第23章 鮮血の万軍殺し(ブラッド・ヴラド)2
今回ちょっと下品?な表現があります
ゲロインが下品だって!?その通りじゃないか!
今回の下品な表現はゲロじゃないのであしからず
――カイトとLDが開拓地から7日ぶりに帰還すると門の前でアリスが仁王立ちで待ち構えていた。
「待ってたわよ、LD! あなたが帰ってくるのを心待ちにしていたわ! 今日のために色々準備していたのよ!」
しかも、やけにテンションが高く、吸血鬼の癖に目の下に隈まである。目も大きく見開き、口は半月状に歪んでいる。凡そ美少女のしていい顔ではなかった。
「この忌々しい太陽も今日ばかりは祝福に感じるわ。今日、この日、あなたは生まれ変わるのよ!」
と、わけのわからないことまで口走り始めるアリス。
「状況とあなたが理解できません。説明を要求させてもらいます」
そんなアリスに表情一つ動かすことなく、当然の質問を返すLD。カイトは完全に表情を引きつらせたまま停止しているし、アリスの後ろにはいつも通りの姿でいつもより3歩ほど後ろに立つモアがいる。
「説明など不要っ! とはいかないわよね。説明は後でするからちょっとついて来なさい」
そう言ってアリスは凄い速度でLDに近づいて、これまた凄い速度でLDの腕を掴んで、これまたまたLDをすごい速度で領主の屋敷方面へと連れて行ってしまった。
残されたカイトは何が起きたのか理解できずに、その場に佇んでいた。
「あのガンギマリマスターは領主の屋敷にいますんで行きましょーか」
モアがそんなカイトを見かねて声をかけた。カイトは無言で頷いて領主の屋敷へ向けて歩き始めた。そこでカイトは、ふと思い出したことをモアに尋ねる。
「ところで君は『ホムンクルス』なのかい?」
その言葉を聞いて剣呑な雰囲気をかもし出すモア。それを受け流しながらカイトは回答を待つ。剣呑な雰囲気をものともしないカイトに諦めたのか、モアはため息を一つついてから口を開いた。
「AWOプレイヤーならわかるというわけでごぜーますね。その通り、私はマスターが作った従者、『七罪のホムンクルス』の一体でごぜーますよ。でもこれは秘密なんで、今後人前では絶対に話さないでくだせーね」
カイトはモアの言葉の意味を完全に理解していた。モアが何を『素』として生まれたのか、モアが何故『金にがめつい』のか、アリスといた時間が長いカイトには理解するのに十分すぎる回答だったのだ。
「それじゃ、後2人はいるってことかぁ。残り4個は『素材』に使っちゃってたもんなぁ」
「そんなことまでわかるんですねー。このストーカーホモ野郎は……」
モアの口からとんでもない呼称が出た気がするが、あえて気にしないように心がけるカイト。微妙に歪んだ表情は隠せてないが。
――他人を引っ張った状態ではコウモリ化ができないので、全力ダッシュで屋敷に到着したアリスは、庭に存在する謎の箱の中へと入っていった。少なくともウィリアムとの面会の時にはなかったものだ。
その中には謎の台と、謎の『機械部品』が存在した。そんな中で椅子に座って対面するアリスとLD。
「さて、何故待っていたかだったわね。簡単に言えばあなたのメンテナンス。詳しく言えば、私の開発した独自の『機械人工房』による『擬似人体構造パーツ』への改造よ」
「拒否します」
即答でLDが拒否した。当然だろう。誰が「あなたの身体を改造させて」などと言われて承諾するだろうか。どう考えてもマッドサイエンティストの考えにしか思えない。
「まぁ、話はちゃんと聞きなさい」
そう言ってアイテムボックスから紅茶を取り出すマッドサイエンティストもといアリス。さっきまでのハイテンションと打って変わって落ち着いている。そして紅茶を一口だけ口にしてから話を続けた。
「あなた、メンテナンスしないと身体が朽ちるわよ。機械人は設定上では経年劣化が存在していた。つまり今のあなたはいつかそのボディが、使い物にならなくなるってこと」
それを聞いてもLDは冷静であり、感情が表に出ている様子はなかった。
「それともう一つ、その無感情が問題なのよ。新しい構造のボディにはホムクルンスの素体作成技術を応用して性機能も追加しているわ。あなたの『人間の部分』の欲求を満たすことができるはずよ」
その言葉を聞いたLDは理解できず首を傾げてしまう。機械人に人間の心はない、そう結論が出ているはずであったのだから当然だ。
「機械人は感情を感じない。それは正しい認識よ。でもね、あなた達転移者の機械人は人間の魂と記憶を機械人のコアに落としこんだ特異な存在なのよ」
