第21章 激動の始まり4
よっしゃあ!まだいけた!いけた!
あ、そういえば読み易さが理由で一度投稿して、投稿した話を読みながら
誤字脱字、表現の変更、追記をしてるので、基本的に1稿目が酷いことになります。
だって、投稿画面だと読みづらいんだもん
さすがに明日は仕事なんで寝ます。
ウィリアムの言葉にアリスの表情が驚愕で固まる。彼が何を言っているのか、半ば理解できていない状態だ。
「ウィル坊、それはどういうことかしら?
言っておくけど、現実でLV250の促成栽培なんて……」
「俺が王都に向かう2日前に、大草原に動きがあった」
アリスの疑問を遮るようにウィリアムが言葉を重ねる。
ストムロック領の大草原、それはストムロック領が重要視されるもう一つの理由に深く関わっている。
大草原の名前を聞いて議会の面々にまさかという思いがよぎる。
「大草原の監視部隊から連絡があった。早急に対処すべき案件ではあるけど、まだ猶予があると考えて議会を優先させてもらった」
ウィリアムにしては珍しい、真面目な口調で行われる報告は面々の予感が確かなものであることを告げている。
当然アリスにもその予感は走っているが、彼女の心はどこかそれを認めたくないという気持ちがあった。
そしてウィリアムから決定的な一言が告げられる。
「大草原に1000名近い転移者を確認した」
全員の顔に緊張の色が浮かんだ。
転移者の存在と情報はアリスによって議会で共有され、議会の面々が必要に応じて一部の人間に公開していた。
そしてストムロックの大草原はアリスが最初に降り立った地であり、予てから新たな転移者が現れることが予想されていた場所だった。
その為、議会で大草原の監視を24時間体制で行うことが決定されていて、同時にストムロック領が重要視される原因ともなっていた。
(私が転移した当時のログイン人数は1000人くらいだった。
それがほぼ全員一斉に現れた? 私の時は一人だったのに?
理由はわからないけど、これは最悪の状況かもしれない。
ほぼ全員転移してきたというなら、当然『アイツら』もいるはず……)
1000人という人数はオンラインゲームの同時接続数としては少ない部類に入る。その原因は三つあった。
AWOは運営会社の進退を賭けて作られたゲームだった。その出来に多くのユーザーがのめり込んだし、課金というゲームの要素に現実の金銭を使うシステムに相当数の人数が金を払った。
まさに超人気VRMMOゲームだったのだ。そう、だったのだ。
AWOが運営を開始したのは7年前、7年間の間には更に多種多様なVRゲームが発表されては消えていった。
そんな中生き残っていたAWOはもう老舗と言える程古いゲームであり、最後のやり込み要素であるエンドコンテンツも攻略し尽され、運営終了も噂される程で、その同時接続数は大きく落ち込んでいたのだ。
それに加えてアリスがプレイしていた時間帯はプレイヤーが少ない深夜だったこと、そしてこのゲームは日本国内のみでプレイできるゲームだったのだ。
その為、アリスが転移した時間帯の同時ログイン人数は1000人にも満たなかったのだ。
「それで、その転移者達はどうしているのですか?
アンジェリスや周辺の町だけで賄える人数とは思えないのですが?」
緊張からいち早く立ち直ったエメラドが転移者の現状についての疑問を口にする。当然その質問は最悪の可能性が返答で返ってくることも考慮に入れたものだった。
「すぐに大草原から出て行った連中も含めてこっちで保護して、今はアンジェリスの周りに臨時のキャンプを作ってそこで生活してもらってる。当然町の連中には、今のところはまだ心配ないとしか伝えてない。
ただ、あんまいい雰囲気じゃないな。嫌な感じの奴もいるし、それ以上に現実逃避してるっぽい奴が目立つ。
極少数だが、これからの身の振り方を考えてる奴もいたな」
エメラドは最悪の可能性、集団での野盗化が現在は起こっていないことに胸を撫で下ろした。
