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第28章 大狩猟祭2

お待たせしました。

いつも見に来てくださってありがとうございます。

ブクマも評価も本当にありがとうございます。


 ――大狩猟祭開催の朝、ギルド前の広場は今日だけは臨時受付もなく、開催を待ちわびる人々でごった返している。

 だが、この広場に集まっているのは参加者だけではない。広場の出入り口や隅には参加者目当ての屋台が立ち並んでいた。開会までの間暇を潰す冒険者や、休憩中のギルド職員、更には補給ポイントに関係する人々など、様々なヒトが屋台を利用している。

 余談だが、すでに開会時間は二十分ほど過ぎている。理由はとある合法ロリ領主が裏でごねているからだが、毎年のことなので誰も気にしない。


「う~ん、あの子はまーだ、ごねてんのかねぇ」


「まぁ、毎年のことですから」


 イェレナが会場の端の方でアゲパンなる油で揚げて砂糖をまぶしたパンを食べながら、同僚と開会式が始まるのを待っていた。

 同僚はグリムス領の元冒険者だけあって開会式の遅れにもなれており、イェレナの愚痴にも無難な返事で返すだけでのんびりとした態度だった。

 慣れているのは職員だけでなく、この場にいるほとんどのヒトが思い思いの行動をとって楽しんでいる。一部の一年以内にこの領に来た冒険者は少し心配しているようだが、周りの様子が落ち着いているため騒ぎはしなかった。


「あの子は変なところで妙に乙女だからねぇ……」


 アリスの酸いも甘いも、『初恋』も知っているイェレナには、恥ずかしがって出て来れないアリスの姿が容易に想像できた。

 そんな姿を想像して呆れたような笑みを浮かべながら、アゲパンの最後の一口を口の中に放り込む。


「でも、いい加減出てきてくれないと日が暮れちまうんじゃないか……」


 ――会場の裏に少女の声が木霊する。少女はタオルを何枚も羽織って蓑虫みたいな姿をしていた。


「もう、何で毎年、毎年、私みたいな容姿にこんな格好させるのよ!」


 少女とはもちろんアリスである。開会を前にしてアリスは駄々をこねて、会場入りを拒否し続けていた。


「いい加減にしやがってください。さっさとロリコン共の今日の夜のおかずになってきてください」


 モアが呆れた表情で、仮にも主であるアリスをロリコン共に売り渡すような発言をする。

 あんまりな言い草にアリスはモアを睨みつける。


「うぅ……」


 時間が押していることはアリスも理解している。それでも足はなかなか会場へと向かず、その場で止まってしまう。


「それに、早く開会式をしないと色々と赤字になります。なので、とっとと行ってください。てか、行け」


「それが従者の言う事か……。あー、もう、わかったわよ。行くわよ!」


 アリスはヤケクソ気味に叫び声を上げて、近く置いてあった『耳』を引っ掴む。『耳』見ながら唸ると、控え室の出口まで歩いていき、止まった。

 目を閉じて深呼吸を繰り返す。そして、『耳』頭に装着して、タオルを脱ぎ捨てて扉を開けた。


――カイト達は他の冒険者と同じように、会場の中で開会式が始まるのを待っていた。初めての参加なので、なかなかアリスが現れないことに心配してはいたが、他の初参加者と同じように慌ててはいなかった。


(アリス、遅いなぁ。今更コスプレで尻込みするとは思えないし、どうしたんだろ?)


 AWO時代のアリスはアバター狂い筆頭四人衆と呼ばれるくらいに、アバターに貢いでいた。コスプレにしか見えない外観の装備は数え切れないほど持っていた。


 ――どうよっ! このアリスのめちゃかわコス!


