表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴァンパイア辺境伯 ~臆病な女神様~  作者: お盆凡次郎
大狩猟祭編・プロローグ
29/107

プロローグ 45年の軌跡・グリムス領主の苦悩

ブクマとかもう本当ありがとうございます。

前回の投降で何故か結構伸びた!?

ゲロインがゲロインしてるのがいいのか!?(違っ


 アリスがグリムス領の領主になって三年の月日が流れた。素人が建てた欠陥住宅しかなかったこの領地も、大工を招いてアリスが24時間体制の護衛をすることでなんとかそれなりに形になり始めた。

 屋敷も簡素ながら建て終わって、一人には広すぎる家にアリスは一人で住んでいる。最近は宿屋が懐かしくもなる。


(貴族って何すればいいのよ……)


 屋敷が建て終り、大工の護衛を領主依頼として冒険者に回すようになった。そして、本来の貴族の仕事をしようと思っていたのだが、何をすればいいのか全くわからないのだ。


(ロマの奴、めんどくさいこと押し付けないでよ……)


 この三年の間にやったことといえば、北に広がるグリムスの森のモンスターを倒して素材を他領地に売り払うことと、それを元手に冒険者にグリムス領周辺モンスターの討伐などの依頼を出しただけだ。

 それだけだが、冒険者からは特に不満は出ていない。元々グリムス領にいる冒険者は一番近くの領地にあるギルドに所属していることになっている。領地の状況故に依頼など存在しなかったため、ギルドはグリムス領の冒険者からは素材の買い取りからしか税金を徴収できていなかった。

 そこにアリスが依頼を出すことで依頼料分の税金が発生することになった。一応はその領地の所属になっているが、冒険者はギルドという組織の支部から本部を介して税金を納めているため、どこの領地が税金を納めたかという問題は発生しない。

 アリスの出した依頼は、元々トップクラスの冒険者により多く税金を納めてもらえる要因となったため、国からもギルドからも歓迎された。冒険者からしてもグリムス領での生活にやりがいが増して嬉しい限りだった。

 冒険者についてはそれでよかったのだが、アリス自身についてはそうもいかなかった。貴族として教育を受けたわけでもなく、補佐を連れてくることもできない領地の領主になったため、頭を抱えてしまうことになったのだ。

 ただし、この領地の住人は全員が冒険者である。そして冒険者の税金はギルドを介してちゃんと納められている。更には税収の増加のために依頼も出している。グリムスの森のモンスターの討伐も自身で行っている。つまりは、最低限の領主の仕事は完遂しているのだ。

 この領地に限っては、自身が裕福になろうと思わない限り領地を裕福にする必要がない。だがそんなことすらわかっていないアリスは、何か仕事をしないといけないと考えているのだ。


(誰かに聞こうにも、貴族の知り合いなんていないわよ……)


 アリスはその能力故にグリムスの森に対する備えとして領主となったため、貴族社会には疎い。貴族の知人など次期国王のオーウェン王子とその婚約者であるエレノーラ伯爵令嬢くらいしかいない。訳ありの成り上がりな辺境伯のアリスには二人の身分は高すぎて容易には会えず、故に誰かに聞くこともできないのだ。


(今日もあの仕事に行く時間ね……)


 アリスは憂鬱な表情で椅子から立ち上がると、軽くストレッチをしてからドアへと向かう。グリムス辺境伯の一番大事な仕事をする時間なのだ。


 ――屋敷を出てから一時間程後、アリスはグリムスの森の前まで来ていた。アリスの一番大事な仕事、それはグリムスの森のモンスターがスタンピートを起こさないように間引くことと、森の状況をその目で確認することだ。

 アリスはギルド登録の上では最高ランクのAランク冒険者であり、最強の冒険者でもある。最強故にアリスにしかできない仕事。それがこのグリムスの森の管理なのである。その報告や森との最前線であるという理由があり、アリスは辺境伯という地位が与えられているのだ。望んでいたわけではないが。

 アリスは森を見渡しながらモンスターの気配を探す。そうして歩いていると木の陰から、一匹の羽の生えたライオンのようなモンスターが飛び掛ってくる。

 アリスはそれを手に持った愛剣を一振りして弾き返すと、懐に飛び込んで剣で薙ぐ。モンスターはそれを受け大きな悲鳴を上げると、風を纏って飛び上がる。

 それに対してアリスは剣を下げて、剣を持っていない左手を横に振るう。すると、アリスの周囲に黒い剣のような物が四つ浮かび上がった。

 アリスのサブジョブ『ダークナイト』のスキル『イリュージョンブレイド』だ。これは自動攻撃する剣を周囲に四つ召還するスキルである。ただし、それはただスキルを発動した場合の話である。

 風を纏って浮かぶモンスターに向けてアリスが腕を突き出すと、幻影の剣がモンスターに向かって飛翔した。剣はモンスターの羽や胴に突き刺さり、その衝撃でモンスターを地面に叩き落とす。それなりの深手ではあるようだが、モンスターはまだ絶命してはいない。

 それを承知しているアリスはもう一度幻影の剣を射出しながら距離を詰める。手には先ほどまでの剣とは違う禍々しい装飾のされた大鎌が握られている。

 幻影の剣がモンスターに突き刺さり、モンスターは大きな悲鳴を上げる。アリスはモンスターの懐より少し遠い位置で大鎌を構えると、魔力を流して斬り上げるようにして振るう。大鎌を振るう直前にアリスの身体を体力が抜け落ちる感覚が走った。それに構うことなくアリスは大鎌を完全に振り上げる。大鎌の軌跡をなぞるようにして牙のようなものの幻影が姿を現し、その牙はモンスターの身体を噛み砕いた。『ブラックファング』、HPを消費して強力な一撃を放つダークナイトのスキルだ。