だが、アリスは『嫌な感じの奴』という言葉に反応する。彼女の予想が正しければ、それは『アイツら』『プレイヤーキラー(PK)』と呼ばれるプレイヤーだろう。
AWOはフィールドではプレイヤーがプレイヤーを攻撃することもでき、広範囲スキルにも周囲のプレイヤーを巻き込むかを設定できる項目があった。もちろんこの世界ではそんな設定はできないが。
PKはその仕様を好んで受け入れ、プレイヤーを倒すことを楽しむプレイヤーを指す言葉なのだ。
アリスの考えを他所に議会は各々が現状について考え込んでいた。
そんな中、アリスは目を閉じ静かに口を開いた。
「確かにそれだけの転移者がいれば60人は集められるかもしれない。けど問題が2つあるわ。
一つ目はその『嫌な感じの奴』。コイツらは人殺しを楽しむような人間かもしれないということ。
そして二つ目が、そもそもこの世界に順応できる人間がどれだけいるかということよ」
一つ目についても議会の面々は事前にアリスから聞いていたし、二つ目に付いては今目の前にアリスという前例がいる。
そう、順応しきれなかった人間の前例として
この世界では生きるために戦うことは当たり前だった。貧しい生まれで冒険者になるしかなかった者はモンスターを殺さなければ食事を口にすることもできない。
戦争が起これば兵士も冒険者も戦場で人間や人間に近い異種族を殺す。
山賊が出れば討伐依頼が出されて殺す。
身分も何もない転移者が人並みの生活をするためには、元から何らかの才を持っていない限り、冒険者になるしかない。
冒険者になるということは殺すということと同意義であり、殺されかねない場所に出向くということでもあった。
最初は異世界転移を甘く考えていた『俺』も転移してすぐに、『この世界の現実』という名の洗礼を受けた。
『日本人』として育った根っこが『この世界の現実』を受け入れることを拒絶する。
今でもモンスターを殺すのが、殺す感触が、死の間際のヤツらの光が失われていく目が、怖い。
人や異種族を殺すのはもっと怖い。彼らは死の間際にも『俺/私』への怨嗟を言葉で、瞳でぶつけてくる。
自分が刃を向けられるのも怖い。何であんなにも『俺/私』に殺気を、怒りを、下衆な欲望をぶつけることができるのか理解できない。
それでもアリスがモンスターと戦うのは、『ただの日本人/俺』に戻ってしまわない為、大切なモノが危機に晒された時戦うことが出来るように、決して戦うことをやめてはいけないからだ。
今でも夜はうなされるし、突然自分の手が、身体が、目に映る全てが血に染まる事もある。
心を削らなければ生きていけない、そんな始まりを経験し、大切なモノができてしまったから、始まりの生き方をやめられない。
『アリス』はこの世界に順応しきれなかったモノの前例であり末路なのだ。
「私は転移者の内、戦闘に参加できるような人間は100人残れば多すぎるくらいだと考えているわ。
彼らのほとんどにとって殺す、殺されるということはどこか遠くの出来事か、物語の中で見る抽象化された出来事でしかないの。
だからきっと彼らの中のほとんどはこの世界に堪えられない」
それは嘘偽りのないアリスの考えだった。その言葉を否定できる者はここにはいない。
『臆病な女神様』を知り、その身で触れたからこそ否定などできるはずがないのだ。
臆病なまま戦うしかない彼女に助けられた。今も彼女は自分達を、この国を、その臆病な心に反して大きすぎる力で助け続けてくれているのだから。
「実際、そこまで転移者に期待するわけにはいかないわよねぇ。
最悪戦えるのは一人もいないってことも考慮しないといけないと思うのよぉ」
グレンがいつもの間延びした喋り方に反し真剣さの伝わる声でそう告げれば、議会の面々は一様に頷き、それを肯定する。
「何らかの技術なりをもっていれば、通常の仕事を見つけることができるとは思いますが。
問題はそれがない方々ですよね。
いやぁ、困りました。そうなった場合さすがに養うわけにもいきませんしね……」
ブラッドフォードがそうなった場合の支出を計算し額の汗を増やす。
「補助ジョブってやつはどうなんだい?
