表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴァンパイア辺境伯 ~臆病な女神様~  作者: お盆凡次郎
第25章 グリムス領の日常
33/107

第25章 グリムス領の日常4(終)

第25章最終話お届けです。

ブクマいつもありがとうございます


 ――どれくらいの時間が経過しただろうか。LDが謎の部屋に入ってから一時間近くの時間が経っている。部屋の現状にLDはフリーズでもしているのかのように呆けてしまっている。


(ここに存在する『これら』が何なのか不明。データ参照、データエンプティ。通算20回目のデータ参照失敗。AWO及び『旧時代』のデータベースに該当するモノは存在しないと断定)


「これは何ですか?」


 検索から復帰したLDはじっと待っていたモアに問いかける。モアはその問いかけに対して口をへの字にして嫌そうに答えを返した。


「あー、これはマスターの発明品です。じゅーりょくほーだとか魔力展開式ちぇーんそーだとか、よくわんねーもんです」


 それを聞いてLDは以前アリスがアンジェリスで言っていたことを思いだす。振動破砕機構を始め様々な兵器を発明していて、それをLDに装備させようとしていた。

 つまりここにあるのはその兵器達なのだろう。


「マイスターは戦争でも考えているのですか?」


 そうLDが疑問を抱くのも仕方ないことだろう。ここにある品々は理解してしまえば、明らかにこの世界に対してオーバーテクノロジーすぎた。それこそ使用できるならここにある兵器だけで戦況を覆せる程だ。

 モアは目は見えないが困ったような口調で口を開いた。


「それはちょっと違ぇーんですよ。戦争は戦争なんですけど、相手はレイドボス、『第0級接触禁忌災害』です」


 LDはレイドボスの名前を聞いて驚きこそしなかったが、それが存在していることに危機感を抱く。


(レイドボスが存在しているなら、自己保存に問題が生じる可能性が高いですね。でも、レイドボスを対象にしているのなら、この装備の存在も納得できます。

『第0級接触禁忌災害』、最重要項目として記録しておきましょう)


 LDはそう結論付けると周りの兵器に目を向ける。ロボットアニメにでも出てきそうなキャノンやら巨大な剣やら、様々な形をしていた。

 それを目にしながら先程通った異常なほど厳重だった扉を思い出す。


「これが悪用されれば何が起こるかわからないから、扉はあそこまで厳重だったのですね」


 モアはそれを聞いて首を傾げている。LDの言ったことにまるで思い至らないようだった。


「あー、えー、扉はマイスターの趣味です。そもそもここにあるのは人間が生身で使用することなんて不可能なので、盗まれても悪用される前に死んじゃいますし」


 あれほど厳重な扉を趣味で作るとは、さすがにロマンに生きすぎてモアも頭が痛いのか、後頭部を押さえている。LDに至ってはロマンに高性能頭脳が付いていかず固まってしまっている。

 嫌々気味なモアが続いて語るには、起動にこの世界の人間数人分の魔力を消費するとか、チャージ段階の熱量で腕が炭になるとか、トリガーを引いた瞬間身体が消し飛ぶので照準が定まらないとか、とてもじゃないが人間が使える代物ではないらしい。


「そもそもここが建設されたのは最近、その前は研究所の片隅にぶん投げてあったんですよ」


 ここにまともな感性の人間がいれば『そんなものぶん投げておくなよ!』とツッコミを入れていただろう。だがここにいるのは機械人とロクデナシメイドである。


「控えめに言って最悪の保管方法ですね。暴発の危険性は……、そもそも起動すらしませんか」


 LDは冷静に過去の状況を分析して、疑問に対して自己完結する。

 モアが自分の主の奇行にうなだれ気味なのを無視して、LDはここにある装備を見て周る。よくわからない物もいくつかあるが、なんとか遠距離武器か近距離武器かくらいはわかる形状の物もいくつかあった。その中に二つ、LDが気になる物があるらしく、彼女はその装備を見つめていた。


(これは長距離ライフルとハンマーでしょうか。どちらもサイズがおかしいですが……)


 対物ライフルをそのまま巨大にして銃口を太くしたようなものと、ブースターのような物が付いたハンマーだった。ライフルの長さはLDの倍以上、ハンマーはLD二人くらいなら同時に叩き潰せそうな大きさだ。


「それは魔力反応式内部炸裂弾頭用対物らいふるってのと、爆発魔法発動型噴射槌ですね。どっちも使うと身体がぶっ飛ぶ代物です」


「少し触っても大丈夫でしょうか?」


「別に問題はねーですけど、魔力は流さねーでくださいね」


 モアの忠告に一度だけ頷いてからライフルに手を触れる。手を触れているだけなので詳しくわかるわけではないが、スキャンを実行してデータと比較してみればある程度のことはわかった。