機械人のコア――機械人の頭脳とされているパーツで、これが無事なら身体や心臓たる動力が破壊されても完全に修復が可能――は感情を感じない。LDもこれは転移してから自身がずっと感情を感じなかったことで確かなものと考えていた。しかし、元々人間だったことは前提として含んでいなかった。
「はっきり言って、あなた達が絶対に感情を感じないと私は断言できないし、感じなくていいとは思っていないの。だから感情を感じた時の発散先、もしくは感情の覚醒のために性機能をあなたの身体に付けるべきと言っておくわ」
この世界で感情を感じて起こる不都合も、過去の自身が失くなることもアリスは自分の身で理解している。それでも感情を失ったままでいさせたくなかった。感情を感じたことで戦えなくなるなら他の道を用意するつもりだ。
「まぁ、何が言いたいかと言うと、性機能を付けた身体で自慰行為でもしなさいってことよ」
しかし、台無しである。食欲や睡眠欲だと機械人としての生活に支障が大きいと考え、アリスはこれを選んだのだが、台無しである。
「急に下世話な話になりましたね」
LDも思わずツッコミを入れるくらいの台無しさだった。
「コホン、とにかくそのまま感情がないものと受け入れているのは、あなたの魂の健康上よくない影響があるかもしれないということよ。この世界を受け入れるのはいいの。でも過去の自分を殺す形で受け入れるなんてのは、私が見てて嫌なのよ」
アリスは顔を背けて悲しげな表情でそう口にした。その姿に感じるものがあるわけでないが、人間であったという認識はLDの中に確かに存在しており、更にメンテナンスの重要性と今後起こりうる可能性を考慮すれば答えはおのずと出てきた。
「整備を受ける件については了承します。ですがあなたにそれが可能なのですか?」
あとはアリスが単純に機械人のメンテナンスを行えるのかどうかの問題だけだった。
「当然でしょ。自慢になるけど、この世界で一から機械人を作れるのは私だけよ」
一から作れる。その言葉の意味するところは……。
「コアの生成が可能なのですか?」
そう、『起動できる』機械人のコアはゲーム時代には存在もしなければ、作成もできなかった。
「あら、『起動できない』コアならあったじゃない。あれが倉庫に眠ってたのよ。50年とLV250のINTがあればそこからコアの作成くらいできるようになるわよ」
AWOには機械関係のダンジョンで稀にゴミアイテムとして『壊れた機械人のコア』というアイテムが入手できた。アリスはそれを『倉庫に』所持しており、この世界で解析したのだ。
「あなた達はまだしらないかもしれないけど、この世界で倉庫付きの家を持てばゲーム時代の倉庫にもアクセスできるようになるわよ。この世界ではアイテムボックスと同じく、ストレージの魔法として扱われてるけどね」
この世界ではアイテムボックスやストレージは生まれ持った特殊な才能として存在していた。これを持つのは極々少数だが存在していたのだ。アイテムボックスと違い、ストレージは何故か自分が権利を持つ倉庫でしかアクセスできないのだが、アイテムボックス内のアイテムの所在と合わせてその謎は解き明かされていない。
「まぁ、そんなわけで技術面は心配しなくていいわよ」
それを聞いて立ち上がるLD。アリスは近くにあった真ん中に縦長の穴の空いたベッドの様な台を軽く叩いて、そこへ寝るように促す。
「一つ質問を忘れていました」
台に腰掛けたところでLDはアリスの顔を見て口を開いた。
「アリスは自慰をしているのですか?」
その質問を受けたアリスは一瞬動きが止まったかと思ったら、すぐに顔を真っ赤にして顔を背けてしまった。
「し、仕方ないことって世の中にはたくさんあるのよ」
濁した答えを返すアリス。それでは答えを言っているものだと思いながらもLDは何も言わずにベッドに仰向けに寝た。
「な、何か言いなさいよぅ……」
アリスからしたら酷い羞恥プレイなのである……。
――領主の屋敷の庭に鎮座する四角い部屋? にカイトとモアが到着した時にはドアに『ただいま改造中。入室禁止』と書かれた札が掛かっており、ドアの鍵はしまっていた。更には部屋? の横ではウィリアムが眉間を押さえて渋い顔をしていた。
「おう、お前らも来たか。あのバカ、転移者から貴重な金属を買い漁ったかと思えば、こんな小屋? 小屋だよな? とにかくこんなん俺の家の庭に作りやがった……」
