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第27章 竜の箱庭6

お待たせしました。

今回もご来訪ありがとうございます。

久しぶりに五千字越えた気がする。


 『真竜』はAWOでは竜人の階位の五番目、つまり一番上の階位である。この階位に至るには真竜帝と一対一で殴り合う必要があり、全種族中最大難易度を誇る階位昇格クエストをこなした証でもある。

 余談だが、このクエストを十数回失敗してようやくクリアしている。

 そして、この世界において真竜はどのドラゴンの巣でも確認されていない。だが、長い時を生きているドラゴンは、この世界で唯一とも言える真竜、真竜帝の存在を知っている。有史以前より存在していると言われる真竜帝は、完全なる不死であるとも言われている。

 そして真竜帝に認められて、その血を与えられた真竜もまた永遠の寿命を持つ存在となる。永遠に等しいと言われる寿命を持つドラゴンの中でも特別な存在、それが真竜なのだ。


「真竜帝を知っているなら、トリプルシックスについても知ってるよね?」


 カイトのその言葉と同時に黒竜王の腹部に鈍い痛みが走った。カイトの姿は元の場所になく、黒竜王の懐で拳を突き出した姿勢で立っていた。

 次の瞬間にはカイトの姿は再び消え、黒竜王の首元へと翼を羽ばたかせて飛んで来ていた。今度は完全には見失わなかったが、その速度に対応できるかは別の話だった。すぐに首に鋭い痛みが流れ、カイトのオーラの尻尾が振りぬかれた姿勢で揺れていた。

 黒竜王の首の鱗は切り裂かれ、そこから血が止め処なく流れ出している。


 ドラゴンズシックスすら凌駕する身体強化、それがトリプルシックスの正体である。正確にはドラゴンズシックスの性能を引き上げるアクティブスキルだ。更に、オーラの翼と爪、尻尾が生えてドラゴンの固有スキルが使用可能になる。

 これだけの恩恵があるが、デメリットも当然存在している。パッシブスキル以外のスキル、及び武器と盾の使用不可である。

 結果AWO時代では死にスキル――有用な効果や使用法がないスキル――とまで言われていて、使用するプレイヤーは多くはなかった。第五階位はLV250が前提条件の一つであり、ステータスやスキル構成が完成しているプレイヤーが多かった。そのため、使用しない方が強いプレイヤーがほとんどだったのだ。

 ついでに言えば、最難関クエストをクリアして得られるスキルが、これであるためプレイヤーの怒りの炎は燃え上がる結果になった。実装当初、運営チームはクレーム処理に徹夜を余儀なくされたという伝説もある。


「ありえん、真竜は真竜帝だけのはずだ! 小僧、貴様どうやって真竜に至ったというのだ!」


 黒竜王は真竜が存在することを信じることが出来ず、今までの余裕のある態度が崩れて感情のままに叫びをあげる。

 カイトはその疑問に対して、大きくため息を吐いて呆れた様子で見つめるだけで、答えを返そうとはしなかった。カイトは言葉の代わりとでも言うかのように、再び高速で動いて背中へと爪を横薙ぎに振るう。

 その一撃は黒竜王を完全に捉えることはなかった。カイトの速さに対応できたわけではない。長年培ってきた戦いの勘が、黒竜王の身体を一歩前へと動かしたのだ。

 この行動にはカイトも目を見開いて驚いている。その隙を逃すほど黒竜王は甘くはない。


「もらったぞ、小僧!」


 カイトは横から黒竜王の巨大な裏拳を受けることになった。カイトは空を滑って横へと吹き飛ばされるが、すぐに翼でブレーキをかけて止まる。だが、止まった直後に巨大な火球を正面から受けることになり、そのまま地面に墜落していき、地面から土煙を巻き上げた。火球には気付いてはいたが、避けるには間に合わず、ガードもできなかったのだ。

 武器や盾が持てず、トリプルシックス専用スキル以外のアクティブスキルが使用できない弊害がここで出てくる。ガード系スキルも一切使用できないため、神聖騎士の特徴である攻防一体の戦闘方法ができないのだ。


「どうやら、貴様には経験が足りんようだな。強者と戦ったことはないのだろ?」


 更に、黒竜王が言った通りで、この世界に来てからカイトはLV差50以内の相手とまともに戦ったことがなかった。AWO時代のシステムアシストがない状態での、強者との初めての戦闘は完全に未知の体験だったのだ。


(ちっ、確かにアイツの言うとおりだ……。でも……)