(補助用の装備がいくつかあれば使用は可能。なるほど、さすがはマイスターということでしょうか)


 ハンマーにも触れて同じ感想を抱くと、手を離して装備から距離を取る。解析した結果からLDはこれらの装備が『使用不可』なのではなく『使用するのに条件がある』物であることに気付いた。

 純粋な肉体の強度はもちろんのこと、様々な補助装備や地形などの条件が満たされれば

『使用可能』なのだ。そして機械人であり補助装備をボディに直接接続できるLDであれば、多少の改造は必要だが条件を満たすことができる。


「私にはよくわかんねーですけど、どうやらマスターの目論見は当たったみてーですね」


 モアは解析を終えて思考に沈んでいたLDの様子にそう感想を零した。LDはその言葉に自分がアリスの想定通りに動いていたことを悟らされる。

 アンジェリスでは新装備を拒否していたが、今これらの新装備の話をされればLDは頷いてしまうだろう。むしろ自己保存のために積極的に装備の拡充を求めるかもしれない。


(マイスターは自己評価の低さに反して随分とやり手のようですね。貴族故なのか、それとも本人の資質か……)


 LDは別にそれを悪く思うことはない。レイドボスの存在がある以上必要なことだったと考える。それはLDの自己保存の観点だけでなく、アリスの対レイドボス対策としてもである。


「モア、『第0級接触禁忌災害』とやらの資料はどこで見れますか? 対策を考えるためにも資料がみたいのですが」


 モアは呆れた様子でため息を吐くと、宿舎の資料室の場所を口頭で教える。LDはそれを聞いてすぐに踵を返して入り口に足を向ける。しかし、入り口付近で一度足を止めてモアへと振り返った。


「マイスターに伝言を頼みます。専用の装備と四肢パーツの製造を依頼します、とお願いします」


 用件を口にした後そのまま入り口を通って外へと向かっていく。モアは黙って立っているだけで、返事もなければ動くこともなかった。


(うげっ、これ私も改造作業に駆り出される流れじゃないですかー)


 ――LDが資料室から資料を借りて部屋から戻ってきたのは、もう日が落ちてからだった。食事は一応取ったが、早さ重視で簡単な物で済ませた。

 資料を見ながらLDは『第0級接触禁忌災害』の被害の大きさに危機感を募らせていた。


(国一つが消滅ですか。資料とマイスターが挟んだと思われる追記資料を見る限り、140年前に現れたのはアーカーシャですね。まったく、転移者が資料を見ることまで想定済みですか……)


 アリスの挟んだ追記の紙に目を向けながら、LDはアリスの抜け目なさに評価をまた一段上げていた。それと同時に機械人のパーツについて語っている時の、見た目相応の子どものような姿を思い出す。


(あちらの一面が素顔なのか、抜け目ない彼女が素顔なのか、この世界の50年の結果なのか元からか、マイスターは謎の多い人ですね)


 あまりに極端な両面に、かつてのアリスを知らないLDは頭を悩ませる。かつてのアリスを知っていれば子どもっぽい姿が素顔だと思っただろうが、LDがアリスと出会ったのはこの世界に来てからだ。

 LDはアリスのことを推察しながらも資料を読み進める。LDが資料と追記を全て読み終える頃には既に月が真上から下がり始めていた。

 LDは頭の中で資料の内容を反芻しながら、寝巻きに着替えて就寝の準備を進める。


 ――その頃、屋敷の一室ではアリスが頭を抱えて唸っていた。


「ふざけんなっ。何で毎年毎年、この時期が近付くとこう問題が起きんのよ!」


 アリスが見ていたのは冒険者ギルドから上がってきた報告書である。そこに書かれていたのは、今年の大狩猟祭のリクエスト衣装をめぐって冒険者同士で殴りあいがあったとか、他領で密猟者の動きが活発になったとかである。

 一頻り唸った後、アリスは通信魔導具に視線を向けてから口を開いた。


「で、リリス、密猟者の様子はどうかしら? 今回はどこのバカ貴族が関わってるかわかってるんでしょ?」


《そうねぇ、リストアップは終わってるから帰った時にでも渡すわよ。それにしても声の調子が悪そうだけど、お姫様また寝てないのかしらぁ?》


 通信魔導具からリリスの心配そうな声が聞こえてくる。リリスの言う通り、アリスは目の下には濃いクマができ、声には覇気がなかった。髪もボサボサで、机の上には紙やらインクやらが散乱している。


