表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴァンパイア辺境伯 ~臆病な女神様~  作者: お盆凡次郎
第24章 冒険者領にようこそ!
23/107

第24章 冒険者領にようこそ!1

転移者転移編最終章開幕です。

ブクマ・評価ありがとうございます!(ドゲザァ

通信括弧間違えてたので修正(二月二十四日)


 ――アンジェリス迷宮27層。今この場所ではカイトとLDがパーティーを組んで攻略を行っている。現在は複数のモンスター相手に戦闘している最中だった。

 戦闘はカイトが前衛で敵の攻撃を受けて、後衛のLDが銃で敵を倒すのがメインだった。この戦闘方法は二人に合っていたらしく、攻略開始から二日で全30層中27層に到達していた。以前アリスが攻略した時は10日ほどかけて攻略した。

 カイトはトカゲ男のリザードマン、その中位種であるリザードファイターの攻撃を盾でいなして、蹴りで相手を転ばせる。転倒したリザードファイターの頭部をLDの放った銃弾が容赦なく粉砕した。


「掃討完了。周囲にモンスターはもういないようです」


 LDが周囲を見渡しながら、モンスターの殲滅を確認し報告する。アリスの(魔)改造の結果、頭部の角が索敵魔導具と化しているので、LV100に満たないこの階層の敵なら存在していれば確実に探知可能だ。


「わかった、それじゃ次の階層に下りようか。今日中に攻略完了しないとアリスがキレそうだし……」


 カイトは賊討伐から数日、迷宮攻略に向けてスキルの鍛錬に時間を費やしていた。賊討伐で自分の手札の少なさ、未熟さを思い知った故だったのだがそれに対してアリスの反応は……。


 ――いつまで待たせるのよ。いい加減、領地に戻らないとまずいんだけど? 終いには一人で戻るわよ?


 と、カイトをせっつくものだった。そしてそれから三日後、つまり今から見て明日にアンジェリスを出るとまで言い始めた。今日中に迷宮を攻略しないと置いていかれるということだ。カイトはため息をつきながら階段に足を向ける。

 迷宮とは経緯不明の建造物であり、その形状はここのような地下に進む洞窟型から建造物のような物、果てには室内にも関わらず広大な大地と太陽があり昼夜の概念がある物まで存在する。何時、何故、どうやって作られたのかも不明。ただ一つわかっているのは階層を進むとモンスターが強力になり、貴重な資源が手にはいるということだけだ。次にこれは迷宮に限った話ではないが、モンスターは通常の繁殖方法以外にも、突然発生する形で増える事もある。迷宮内ではこの方法でモンスターの補充が行われているらしい。そして、最奥には強力な個体が存在している。


「ここのボスはビースト・ウォーロードだっけ?」


 カイトが迷宮に潜る前にアリスに教えられた事を確認する為にLDに話しかけた。


「肯定します。ここのボスモンスターはビースト・ウォーロード。LVは87、物理攻撃主体のモンスターです。注意点はありません。適性LVのパーティーでも問題なく撃破できるでしょう」


 LDが情報を正確に伝える。これらの情報は元々AWO時代と同じものだが、アリスに確認を取ってこの世界でも通用することはわかっていた。だからといって、気を抜いたりしているわけではないが、少し気が楽なのは確かだろう。


「ビースト・ウォーロードかぁ。負けることはないだろうけど、実戦だとどうなるか……」


 カイトがそう考えるのはここまで戦ってきたモンスターですら、カイトの知らない動きを何度も見せていたからだ。プログラムだったAWOのモンスターとのこの違いは、アンジェリス周辺でLV20に届かない雑魚を狩っていたのでは気付けなかったものだ。

 いくつかの心配事を抱えながら進むカイト達が巨大な狼男のようなモンスター、ビースト・ウォーロードをあっさりと完封で倒してしまうのはこの四時間後の出来事だった。


 ――アンジェリス領主の屋敷の執務室でアリスとウィリアムは九個の通信魔導具を並べて座っている。ウィリアムが先日起きた転移者の賊化騒動の説明を行っていた。


「以上がこの前起きた事件の内容だ。とりあえず鎮圧自体は問題なくできたんだがな」


 報告がこの日までずれ込んだのは捕らえた賊への尋問を行っていたからだった。賊達は予想に反して協力的で、転移してから捕まるまでの出来事を各々の視線で細かく答えた。あまりに協力的すぎて嘘を疑いそうになるが、うなだれて諦観したその姿を見て疑いはすぐに晴れた。


