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第27章 竜の箱庭2

第27章2お届けします。

ブクマ・評価、いつもありがとうございます。


 ――ニャアシュから直接報告を受けていたアリスは、困った表情を浮かべていた。


「まさか犯人が竜人だったとはね。それにしても、姿を消せる高LVの黒い竜人ね……」


「ん~? まさか心当たりがあるのかにゃぁ?」


 歯切れの悪いアリスの言葉に、ニャアシュが疑問を抱く。


「丁度あなたがここに来る少し前だったかしらね。竜の箱庭の竜王が森を踏破していた私に喧嘩を売ってきたのよ。それが、箱庭の竜王、黒竜王だったのよ」


「『黒竜』王? それってまさか……」


 アリスはニャアシュから視線を外して窓の外に懐かしむような視線を向ける。


「彼は竜としての身体能力以外にも、魔法やスキルにも卓越していたわ。今回の犯人は少なくとも関係者ね」


 ドラゴン、それも竜王ともなれば永遠にも等しい寿命を持っている。その長い生の中で、スキルや魔法を習得したのが黒竜王だった。そのLV、この世界においては人外の223。

 余談だが、AWOにおいてモンスターでないドラゴンはクエストで登場したが、中にはLV300の真竜帝と呼ばれる存在がいた。これは、竜人の階位昇級クエストで様々な無理難題を吹っかけてくるNPCだった。


「はにゃぁ、そんなのとやりあう辺り、さすがって感じだにゃぁ」


 ニャアシュが感心して首を数度縦に振るが、アリスは首を傾げてしまう。


「やってないわよ。喧嘩は売られたけど、無視したもの。なんで竜王ごときを相手にしなきゃいけないのよ」


 ニャアシュはアリスのあんまりな言葉に開いた口が塞がらず、呆然としてしまっている。


「ブレスも魔法も無視し続けてたら、食事に誘われて箱庭には行ったけど、結局戦ってはないのよ」


 冒険王物語は『小説』である。ニャアシュも演出が過剰な部分が存在するのは承知していたが、『竜王と戦って和解し、箱庭に招かれた』、その内容そのものが捏造だったとはさすがに思いもしなかったことだ。


「こりゃ、冒険王物語に憧れてる後輩達には教えられないにゃぁ」


 ニャアシュは肩を落として呟いた。彼女自身も冒険王には憧れを抱いていたのだが、実際に話すようになってみれば、幻想は見事に破壊された。

 領の運営こそうまく回しているが、それも多くがイカリに任せきりだし、金銭のやり取りでもモアが口を出さなければ雑だったりする。今回のカイト達への依頼でも、報酬の交渉はいい加減だった。金の匂いを嗅ぎつけてモアが乗り込んで来なければ、ニャアシュの言われるがままに報酬を払っていた。

 

「小説と現実を混同しちゃダメって、いい教訓になるわね。よかったわね」


 アリスの意地悪な視線に更に肩を落とすニャアシュ。


(それにしても、黒い『竜人』ねぇ……)


 ――カイト達は現在爛々と輝く太陽の下、荒野を歩いていた。竜の箱庭を目指しているのだが、そこに行くには荒野を越えてグリムス領の南東にある山脈まで行かなくてはいけない。


「おおぉー、山脈遠いねー」


 メイが言った通り遠くに山脈が見える。しかし、目に映る山脈は徐々に大きくはなっているが、まだまだ到着する気配はない。


「あと、丸一日はかかるんじゃないかな」


「追いつけないのも不思議ではあるが、本当に竜の箱庭に逃げたのだろうか」


 王牙は犯人が竜の箱庭に逃げたことそのものに半信半疑のようだった。しかし、LDは首を振って、答えを口にする。


「竜人は町にいれば目立ちますし、何よりあの黒い竜人は冒険者物語に出てきた黒竜王と、何か関係があると思われます」


 見た目や魔法やスキルに熟練している犯人の様子から、LDがそう推理する。


「そーだよねー! あの犯人って黒竜王みたいだよね!」


 冒険王物語の話題になったと思ったのか、メイが満面の笑顔でLDに少しズレた同意を示す。冒険王物語の話が出る度にこの様子なので、もう三人も何かを言うことはしない。

 メイは元気に両腕を振り回しながら、冒険王物語について熱弁を始めるが、LD以外は耳を傾けることもせず、黙々と山脈に向けて歩いていく。


「でね、でね、冒険王がね!」


「左様ですか」


 後ろからはメイの要領の得ない熱弁と、それに相槌を打つLDの声が聞こえていた。

 カイトはそんな様子を横目に眺めながら、ある疑問が思い浮かぶ。


(それにしても、メイは……)


