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第27章 竜の箱庭4

今回も短めです。

定番の読者の皆様への感謝のドゲザァ、ありがとうございます!


 LDの言葉に驚愕する二人。


「いやいや、それはないんじゃないかい?」


 カイトがLDの急な発言に反論を口にするが、彼女は顔を向けることもせずに黒竜王へ視線を向け続ける。視線はそのままに、カイトの反論に対して答えを返す。


「マイスターに対してドラゴンの本能を抱く黒竜など黒竜王くらいでしょう。そこに加えてスキルの熟練具合、LVを考えれば、他に犯人はいません。ドラゴンには人化の魔法もありますし」


 ドラゴンの雄が持つ本能と能力を理由に、LDは黒竜王が今回の件の犯人だと結論付けた。

 当の黒竜王といえば、首を傾げて状況が理解できていないような素振りを見せていた。


「犯人とはなんの話だ?」


「誤魔化しても無駄です。グリムス領近辺には他にドラゴンの巣はありませんし、マイスターも他のドラゴンの巣には行っていないはずです。あなたが『奴隷娼婦事件』の犯人です」


 LDが再度指を突きつけると、黒竜王は今度は納得がいったのか一度だけ頷く。

 余談だが、犯人が冒険者でないことがわかった時点で、『変態冒険者(仮)捕獲作戦』の名前はなくなった。


「奴隷娼婦……、それなら私だな。だが事件とはどういうことだ? お前たちはアリスからの返事を持ってきたのではないのか?」


(あっさり認めたな。でも、これって……)


 黒竜王の言葉を聞いて内心驚くカイトだったが、その言葉がどこか噛み合っていないような気がして、眉間にしわを寄せて悩んでしまう。

 黒竜王は何度も唸りながら、なんとかLDの言っていることを理解しようとしていた。だが、先に状況に一石を投じたのはLDの方だった。


「もしかして……。奴隷娼婦の意味わかってますか?」


 黒竜王はその質問に対して、鼻で笑うと翼と腕を広げて自信満々な態度で口を開いた。


「当然わかっているとも! 人間は屈服させた相手を『奴隷』と呼び、交尾を専門とする者を『娼婦』と呼ぶのだろう。ならば、アリスこそ我が『奴隷娼婦』に相応しい!」


 瞬間、カイトと王牙の時間が止まった。ドラゴンはあまり人の世とは関わっていないが、ある程度の知識はある。ただ、今回はその中途半端な知識が原因で、認識が噛み合わず、現在の状況を招いてしまったのだ。二人はそれを理解したのだ。