「祭り前には寝るから問題ないわ。でもこれ以上問題が増えないでくれると助かるわね。まぁ、無理でしょうけど……」


 アリスの顔には諦めの色が濃く浮かんでいた。参加受付が始まれば今度は別の問題が発生する。特にリクエスト関係については大きな問題が残っている。


《毎年恒例の『奴隷リクエスト』には困ったものよねぇ。お姫様に『奴隷娼婦』を要求するなんて命知らずもいいところだわぁ》


 リクエストの中に存在する一つがアリスの頭を悩ませる。『奴隷娼婦』とは最悪極まりないリクエストだ。当然誰がこんなリクエストをしたのかを調査してはいるが、誰が出した物なのか判明していない。

 リクエストは参加申請と一緒に出されるため、参加者の誰かであることは間違いないはずなのだが、それとなく聞きこみをさせてはみたが該当者は見つからなかった。


「ただのふざけたリクエストなら一笑に付すだけでいいのよ。実際最初の頃は無視してたわ。でも毎年、しかも投票者不明となれば嫌な予感の一つもするわよ……」


 アリスは実際リクエストの内容自体はそれほど問題視していない。20年以上現役の冒険者など絞れそうな条件にも関わらず、見つけることができない事実の方こそ問題に感じていた。大規模転移以前は新たな転移者が現れた可能性も考慮しており、いよいよ自分が動かないといけないとさえ考えていた。


《先に言っておくけど、お姫様が自分で動くのはなしよ。そんなことすれば相手が雲隠れしちゃうかもしれないもの》


 リリスに言われるまでもなく、そんなことはわかっている。わかってはいるが、もはやギルド職員達を秘密裏に動かして探るには限界を感じていた。

 アリス自身が動けば雲隠れされる可能性も高いが、隠れられる前に見つければ済む話でもある。ハイリスクハイリターン、もし大規模転移前にこっちに転移して来た者が犯人であったなら、ハイリスクどころでは済まない。


「なんで開会式でコスプレなんてすることになったのかしらね……」


 アリスは肩を落としながら過去の自分の愚かさに嫌になる。元々、密猟者の後始末をなんとかしようと思って思い付いた『祭り』だ。

 第三回大狩猟祭の時、アリスはドレスのままでは格好が付かないと思って、倉庫に眠っていた騎士鎧を纏って開会式を行った。その結果……


 ――やべぇ、領主様の背伸びした格好かわくね?


 冒険者達から上がった声はそうしたものだった。格好付けるどころか、コスプレ扱いされたことに頭を悩ませた。しかし、来年更なる問題がアリスを襲った。

 翌年の大狩猟祭参加受付の際に要望という名のリクエストが殺到したのだ。当時のリクエストが大人しいものだったことと、『NOと言えない日本人』の気質も相まって応えてしまったのだ。それからはそれがイベントの定番となってしまい、今現在でもNOと一度も言えないままとなってしまったのだ。


《まぁ、お姫様の自業自得ってやつじゃないかしら?》


「その通り、その通りなんだけど、納得はできないのよ……」


 アリスが再び頭を抱えて唸り始める。過去の自分を殴りたいという表現が存在するが、まさにそんな心境だ。まぁ、毎年この時期にはそんな心境になるのだが。


《私はかわいいお姫様の姿が見れるから構わないんだけどねぇ》


 リリスのそんな欲望に忠実な一言に、アリスは更に唸り声を上げて足をバタつかせる。


(なんでうちの従者はこう、癖が強いのよ。どこで教育を間違えたのかしら……)


《そういえば、丁度いい冒険者の子犬ちゃんがいるんだし、任せればいいんじゃないの?》


 それを聞いたアリスは勢いよく顔を上げて、驚愕した表情を浮かべる。忙殺されてすっかり頭から抜けていた、数日会っていない友人の顔を思い出す。


「それよっ! リリス、ナイス! とりあえず今年も同じリクエストが来たらそうするとするわ。アハッ」


 アリスは自分では爽やかに笑っているつもりみたいだが、現在の風貌と合わさって美少女台無しの狂気を感じる笑みを浮かべていた。幸いなことに、ここには誰もいなかったので見られることはなかったが、一人部屋の中で笑い続ける。

 カイトが今日受け取った転写紙のせいで、宿の自室で悶々としているのと同じ日の出来事である。


やっと主人公復帰。ただし風貌は酷い

セリフの数を増やせないか四苦八苦中

次回から26章 兄妹 です


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