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第27章 竜の箱庭3

へい、おまち!

いつも見に来てくれて、読者の皆様ありがとうございます。

今回はちょっと短めです。

あと、22章2に挿絵追加しました。


「そろそろ正気に戻って下さい。じゃないと、肘の辺りを殴りますよ」


 肘の裏側を殴られる。そう聞いて三人は一瞬身体をビクつかせて、視線をLDに向ける。ドラゴンの女性は何のことかわからず頭を傾げていた。


「それは……、できればやめてほしいな」


 肘の辺りの神経が通っているのが浅い所を殴られると腕が痺れるのは、その苦痛と合わせて人間ならよく知っていることだろう。

 だが、ドラゴンは肘まで鱗があるので、その痛みとは無縁だったため、女性には三人が何を恐れているのかが理解できない。


「今の状況はよくわからないが、あんたらの目的は、そこのよくわかんない奴に聞いたよ」


 女性はそう言ってLDを顎で示して、獰猛な笑みを浮かべる。


「黒い竜人とやらを探してるんだろ? でも、ここは竜の箱庭だからさ、タダじゃ教えられないよなぁ……」


 女性が獣のような笑みを深めて、大地を蹴って『後ろに吹き飛んだ』。


「あー、ごめんねー。こっちも仕事だから、手短に教えてくれると嬉しいなー」


 吹き飛んだ女性に向けて口を開いたのは、陥没した地面の上で腰の辺りに拳を小さく突き出したメイだった。

 メイは鋭い視線で女性を見つめていた。女性は自分がどうなったのか理解できず、目を瞬かせていた。

 女性が踏み出した一瞬で、メイが地面を陥没させるほどの踏み込みとともに、女性の身体に拳を打ち込んでいたのだ。スキルでもなんでもない、ただの拳である。


「大丈夫? ごめんね。でもさ、戦うなら本気だよ。全力で潰すから、そのつもりでかかってきてね」


 メイのその言葉を聞いて、女性は自分が一瞬のうちに『負けた』ことを理解した。どうやって負けたのかは理解できないが、本能が敗北を悟っている。


「はぁ……、負けた負け負け。引き篭もりのチビかと思ったら、とんだ強者だったってわけかぁ」


 引き篭もりのチビや地下暮らしのチビとは、ドラゴンがドワーフを見下して言う言葉である。ドワーフが地下で暮らし、あまり外界と接点を持たないことが理由なのだ。ドワーフから見ればドラゴンの方が引き篭もりなのだが、そこはお互い様である。

 同胞とはもちろん竜の血を引く竜人のことであり、アズマの脳筋とは力が全てで、アズマを主な生活圏にしている鬼人のことである。

 ドラゴンは自身が長い寿命を持ち、力と知に優れていると自負している。それ故に他の種族を見下すきらいがあるのだ。

 ちなみに、ドラゴンは知に優れているが、新しい技術である機械人については何も知らないので、LDに対しての感想はよくわかんない奴だったのだ。


「あー、でも、この箱庭には黒い竜人なんていないよ。黒き竜は高位の竜。黒竜王に相応しい番がいないせいで、黒竜は王だけなのさ」


 女性の言葉に当てが外れたと思って、三人は肩を落としてしまう。だが、LDだけは表情を変えることなく口を開く。


「そうですか、それなら黒竜王に話を聞きたいのですが、よろしいでしょうか。こちらは『グリムス辺境伯』の依頼で動いているのです」


 『グリムス辺境伯』の名前を聞いて女性が目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。少しの間驚愕していた女性は、頭を抱えて唸り声を上げ始めた。


「うっそ……。あの人の依頼とか、断れないじゃん……」


 どうやら、この女性は黒竜王にアリスが招かれた時にもいたドラゴンだったらしい。黒竜王と交流のあったアリスの存在は、他のドラゴンにとっても無視できないもののようだ。

 頭を抱えて髪をかき乱した後、女性は肩を落として諦めた表情で顔を上げた。


「わかったよ。王に聞いてみるから付いて来てくれるかい……」


 女性は肩を落としたまま、気の抜けた声で四人を箱庭の中へと促す。三人もアリスが何をしたのか気にはなったが、あえて聞くことをしなかった。むしろ、聞くのが怖かった。何せ、アリスは『またやらかしたのか』を代名詞にするほど、ことあるごとに何かをやらかしている。豚骨ラーメンなんかもその一つだ。