これには恋敵のカイトも同情してしまう。
(ん? 貴重な金属、改造、LD……)
カイトは現状を理解する。アリスが中でLDの改造をしているのだろう。アリスは昔から巨大ロボとか好きだと話していたのを覚えていたのだ。そしてアリスの補助ジョブは錬金術師。アイテムの作成に特化した補助ジョブであり、その中にはポーションや魔導具はもちろん、機械人のパーツも含まれている。AWO時代にアリスは使いもしない機械人のパーツを練成しては楽しそうにしていた。
カイトはアリスからこの世界での補助ジョブの状況についても聞いていて理解していた。錬金術師が転移してすぐに作成できるのは作成魔法を用いてゲーム時代に存在したアイテムのみ可能で、それ以外の物や新しいものを作るには作成魔法なら魔方陣の知識、手作業なら知識と技術が必要だった。そしてアリスは機械人関係の知識をどうにかして得たのだろうとカイトは予想した。
「夢を現実にって言えば聞こえはいいけど、高いINTを拗らせてマッドサイエンティストへの道を突き進んでるんだね……」
そう考えたカイトの誤算はと言えば、『突き進んでる』ではなく、現在すでに『手遅れ』なことだろう。そうとは知らないカイトは空を見上げて、これ以上アリスが突き進んでしまわないように祈るばかりだった。
――即席機械人工房の中では改造を終えたアリスが椅子に腰掛けている。対面には台に座って自分の身体を確かめているLDがいる。
「驚きです。形状を変えることなく反射速度、柔軟性が以前より向上しています。以前の私のパーツでもAWOでは最高峰だったはずなのですが……」
そう言ってLDは腕を軽く動かしたり、胸を装甲越しに触ったりしている。
「触覚が人間だった時とほとんど一緒、いえ女性である分を含めれば多少敏感になっていますね」
自身の身体を確かめるLD。アリスはその様子を見て肩を竦めながら軽く息を吐いて話し始めた。
「女の身体は男だった時とは勝手が違うでしょうけど、それは許してちょうだい。コアの設定人格が女性だからそれに合わせたのよ。ちなみに今は機能停止させてるけど、希望があれば妊娠と出産もできるわよ」
「理解しました。男の記憶はあっても、現在私は自身を女性と認識しているので、男性型のボディには違和感が生まれたかと思います。それと妊娠・出産機能を使用する予定はありません」
それを聞いたアリスは少し残念そうな顔をしながら椅子に身体を沈めて目を閉じた。
「メンテナンス含め感謝します。マイスター・アリス」
マイスター、その呼び名を聞いて目を閉じたまま反応を示すアリス。
「そうね、この世界では一応唯一の機械技師だもの、そう、マイスターになるのね」
そう言って嬉しそうに口だけで微笑んだアリスはLDに頼みごとを一つする。
「私は少し寝るから、外にいるモアに一人だけで部屋に来るように言ってちょうだい。決して他の者は部屋に入れないこと」
「了解しました、マイスター」
LDの返事を聞いてすぐにアリスは寝息をたて始める。LDはその姿を確認して一礼すると部屋の扉へと手をかける。
――外にいたカイト達の前にLDが姿を現したのは、彼らが到着して1時間ほど経ってからだった。姿を現したLDは変わらずの無表情で見た目も変わっていなかったが、どこか艶のある雰囲気があった。
「マイスターより伝言です。モアだけ部屋に入り、他の方は引き続き入室禁止です」
アリスをマイスターと呼びそう伝言を伝えたLDに応え無言で部屋に入るモアと、それを見るだけのカイトとウィリアム。モアが部屋の中に入るとドアの前に立つLD。
「LD、君は何をしているのかな?」
カイトが疑問を口にすると、LDは首を傾げて答えを返した。
「何が疑問なのか理解ができませんが、行動のことを示しているのであれば、マイスターの就寝中誰も部屋に入らないように扉を護っております」
カイトはその答えに驚きを通り越して頭を抱えそうになった。『親友(想い人)がメカ娘を改造していたと思ったら、メカ娘のマイスターになって慕われて? いた』とかどこのライトノベルのタイトルだと言いたくて仕方なかった。
「あー、うん、ありがとう理解はできないけど、理由はわかったよ……」
カイトは考えることをやめた。ついでにウィリアムは頭を抱えて地面に這いずっていた。
というわけで、メカ娘の装甲というかアーマーの下に性機能が追加されました
あと補助ジョブに関しても少し
更新ペース落ちてますかも




