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第26章 兄妹2

ブクマいつもありがとうございます

何かお礼ができればいいなとは思いますが、何も思いつかないね


「アリス、あんたちょっとこっち来なさいよ」


 イェレナはアリスの近くの椅子まで来ると、座って自分の膝をポンポンと叩いてアリスに来るように促す。話の腰を折られたアリスだが口を尖らせながらも、イェレナの膝の上にちょこんと座る。

 座ったアリスの衣服を手早く整えたイェレナは、アリスの髪に手を通しながら新品らしいブラシを取り出した。自分の髪が乱れた時のために持っているブラシの予備なのだろう。


「コホン、とりあえず自己紹介しましょうか」


 イェレナに髪を弄られながらもアリスは言葉だけ体裁を整える。そんな様子に当事者達だけでなく、周りの冒険者達も生暖かい視線を向けている。


「我が領へようこそ、私はグリムス領領主、アリス・ドラクレア・グリムス辺境伯。ヒトらしく死にたいならこの領を去ることをお勧めするわ」


 小さく微笑んでいつもの儀式を行うアリスだが、イェレナの膝の上で足をぶらつかせながら髪を弄られている姿では締まらないことこの上ない。

 ただし、少女だけは輝いた瞳でアリスを見ている。

 それに構うことなく続けてLDが自己紹介を始めた。


「私はLD‐19、皆様からはLDと呼ばれています。主にマイスターのところでお世話になっています」


 LDの自己紹介を横目にアリスは、いつの間にか現れたイカリが持ってきた化粧品で軽くクマ隠しと口紅をイェレナに施されている。アリスはされるがままになっているが、嫌そうな表情はしていなかった。

 LDの自己紹介に続いてこっちに歩いてきたカイトが、いつもの爽やかな笑顔で口を開いた。


「僕はカイト、君達と同じAランク冒険者だよ」


 カイトの自己紹介を受けて、今まで目を輝かせてアリスを見ていた少女が首を傾げた。


「あれ? 君も仲間なの?」


 少女の悪気のない質問に、久しぶりにアリスに会えて内心昂揚していたカイトは、肩を落として落ち込んでしまう。同じ感想を抱いいたため大男もさすがに少女を注意できず、顔を背けてしまう。

 イェレナはそんな様子に笑いながら、一度アリスを弄る手を止める。


「私はここの受付のイェレナだよ。アンジェリスではサブマスをしてたよ。あんた達の同郷じゃないけどね」


 自己紹介したイェレナは二人の顔を見つめて、続けて口を開く。


「ドワーフと鬼人のコンビ、あんた達は確かドルセンの町で冒険者登録した二人組みよね」


 ドルセンの町というのはアンジェリス近郊にある町である。一つの町で50人以上の冒険者が一気に増えれば問題が起こると思われたので、転移者の一部はアンジェリス以外の信頼のできる町で冒険者登録を行った。サブマスという立場上、そういった情報も聞いていたイェレナは二人のことを多少は知っていたのだ。

 イェレナが知っていたことには少し驚いたが、サブマスという言葉を思いだして大男は一度大きく頷く。


「俺の名前は王牙オーガだ。よろしく頼む。それで、このちっこいのが……」


「ちっこいけど、ちっこくないよ! 『妹』のメイだよ、よろくね。ブイブーイ!」


 大男王牙にちっこいと言われて、少女メイは両手を振り上げて抗議をしてから、すぐに自己紹介をしてダブルピースをする。コロコロと表情の変わる少女だ。

 ちなみにドワーフという種族そのものが、そもそも低身長ではあるのだが、このメイという少女はアリスとそう変わらない身長をしている。

 だが、外野を含め、アリスとLD以外の者はそんな少女自身よりも『妹』という言葉に驚愕が隠せない。

 ドワーフと鬼人では種族が違う。それが兄妹だと言われれば驚くのも仕方ないだろう。


「あなたが何を驚いているのか予想は付くけど、私達が『いた場所』じゃ別に珍しい話じゃないでしょ」


 アリスは落ち着いた様子で驚いているカイトを嗜める。カイトは言われて、今の身体がAWOのアバターであることを思い出す。それに気付いて頬をかいて視線を逸らしてしまう。


「自己紹介ご苦労様。フリーの『フィニッシャー』と『バトルフォートレス』のコンビなんていい拾い物だわ。あ、イェレナ、少しうなじの辺りかいてちょうだい」


 イェレナに注文を付けながら、アリスは満足そうに笑う。

 通称『フィニッシャー』は一撃の攻撃力に特化した、格闘系ジョブ四次ジョブ『破壊拳士』のことである。レイドボスのラストアタックを任せられることから『フィニッシャー』と呼ばれている。