「LV189、ブラストキマイラね。まぁ、この辺りじゃ普通ね。異常なしっと。」


 LV189、アリス以外のAランクではパーティーを組んで、犠牲がでてなんとか倒せるモンスターである。グリムスの森のモンスターはどれもがそのレベルのモンスターであり、さすがにアリスでも一撃で両断とはいかない。一撃で倒せないくらい生命力があるというだけで、アリスの脅威とはならないのだが。

 眉を潜めながらも同じ調子でモンスターの間引きを続けるアリス。今にも吐いてしまいそうなほど気分が悪いが、10日に一回のノルマはまだ終わっていない。


(冒険者はさすがに雇えないわよね。Aランクと言ってもこの領地じゃピンキリだし……ん? Aランクがピンキリ?)


 そこまで考えてアリスの中に一つの疑問が思い浮かぶ。冒険者ギルドで認定されるランクはAランクが最高ではあるが、領内の冒険者と領外の冒険者はもちろんのこと、領内の冒険者の間でもLVや実力に差が出てくる。それにも関わらずその全員をAランクと一くくりにしているのだ。

 これにも理由があって、Aランクパーティーで狩れないモンスターはギルドの勢力圏である王国内において、グリムス領のモンスターくらいでありAランクより上のランクを作る理由が特になかったのだ。ギルドはグリムス領に支部がないので、領内のモンスターの正確な情報を把握しきれていないのも理由の一つだ。


(異世界転移物だと大体Sランクとかあるわよね……)


 この数年後、アリスは自分の屋敷にギルドを併設することに成功し、Sランクと二つ名制度の制定を成し遂げる。

 アリスは頭の中で新しいランク制度について考えながら、ノルマの最後の一匹を撃破する。モンスターの死骸をアイテムボックスに入れてから、来た道を引き返し始めた。

 アリスが森を出て少し歩いたところに町(予定)の入り口がある。普段は閑散としており、時折冒険者が通るだけの道は何故か今日は騒がしかった。


「何があったのかしら?」


 アリスは近くにいた冒険者を一人捕まえて問いただすと、冒険者は鬼気迫る表情で話し始めた。


「領主様! どっかのバカが、ズゥの巣を突きやがったんですよ! おかげで巣周辺のモンスターが大暴れしてるんです」


 それを聞いたアリスは呆けた表情で固まってしまう。この領地に来る冒険者は皆ベテランどころか、極まった連中だ。モンスターの巣を突くような愚行を犯すものはいるはずがなかった。


「またバカな密猟者が沸いたのかしら……」


 アリスがこの地に来て依頼面での恩恵があった。モンスター討伐のみではなく、極まったAランクパーティーを雇うため、高額で滅多に出される事のない行商の護衛などの依頼もアリスがいくらか金額を負担することで出されるようになった。それによって行商の来る頻度が上がって、冒険者達の生存率が上がった。

 人の出入りが生まれるのは何もいいことばかりではない。グリムス領の噂が外に漏れると同時に、モンスターの卵などを専門にする密猟者が領地に出入りするようになったのだ。彼らはモンスターと戦闘はせず、モンスターの巣などから卵などを盗んで逃げ出す。そのため怒り狂ったモンスターが暴走し、それが他のモンスターにも伝わって大騒動が起きるのだ。

 その後始末をするのも、被害を受けるのも、全部さっさと逃げ出したかモンスターに見つかって食われた密猟者ではなく、この地にいる冒険者達なのだ。なので、この領地では密猟者は見つけ次第『処理』することになっている。

 本来この領地はAランク以上の冒険者が更に鍛錬を積んで、ようやく移住許可が下りる土地なのだ。密猟者は存在しない者として処理されることになる。この土地に生きる冒険者にとって彼らはモンスター以上に危険な存在なのだ。


「密猟者は誰か見たのかしら?」


「あぁ、密猟者ならもうとっくに処理されたみたいですよ」


 アリスは密猟者の件を聞いて安心と一緒に胸に刺さる何かを感じて、小さくため息を吐いた。

 しかし、現状はまだ何も解決していない。モンスターの大暴走はかなりの被害が出る出来事だ。


(私が一人で処理すれば違うでしょうけど、冒険者に任せるなら被害はどうしても出るわね。私も今日はもう戦闘したくないんだけど……)


 アリスは内心陰鬱な気持ちになりながらも、この事態への対処法を考える。一つ『祭り好きな日本人』らしい発想が頭に浮かぶが、その考えを頭を振って振り払う。だが、その考えなら自分の戦闘中の罪悪感は少し薄れるだろうし、収拾後の冒険者の陰鬱な気持ちも多少は薄れるだろう。


(命への冒涜だけど、やるしかないわよね……。なんでこんなこと思いついちゃったのかしら)


「そこのあなた、冒険者達を集めてちょうだい。『祭り』を開くわよ」


 アリスは話を聞いていた冒険者にそう告げると、町の入り口の一番目立ちそうな場所へと足を進めた。

 事態収拾後に嫌悪感で押しつぶされることはわかっている。それでも領主であるアリスはそれをしなければならなかった。

 だが、アリスはこの出来事が後々、別の意味で自分の首を絞めることになることには気付くはずもなかった。


第2部プロローグです

アリスさん本編より無双してね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