 周りのドラゴン達は黒竜王の言葉に、頷いて尊敬の眼差しを向ける。


「おおっ! 鬼男、僕を君のどれ……」


「断固拒否する」


 若いドラゴンが再び求愛しようとしたことで、王牙は辛うじて復帰できた。あと、それでも食い気味に拒否するのは忘れない。


「大体理解できました。つまり、あなたはマイスターに求愛をしていたということですね。ですが……」


 LDが黒竜王の誤解を正すべく、奴隷や奴隷娼婦についての正しい知識を伝える。特に、それが人の世では侮辱にも等しい言葉であることには重点をおいて話した。

 それを聞いた黒竜王は大きな爪で顔を覆い隠して、自分のやらかしに後悔から出る唸り声を上げた。


「お前たちの間ではそんな意味の言葉だったのか……。アリスの奴は怒っていたか?」


 王と呼ばれる者にしてはやけに弱々しい声音で、黒竜王はアリスの様子を尋ねる。それに対してLDは首を横に振りながら答えを返す。


「その程度のことは大して気にはしていませんでした。マイスターは何者が今回の件の犯人なのか、そこだけが気にかかっていたようです」


 それを聞いて、黒竜王が安心したのか小さくため息を吐く。


「誤解だったわけだが、これで依頼は終りでいいのか?」


 王牙が一応リーダーということになっているカイトに問いかけるが、カイトは考え込んだまま返事を返すことをしなかった。

 LDは未だ黒竜王を見つめたままだし、さっきまで転げまわっていたメイはうつ伏せになって動きを止めていた。

 判断に困った王牙は頭をかきながら、どうしたものかと考えを巡らせていた。


「うぅむ、では次は堂々と『我が子を産め』と言いに行くことにしよう」


 黒竜王が今回の反省を述べたところで、カイトの視線が黒竜王へと向けられる。その目には敵意が宿っており、口は醜く歪んでいた。


「おい、それはないんじゃないかい? 『俺』を差し置いてアリスに子を産ませるだって? 雑魚が調子に乗るなよ」


 カイトがそう黒竜王に言った瞬間、周囲のドラゴン達が驚愕して一歩後ろに下がった。

 カイトの発した言葉は凡そ、普段の彼とはかけ離れたもので、周囲のドラゴンだけでなく、思考に沈んでいた王牙も目を見開いて驚いていた。

 今まで穏やかだった黒竜王も一瞬にいて殺気立った雰囲気へと変わり、カイトを強く睨みつけた。


「いくら同胞とはいえ、聞き捨てならないことを言うのだな。『竜王』たる我に対して、雑魚とは吠えたな小僧っ!」


 カイトは黒竜王の殺気を受けても、一歩も引かないどころか、逆に表情をより獰猛に歪める。


「おい、カイト、お前何を言って……」


「お前みたいな雑魚にアリスは勿体無いって言ってるんだよ。『竜王』風情がアリスをどうこうしようなんて、分を弁えろってことだね」


 仲間である王牙の制止すら、もはやカイトには届かない。カイトの目には『自分の狙った牝』を『横取りしようとする雄』しか見えていない。

 カイトの眼光を受けて、黒竜王も睨み返していたが、唐突に大口を開けて笑い始めた。


「グアッハッハッハ! 久しいな、ああ、久しいぞ。この箱庭の竜王になってから、我に挑んでくる同胞もいなかった。雄が同じ一匹の牝を欲する時、それは戦いの始まりと同意だ。

 負けた雄はリベンジを達成するまでその牝に手を出せなくなる、それがドラゴンの掟であり本能。やろうではないか同胞よ!」


 ドラゴンの雄がその欲情を治める方法は二つ。一つはそもそも対象の牝に負けてしまうこと、もう一つが同じ牝を欲する別の雄に負けることだ。

 故に、同じ牝を欲するなら二頭のドラゴンは戦い、敗者を決めなければならない。

 黒竜王の宣戦布告を聞いて、カイトは口の端を吊り上げて獰猛な笑みを浮かべる。


「ああ、いいよ、やろう。あんたがそれでアリスから手を引くなら、あんたが俺の障害になるなら、ぶっ潰してやるよ」


 カイトが一歩を踏み出す。踏み出した足は大地を砕き、回し蹴りを顔面に受けて後頭部から地面に叩きつけられた。

 カイトの向かいでは黒竜王が顎から地面に沈んでいた。


「女と取り合うのは勝手ですが、私たちがまだ避難してもいないのに始めないでください。周りが見えないにも程があります。いっぺん死んでみますか?」


 二頭のドラゴンを地面に静めたのはLDだった。カイトと黒竜王がこうなることは、LDには予想できていた。だから準備は怠っていない。スクロールとスキルによる強化は万全、いつでも二頭を蹴れるように注意もしていた。