《エルフの転移者『オーパル』ですか。国には持ち帰りたくない案件ですね》


 通信魔導具の一つからエメラドの声が響いた。魔導具は各々議会の者に直接繋がっており、これを使って臨時議会を開いているのだ。

 40年程前のオーパルの事件は長い時を生きるエルフにとっては過去の話ではなく、今回の件が国に知れれば何かしら厄介事が起きるのは簡単に想像できた。


《も、問題はそれだけではないでしょうね。カリュガ帝国に知れれば火種になりかねませんし。聞くところによるとカリュガの新帝はかなり過激な人物とか……》


 何かを飲み込む音とともにブラッドフォードが辛そうに喋る。

かつて英雄オーパルの時代、カリュガ帝国はオーパルと戦い敗れている。その戦場となった現在の国境にある『大決戦場』は、未だ王国にも帝国にも属していない場所となっている。オーパルを名乗るエルフがいるなどと帝国に知れれば、帝国は王国が戦争を起こそうとしていると考えてもおかしくはない。


《早い段階で捕まえられたのは重畳。ソイツの存在は外に知られるべきではないだろう》


 ダリルの言葉に頷くウィリアム。アリスは考え事をしているのか黙ったままである。


「とりあえず捕らえた連中をどうするかなんだが、一応まだ実害がねーことと、協力的なこと、それらを考えて処刑は見送りでいいと思ってんだけど」


 戦闘になって殺すことになった大男と、実際に村に襲撃をかけようとしていた4名の内3名、合計4名を殺すことにはなった今回の件だが実害は出ていない。それ故に投降した連中まで処刑する必要はないとウィリアムは考えている。ただし、今回は見逃すだけであり、危険性を考えて1年前後は牢屋で過ごしてもらうが次に何か起こせば重い罰、最悪その場で処刑するつもりだ。

 会議が進むが、アリスはずっと黙ったまま考え事をしている。チラチラとウィリアムが様子を伺うが反応する気配はない。そして会議が終わりそうになった時、アリスははっとした表情をして両の手の平を合わせた後口を開いた。


「あーそうだわ、うん、そうね! 私がやればいいじゃない」


 唐突にわけのわからないことを口走るアリスに、ウィリアムは何を言ってるんだと言わんばかりの表情で視線を向ける。魔導具の向こうからも困惑が伝わってくる。それに気付いたアリスは両腕を広げて満面の笑みを浮かべた。


「ほら、吸血鬼の転移者が少なくて、しかも補助ジョブ錬金術師は一人もいなかったじゃない。結界魔法に必要なのは高度な魔法陣と吸血鬼のスキルの二つ。吸血鬼の錬金術師なら一人で全部まかなえる分時間も手間も短縮できたのよ」


 議会が重要視する結界魔法は最低でも起動に血の儀式を必要とする。それ以外の魔法陣の作成や結界維持のための魔力補充と大部分は吸血鬼が必要になることはない。だが、結界魔法の対象を限定する術式には、血の儀式から発動する広範囲対象指定型スキル『宵闇の晩餐』の一部が使われている都合上、その部分の起動に血の儀式が必要になるのだ。魔力だけで起動しようとすると何故か起動できない。更に言えば、吸血鬼であっても知識と経験がなければ起動させるのは難しい。ただ血の儀式を使うのではなく、自身の血に魔力を流す過程のみを行うためだ。

 この世界には吸血鬼が二人いるが、血の儀式が使える吸血鬼最高階位『真祖』であるのはアリスだけであり、新たな転移者に『真祖』の錬金術師がいることを期待していたのだ。結果は先ほどアリスが言った通り、一人もいないということだったが。


「広範囲に血の儀式を使うから、血を飲みながら血を流しつつ魔力操作を行うとかしないといけないもの。新しく転移してきた連中だとその辺難しそうなのよね。何せ、全員物理近接ジョブなんだもの……」


 そう、最大の問題はそもそも魔法系のジョブを取っている転移者の吸血鬼がいなかったことである。アリスも魔法に特化しているわけではないが、元々血の儀式やバフをメインにする都合上スキル構成やステータスを魔法系ジョブに近いものにしていた。それに加えて時間をかけてその辺りの技術を身につけている。その為手動発動でなら魔法系ジョブ並みに魔法を使える。


「だから、錬金術師が作った結界魔法の魔法陣に私が起動だけしにいくのが一番いいでしょうね。幸い錬金術師の長命種なら転移者に山ほどいるし」


 そう言ってアリスが頭に思い浮かべたのは最初に面談したエルフの女性だった。彼女は戦闘する職業になるのは無理だったが、研究職なら問題ないと約束もしてくれている。結界魔法の魔法陣を理解し敷設には少なくとも10年以上の時間がほしい。それは人間がメインの王宮魔導師では難しい。