「こんな程度で終わるわけないだろ?」


 土煙の中から現れたカイトの姿は、それほど傷を負っているようには見えなかった。衝撃と熱でそこそこのダメージは受けたが、賊の鬼人と戦った時ほどの重症ではない。

 その最大の理由は装備にあった。手に持つ装備こそ使えないが、鎧や防具の類は使える。そして、カイトが身に纏うのは『天輝竜の鎧』という最高レア度の創世級装備なのだ。

 カイトの装備は剣と鎧がこの『天輝竜』と付く創世級装備であり、創世級装備はアリスでも一つしか所持していない。

 更に『天輝竜』装備をドロップするモンスターは、レイドボス『天輝竜アニマ』である。レイドボスのレアドロップは通常、ドロップした後に参加者でオークションをして所有者を決める。ただですらドロップ率はそれ程高くないのに加えて、オークションで勝たなければいけないのだから、入手難易度は想像を絶する。

 カイトはそれを二つも装備していたのだ。それも『始原竜アーカーシャ』と並ぶ最強のドラゴンの装備だ。


「その鎧は天なる竜の遺産なのか?」


 無傷のカイトに驚いていた黒竜王だったが、その鎧の正体に気付いて表情を恐怖へと変えた。

 これはカイトの知らないことだが、天なる竜『天輝竜』は『二つの世界』の伝説に出てくるだけの存在だ。AWOにおいては『創世神』により生み出された光という概念の化身として、この世界では世界に光をもたらした光そのものとして描かれている。

 創世神の有無の違いこそあるが、双方ともに同様の伝説と言っていい。真竜帝すら凌ぐ天そのもの、それが『天輝竜』なのだ。


「ちなみに、さっきまで使ってた剣も『天輝竜の宝聖剣』だよ」


「なっ……!」


 カイトには理由はわからないが、黒竜王が天輝竜装備の存在に驚いているのは好都合だった。場の空気がカイトに味方している状況は、彼にとって好ましい展開だ。

 驚愕する黒竜王を無視してカイトは再び距離を詰めるべく、空中を真っ直ぐに駆け抜ける。地上戦の時のようにジグザグに動かないのは、そう動けないからだ。カイトがトリプルシックスの飛行スキルを使うのは、この世界では初めてであるため真っ直ぐ飛ぶことしか出来ないのだ。


「シッ!」


 黒竜王がそれに気付いた時にはすでにカイトは爪を振るった後だった。その一撃は黒竜王の胸を抉り、傷口からは血が噴出している。

 カイトは返り血を浴びるより早く、黒竜王の尻尾まで移動する。尻尾を両手で抱えると、その巨体を持ち上げて全力で振り上げる。


「ゼェァアッ!」


 そして、雄叫びを上げた後に黒竜王をそのまま地面を砕く勢いで叩き付けた。叩き付けられた地面は巨大なクレーターへと変わり、その道具にされた黒竜王はあまりの衝撃に口から血を勢いよく吐き出す。

 カイトはその様子を見下ろしながら、トリプルシックスを解除して剣と盾を取り出した。そして、剣を振り上げて……。


「待て、まいった。我の負けだ……」


 剣が振り下ろされることはなかった。

カイトは剣を鞘に納めると、黒竜王を見て口を開いた。


「僕の勝ちだね。それじゃ、アリスのことは諦めてもらうよ」


「ああ、わかっている。『お前に勝つまで』はアリスに求愛するのはやめておこう」


 黒竜王としてはドラゴンとして当然のことを言ったつもりなのだが、カイトとしては呆れるばかりであった。


(それって、アリスへの求愛から僕へのリベンジに標的が変わっただけじゃないか?)