 王牙の『バトルフォートレス』はAWOで唯一両手に盾を装備できる、防御を専門にする特殊ジョブである。スキルやステータスも壁――前衛で攻撃を引き受ける役――に特化しており、火力こそ低いが盾で殴り、盾で防ぐ、そんなジョブだ。


「メイは装備でわかるだろうけど、俺は自分のジョブを名乗ってないはずだが?」


 アリスが王牙のジョブを知っていたことに、王牙が疑問を抱く。アリスはイェレナに首の後ろをかかれながら気持ちよさそうな表情をしていた。その表情のまま手をヒラヒラと振って、その疑問に答える。


「私は領主よ。しかも、11議会の一員。それならギルドからそういう情報も入ってきて当然じゃない?」


 アリスの言葉に王牙は目を瞑って頷く。王牙からしたら聞いたことのない単語も含まれているが、納得するのに十分すぎる内容だった。

 メイは連続で首を左右に傾げて全然理解していないようだったが。


「お? お? よくわかんないけど、さすがは冒険王ってことでいいの?」


 冒険王という言葉を聞いてアリスの眉が一瞬だけ小さく動くが、それに気付いたのは膝に乗せているイェレナだけだった。

 イェレナはあえてそれには触れず、アリスの髪とか、うなじとか喉を弄りながらメイと王牙に向けて口を開く。


「そんなことより、後ろ見てみなよ。あんたら拠点変更の受付は済ませた方がいいんじゃないかい?」


 イェレナの発言を聞いて二人が後ろを振り返ると、表情を引き攣らせた受付がいた。

 アリスへの連絡を終えて早々に職務を全うしていたが、二人がアリス達との会話に花を咲かせていたため放置されてしまっていたのだ。


「グリムス辺境伯様。連絡したのは私ですが、職務の邪魔だけはしないでください」


 そしてその怒りの矛先は、イェレナに弄られて眠そうな顔で猫のごとく気持ちよさそうにしているアリスに向いていた。

 ただの一般国民がそんなことはできないが、ギルドの受付はCランク以上の元冒険者であることが絶対条件である。そして、この領の受付の半分は元Aランク、つまりこの領出身の元冒険者なのだ。この受付嬢もその一人である。

 この領の冒険者はアリスに対してフランクな者が多い。それはアリスが領主でありながら、現役冒険者であるためだ。


「あ~、ごめんなさい。でも折角の人材だもの。他に取られる前に確保したかったのよ」


 何より、アリスがそれを気にしない性格なことを、この領の冒険者はよく知っているからだ。


「おねーさんごめんねー。冒険王に会えたから私もう、すっごく嬉しくてさ」


 メイがバツの悪そうな表情で謝る。さすがに本人から謝罪をされて受付嬢もアリスに対して何も言えなくなる。当のアリスと言えば、気持ちよさそうにイェレナにされるがままになっている。

 受付嬢は渋々ながらも大人しく拠点変更手続きの続きを行っていく。二人との会話で全ての工程を終えてため息を吐く。


「こんなに長くかかった拠点変更は始めてですよ……」


 恨みがましくアリスの方を見やるが、アリスは気にもせずイェレナの弄りテクに喉を鳴らして和んでいる。

 

「よっし、拠点変更も終わったことだし、冒険王の話聞かせてよー!」


 メイは受付からまたアリスの方に走り寄ると、元気に両手を上げてアリスに昔話を催促する。これでアリスが大人の姿だったら、母親に昔話をねだる子どもに見えて和む風景になっていただろう。


「私の冒険物語はまた今度してあげるわ。今は今度の大狩猟祭のことで忙しくて、そんな暇ないのよ」


 アリスの返答にメイは残念そうな表情を浮かべるが、大狩猟祭という単語を聞いて目を輝かせた。


「なになに? 大狩猟祭ってなんなの? すっごく気になるー!」


 元気すぎるメイに疲労困憊なアリスは面倒くさそうに目を細めると、受付嬢に目配せする。それを受けて受付嬢は小さくため息を吐いてから、大狩猟祭の案内を取り出す。


「お二方、こちらが明日から参加受付が始まる大狩猟際の申込書です」


 二人は受付嬢が取り出した申込書を受け取ると、その内容を読み始める。だが……。


「すまない、俺達文字読めないんだ……」


 文字が読めなかった。

 この世界の文字は日本とは違う。それでも会話が成立する理由は、AWOの設定に起因していた。

 AWOの世界設定では、プレイヤーはアバターを通して翻訳された言葉を聞いているというものがあった。その設定が転移後も生きているのか、転移者はこの世界で普通に会話を行うことができる。

