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第26章 兄妹1(3/25 挿絵追加)

第26章開幕

いつもブクマありがとうございます


「おおー、ここがグリムス領かー。まさに最前線って感じの町だねー」


 グリムス領の町の入り口の近くで二人の人物が町を見つめていた。声を発したのは一部だけがやたらと大きい、露出度の高い服装をした小さな色黒少女だった。ドワーフの特徴の一つである小さく尖った耳を持つ少女は、頭の左右で結んだエメラルドグリーンの髪を揺らして隣に立つ大男を見上げる。


「あんまりはしゃぐんじゃない。お前はいつもどうして……」


 少女に説教を始めた黒い逆立った髪の大男の額には、片方だけ折れた二本の角が見える。鬼人の証である角が生えた大男の説教に耳を塞ぐ少女。大男は説教を途中でやめると、困ったような表情で頭をかいていた。


「あー、やだやだ。やっとここまで来れたのに説教とかないわー。そんなんだからもてないんだよー」


「もてないのと説教は関係ないだろ!」


 喧嘩をしながらも歩を進める二人は町へと足を踏み入れていく。二人の姿はすぐに町を駆け周る冒険者の波に消えていった。


 ――昼現在、ギルドのホールではカイトが久しぶりに会ったLDと会話しながら軽食を食べている。

 ギルドのホールでは持ち込んだ食べ物を食べることができるスペースが用意されている。これは仕事終りに小休憩するために作られたものだ。


「なるほどねぇ、そっちじゃ講義なんてやってるのか。それにしても『第0級接触禁忌災害』、レイドボスとは驚いたな」


 カイトはLDに渡された資料に視線を向ける。そこに書いてあるのはLDが今朝まとめた、この世界におけるレイドボスの詳細だった。


「現在までにこの国で確認されているのは、140年前のカトゴア連邦崩壊の一件のみですが、これから現れる可能性、この国の目が届かない場所で現れた可能性もあります」


「レイドボスを相手にするにはLV250の人数にちょっと不安があるよね。その辺りはアリスが考えているとは思うけど」


 結局出てきたら討伐に参加するくらいしか、一冒険者でしかないカイトにできることはない。アリスに全部ぶん投げるという結論には多少腑に落ちないところはあるが、そこは専門外なので仕方ない。

 カイトは渋い顔をしながら資料を見つめている。自然消滅したと思われる記述にどこか違和感が拭えない。


(『現実リアル』なはずのこの世界で再スポーン前の消滅? あり得ないような気もするけど、記述を見る限りそうとしか思えないよなぁ)


 AWOではモンスターは一定期間戦闘が開始されない場合、一度消滅して再度スポーン――プレイヤーやモンスターがセーブポイントないし出現地点に出現する現象――するシステムがあった。これは討伐できなかったモンスターを初期状態に戻すためのシステムだった。

 カイトは考えても答えの出ない疑問を頭の隅に追いやると、ため息を吐いて資料から目を外す。そして話題を変えるために口を開いた。


「ところで君は大狩猟祭に参加するのかい?」


 大狩猟祭と聞いて何のことか理解できないのか、LDは首を傾げてしまう。


「聞いたことがない単語です。それはなんでしょうか?」


 その問いかけにカイトは答えを返そうとして、表情を固まった。カイトは昨日イェレナから大狩猟祭の詳細を聞いていないことを思い出す。


「えーっと、ごめん、詳細は聞いてないんだ。まぁ、幸いここはギルドだし、誰か職員の人に聞いて……」


「はぁーい、呼ばれて登場、イェレナお姉さんよ!」


 カイトが言い切る前に後ろからイェレナが姿を現す。イェレナは手に書類らしき物を持っていて、それをヒラヒラと振っている。


「ご注文の大狩猟祭申込書をお持ちしましたわ、お客様、ってね」


 そう言って、イェレナは書類を二部だけテーブルの上に置いて、二人の顔をニヤニヤと笑いながら見ている。

 そんなイェレナに気付いたカイトが渋い表情で申込書に目を落とすと、申込書の最後に『領主様への衣装リクエスト』と書かれた項目があった。そこに目が釘付けになるが、不穏な気配を感じてイェレナの方に顔を勢いよく向ける。


「さすが、ド変態騎士様は目ざといわねぇ」


 イェレナが笑っていた。これでもかと言うくらい満面の笑みだった。カイトは昨日の自分の失態を思いだして顔が熱くなるのを感じる。


「昨日のことは忘れて下さい。マジでお願いします……」


 イェレナは依然として面白そうに笑みを浮かべるばかりで、カイトは何を言っても無駄だと理解させられる。

 二人の話についていけないLDは完全に二人の会話を無視して、申込書の内容を頭に記録している。現在は工房で活動しているLDだが、一応Aランク冒険者でもあるので大狩猟祭の参加資格は持っている。