 結果、二頭のドラゴンは地面に沈んで片や青空を仰ぎ見、片や土の味を口に感じていた。


「それじゃ、場所と状況を変えて再開でもなんでも好きにしてください」


 そう言ってLDはカイトの近くまで歩いていく。そして、カイトの耳元で呟く。


「頭は冷えましたか? AWOではないのだから、LV30前後の差なんて何が原因で覆るかわからないのですよ」


 それを聞いて、カイトは自分の頭が冷めていくのを感じた。今でも黒竜王を潰す気ではあるのだが、わずかに戻った冷静さが判断力と集中力を高めていく。


「ああ、恩に着るよ。おかげで頭が冴えてきた気がする」


 カイトは立ち上がると、表情からは獰猛さが鳴りを顰め、表向きはいつもの表情に見えた。


「場所を変えようか、君も周りに被害が出るのは不本意だろ? 僕も仲間が巻き込まれるのは避けたいからね」


 苦笑いしながらカイトが視線を逸らすと、その先には完全に伸びているメイがいた。

 もしも、そのまま戦っていたなら、確実にメイは巻き込まれていただろう。

 王牙はその視線の意味に気付くと、メイを持ち上げて肩に担いだ。そのまま、二頭のドラゴンから距離を取る。何故か若いドラゴン少女が引っ付いてきている。


「うむ、いいだろう。我々がやり合う時に使う場所がある。そこに案内しよう」


 半分地面に埋まっていた顎を引き抜いて、黒竜王はカイトにそう告げた。カイトもそれに頷いて答えると、二人で竜の闘技場へと歩き始めた。

 歩き始めてすぐに、黒竜王は何かを思い出したかのように一度止まると、LDの方を振り返って口を開いた。


「そうだ、お前も我が子……」


「現在この身体は妊娠及び出産に関する機能が使用できませんので、不可能です」


 本能があるからといって、節操なさすぎな気もするが、ドラゴンなので仕方ないことである。たぶん。

 現在は子を生すことができないこともあり、LDは当然のように断る。断り方も機械人らしいもので、拒否ではなく不可能であることを告げる形だ。


「うぅむ、よくわからんが、まだ子が産めぬのか。見た目に似合わず若いのだな」


 機械人など知らないドラゴン故の誤解をして、黒竜王は再びカイトを連れて歩き始めた。

 二頭の姿が見えなくなると、三人の周囲に雄牝関わらずドラゴンが寄って来る。

 そして、我先にと三人へと勝負を申し込む。強い雄を求める牝が王牙に群がれば、若いドラゴン少女が優先権を主張する。LDの下へはメイも強いのか質問に来るドラゴンや、単純に力比べをしたいドラゴンが集まってくる。

 

「てか、俺達はカイトの様子を見に行かなくていいのか?」


 そんな中、王牙は目下の心配事をLDに尋ねると、LDは適当に群がるドラゴンを捌きながら答えを返す。


「不要でしょう。多少でも冷静さが残っていれば、あとは『階位』の差で十二分に押し切れます」


「あー、そりゃそうか。カイトの『階位』なら当然そうなるよな」


 LDの答えに、王牙は目を細めて呆れた表情になって、ため息を吐きながら納得する。


「とりあえず、俺たちの状況をどうにかしないとな……」


 そう言って王牙が再び周囲に視線を向けると、牝のドラゴン達が輝いた瞳で近寄ってくる。だが、どのドラゴンも町などで暮らす種族と違って、聞いてくるのは好みのタイプとかではなく、どんな能力の牝に子を産ませたいかとか、そんな感じの明らかにズレた内容だった。


(でも、聞いた話じゃ鬼人も似たようなもんなんだったか)


 鬼人は力至上主義の種族故に、強い男が女を侍らすのが当たり前で、女たちもより強い男に侍ることが自身の女としての評価へと繋がる。だからといって、恋愛感情なんかが皆無な種族でもないのだが、強い男に惚れるのがほとんどだ。

 そんな鬼人の常識を思い出しながら、適当に周りのドラゴンを捌き始めるが、元々口がうまい方でもないので、なかなかうまく行かずに四苦八苦する羽目になった。


「う~、う~ん……。兄貴、モテ期かな? これは夢だね。じゃなきゃ、兄貴がもてるはずないもん」


 肩に担がれたメイがようやく目を覚ますが、その最初の一言が兄に対する辛辣な言葉な辺りメイらしいことだ。

 ただ、目覚めたタイミングは最悪だった。メイが目覚めたのに気付いた雄のドラゴン達が、王牙とメイのいる場所へと群がってくる。そして、その先にあるのは怒涛の勢いで申し込まれる、求愛と言う名の決闘の数々である。


「ほぇえ!? なになに~? これ、どーいうことなの。LDちゃーん、へるぷみ~!」


 王牙の肩の上でメイがLDに助けを求めるが、そのLDも現在ドラゴン達の対処に追われていて、とてもじゃないけど助けに行ける状況ではなかった。


「おぉおぅ、カイトはどこに行ったのさー。誰でもいいから、助けてー!」


 メイの悲痛な叫びが青空に響き渡った。

三人がこのドラゴンの波から開放されたのは、混乱したメイが手当たり次第にドラゴン達を殴り飛ばした後だった。


今回は事件解決パート(推理要素低)

まぁ、犯人はバレバレでしたかね。

次回から戦闘パート入ります

では次回、楽しみに待っててくださると嬉しいです

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