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第28章 大狩猟祭5

お待たせしました。

ご来訪、ブクマ、評価、感想、皆様本当にありがとうございます。


「別におかしな話じゃないわ。私は吸血鬼なんだから、血を飲めば力が沸いてくるものよ」


 転移者の身体能力は確かにAWO時代のステータスに影響されている。しかし、種族としての特性もそれとは別に存在している。

 エルフの転移者が長寿になったように、機械人の感情がなくなり肉体がパーツに分けられたように、吸血鬼にも吸血による不老不死という特性が備わっている。逆に吸血を怠れば肉体はどんどん衰えていく。

 余談ではあるが、ゲームキャラになるにあたって、流水や陽の光という弱点は伝承にあるのとは違う形になっている。流水は精神に負担をかけるだけで、陽の光は灰になるのではなく力が出なくなる。それがAWOの吸血鬼だ。

 そのためアリスも血を飲むことで体力や傷の治療ができる身体になっている。


「なるほど。でも……」


 ――それなら回復の暇を与えなければいい


 その言葉を置き去りにしてカイトは凄まじい速度でアリスに迫る。アリスは攻撃に備えるが、剣を構えた直後再びカイトの姿が消えて、背中に衝撃を受けて吹き飛ばされる。

 アリスは地面を転がりながら体勢を立て直す。カイトの居場所を確認して、自分のいる場所に気付いてアリスの表情が歪む。

 アリスとカイトの立ち居地が逆転してしまっている。今まではアリスが『森の奥側』にいたが、それが逆転したことで『荒野側』に来てしまった。


「さて、いつまでも暗い場所にいることもないよね。こんな森の中が君の顔も良く見えないしな」


 カイトが口元を歪める。彼の狙いはアリスを森の外に出すことだった。陽の光の下に引っ張り出せば、彼女の能力を大幅に下げることができる。そうすれば勝負は決したも同然だ。

 カイトがアリスに詰め寄っていく。距離を開けずに、アリスに後方に逃げるしかないように誘導していく。

 アリスは確かにこの世界では有名だし、最強とさえ言われている。だが、アリスは支援をメインに必要に応じて遊撃を行うのが本来の戦い方だ。近接ジョブと正面から戦うタイプのキャラクターではなかったのだ。


(後がないわね……)


 アリスが後ろに陽の光の暖かさを感じて、眉間にしわを寄せる。ドラゴンズシックスが発動してから、ペースは完全にカイトに持ってかれていた。


 だから、アリスは『後ろ』へ飛んだ。



 ――二人の戦いを見ていたメイと王牙はその姿に驚愕していた。この兄妹はこの世界に来てからはモンスターとしか戦闘をしていなかった。そのため、本気のヒト同士の勝負を見たことがなかったのだ。


「すごいな……」


 アリスを圧倒するカイトの姿を見て王牙は素直に感想を漏らすが、メイを現状に対して首を傾げていた。どこか雰囲気もソワソワしている。


「すごいは、すごいんだけどさぁ」


 口から漏れた言葉は歯切れが悪いものだった。その言葉は何かに納得がいっていないかのように感じられた。


「何かあるのか?」


 王牙の質問を受けたメイは顎に手を当てて唸りながら、アリスの様子を見ていた。視線の先ではアリスが森の端まで追い詰められているところだった。


「いやさ、冒険王って鮮血の万軍殺しブラッド・ヴラドとか、色々二つ名持ってるじゃん?」


 『じゃん?』と言われても、王牙は冒険王物語に詳しくないのでメイの言うことが理解できない。メイはそこに気付くことなく話を進める。


「なんでいつまでも『三大秘奥』を使わないんだろ? 見たいんだけどなー」


 メイの言葉に王牙は驚いた表情で彼女を見つめる。

 その時、アリスが『後ろ』、森の外へと飛び上がった。森の中ではカイトがその行動に驚いた表情を浮かべている。


「おっ! 『アレ』を使うんだ! 『夜月の錬金者ナイト・ブラッド』だ!」


 メイの表情が喜悦に歪み、その目が見つめる先にいるアリスは自身の腕を裂き、小さく口を動かし始めていた。



 ――これは一つの到達点。これは一つの至高の形。


 アリスが詠唱を紡ぎ始める。カイトのいる場所ではよく聞こえないが、以前見た『奏でるは終焉の夜想曲』を思い出して動き始める。

 夜でなくても使えるのかはわからないが、もし使えるなら使われた地点で勝ち目がなくなってしまう。距離もあったが、焦っていたこともあってその詠唱がかつてと違うことに気付けなかった。

