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第28章 大狩猟祭3

かなり遅くなりましたが投稿です。

皆様、いつもありがとうございます。


 ――大狩猟祭が開始してすぐに、森と荒野の境界に爆発みたいな音が何度も鳴り響いていた。


「どっせーい! これで10匹目だぁ!」


 その犯人は元気にモンスターを殴り飛ばすメイだった。彼女の討伐ペースは大狩猟祭に限定して言えば、特別速いものでもない。というのも、この大狩猟祭、パーティー人数に制限が存在しない。討伐数はパーティー人数で割ることになるが、大人数で討伐すれば短時間で二桁狩ることは可能なのだ。

 

「さて、僕達もそろそろ動き出そうか」


 ただし、この討伐数はメイが一人で狩りをして出た数字であり、ただ見ているだけだったカイトと王牙が参戦すれば討伐数は劇的に増加する。

 実際に二人が参戦すると、加速度的に討伐数が増えていく。


「よっしゃぁ、どんどんいっくよー!」


「『フィニッシャー』が先陣切ってどうするんだよ……」


 フィニッシャーは文字通りトドメを刺すのがメインの役割なのだが、現在のメイからはフィニッシャーらしさは微塵も感じることはできなかった。

 それについて王牙が呆れた表情で口にするが、メイは元気にサムズアップするだけで後ろに下がる気配はまったくなかった。

 狩りが順調に進めば優勝するのは、おそらくカイト達のパーティーになるだろう。順調に進めばの話だが……。


「よっしゃぁ! もっと来いやぁ!」


 今のところ何も心配するころはないらしい。


 ――補給ポイントの周囲では無数の冒険者達が優勝を目指して狩りに勤しんでいた。戦場にも声が鳴り響いているが、それ以上に怒声が飛び交うのが補給ポイントだ。

 回復魔法を使う者、アイテムを運ぶ者、皆激しく動き回り、指示一つにしてもとんでもない大声が上がる。冒険者達が安心して祭りを楽しめるのは、この補給ポイントの存在があってこそだ。

 大狩猟祭が生まれた当時は補給ポイントなどなく、密猟者の起こした事態の収拾に少しの景品を付ける程度だった。それが、領地の発展と共に補給ポイントの設置や、周囲の完全封鎖、密猟者『いないはずのハイエナ』とその依頼主である『飼い主』の対処など、様々な形で安全性を高めることになった。一番大きいのは町が結界で守られるようになったことと、高い実力を持つ従者三人とSランク冒険者の誕生だろう。


「こっちはポーションの追加だ。さっさと持って来い!」


 補給ポイントで怒号が飛び交う中、唐突に補給ポイントから少し離れた地点に大きな粉塵が立ち上り、続いて怒号を凌ぐ程の爆発音が響き渡った。


「な、なんだぁ!?」


 補給ポイントで治療を受けていた冒険者の一人が驚愕に声を上げた。

 粉塵は一度では終わらず、二度三度と続いていく。その度に耳をつんざくような爆音が聞こえてくる。

 その粉塵の中で何が起きているのか、それを予想できるものはこの場には誰もいない。その正体が領主の趣味から生まれた『秘密兵器』であることを、冒険者達が知るのはこの大狩猟祭が終わった後のことだった。


