アリスの『幻術魔導具』に簡単に引っかかってしまう。

 視界以外の感覚も駆使してアリスの居場所を探るが、気付いた時にはすぐ目の前まで迫っていた。

 アリスが大鎌を横薙ぎに振るう。カイトはいなすことはできないと悟って、盾によるガードを選択するが、それは悪手となる。

 大鎌が盾に触れせめぎ合う瞬間、盾の表面で強力な爆発が起こる。爆発は盾ごとカイトを吹き飛ばして、鎧の内側へとダメージを通す。

 カイトが霞む視界で同じく吹き飛ばされ転がっているアリスを見る。再生こそ始まっているがアリスの両腕は消し飛び、身体も半身が火傷で爛れてしまっていた。その姿に彼は驚愕して思考が固まってしまう。


「あぁ、痛いわ。でも……」


 痛みを訴えるアリスは血液の瓶を取り出すが、瓶は空中に現れて地面に激突して割れてしまう。アリスは地面を濡らす血液に舌を伸ばして、それを舐め取った。

 再生速度が加速して両腕や身体の火傷が治っていく。傷が完全に塞がると、アリスは再び立ち上がって大鎌を作り出す。


「そんなに驚くことないじゃない。後衛の私があなた達前衛やレイドボスに対抗するには、無茶も無謀も通すしかないんだもの」


 アリスが可愛らしく首を傾げて驚くカイトに告げた。

 今でこそ対第0級接触禁忌災害に転移者を組み込むことで目処が立ち始めたが、それまではアリス自身をメインのダメージソースとして考えるしかなかった。後衛故に与ダメージの低い彼女は自身の特徴や能力の研究開発に余念がなかった。吸血鬼の限界を調べ、新しいスキルの習得、全てはいつか来る災害に対抗する為の準備だった。


「言ったでしょ。私の50年を舐めるなって。私の50年はただ負けられない戦いに勝つためのものなのよ!」


 アリスが再びカイトに向けて駆け出す。それを見て、カイトもようやく我に返って攻撃に備えようとする。

 しかし、そこで一つの疑問が頭に浮かぶ。先ほども感じていた感覚。


 ――どうやって防げばいい?


 カイトの得意距離のはずの近距離ですら、ブラッド・ウェポンを爆発物に練成して攻撃してくる。遠距離は論外。アリスに勝てる距離が思いつかない。

 このスキルも万能というわけではない。魔法職が遠距離から魔法攻撃に徹すれば、フィニッシャーが一撃に全てをかけて打ち込めば、そうすれば破ることはできるだろう。

 だが、カイトのような防御型にとってはあまりに相性が悪すぎる。


「ふぅん、まさか、諦めちゃったのかしら? だったら、興醒めもいいとこだわ」


 動き出すことができないカイトに向けて、アリスが悪戯な笑みを浮かべた。

 興醒めという言葉がカイトの胸に深く突き刺さる。それと同時に自分の中に様々な感情が渦巻いていく。

 アリスの全力に応えられない不甲斐無さ、諦めかけてしまってる自分への嫌悪感、何よりも愛する相手に興醒めと言わせる自分への怒り。


 ――なんか、主人公みたいだな。


 カイトの耳にかつてアリスから聞いた言葉が聞こえた気がした。歯を食いしばる音が耳に響いてくる。足と腕に力が入ってくる。立ち上がることも剣を振ることもできる。

 気付けばカイトは立ち上がって、アリスに視線を向けていた。目に映るのはアリスの驚いた顔。自然と言葉が口から漏れ出していた。


「諦める? あり得ない話だね。最後まで諦めずに向かっていくさ。転んでもただでは起き上がらない、その方がかっこいいだろ?」


 アリスの表情が柔らかい笑みに変わる。


「かっこいいじゃない。まるで、物語の主人公のようだわ。だから、魔王様が転ばしてあげるわ」


 その言葉はかつてカイトが聞いたそれに似ているものだった。カイトは嬉しそうな表情でその言葉を胸に刻み込んでいく。


(でも、君には魔王じゃなくて姫であってほしいんだけどな。創作には魔王と恋愛する勇者ってのもあるんだっけ?)


 どうでもいいことを考えながら、カイトは最後の一撃へ向けて体勢を整える。その一撃はカイトが最も使い慣れていないスキル。こっちの世界に来てからは一度も使っていなかった。それを切り札として繰り出そうとしている。

 カイトが地面を蹴る。盾を前方に構えて、アリスへと距離を詰めていく。足元で爆発する魔導具は全て前方に吹き飛ぶことで利用する。ダメージを負うが、それに構うことなく一直線にアリスを目指していく。