 そんなアリスが絡んでいるのだから、この竜の箱庭でも何かをやらかしていても不思議ではない。

 LDを除く三人は黙って歩き始めるが、LDは動き出す前にそんな三人に言葉をかける。


「ちなみに、マイスターはあまりに騒がしいドラゴン達に、大号令を使って黙らせたそうですよ」


 聞きたくない事実は、やっぱり聞きたくなかった事実だった。


 ――四人が女性に付いて竜の箱庭を歩く。四人が歩いて行くと、ドラゴン達の視線がそちらへ向く。中には地上に降りてくるドラゴンもいた。

 LDだけは平然とした様子だが、他の三人はそうはいかなかった。アースドラゴンとは比べ物ならない、ドラゴン達の存在感は自然と三人を緊張させていた。

 自分よりはるかに巨大なドラゴン達。並のドラゴンであれば負けることはないが、それでもその巨体とオーラは三人に警戒心を抱かせる。


「悪い、ここで待っててくれ。今から王に話を通してくるからさ」


 洞窟の見える少し開けた場所に着いた時、女性は四人に向けてそう言った。四人は頷いて答えると、女性は洞窟へと入っていく。

 四人が黙って待っていると、一匹のドラゴンが歩いて近付いてきた。


「ねー、君達グリムス領って所から来たんでしょ?」


 ドラゴンが投げかけてきた質問に対し、一番近くにいた王牙が困った表情で口を開いた。


「あー、一応そうだが、それがどうかしたか?」


 その答えを聞いて、ドラゴンは大きな口で獰猛に笑うと、その口から巨大なブレスを吐き出した。

 吐き出された炎球は王牙にぶつかり、四人全員に広がっていく。炎は激しい勢いで燃え盛り、四人の姿を完全に覆い隠してしまう。

 その様子を見て、ブレスを吐いたドラゴンは笑い声を上げる。


「アハハハ、ごーめーんねー。年上のドラゴンがグリムス領の冒険者は強いって言うから、気になってやっちゃった。あれ? 死んじゃったー?」


 このドラゴン若いらしく、どうやらアリスを知っているドラゴン達の話が気になって、手を出してきたらしい。

 若いドラゴンは四人がブレスで死んだものと考えて、勝利を確信した笑みを浮かべる。

 しかし、炎が晴れるとそこには両手に盾を構えた無傷の王牙と、煤すら付いていない三人が平然と立っていた。


「いきなりとは酷いな。ワイドカバーが間に合ってなかったら、軽い火傷くらいはしていたかもしれんな」


 四人が無事な姿を見て、ドラゴンは大口を開けて驚愕していた。

 ワイドカバーは広範囲を防御するバトルフォートレスのスキルで、その範囲にいる味方もガードすることができる。再使用までにかかる時間も短く――スキルや魔法には再使用までに少し時間がかかる――、盾を専門とするバトルフォートレスの主力スキルでもある。

 

「なぁっ! 確かにブレスを当てたはずなのに……」


 驚愕するドラゴンへと王牙は盾を構えたまま、一気に近付いていく。懐に入ると両手の盾を同時にドラゴンの腹へと突き出す。


「フゥッン!」


 そして、盾でドラゴンを弾き飛ばした。弾き飛ばすと同時に、地面に人が三人は入れる大きさのクレーターが出来上がる。

 弾き飛ばされたドラゴンは地面を転がって、盛大な音を立てて岩場にぶつかって止まる。

 バトルフォートレスの『盾攻撃』スキルの、インパクト・バッシュである。盾で殴って、相手にダメージを与えるスキルである。

 攻防一体のスキルではあるのだが、威力は低めだ。低いのだが、バトルフォートレスのスキルの中では上位の攻撃性能を持っている。防御に特化しているため、攻撃性能が低いのはバトルフォートレスの弱点なのだ。