 ――爆発音はかすかにだがカイト達の耳にも届いていた。粉塵こそ見えなかったが、見えないということがどれだけ遠くから響いてきたのかを物語っている。


「うへぇ、これってさー……」


「ここまで音だけが届く程の大火力なんて、転移者関連しかないだろうね。どう思う、アリス?」


 驚いて口が塞がらないメイの言葉にカイトは自身の予想を口にするが、その言葉の最後にここにいないはずの相手の名前を呼んだ。


「いるんだろ? もしかして、あれってLDかい?」


 カイトが森に向かって言葉を投げかける。他の二人は状況が理解できずに首を傾げてしまう。


「そうね、私が趣味で作った装備を使えるようにしたのよ。でも、私がいるってよく気付いたわね?」


 木の影からいつもの余裕のある表情で、いつものドレスに着替えたアリスが姿を現す。腕を組んだまま三人の前に姿を現すと、その場から動かずに視線を向ける。


「ええー! 何で冒険王がいるのー? まさか、一緒に狩りに参加してくれるとか!」


 メイとしては憧れの冒険王と一緒に狩りができるかもしれないと、考えるだけで昂揚してしまう。

 しかし、アリスは首を横に振ると、メイは目に見えて落ち込んでしまう。そして、アリスはカイトに視線を向けて、先ほどの問いの答えを待つ。


「まぁ、対プレイヤー用の索敵スキルは用意してたからね。いつ何が起こるかわからないんだからそれくらいはするさ」


 カイトがそう答えると、アリスは目を細めて『ふ~ん』と軽く流す。


「私としてはもう少しあなた達が、モンスターを狩ってから顔を出すつもりだったんだけど……」


 アリスがアイテムボックスから愛用の剣『背徳竜の牙』を取り出す。そして、それをカイトへ向けて突き出すと、小さく笑みを浮かべた。


「見つかってしまったものは仕方ないわね。さぁ、剣を抜きなさいカイト。躾のなっていないトカゲに少しお灸を据えてあげるわ。怪我の心配はしなくていいわよ。ポーション類もちゃんと完備してるし、致命傷になる前に降参させてあげるから」


 その言葉の意味が理解できず、カイトは目を白黒させて呆けた表情を浮かべる。それに対してアリスは小さくため息を吐きだした。


「私が気付いていないとでも思っていたの? あなたが私に対して欲情していることくらい知っているのよ。ドラゴンの本能だかなんだか知らないけど、『親友』相手でもそんな風になるなんて難儀なものね」


 アリスの指摘にカイトは先日、黒竜王から言われたことを思い出す。


 ――その本能を自身で御せぬのなら、アリスと全力で戦い負けてしまえばいい。そうすればその本能は治まる。

 もし勝てたならそのままモノにしてまうのもありだしな。


 黒竜王の言ったことが現実となって目の前に存在している。カイトは言われた時は必死になって拒否したが、負けることを前提とできるならそれもありだと考えていた。

 だが、自分が勝ってしまえば、もうそれ以上は抑えることができそうにない。それは何より避けたいことだった。

 そんなカイトの内心を察したのか、アリスが不快そうな表情を浮かべて口を開いた。


「あなた、まさか私に勝てるとでも思っているのかしら?

……舐めるなよ小僧が。私は50年、50年この世界で生きてきた。足掻いてきた。磨いてきた。この50年、一年にも満たない時間で覆せるとでも思ってる? 調子に乗るんじゃねーぞ、カイトッ!」


 アリスがかつての『青年』だったころの口調で声を荒らげる。その気迫にカイトは気圧されそうになるのを耐えることしかできなかった。メイと王牙など、明らかに以前と様子の違う姿に目を見開いて固まってしまっている。

 アリスの瞳は引く気がないことを示すかのように、真っ直ぐとカイトを視線で射抜いていた。


(『親友』としか見られてないとか、そんなことはどうでもいい。もう、抑えがきかないな……)


 カイトが剣を抜いてアリスへと向ける。その表情は獰猛な獣のように歪んでいた。


「領主だか辺境伯だか知らないけど、吸血鬼のくせに真昼間に喧嘩売ってくるとか、舐めてるのはどっちだよ!」


「あら、そのためにわざわざこの場所を指定したのよ。ほら、ここの木々ってば元気に育ってるでしょ?」


 カイトの反論に対して、いつもの口調に戻ったアリスが言葉で森の木々を示して言った。

 二人の視線がぶつかる。メイと王牙を置き去りにして二人の世界が展開される。

 カイトが大地を蹴ってアリスとの距離を詰めた。そして、剣を振る直前……。


「がっ……」


 アリスの回し蹴りを受けて転倒する。その隙にアリスは森の木々の下、陽の光の届かない場所へと移動した。


(ちっ、遠距離攻撃をさせたくなくて近付いたけど、読まれてたか)