 爆弾魔導具を投げられれば時には盾で弾きながら、時には爆発を耐えながら、がむしゃらに進んでいく。

 途中で見えない壁が立ちふさがるが、『尻尾とブレス』を連続で叩き込んで粉砕していく。

 そして、カイトはついにアリスの下にたどり着く。


「まさか、トリプルシックスの部分展開とは恐れ入ったわね」


 もはや満身創痍のカイトの耳にアリスの言葉は届いていなかった。ただ最初から決めていた通り、最後の一撃を放つべくスキルを『発動』する。

 その一撃はただの横薙ぎの一閃だった。アリスが避けるより早く、アリスの身体にに到達したそれは、ただぶつかっただけで止まってしまう。

 発動に失敗したわけではない。ここからがこのスキルの本番なのだ。ぶつかった箇所から白い光が広がっていく。白い光はすぐに巨大に膨れ上がり、それは発動された。

 光の玉が弾け、光は斬撃となって剣の先にある全てをなぎ払っていく。そこに例外は存在せず、荒野の岩も森の木々も、アリスもまた光の斬撃を受けていた。


 天輝竜の宝聖剣の固有スキル『天輝剣』


 それがこのスキルの正体だった。このスキルをカイトが今まで使用しなかったのは、依存するステータスと攻撃属性がカイトと噛み合っていなかったからだ。

 これはSTRと『INT』に依存し、斬撃属性を持たない純粋な聖属性魔法ダメージを与えるスキルである。

 STRとVITをメインで上昇させていたカイトとは合わないスキルなのだ。それでも、闇属性に特化した存在には高いダメージを出せるので、稀にだが使用していた。

 闇属性に特化した吸血鬼であるアリスになら、大ダメージを与えることができるはずだと思ってカイトはこのスキルの使用に踏み切った。ただ一つの事実を覚えていれば使用しないであろう、このスキルを選んでしまったのだ。


「お見事。でも最後の一撃は失敗だったわね」


 背後からアリスの声が聞こえた。同時に真っ赤な大鎌がカイトに向けて振りぬかれた。体力を使い果たしたカイトにはそれを避けることができず、そのまま大鎌から発せられた衝撃波で吹き飛ばされてしまう。

 カイトは忘れていたのだ、『世界樹の薔薇』が『火属性と無属性以外の全ての魔法ダメージを軽減』することを。


 ――ごめんなさい。


 アリスによってトドメの一撃が繰り出される直前、カイトの耳にそんな言葉が聞こえた気がした。だが、カイトの意識はそのまま暗転してしまう。

次に彼が目を覚ましたのは大狩猟祭が終了する直前だった。


 ――一方、二人の決着を見届けた兄妹の妹の方は、夜に覆われた世界ではしゃぎ回っていた。『我至るは黄金の理なりアルス・マグナ』を一撃で打ち破る可能性をその身に宿した少女は、憧れの冒険王の三大秘奥の一つを目にして喜びの声を上げていた。


「うぉおお! すっげー、超すっげー! さすが冒険王だよね。こんなスキルAWOでも見たことないよ!」


 そんな妹とは対照的に、兄である王牙はこの状況にある心配をしていた。


(領主がこんなスキルまで用意している理由など一つだろうな。第0級接触禁忌災害、レイドボス。その時になれば俺達も参加することになるだろう。そして……)


 王牙はレイドボスの存在を強く感じて危機感を抱く。自身は盾役だから問題ないが、メイはフィニッシャーだ。

 レイドボスにおけるフィニッシャーの役割は、最後の一撃を他のフィニッシャーと共に打ち込むことだ。だが、もし少しでもHPが残ってしまえば、その後フィニッシャーはすぐに殺されてしまう。

 フィニッシャーとは格闘ジョブ純拳士系四次ジョブ『破壊拳士』の通称である。最強スキルである『撃滅破城槌げきめつはじょうつい』は複数人で用いれば、レイドボスのHPを二桁パーセント削ることができる威力がある。反面、使用するとSPとMPの全てと、HPを1だけ残して全て消費する。更に使用後は長い硬直時間があり、何も行動できなくなってしまう。

 それがフィニッシャーが失敗すれば死んでしまう理由だ。

この世界で死ねば恐らく甦ることはできない。そんな中で妹がフィニッシャーなどという、博打のような役目になるのを認められる兄はいないだろう。

 王牙は警戒しているのは、第0級接触禁忌災害が現れた時にメイがフィニッシャーとして駆り出されることだった。


(なんとかして領主と話して、メイは駆り出さないように願うしかないか)


 王牙が決心していると、夜が徐々に溶けていき、隙間から元の青空が見え始めていた。

 メイはすでにアリスに向けて凄い勢いで駆け出している。すぐにアリスへと到達したメイは、そのままの勢いでアリスに抱きついた。当然、純粋な前衛の抱擁という名のタックルを後衛が受ければどうなるかは火を見るより明らかだ。

 メイに抱きつかれたアリスは、そのままメイ共々吹っ飛んでいって背中落下する。


「あの、バカ……」


(これで交渉が不利になったりしないよな?)


 王牙がバカをやっている妹を止めるべく歩き始める。これが彼の役目なのだ。メイを諭し、メイを護る。兄として、この世界でただ一人の家族として。

 はしゃいでいるメイも、メイを心配する王牙も、そして気を失っているカイトも、皆忘れている。

 今この瞬間が『大狩猟祭』だということを、そして自分達の狩ったモンスターの数が現在特別多いわけではないことを……。


次回で28章終了です。


次回も楽しみにしてくださると嬉しいです。

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