「メイはそんなに動いて胸部は痛くないのですか?」


 カイトが思考するより先にLDが直接メイに問いかける。メイは普段から元気に動き回っているが、そのせいで身体の一部がすごく跳ね回る。

 兄である王牙や、アリス以外の女性を性の対象としないカイトの二人は平然としていたが、ギルドのおっさん連中はその光景に毎度歓声をあげては騒いでいた。


「ん~、この身体になってからおっぱいの辺りも丈夫になったのかなぁ。痛くはないし、怪我もしないんだよねー」


「明け透けな辺りを見るに、どうやら性格面にも影響が出ているのではないでしょうか?」


 LDの推測を聞いて、足を止めたのはメイではなく兄の王牙だった。そして、彼は何かを考え込んでしまう。

 そんな彼の様子を不思議そうに眺めるメイは、首をかしげて目をパチクリさせている。


「身体に、否、AWOにおける種族の設定に性格が引きずられている……か。

 確かに、コイツは元から考えなしな所はあったが、ここまで子どもっぽくはなかったはずだ。それに、俺も……」


 AWOでドワーフは世間知らずで、どこか子どもっぽく、また意固地であるという設定があった。元々大学生だったメイが、今のように子どもっぽくなったのは恐らく、それが原因なのだろう。

 今まで王牙がそれに疑問を抱かなかったのにも設定が起因している。鬼人は力が全ての種族であり、強者だけが認められるという種族だった。反面、戦闘に関係しない小難しいことはあまり考えないという特徴もあった。

 王牙自身の性格もあって、そこまで脳筋というわけではないが、メイの変化に疑問を抱かないくらいには思考が変化していた。


「仕方ないさ。肉体や種族による精神への影響は思った以上に大きいからね」


 カイトが考え込んでしまった王牙をフォローする。


「仕方ないことなんだからさー。あんま考え込んでると禿げるぞー、兄貴」


 しかし、メイの身も蓋もない言い方に、王牙と何故かカイトも大きなため息を吐いて肩を落とす。

 LDは一人、今の会話に引っかかりを覚えて頭の中で思考を巡らせていた。


(種族の特徴? それを考えれば今回の件、それに犯人は……)


 四人は歩を進める。このまま進めば今日中には山の麓までは行けるだろう。


 ――夜、四人は予定通りに山の麓まで到着していた。そこで四人はテントを張って、夜を越える準備をしている。


「さすがだね、LD……」


 カイトは手に持ったカレーライスを食べながら、LDに視線を向けてそう告げた。


「カレーライスのレシピ、及び美味しくする調理法は全て記憶済みです。完璧に再現することなど、この身であれば容易です」


 四人は各々、LDが作ったカレーライスを手に持っている。機械である故に精密すぎて、少々味気ない感じではあるが、それでも一切料理のできない三人に任せるよりは万倍マシである。

 アイテムボックスに料理を入れておく方法もあるが、今回は通常の野営と同じようその場で作ることにしていた。


「はふぅ、カレーがおいしいぃ……」


 ウトウトと舟を漕ぎながらメイがカレーライスの感想を述べるが、目蓋は半分落ちていた。


「食事が終わりましたら就寝にしましょう。火の番は当初の予定通り、私たち三人で順番に行うということでいいですね」


 メイの状況を見兼ねたLDが、二人にそう提案する。二人はそれに頷いて同意を示す。

 最初はLDが一人で朝まで番をすると言っていたのだが、メイがそれにダメ出しをして、夜遅くまで起きていられないメイを抜いた三人で番をすることになったのだ。

 それから少しして、四人は食事を終えて食器を軽く洗うと、各々が次の行動に移る。


「最初の番は僕だね。三人はテントで休んでおいてくれ」


 カイトの言葉を聞いて、三人はLDとメイの二人と王牙に別れて、二つあるテントに入っていく。LDに抱えられたメイは、すでに夢の中に落ちていた。

 カイトは三人がテントに入っていくのを見届けると、火の前に腰を下ろした。


(さて、明日には竜の箱庭だ。LDは犯人に何か心当たりがあるみたいだけど、誰が犯人でも関係ない……)


 カイトが目を細めて燃える火を見つめる。そして、隠すことなく舌打ちをする。


「渡すわけにはいかないんだよ。『アイツ』は『俺』の『メス』だ……」


 自分の口から出た言葉に、カイトは目を見開いて口を押さえる。


(僕は今、何を言った?)