 故にアリスに向けて駆け出していく。詠唱を止めることに集中してしまったことで、もう一つ大事なことに気付くことができなかった。森の入り口まで到達して、ようやくそのことに思い至る。


(あれ? アリスがパーティーを組んでたって話は聞いたことがないけど、普段の戦闘であんな長い詠唱唱えてる暇なんかあるのか?)


 ――されど私は其れを穢し、犯す。


 だが、疑問を抱くのが遅すぎた。直後、足元が爆発し前のめりにバランスを崩す。カイトはそのまま走り出そうと足に力を入れるが、次には目の前にある『見えない壁』にぶつかって、完全に勢いを殺されてしまった。

 アリスは転がりながら、追い詰められながら、森の暗さも手伝ってカイトに気付かれることなく罠を仕掛けることに成功していたのだ。


 ――赤き血で、暗き夜で、私は黄金の理を塗りつぶすのだろう。

 ――それは私が血を求めるバケモノだから。それは私が死すらも失くしたバケモノだから。


 勢いを殺されたことで、以前の時との違いに気付くことができた。かすかに聞こえる詠唱ももちろんだが、未だに血液用アイテムボックスを開いていない。

 カイトの目に映るアリスの姿が一瞬、何かに耐えるように震えたように見えた。


(私はまた、こうして自分の醜さを見せ付けられる。私はまた、こうして自分の愚かさと向き合わされる)


 ――私の理はヒトに非ず、私の夢はヒトの想いに非ず。


 カイトが見えない壁を迂回してアリスに向けて移動しようとするが、その度に足元に埋められた魔導具の攻撃を受けて勢いを削がれてしまう。

 アリスはそんなカイトの姿を見て、戦いに集中して目を背けていたものに目を向ける。

 『詠/祈り』は『鍵/贖罪』だ。アリスが普段、目を背けているものに向き合うことで、無意識に抑え込んでいる力を解き放つものだ。『奏でるは終焉の夜想曲』の時は自身が奪った命への許しを請う『詠/祈り』だった。

 だが、今回は違う。


 ――ただ血と狂気に彩られたモノだから。


 それは自分の心を嫌悪し、化け物と断ずる想い。自分が悲しまないために、自分の苦痛を減らすために、何度も『彼/彼女』は自分以外のモノを傷付けてきた。そして、それから目を背け続けている。

 そんな自分を直視し、自身の見えなかった傷を抉り、憎悪する『詠/祈り』。怖くて、辛くて逃げてきた現実との邂逅こそが、この力を解き放つ『鍵/贖罪』なのだ。


 ――私はただ犯す。

 ――この世界の先に至る理を……。


 カイトは寸でのところで届くことがなかった。二人の視線が交わる。

 交わった視線の先、その目に映るアリスの瞳は酷く虚ろで、まるで泣いているかのようだった。


 ――『我至るは黄金の理なりアルス・マグナ


 だが『血の儀式ブラッド・マジック』の魔法陣が輝くことはなく、逆に暗い闇を吐き出していく。闇は一瞬で周囲を覆い尽くしていく。闇が通り過ぎた後、そこは先ほどまでと違う景色を映し出していた。