 再び剣を構えてアリスに向かっていく。距離が縮まっていくが、アリスは動く気配を見せない。

 アリスに剣が届くまであと二歩と言うところで地面が爆発した。カイトはそれに足を取られて身体が傾く。

 急いでアリスへと視線を向ければ、目の前から剣が突き出されているのが見えた。それを傾いた勢いのまま転がることでなんとか避ける。

 大きく息を吐きながら剣の突き出された先に目を向けると、アリスが笑みを浮かべていた。


「うまく逃げるのね。折角魔導具も事前に仕掛けておいたのに」


「ああ、君が錬金術師だってことを忘れてたよ」


 魔導具を事前に仕掛けて待ち構えていた。それだけでアリスの本気を伺うことができる。

 カイトは苦しそうに呼吸を整えている間、アリスは動くことなく自然体で佇んでいる。


(完全に向こうのペースじゃないか……)


 カイトは今度は罠にはまらないように静かに、だけど着実にアリスへと近付いていく。

 次の瞬間、火薬の破裂音が響いて何かがカイトの顔の横を通り過ぎた。


「はっ?」


 アリスの手には銃が二丁握られていた。AWO時代のアリスは銃など使用していなかった。専用のスキルを一切習得していなかったのだから当然だ。

 だから、カイトはその光景に呆気に取られてしまった。動きを止めてしまったのだ。アリスの『姿が消えた』のにも反応できず、自身の首元へと刃が迫るまで動くことができなかった。

 寸でのところでクラッシュ・リフレクターを発動して攻撃だけは防ぐことができたが、弾かれた反動で距離を離したアリスを目で追うことはできなかった。


「致命傷がどうとかって話はなんだったんだい……」


 首を刈られれば間違いなく致命傷だ。それを躊躇なく振りぬいた、大鎌を構えたアリスは冷めた目でカイトを見つめるだけだった。


「本気なんだね。どうしてかなんてもう聞かないさ。でも……」


 カイトは先ほどアリスがやったのと同じように、縮地法を用いて距離を詰める。今度は罠もなく、ようやくアリスの目の前までくることができた。


「僕だって強くなっているっ!」


 剣を横向きに構えて、アリスと視線が合った。一瞬だけ剣が止まるが、すぐに剣にディバイン・スラッシュを纏わせてアリスへと振りぬく。

 アリスは吸血鬼であり聖属性に弱く、また闇属性を強化して聖属性耐性を下げる装備を付けている。カイトはそれを知っているからこそ、聖属性で一気に決めにかかる。

 だが、剣を振りぬく瞬間、見えたアリスの表情は怒りで歪んでいた。

 剣に対してアリスは武器を投げ捨てて左腕を突き出す形で迎え撃つ。左腕はそのまま、カイトの剣に切り飛ばされるが、前に進むことで剣が身体に届くことはなかった。

 アリスの顔が苦痛に歪む。アリスは残った右手を握り締めて、カイトの顔面へと振りぬいた。

 カイトは予想外の攻撃方法に対処できず、拳をそのまま受けて身体を宙に浮かせることになった。浮いた身体は重力に逆らえず背中から地面に落ちる。

 一瞬、カイトの目の前が暗くなるが、視界はすぐに戻ってアリスの姿を映し出した。

 瞳には涙が溜まり、その顔は今にも泣き出しそうな表情をしていた。

 カイトには何が起きているのかが理解できなかった。何故アリスが泣きそうになっているのか、何故そこまでして戦おうとするのか。

 疑問に頭が混乱していると、上からアリスの声が響いた。


「ふざけんなっ! 真面目にやれよ。こっちはもう、覚悟決めてきてんだよ!」


 アリスの訴えを受けてカイトは思い出してしまう。かつて彼が『青年』に恋することになった、その時の出来事をだ。


というわけで、大狩猟祭メインイベント、アリスVSカイト開幕です。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです

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