 自分の口を押さえて言葉を封じるが、頭の中にはアリスを力尽くで押さえつける自分の姿が浮かんでくる。

 頭を振って妄想を振り払おうとするが、想像の中の自分はアリスの服へと手をかけていた。


「限界が近いようですね」


 突如、後ろから聞こえた声にカイトは頭が一気に冷めるのを感じた。振り返ってみると、そこにはLDがいつもの無表情で立っていた。


「ドラゴンの本能が抑えられなくなっているようですね。別の竜人がマイスターを狙っているのを知って、本能が危機感を抱いているのでしょうか」


 LDの分析は的確だった。カイトは件の竜人を見てから、アリスに対する欲望が燃え上がっているのを感じていた。

 ドラゴンの持つ強い牝を屈服させて子を産ませるという本能が、他のアリスを狙う竜人の存在を知って抑えられなくなってきているのだ。

 

「でも、そんなのはヒトの在り方じゃないよ。少なくとも、僕はアリスを傷つけたいわけじゃないんだ……」


 それはカイトの本心だった。人間として培ってきた心が、アリスを獣欲で汚すのを許せないでいた。だから、自身の本能を受け入れるわけにはいかないのだ。

 カイトのそんな様子に、LDは首を横に振って衝撃の事実を告げる。


「いつまでもマイスターに思い告げられないヘタレに良いこと、いえ、悪いことを教えてあげましょう。これはイェレナに聞いた話ですが……」


 LDより告げられたことに、カイトは驚きを隠すことができなかった。その事実はカイトの頭の中に残り続け、LDがテントに戻り、番の交代をした後も頭から離れることはなかった。


 ――翌朝四人は山登りをしていたが、カイトは昨夜のことが頭から離れず、どこか上の空だった。


「あれー? カイトどうしたの?」


 メイが心配して問いかけるが、カイトは生返事しか返すことができなかった。LDはそんなカイトの状況に、首を横に振るばかりだった。

 そんな調子で数時間ほど道なき道を進んでいた四人の目の前に、唐突に開けた景色が広がった。


「ほぇ~、すっご……」


 そこは山を抉ったかのような地形をしており、広がる青空の中を何かが大量に飛び交っている。LD以外の三人はその光景に見入っていたが、飛び交っている何かが雄叫びをあげたのを聞いて正気に戻る。


「あれって、ドラゴンだよね……」


 メイが飛び交う何かを指差して言う。LDは自身の目を望遠にして、それがドラゴンであることを確認すると、メイに対して頷いて答えた。


「こいつは壮観だな。これだけの数のドラゴンはAWOでも見たことがない」


 王牙の言うとおり、空を舞うドラゴンは数えるのもバカらしくなるほどの数がいた。山脈の奥地にある盆地ということもあって、外からはこの光景の片鱗すら見ることができなかった。

 

「ん? あんたら誰だい?」


 唐突に上から声が聞こえて四人が見上げて見れば、そこには綺麗な青い鱗をしたドラゴンがいた。ドラゴンは数度、その大きな首を傾げてから、何かを思いついたのか手を合わせて周囲に魔法陣を浮かべる。

 攻撃かと身構える三人だったが、魔法陣の光は青いドラゴンを包んでいくばかりだった。一際大きな光が発せられた後、ドラゴンの姿は光に溶け込んで消えていた。

 そして、光は四人の前で人の形を取っていき、そこから一人の女性が現れた。女性の頭にはドラゴンの角が生えていた。


「くぁ、久しぶりに人型になったな。どうした人間ども? ん? 人間じゃないか。同胞にアズマの脳筋に地下暮らしのチビじゃないか。もう一人はよくわかんないな」


 女性は手入れのされていないボサボサの青髪を振り回しながら、四人を品定めするような目で見る。


「えーっと、竜人なのかなー?」


 メイの口から飛び出た質問に、女性は一度目を見開いた後に大きく口を開けて笑い始めた。


「アハハハ、アタシは正真正銘ドラゴンだよ。これは人化の魔法ってやつさ」


 人化の魔法、ドラゴンがそれを使い人と交わった結果生まれたのが竜人だと言われている。だが、それを目の前で見た者はほとんどいないとされている。


「ところで、箱庭に何しに来たんだい? そっちの同胞の挨拶とか?」


 意外なところで珍しいものを見れたことに、驚いている三人を余所に女性は自身の疑問を投げかける。しかし、それに答える声はなかった。

 三人が本来の目的を思い出すには、もう少しの時間がかかることになる。その間、LDが女性とどうでもいい世間話をして時間を潰していた。


ちょっと、カイトにアレな表現がありましたが、今回の話の中心が実はこれです。

前の編では主に転移とそれに関する対応、今回は肉体と種族の変化についてですね。

ネタみたいにしてちょこちょこ出してましたが、実はちゃんと本編に関わる内容でした。

と、ここで書きすぎると活動報告に書くことがなくなるのでここまで!


あと兄妹1に挿絵追加しました。

次回、楽しみにしてくださると嬉しいです。

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