「は? 何が起きたんだ?」


 カイトは状況が理解できず、疑問を漏らしながら上を見上げて『月の輝く星空』を見ていた。

呆けていたカイトの耳に、アリスの愛らしく透き通るような声が聞こえる。


「私の『夜』へ、ようこそ。

 さぁ、廻りなさい。廻り廻って、踊り廻るのよ。

 惨めに、醜く、踊り廻る時間ダンスタイムを楽しみましょう」


声を聞いてアリスへと視線を向けると、その先で彼女は先ほどまでの大鎌とは違う、真っ赤で透き通った色をした大鎌を構えて立っていた。

 吸血鬼の持つスキルの一つに『ブラッド・ウェポン』という、血を武器の形にして装備するものがある。

 今、アリスが手に持っている大鎌はそのスキルで生み出したものだ。『血の儀式』にはブラッド・ウェポンを強化する分岐スキルもあるが、それでもブラッド・ウェポンは上位の装備よりも性能で劣るので、高LVで使用するようなものではない。

 

「夜になった? 否、名前から察するに夜を『錬金』したのか。そんなことも可能なのか……」


 カイトはアリスが披露した新しいスキルに素直に感心していた。

彼の予想したとおり、このスキルの大半は錬金術によって成り立っている。正確には詠唱の後に噴出した『闇のようなモノ』に『夜に似た景色』を映し出しているのだ。


「さて、準備は整ったわけだし、再開といきましょうか騎士様」


 月の光に照らされたアリスが戦闘再開を告げるが、状況が好転したわけではない。『夜になっただけ』なら森の中と外を気にしなくてよくなっただけだ。

 アリスが駆け出して大鎌を振るう。それを盾で受けたカイトは違和感を抱いていた。


「あら、どうしたのかしら?」


 それを察したアリスが意地の悪い笑みを浮かべる。

 カイトの感じた違和感、それは明らかにアリスの身体能力が上がっていることと、大鎌の鋭さがブラッド・ウェポンのそれとは比べ物ならないくらいに高かったことだ。


「これはどういうトリックなのかな?」


 アリスの連撃を受け流しながら、カイトはその疑問を口に出した。当然だが、彼女は敵対者の疑問に答えることなく大鎌を振るっている。

 再度流れはアリスに傾き、カイトは上がった『はず』の身体能力を駆使して防ぐのに必死だった。

 攻撃を捌く中で、カイトは別の違和感があることに気付く。自分が盾を構える速度が『ドラゴンズシックス発動直後』よりもわずかに遅くなっているのだ。更に……。


(あれ? アリスの手の傷が塞がってない。なのに、血が出ていない……)


 アリスの手首の状況に違和感を抱く。攻撃を凌ぐ中でよくその手首を見てみれば、傷口に霧のようなものが薄っすらと見えた。

 何度目かの連撃の後、アリスは一度距離を取って血液の入った瓶を飲み干す。その姿にもカイトは疑問を感じてしまう。


(まるで、バフやデバフが……、ッ!)


 何かに気付いたカイトが偽りの月と星を見上げる。夜の光を目で追うと、光は常にアリスを照らしている。だが、照らされているのはアリスだけではなかった。カイトもまた光に照らされてほんのりと輝いていた。

 それに気付いたカイトはアリスに視線を向ける。彼女は不敵な笑みを浮かべたまま、何かを待つように立っていた。

 何を待っているのか、そこに気付いたカイトは一気にアリスへと駆け出した。当然罠の設置も警戒しながらである。

 接近してきたカイトの剣を、アリスは大鎌を小さく振ることで弾いた。そして、彼女は再び距離を開けて新しい瓶に口を付ける。


「やっぱりそうか!」


「へぇ、気付いたのね。まさかこんなに簡単に気付かれるとは思わなかったわ」


 仕掛けを気付かれるという予想外の出来事に、嬉しそうな笑顔を浮かべるアリス。今度は自分の番とでも言うかのように、カイトは不敵な笑みを浮かべていた。


「驚いたよ。このスキルは『夜を作る』んじゃなくて、自分に有利な『特殊な魔法』を展開するスキルだったんだね」


アリスの必殺技2発動回。

タネ明かしは次回、って感じに引っ張ったせいで5000字いかなかった。

たぶん次回で戦闘は終わります。たぶん。

主人公が必殺技を出せば、その後はとんとん拍子に勝利するっていうセオリーをぶち破っちゃいました。

あと、中二的詠唱とか二つ名っていいよね!


次回も楽しみにしてくださると嬉しいです。

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