 それでも……


「グガァッ……!」


 圧倒的なLV差のある相手には十分すぎる威力になる。

 吹き飛ばされたドラゴンは、頭がふらつき、歩くのも覚束ない状態で、飛ぶことなど不可能だろう。ましてや、攻撃を再開するなど以ての外だ。


「ほぅ、動けるか。と、言っても俺の攻撃じゃ大したダメージにもならんか」


 LV差など見ることができないので、王牙はドラゴンが立ち上がったことに驚きはしなかった。

 そもそもAWOプレイヤーにとって、モンスターではないドラゴンという種族は上を見ればLV300に至るやばい連中だ。その感覚が残っているせいか、動けるくらいでは驚くに値しないのだ。

 最初に近付いてきた時とは、比べ物にならないほどに時間をかけてドラゴンが王牙の前まで歩いてきた。そして、顔を王牙の目の前に持ってくる。


「僕に君の子どもを産ませてくれないかい?」


 瞬間、王牙の思考が停止する。ついでにLD以外の残りの二人の思考も停止した。

 ドラゴンの『雄』に本能があるのと同じように、『牝』にも本能がある。それは、強い雄の子を産みたいというもので、強い子を残すという種族としての使命でもある。


「いや、ないだろ……」


 王牙は目頭を押さえて俯いてしまう。

 それを聞いて、ドラゴンは一度肩を落としてしまうが、すぐに何かに気付いたのか、魔法陣を展開し始める。そして、光がドラゴンの身体を覆う。それは青いドラゴンがやったのと同じ、人化の魔法だった。

 中高生くらいの少女の姿になったドラゴンは、小ぶりな胸を張って王牙に向けてもう一度口を開けて……


「この姿な……」


「ないからな」


 バッサリ一刀両断にされた。

 今度こそ肩を落として落ち込むドラゴン少女。目頭を押さえたままため息を吐く王牙。一応、ドラゴンの社会では雄に牝を選ぶ権利があり、自分の子を産むに相応しい牝としか子を生さない。


「えー、なんでー。ここで逃したら、兄貴なんて一生子孫残せないのにー!」


 煽る妹。

 一瞬にして目を見開いた王牙は、凄いスピードでメイの頭にげんこつを落とした。


「おぉおぅ、おぉおぅ、ずっごい、いだぁい……」


 メイは殴られた頭を抑えて地面に転がってしまった。


「これはどんな状況なんだい?」


 いつの間にか帰ってきた青いドラゴン女性が、この惨状に表情を引き攣らせていた。

 カイトは苦笑いしながら頭をかいていたし、王牙は再度眉間を押さえていた。


「バカっぽいのが二人、鬼に殴られて喜んだり唸ったりしているだけです。黒竜王の方はどうなりましたか?」


 唯一我関せずを貫いていたLDが、本題のついでに状況を簡潔に説明する。

 女性はため息を吐きながら、あえて惨状から目を逸らして答えを口にする。


「ああ、黒竜王は承諾してくれたよ。今こっちに……」


 女性が言い終わるより先に、空から突風が広場に降り注いだ。その発生源である空に視線を向けると、そこには一際大きい黒いドラゴンが空を飛んでいた。

 黒いドラゴンは翼を羽ばたかせながら、地面に立つ面々を見下していた。


「アリスの依頼で来たというのは貴様らか。ん? 貴様らは……」


 黒いドラゴン、黒竜王は地面に降り立つと、三人――メイはまだ地面を転がっている――の顔を見つめる。その後、大きな頭を小さく数度縦に振って何かに納得したのか、口の端を吊り上げて笑顔(?)を浮かべた。


「ほぅ、そうかそうか、貴様らがアリスのなぁ……」


 LDを除く二人が黒竜王の言葉に、何を言っているのか理解できず首を傾げてしまう。

 そこにLDが一人、黒竜王の前に歩み出て、二人の視線が交差する。

 どれくらいそうしていたか、他の面々と周りにいたドラゴンが緊迫した状況に唾を飲み込む音が聞こえる。

 そして、LDは仰々しい仕草で黒竜王を指差して、口を開いて声を上げる。


「あなたが犯人ですね」


今回はドラゴンについて、色々と説明とかありました。

特に子孫の話とか、他の種族を見下しているとかのあたりです。

次回もお楽しみいただけると嬉しいです。

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