(受付は明日からですか。もし『アレ』が使えるならテストとして、参加してみるのもいいかもしれませんね)


 大狩猟祭は密猟者がモンスターの巣を突いたせいで発生した、スタンピートの後始末をイベント化したものである。最初はスタンピートが発生した時に開催されていたのだが、結界魔法が完成して支援体制が整ってからは年一回のイベントに変わった。

 アリスの従者が適度にモンスターの巣を突いて、意図的に小規模なスタンピートを起こしてそれを冒険者達が狩る。モンスター毎にポイントが設定されており、そのポイントの総数をパーティー単位で競うイベントなのだ。

 優勝商品は領主の館での豪華ディナー。豪華ディナーとは言っても、冒険者向けに食べやすくして、量も増やしたものなので冒険者でも気軽に参加できる。

 それに加えて、アリスから魔導具が一つ送られる。送られる魔導具は毎年違うもので、去年は不可視の壁を発生させる魔導具だった。

 グリムス領の冒険者にとってこのイベントは命がけの祭りで、参加し生き残ることはトップ冒険者の証でもあるのだ。更に成績を残せればSランク昇級すらあり得るのだ。


 カイトは当然参加するつもりなので、イェレナと会話しながらも、すでに記入を開始している。

 周囲にはカイトと同じように申込書に記入している冒険者が多くいる。その中には衣装リクエストについて議論を交わしている者もいた。

 大狩猟祭の話題で盛り上がる中、突如勢いよく扉が開き、大きな音がギルド内に鳴り響いた。


「たーのもー!」


 大きな声を上げて入ってきたのは、褐色肌で緑髪を揺らす、ドワーフの少女だった。後ろでは鬼人の大男が顔を覆って俯いている。

 突然の登場にギルドの中を沈黙が支配し、全員の視線が少女に集まる。


「お? 失敗した?」


 少女はどうやら受けを狙っていたらしく、ギルド内の反応に首を傾げてしまっている。

 だが、少しの間を置いて一部の冒険者が腕を振り上げて雄叫びを上げた。


「うぉおおおお! 爆乳ドワーフ娘が来たぞぉ!」


 この町にもドワーフがいないわけではないのだが、人間主体の国家なのでどうしても人数は少なくなる。子どものようでありながら胸だけが大きくなることのある、ドワーフ娘は一部の層に人気がある。

 予想外の理由で反応があったことに少女も多少驚きはするが、受けがよかったことに気を良くしたのか、すぐに満面の笑みを浮かべて片手を大きく上げた。


「おおっ! スケベなおっちゃんらにしか受けてないのはアレだけど、第一印象大作戦は成功だね!」


 そして上げた手をVサインに変えて正面へ突き出した。動きが一々大げさなので、動く度に一部が揺れてスケベなおっちゃんらが歓声を上げる。

 上機嫌で満面の笑みを浮かべて、ダブルピースまで披露する少女の頭頂部に真上から拳が振り下ろされた。大きな音を立てて振り下ろされた拳によって、少女の頭頂部に激痛が走って足元まで振動が響く。

 少女はあまりの激痛に頭を抱えて床に蹲ってしまうが、視線は恨みがましく拳の主である大男に向いていた。


「あっがぁっ! なにすんのー!」


 少女の抗議に大男は冷めた視線を向けて、眉間にしわを寄せた表情で口を開く。


「やかましい。お前は調子に乗りすぎだ。少しは大人しくできんのか」


「なんだよー。別にいいじゃんかー。第一印象は大事なんだぞー!」


 涙目で反論する少女に大男はもう一度拳を握って応える。すると少女は後ろに飛びのくと拳を構えて猫のように威嚇し始める。

 離れた席ではカイトが呆れた表情でそんな二人を見ていたが、LDは少女の腕に注目して周りとは全く違う感想を抱いていた。


(あの手甲はまさか……)


 大男は威嚇している少女を呆れた表情で一瞥してカウンターへと足を進める。大男に無視された少女は急いで大男に付いていく。

 カウンターの前に着くと大男は受付に冒険者証を差し出して口を開いた。


「拠点の変更届けをお願いしたい。あと、できれば領主様について色々教えてくれると助かる」


 大男に追いついた少女も急いで冒険者証をカウンターに差し出す。


「そーそー、それだよ、それ! 噂の冒険王様ってどんな人なのか気になるー。吸血鬼なんでしょ!」


 少女の憧れに輝かせた瞳にも受付は動じることなく対処する。『冒険王物語』に憧れてここを訪れる冒険者は後を絶たない。そういった人物に対する対応も慣れたものなのだ。


「それでは拠点変更届けをお受けいたし……、少々お待ち下さい」


 だが、そんな受付は一度目を見開くと、通信魔導具を取り出してどこかに連絡を取り始める。

 その様子を見ていたLDは立ち上がると、カイトの横まで歩いてきて小声で話し始めた。


「どうやらマイスターに連絡を取っているようです」


「アリスに連絡? どうしてだい?」


 LDは顎で少女の腕を指す。


「あの手甲、見覚えがありませんか? あれは『フィニッシャー』御用達のナックルですよ」

 