 とか言って、様々な服装を披露していたのだ。装備外観の中にはビキニアーマーなどの、露出度の高いものもあったのだ。その記憶がある故に、カイトはアリスの現状を予想することができなかった。それ故に、転写紙に写っていたアリスの頬が羞恥に染まっていたことに気付いていなかった。

 そんな感じで待っていると、会場の前方、領主の屋敷の前に設置された壇上に動きがあった。

 壇上に一人の人物が規則正しい歩幅、伸びた背筋で歩いている。その人物、イカリはマイク(魔法動力)の前に立つと、数度マイクを叩いて口を開く。


「あー、マイクテスト、マイクテスト……。皆様、お待たせいたしました。これよりグリムス領領主、アリス・ドラクレア・グリムス辺境伯による、大狩猟祭開催の挨拶を始めます」


 そう言って、イカリは自分の腰くらいの高さのマイクスタンドにマイクを差し込むと、来た時と同じようにして壇上を降りる。

 それと入れ替わるようにアリスが壇上に姿を現す。その姿は黒いワンピースの水着なようなものを着て、下半身に網タイツを穿いている。頭に付けたウサギのような耳のカチューシャがその正体を物語っていた。


((今年はバ、バニーガールか!))


 そう、それは参加者達が気付いたとおり、バニーガールだった。参加者達が頬を染めながら壇上に上がるアリスの姿に、和んだところで彼女が口を開いた。


「あなた達は毎年、毎年……。いい加減にしないと暴れるわよ。あとロリコンは死罪にしてやるっ!」


 開幕、罵声を浴びせた。もはや威厳などありもしない。

 だが、そんなアリスの姿に慣れた冒険者達は拳を振り上げて歓声を上げる。それを見てアリスは悔しそうな表情を浮かべる。心なしか目じりにも涙が見えるような気がする。


「むぐぅ……、絶対許さないわよあなた達。もうっ、さっさと開会式やるわよ!」


 アリスがやけっぱちになって、好ましくない空気の中で無理矢理開会式を続行する。知らないヒトが見れば、子どもが壇上でかわいらしく怒っているように見えるだろう。


「これより、大狩猟祭を開催するわ。あなた達、命大事をモットーに大いに祭りを楽しみなさい!」


 アリスの簡単な挨拶を受けて、先ほどの倍はあろうかという歓声が会場に響き渡る。あまりの歓声に周囲の屋台が振動しているのがわかる。

 その歓声は一度で終わらず、何度も繰り返し上げられる。その度に屋台が、ギルドの建物が、そしてアリスのいる舞台が激しく揺れ動く。

 初参加の者達はそのあまりの熱気に半ば呑まれていた。それはカイト達も例外ではなく、自身の内側から熱く滾るモノが溢れそうになっているのを感じていた。


「はいはい、静かにしなさい。まずは、補給ポイントの担当がまず町を出るわ。あなた達参加者はその一時間後に出発。決められた範囲で、存分に獲物を狩りなさい。細かいことは町の入り口のギルド職員が説明してくれるわ」


 アリスの言葉を受けて歓声が鳴り止み、その後の説明に耳を傾ける。

 開会式は残すところ締めの言葉のみとなったのだが、アリスはそれをなかなか口に出すことはなかった。参加者達も締めの言葉を今か今かと待っている。

 少しの間、沈黙が会場を支配していたが、アリスが小さなため息をついて締めの言葉を口にする。


「それじゃぁ、開会式を終わるわ……。参加者の皆様、がんばってください……ぴょん」


 アリスが顔を真っ赤にして終了の挨拶をする。これは、いつの間にか『開会式の最後の挨拶はコスチュームに合った言葉で参加者を激励する』という謎の決まりができた結果である。

 アリスの『ぴょん』を聞いて、一部ロリコンが大歓声を上げる。アリスは涙目になって壇上を走り去っていった。


(こういう初々しいアリスもいいなぁ)


 ずっとアリスのバニーガール姿に見惚れていたカイトはそんなことを考えていた。


「うわぁ、カイト、顔キモッ」


 唐突に聞こえたメイの言葉に我に返ると、恐る恐る仲間達に顔を向ける。王牙は目を背けており、メイは珍しく表情が引き攣っていた。LDに至っては、開会式前よりも距離が開いている気がする。


「カイト、めっちゃ鼻の下伸びてた。ちょーキモかったよ」


 カイトはそう言われて驚いた表情で、鼻の下を手で隠した。そして、空を仰ぎ見る。


(あぁ、空、青いなぁ……)


 仲間達から受ける軽蔑の視線から逃れるように、現実逃避をしながらさっきのアリスの姿を思い出す。


(アリスって、あんなコスプレ程度で恥ずかしがる奴だったっけ?)