グリムス卿は一時期薬師のバイトで生計を立ててたそうじゃないかい」
ステファニーが『臆病な女神様』で描かれた一幕を思い出して問いかけるが、アリスは渋い顔をしていた。
「補助ジョブのスキルはほとんど役に立たないでしょうね。
私も以前はスキルでの作成魔法は使用できたけど、手作業での錬金・調合はできなかったもの。
一から学べば身体スペックは高いのだから習得はできるでしょうけど、ある程度の時間は必要よ。
あと、ポーションと鍛冶関係は下手するとこの世界の住人職を食いつぶすことになるわね」
「そううまくはいかないってことかねぇ。
そっちの製作物の効果はこっちじゃ、それこそ伝説的な一品になるし、そんなので市場を席巻するわけにもいかないか。
かといって、聞いた限りのそっちの価値観じゃ女性陣に娼館を紹介するわけにもいかなしねぇ」
そう話し合うと、八方塞な現状に二人してため息が出る。
アリスという前例と情報源から考えられる解決策は浮かびそうになかった。
「最悪、多少怖い目に合ってもらうことになるけど、グリムス領で雑用とか農業に従事してもらうことにするわ。
本当はできれば望まぬ恐怖は与えたくないのだけどね……」
「職業斡旋の話はおいて置く。
お姉さまがずっと危惧してたぷれいやーきらーの方も問題だと思う……」
エレミアはおずおずともう一つの問題を口にする。
PKの問題は職業の問題とは無関係ではないので、先に職業の問題についてそれなりに目処を立てておきたかったのがアリスの本心ではある。
職がない連中がPKに乗せられて賊に成り下がって、殺人などに手を出す可能性を考えていたのだ。
いくら日本人が平和ボケしているといっても、飢えやストレスで暴走してしまえばリミッターも外れかねないのだ。
アリスの記憶の中でも実際それに近いような事件が日本でもあったのだから、絶対無害とは断言できない。
「PK連中については私が対処するわ。
LV250に対する切り札もあるし、できればこっちの法に則って牢屋にぶち込んでから死罪かどうか決めたいけど、無理なようなら私が始末をつけるわ」
然も当然のように言うアリスのその言葉を頼もしく思う者はいなかった。それで一番辛い思いをするのが誰なのかわかりきっているのだ。
だがそれでも、もしもの時はアリスに頼るしかないのは純然たる事実なのだ。
実際その時になったらアリスはそれを実行に移すだろう。それも確実に、無慈悲に賊として『始末』をつけるだろうことは、皆理解していた。
理解したからこそ歯がゆく、そして胸が締め付けられるのだ。
「今は一応一部の転移者が目を利かせてくれてるから問題が表出することはないみたいだけどな。
領地に帰り次第見込みある連中に声を掛けてみようと思ってる。
そいつらに実戦を経験してもらって、この先どうするか決めてもらうつもりだ。
できれば同郷のグリムス卿には一緒に来てもらいたいんだがな」
ウィリアムは実際に転移者達を目にして現状を一番正しく認識しているだけに頭の中にいくつかの案があるらしく、現状に対する対処療法をここで提示した。
アリスを含む他の面々にしても、対処療法以外の案など浮かぶわけもなく、ウィリアムの案に頷いた。
「それじゃ議会が終わり次第、私はウィル坊……ストムロック卿と一緒にアンジェリスに向かうわ。
もしかしたら転移者の中に知り合いがいるかもしれないし、一人だけ知り合いにいい意味での心当たりもあるし」
(正直、アイツを巻き込むみたいで気は引けるんだけど、そうも言ってられない状況なのよね)
あえて一度『ウィル坊』と言ったのを訂正してアリスは今後の方針を口にする。
そこで扇子を閉じる音が部屋に響いた。
「それじゃ、会議を再開しんすよ!
ただし、議会解散後は各々通信魔導具を常に手元におきんしょう!」
扇子を閉じたアマツが一度この話題を終わりにする為の言葉を口にする。
それを聞いた各々が一度ため息をついて、いつの間にか各々の従者が用意していたカップに口をつける。
その辺りの気遣いはさすがと言えるだろう。
「それでは次はアーデンベルグ卿の報告を聞こうかっ!」
今まで黙って成り行きを見守っていたオーウェンが、ブラッドフォードに報告をするように促すと、ブラッドフォードは席から立ち上がり、先ほどまでお茶と一緒に飲んでいた胃薬を仕舞って額の汗を一度拭いた。
「ブラッドフォード・アーデンベルグ伯爵です。
それではアーデンベルグ領のこの二ヶ月の状況を報告させていただきます……」
会議は廻る。世界も廻る。
アリスの予想を超えた情報がこの世界に激動の訪れを告げる。
40年以上に及ぶこの国の平和は今、終わりを告げ、激動が始まる。
――そこは澄み渡る青空の下だった。周りには突然のことに数日経った今でも混乱が拭えず騒がしい人々がいる。
落ち着いている人も少なからずいるが、混乱しているか、この状況をフィクションかなにかと勘違いしているのがほとんどだ。
そんな中を真っ白な鎧に身を包んだ騎士然とした赤髪の美青年が歩く。青年は側頭部から前方に向いた角を一対生やしていた。
赤髪の青年は全体を見渡しながらこの状況を冷静に考察していた。
(周りの人達が言うとおり、異世界転移ってのは間違いないだろうな。
最初に身体の動きがぎこちなかったのはシステムアシストが消えたからか。
だとすれば様々なものがゲームとは違うんだろうなぁ。
数日前にきたストムロック伯爵って人は僕達の対応は議会で決めるって言ってたけど、見た感じやり手っぽかったし、期待はしてもいいかもな。
それにしても、見かけないけど『アリス』の奴は無事なんだろうか……)
アリスを知る青年はただ一人この状況をどうするか考える。
ただ冷静に、この世界の『現実』を正面から見据え、模索する。
それはこの世界に順応する素質なのか、それとも別な何かなのか……。
なんとか会議の終了までこれました。
最後に出てきた青年は一体何者なんだ!(棒読み)
補助ジョブの下り少し変更しました