 それでも、自分がモノにすると決めた女性に言い寄られるよりは、ずっとマシだと言い聞かせてカイトは自分を無理矢理納得させる。


「あと、これ、飲んでおきなよ。そんなボロボロの姿じゃ皆の前に戻れないだろう?」


 そう言ってカイトはポーションを二本取り出して、一本を黒竜王へと投げつけた。

 それを受け取った黒竜王は疑うことをせずに一気に飲み干した。自身と死闘を演じた相手が、その誇りを汚すような真似はしないだろうという信頼故だ。

 カイトももう一本のポーションを飲んで一息つく。

 二人の身体は見る見るうちに戦闘前の姿を取り戻していき、一分もしない内に元の無傷の姿に戻ってしまう。


「凄まじいな……。それだけの力を持ち、これだけの財があるなら、今まで強者に出会えなかったのも頷ける話しか……」


 黒竜王はカイトから受け取ったポーションの効果に感嘆の言葉を漏らしながら、カイトの能力と経験の歪なバランスに納得する。

 カイトは実際には違うのだが、誤解してくれるならそれでいいと考えてあえて訂正することはしなかった。

 二頭は互いの傷が癒えるのを確認して巣へ戻る為に立ち上がった。互いの顔を見合わせた後、二頭は並んで皆が待つ場所へと歩き始めた。


――カイト達が巣に戻った時に見たのは、死屍累々なドラゴン達と王牙に正座で叱られているメイの姿だった。


「何があったというのだ?」


 黒竜王が疑問を口にする。カイトも全く同じ感想を抱いており、口を開けて固まってしまっている。


「どうやら、そちらは終わったようですね」


 横からLDが姿を現して、状況が理解できないカイト達に事情を説明する。

 ドラゴン達の質問と決闘要求にメイの思考回路が限界を超えてしまい、メイが大暴走。ドラゴン達を千切っては投げ、千切っては投げ、結果この有様らしい。

 正座して叱られているのは、その件で王牙の堪忍袋が大爆発を起こした結果らしい。


「お前は仲間も化け物揃いのようだな。はぁ……、まったく情けない」


 黒竜王は特に怒ることもなく、同族の不甲斐無さにため息を吐いた。

 巨体を揺らして倒れているドラゴン達に近付いていき、一頭一頭に回復魔法をかけていく。その姿を見てカイトは不意に疑問が頭を過ぎった。


「そういえば、決闘では魔法を使わなかったみたいだけど、何か理由があるのかい?」


 手加減された可能性を考えて、少し不機嫌な態度でカイトは疑問を口にした。それに対して返ってきた答えは意外なものだった。


「この姿で使える魔法やスキルには限界がある、人化すれば戦い辛い。そういうことだ」


(なるほど。単純に身体の問題だったのか)


 一部を除いてスキルや魔法は何故か人間に近い身体で使うことを前提して存在している。一説ではスキルや魔法をもたらしたのが、エルフの英雄『オーパル』だったからだと言われている。しかし、その真実は誰も知らない。

 疑問の解消されたカイトはLDへと向き直って、先ほどの死闘の結果を伝える。LDは最初から結果がわかっていたのか、特に何も言うことはなく頷いただけだった。


「そう反応が薄いと、僕としては少し凹むんだけどなぁ」


「あなたは何を言っているのですか? 私の望遠機能ならあの程度の距離は見ることは容易いのですよ」


 簡単そうに言うLDだが、距離にして数キロは離れている決闘場の様子が見えるというのはとんでもない話だ。

 いつものことなので、さすがにカイトももう驚きはしないが、呆れたように小さくため息を吐いた。


「トリプルシックスを使って、30近くLV差のある相手に吹き飛ばされるところもばっちり見てましたよ」


 瞬間、カイトは吐いていた息を一気に吸い込んでしまい盛大にむせ返ってしまう。見られたくない相手に見られたくない場面を見られたことに、顔が引き攣ってしまう。

 

「お、終わったのか。その様子じゃ勝ったみたいだな」


 王牙はカイトが帰ってきたことに気付いて、メイへの説教を一時中断して声をかける。

 カイトはLDの弄りから逃げる口実になると考え、口を開こうとする。しかし、これを口実にしようとしていたのは一人ではなかった。


「あぁ、無事勝っ」


「おお、おっかえりー。無事に勝ったみたいで何よりだよねー!」


 メイだった。王牙の説教から逃れるために、やけに必死な表情でカイトに話しかけながら近付いてくる。

 カイトの発言に食い込んでしまって微妙に気まずい空気が二人の間に流れ始める。

 そうして逃げるタイミングを逃した二人の方に手が置かれた。


「メイ、話はまだ終わっていないぞ」


「今回の戦闘の反省点をしっかり洗い出すべきと考えます」


 メイは王牙に引きずられていき、カイトは無表情のLDと二人きりになってしまう。

 数分後、そこには正座するメイと、魂が抜けたような表情でLDに弄られているカイトがいた。


「何をやってるんだい、まったく……」


 数少ないメイの暴走に巻き込まれなかった、青いドラゴンの女性が悪化した状況に呆れた表情を向けていた。

 この混沌は同胞の治療を終え、酒樽を担いできた黒竜王が来るまで続いた。


というわけで、戦闘終了です。

次回で27章は終了です。その後、大狩猟祭編本番の28章書いて、エピローグの29章です。

今回の大狩猟祭編のおまけは2章から5章まで辺りを書ければいいなと思います。

少なくとも3章までは入れたい。

では次回も楽しみにしてくださると嬉しいです。

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