 知らないアリスの姿に少し、心がざわついた。


 ――会場の裏で、アリスが着替えもせずに座り込んでいた。腕には大きなぬいぐるみを抱きしめ、頬は真っ赤に染まっている。涙目で唸り声を上げるアリスは、ジト目でモアを睨んでいる。


「うぅ~、何で毎年、私がこんな恥ずかしい思いしないといけないのよ」


「マスターも随分と乙女らしくなりやがりましたね。本当に元男ですか? あぁ、違いますね。元男だからできる、男心をくすぐる乙女姿ですもんね」


 モアの指摘を受けて、アリスの身体が跳ね上がる。モアに向ける視線は恨みがましいものに変わり、口元はぬいぐるみにうずめている。

 アリスの性格はAWO時代のロールプレイをベースに、『初恋』を期に乙女回路が増量されたことによりできあがっている。だが、乙女心による反応はあくまで元男が行うため、あざとさが拭えない感じになってしまっている。

 結果として男が望む女性の姿がそのまま現実になってしまったのだ。これは、娼婦になった元男の転移者にも見られる傾向で、男心を理解する女性という女の天敵ができあがってしまった。それでもままならない本来の女性を好む男性も多くいるので、女性が見向きもされなくなるということはなかった。

 アリスの今の姿は男の夢想する『愛らしい少女』そのものであり、あれだけの歓声が上がったのもそれが一因となっている。アリス自身がそれを望むか否かは、そこに何の意味も持たない。


「そんなことより、準備はできているんでしょうね?」


 アリスがぬいぐるみを抱く腕に力を込めて聞く。


「問題ねーです。ギルド職員経由で言伝が行くようにしてあります。あとは予定地点に行けば大丈夫です」


 それを聞いて、アリスが更に腕に力を入れる。顔はぬいぐるみに埋めたままで、眉間を寄せて泣きそうな表情を浮かべる。

 ぬいぐるみを抱きながら小さく丸まったアリスは、視線をモアから外してぬいぐるみの頭頂部を見つめる。


「あなたも配置についてちょうだい。私は少し休憩してから着替えるから」


 アリスは沈んだ声で指示を出す。モアは指示に従って、部屋を出て自分の配置に向けて移動を始める。部屋の中にはアリスだけが残される。


「やだな、嫌われたくないな……」


 小さく漏れた言葉に続いて、部屋の中にアリスの嗚咽だけが響く。


 ――カイト達は町の入り口でギルド職員から伝言を聞いていた。伝言の主はモアで、その内容は狩場に関することだった。


「うむ、俺達は指定の範囲以外には行くなということか」


 王牙が伝言の内容を噛み砕いて口に出す。伝言は狩場の指定、理由はLV250が三人もいると、他の参加者がまともに戦闘できないからというものだった。

 LDは一人なので問題ないらしいことに少し納得できないが、理由が真っ当なだけあって拒否するつもりもなかった。

 だが、カイトの心中には何かが引っかかっていた。


(何か、嫌な予感がするな……)


 こうして大狩猟祭が幕を開ける。この日、カイトはアリスの50年を本当の意味で知ることになる。その重さを、その変化を……。


アリスのコスはバニーガールになりました。

仕方ないね。だって私がバニーガール好きなんだもん。

TSの醍醐味の一つは男心のよくわかる女性というものだと思うのです。

次回も楽しみにしてくださると嬉しいです。

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