 カイトはその言葉を聞いて驚いた表情で少女の手甲を見つめる。少女の手甲は鬼の顔のような形をした少女の体格に対して大きい物だった。


「『鬼神大手甲きしんだいてっこう』か。ってことは彼女達は……」


 LDが小さく頷く。『鬼神大手甲』は特殊なスキルを持つナックル系の神話級ゴッドの武器である。入手手段は『レイドボス』の『リョウメンスクナ』のドロップのみ。

 少女の手にそれがある。その事実が示すのは……


「はい、彼女達、もしくは彼女は転移者です」



 転移者の多くはLV250。そのため、LV250の冒険者がこの町に来た場合は即時、受付からアリスに連絡が来るようになっている。

 LDは結論を口にすると、そのまま二人の来訪者へと歩いていく。そして、受付の対応を待っている二人の後ろに辿り付くと口を開いた。


「少しよろしいでしょうか、同郷の方」


 大男は首だけで、少女は全身でLDへと振り返る。今のLDは日常用四肢を装着しているので普通の町娘にしか見えないが、『同郷』という言葉に二人は彼女が見た目通りの存在でないことを理解した。


「ほぇ、君も同郷の人なの。種族は人間かな?」


 少女の返答にLDは首を横に振って答える。そして服の胸元を開いて見せるが、大男の方は勢いよく顔を背けて目を覆い隠した。少女は目を背けなかったので、LDの首に切れ目のようなラインが入っていることに気付いた。


「えっ、君ってば機械人だったの? でもそんな完全に生身なパーツなんてなかったよね?」


 少女の言葉を聞いて指の隙間からLDを覗くことで、大男もLDの首のラインを目にして首を彼女の方へ向けなおす。

 LDは胸元を閉めると、受付の使っている通信魔導具を一瞥してから口を開いた。


「私のこの日常用生体四肢は、マイスターたる『グリムス辺境伯様』よりいただいたものです」


 LDのグリムス辺境伯を強調した言葉に反応したのは、目を輝かせた少女だった。少女はLDに詰め寄ると、LDの手を掴んで騒ぎ始める。


「おおっ、すっげー。冒険王すっげー。じゃぁさ、じゃぁさ、冒険王にあ……」


「待て」


 騒ぐ少女を止めたのは険しく表情を変えた大男だった。大男は少女とLDの間に入ると、LDを睨み付ける。


「随分と露骨な釣り針だな。一体何が目的だ?」


 状況が理解できず呆けてしまった少女を置いて、二人は視線を交わす。

短い数瞬の後、先に諦めたのはLDの方だった。


「鬼神大手甲持ちのフリーのフィニッシャーがいれば、恩の一つも売りたくなるのが、AWOプレイヤーの性ではありませんか?」


 LDの答えにため息を吐いて表情を緩める大男。大男は少女の前から身体をどけると、頭をガシガシとかいた。


「まぁ、そういうことなら、ありがたく恩を買わせてもらうさ」


 呆けていた少女は大男の許しが出たと思ったか、再度LDに詰め寄って口を開く。


「冒険王に会わせてよ! 私、冒険王の話を聞いてずっと会いたかったんだ!」


「まぁ、待て。まずは自己紹介から先だろう。これから『パーティーを組む』かもしれないんだからな」


 ――えぇ、そうね。自己紹介は大事なことよ。


 大男が少女を諭した直後、ギルド内に鈴の鳴るような声が響く。

 声の方に目を向ければそこには銀糸を舞わせる、美しき黒き白が……。


「アリスッ! あんたなんてだらしない格好してるのよ!」


 ……いなかった。カイトの席から声を上げたイェレナの言う通り、アリスの容姿は髪はボサボサだし目の下には濃いクマがある。更に目は据わっているし、服は乱れている。

 そう、そこにいたのは連日の徹夜で疲れきった、酷い状態のアリスだった。


挿絵(By みてみん)

今回は新キャラを早く書きたくて連日投降になりました。

ロリ巨乳と片角の鬼人です

髪の色がカイトと被ってたので変えました

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