「もちろんエレミアにも期待しているわよ。あなたは私の弟子であり眷属なのだから」


 アリスが魔導具の一つに視線を向けて言葉を発する。その言葉に視線の先の魔導具から溢れんばかりの歓喜が伝わってくる。


《うん、うん、ボクがんばるよ。お姉さまの『愛』に絶対に応えてみせるからね!》


 伝わってきた声は普段の大人しいイメージとはかけ離れた明るいものだった。二月前の議会でもそうだったが、基本的にアリスはエレミアに甘い。エレミアは自分から何かを望むことはないが、アリスはエレミアに望まれれば何でもしてしまうだろう。それ程エレミアに甘いのだ。

 エレミアの魔導具からはもはやお姉さま、お姉さまという呟きしか聞こえてこない。トリップしているのだろう。


《うむ、大事なく済んだのは僥倖。転移者も多くがこの世界に馴染めそうではないか。当然、転移者達の希望通り帰還方法の模索をやめるつもりはないぞ》


 聞こえてきたのはオーウェンの声だった。オーウェンは事の成り行きに満足しているらしく、その声は少し弾んでいた。転移者問題はまだ完全に解決したとは言えないだろうが、それでも多くの転移者にこの世界で過ごす基盤を与えることができたのは大きいと議会は考えている。


《あ、そうそう、そっちにはわっちと同じ九尾の狐はいんすか? もし、いんすなら是非連れておいでくんなんし》


 もう会議そのものは終わったと判断したのか、アマツが私事を伝える。それを聞いて次に声を上げたのはグレンだった。


《あらぁん、それなら私もそっちで娼婦になった元男性に会ってみたいわぁ。どうせならうちの領の娼館に来れるようにしてくれないかしら》


 止めないところを見るに他の議会の者――エレミアは除く――もアリス以外の転移者に興味があるらしい。ウィリアムの報告で多種多様な文化や知識を持っていることも理由の一つだろう。


「まったく、この議会はいつも、こうして騒がしくなるのね……」


 アリスが呆れた表情で椅子に深く腰を沈める。


(あの二人はそろそろ迷宮を攻略できたかしらね。結構せっついたし、できていることを祈りましょうか。まぁ、できてなくても待ってはあげるけど……)


 帰る日付など一日、二日伸びたところで機械人(馬)であるアグニならいくらでも取り返せるので、最初から待つつもりだった。ただ、最近のカイトは慎重になりすぎていたようだったので、せっついて無理矢理自信を付けさせることにしたのだ。


(私なんて一ヶ月宿屋に引き篭もって、更に数ヶ月モンスター討伐すらしてなかったっていうのに、何を焦っているのかしらね。あのバカは……)


 ――翌日、領主の屋敷の前にアリス、モア、カイト、LD、ウィリアムの五人がいた。他の機械人と吸血鬼はカイト達より先に迷宮攻略を終えて、先にグリムス領へ出発している。その為ここにいるカイトとLDが最後の予定にあるグリムス領行きの冒険者である。ウィリアムは客人である貴族が領地へ帰るのでホストとして見送りに来たのである。

 モアとLDと話しこんでいるアリスを余所にウィリアムはカイトと並んで立っていた。


「近くにいるからって襲ったりすんじゃねーぞ」


「ハハ、随分な物言いだね伯爵様。僕はそんなことしないよ。彼女はとても、とても大切な人だからね」


 恋敵に釘を刺したり、挑発したりと忙しくしている。ウィリアムはしばらく離れることになるアリスから視線は外さないが、カイトに対しての敵意は隠していない。カイトは挑発的な笑みを浮かべて、ウィリアムの敵意を受け流している。


「そこの男二人なにやってんのよ。カイト、あなたはさっさと馬車に乗り込みなさい」


 アリスがそんな二人に向かって呆れた表情で声を上げた。カイトは少し困ったような表情をして足を馬車へと向けた。カイトが馬車に近付くと、入れ替わりにアリスがウィリアムに近付いて挨拶を交わす。カイトがモアとLDの横を通り過ぎようとすると……。


「腐海濃度の上昇を確認」


「腐ってやがりますねー」


 二人のそんな不穏な呟きが耳に入ってきて内心少し心が沈んだ。これからこの二人と馬車で長旅をすると思うと少しだけ憂鬱になるカイトだった。


いよいよグリムス領に帰ることになりました。

領主が二ヶ月も領地空けるとか最低だな!

まぁ、冒険者と関係者しかいない領地なんだけどね

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