 だが、文字は違った。この世界の文字は、AWOの背景やアイテムの見た目などで表示されていた文字と同様のものだったが、その文字はプレイヤーに読める形ではなかった。

 それでも読めるプレイヤーは存在した。AWOの設定資料にはこの文字の翻訳や文法などが存在しており、ディープなファンは文字を読むことができたのだ。

 アリスの中の『青年』もそのディープなファンの一人で、カイトはそんな『青年』に付き合わされて文字を覚えた。LDは機械人としての性能を遺憾なく発揮して習得した。

 余談だが、かつて、アリスは同じ文字が使われていることに疑問を抱いて、調べた事があった。しかし、結局答えは得られなかった。


 文字が読めない冒険者はなにも転移者だけではないので、ギルドで代読代筆も行っている。低ランクでは少ない料金がかかるが、Cランク以上はどちらも無料になる。実質この領での代読代筆は無料ということだ。

 文字が読めない二人は受付嬢に代読を頼んで、申込書の内容を熱心に聞いていた。


「おおー、ありがとー。私達文字読めないから助かったよ。これで冒険王主催の大イベントに参加できるね!」


 内容を聞いてメイは嬉しそうにはしゃいでいた。


「じゃぁ、参加する時は、さすがにアリスは無理だろうから、四人でパーティーになるのかな?」


 今まで成り行きを見守っていたカイトが笑顔でそう口にすると、アリスがそれに答えを返す。


「当然私は主催者枠で参加ね。あと折角の機会だから、テストがてらLDもソロで参加よ。『アレら』も一個くらいは間に合いそうだし」


 アリスの言う『アレら』というのはカイトにはわからないが、LDはわかっているため頷いている。


「それじゃあ、近いうち連携の練習をした方がいいだろうな」


 王牙は目を瞑って頷きながらカイトに提案する。提案を受けたカイトも頷いて答えてから、メイの方へ目を向ける。


「私もOKだよ。ペアじゃない狩りなんて、AWO以来だから気合入れてえいえいおーだよね!」


 アリスはそんな三人の様子を見ながら満足そうな表情をして、身体をイェレナに預ける。イェレナは女性としては高身長なので、アリスが身体を預けると頭部にある部分の柔らかい感触が伝わってくる。


(しかし、『あの時』以来、これくらいじゃそんなに興奮もしなくなったわね。ほんと、男としての私はどこに行っちゃったのかしらね……)


 アリスは『青年』だった時の自分と、『あの時』のことを思い出して小さく笑みを浮かべる。

 『あの時』。アリスが自分の中の『女』を知った時のある出来事を思いだすと、今でも恥ずかしさやらで紅潮しそうになる。


「お嬢様、満足しているところ悪いのですが本題を忘れていませんか?」


 そこにイカリが注意を促した。それを聞いてアリスは目を見開いて、イェレナの上を飛び降りる。

 LD以外の三人は、その様子に驚いてアリスに視線を向ける。LDは元からアリスに視線を向けていたので、特に変化はなかった。


「急にどうしたんだい、アリス」


「イェレナのテクニックに目的を忘れてたわ。私の扱いに慣れすぎでしょ、この元サブマスは……」


 アリスに横目で見られたイェレナは、自慢げに笑みを浮かべて座ったまま胸を張っている。


「目的って、俺達をスカウトしにきたんじゃなかったのか?」


 王牙が顎に手を当ててから、気になったことを口にする。アリスはそれを聞いて大きなため息を吐いて首を振る。


「スカウトだけなら、屋敷に呼び付けるわよ。こっちはこれでも貴族なのよ」


 イェレナの上で猫のように寛いでいたり、受付に注意されている姿を見ていたせいで、アリスが貴族だということが面々の頭から抜け落ちていた。


「貴族が冒険者ギルドに出向く理由なんて、本来は一つしかないでしょうに……」


 カイトの面倒を見ていた時に来たのは例外だが、貴族が『ある理由』以外でギルドに来ることはほとんどない。

 依頼を出す時もギルドの人間を呼び出して、屋敷で依頼を出すのが普通なのだ。


「スカウトはついでよ。私がここに来た一番の理由は、ギルドの機密資料を必要とする依頼をあなた達に出すためよ」


 アリスの言葉に三人とイェレナの顔が真剣なものへと変わる。貴族が門外不出であるギルドの機密資料を使って依頼を出すなど、それこそ大事件である。


「さぁ、イェレナ、この四人をギルドの応接室に案内してちょうだい。ギルマスも呼んでおきなさい」


 そう言ってアリスはイカリを伴って受付カウンターの奥へと歩いていく。LD以外の四人はこの大事件に緊張した顔でアリスの後姿を見送る。


普段偉そうな幼女が膝の上で猫のように弄られる姿っていいよねって話です

メイを書くのがやばい楽しい

私は日々増え続ける伏線を全て回収できるのか!

あ、活動報告の『キャラクター紹介ページが欲しい人この指とまれ』アンケートまだ続いてます

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