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ヴァンパイア辺境伯 ~臆病な女神様~  作者: お盆凡次郎
第22章 かつての戦友
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第22章 かつての戦友7(終)

今回もちょっと短いですが、第22章のエピローグ的な話となります


 ――町への帰還後、アリスはLDといくつか話した後、ウィリアムの許可を取ってカイトに町の案内をすることにした。結局あのメンバーの内、黒髪の戦士はウィリアムの言う転移者対策への参加を決定したが、エルフの女性は答えを出せなかった。その為女性には考える時間を与えることとなった。

 そしてアリス達はアンジェリスの町へと繰出したのだ。まずアリスは兵士の詰所へと案内した。そこではアリスを見て背筋を伸ばすニールがいた。

 次に向かったのは大衆浴場だった。東のアズマより輸入した技術で作った『銭湯』だった。名前が『女神の湯』だったため、アリスの機嫌が少し悪くなった。

 それからは、おすすめの食堂や雑貨屋、ポーション等も置いてある魔法道具店『女神の天秤』、アリスの機嫌がまた悪くなった。

 武具に関しては必要ないとカイトは考えていたが、戦闘をする上で欠かせない小道具の重要性を説かれて、鍛冶屋にも足を運んだ。

 一通り回り終わった二人は屋台で――アリスの奢りで――串焼きを買って、食べながら町を歩いていた。


「これで主要な施設はほとんど回ったわね。あとは冒険者ギルドと宿だけど、宿から先に行きましょうか。ギルドは明日でいいし」


 そう言ったアリスの視線の先では太陽がほぼ沈んでおり、町の中は夕陽もほとんど射していなかった。領主の屋敷にいたのが昼頃、それから森で戦闘を終えて時間は夕方に近く、それから2時間ほど足早に町を案内したのだ。


「この時間じゃギルドに行っても話しを聞く時間はなさそうだしね。てか宿って、僕はキャンプに戻らなくていいのか?」


「あー、あなたはウィル坊の下に付くんじゃなくて、表向きは私、グリムス辺境伯の客人になるのだから、冒険者になってもらわないと困るのよ。冒険者になるなら町に拠点を持つのは普通のことというか、町の外でホームレスする冒険者とか聞いたこと……ないわけでもないか」


 カイトの疑問は当然のものであった。転移者対策も兼ねてキャンプに集められていたのだから、そこから出て生活するのは問題ではないかと考えたのだ。

 だがアリスから返ってきた答えはまた理解に苦しむものだった。


「貴族の客人と冒険者って何の関係があるんだ?」


 そう、何故貴族の客人が冒険者である必要があるのかが理解できなかったのだ。


「私の領民の8割が現役冒険者、残りが元Aランク冒険者の商人や鍛冶屋よ。うちの領はAランク以上の冒険者の資格がないと居住が認められていないの」


 そこまで聞いてカイトは理解できた。


「つまりさっさとAランク冒険者になれってことだね……」


 苦笑いで答えを口にするカイト。それを聞いたアリスは満面の笑みを浮かべて更に口を開く。


「だからさっさとスキルを使いこなしてもらって、迷宮最下層まで突っ切ってもらうつもりよ」


 アリスが口にしたのはAランク冒険者の促成栽培計画だった。アンジェリス近郊にある迷宮は踏破すればAランクは確実と言われているが、この近郊では迷宮踏破できるほどLVは上がらないので実際にこの迷宮を踏破したのは過去に一人だけだった。


「私も数日で突破できた迷宮だもの、複数人であなた達を放り込めば一日とかからず突破できるんじゃないかしら」


 当然その一人というのはアリスのことなのだが。かつてアリスはこの町を去る際に迷宮を攻略して、その情報を町に寄与している。その時アリスはCランクから一足飛びにAランクへと昇格している。


「複数人? 他に誰か一緒に行くのかい?」


 カイトは複数人という言葉に対する疑問を口にする。慢心するわけではないが、ランクを上げるにしても一人で行うものと考えていた。


「それについては明日にでも話すわ。っと、ここがあなたが泊まる宿の『小猫亭』よ」


 アリスが足を止め、目を向けた先には、カイトは読めない字なのだが『女神の小猫亭』と書かれた看板があった。外観は少し大きいがゲームなどでよく見る普通の宿屋に見えた。

 アリスは宿の扉を開けて中に足を踏み込む。カイトもそれに続いて中へと入ると、一人の少女が姿を現した。


「あ、アリス様いらっしゃいませー。あれー? 今日は曾おばあちゃんの命日だっけ?」


「こらこら、勝手に命日を増やしたら先代女将に怒られるわよ……。今日は上客を一人連れてきたの」


「怒られるのはやだなぁ、っとお客様だね! おかーさーん!」


 少女はアリスから事情を聞くと宿の受付と思われる机の向こうへと声をあげた。すると机の奥から優しげな雰囲気の女性が現れる。


「アリス様ようこそお越し下さいました。いつものお部屋は空けていますよ。後ろの方が新しいお客様ですね」


 女性はアリスへ挨拶をすると、カイトに向けて優しく微笑んだ。


「それじゃ、モア、部屋の方はお願いするわ」


 アリスがそう言うと影からモアが現れて一礼だけして宿の奥へと消えた。突然現れて消えたモアにカイトは少し驚くが、隠密系スキルだろうと考えすぐに表情を戻した。


「幸い先日町を離れた冒険者の方がいたので部屋は空いていますし、すぐに準備をいたしますね」


 女将の女性はモアに驚くこともなく接客を続ける。いつものことなので慣れているのだろう。


「ありがとうございます。でも、アリスは屋敷に戻らなくていいのか?」


 カイトは女将の丁寧な対応に感謝を述べ、首を傾げてアリスへと疑問をぶつける。


「昨日はあなたが来るのがわかってたから向こうに泊まったけど、この町ではいつもここに泊まるのよ」


 アリスがそう言うと、女将は少し困ったような表情を浮かべる。


「うちは貴族様を泊めるような宿ではないんですけどね」


「私はここが好きなんだからいいのよ」


 アリスは肩を竦めて女将に答える。すると、少女が唐突に手を挙げた。


「それじゃあ、私はお客様のお部屋の準備してくるねー」


 そしてとてとてと可愛らしく宿の奥へと走って行った。


「あ、こら、もうあの子は……」


 女将はそんな少女を咎めようとするが間に合わず、少女の姿はすぐに見えなくなってしまった。


「騒がしくてごめんなさいね。『女神部屋』の隣は空いてませんが、三つ隣の部屋が空いていますのでご安心下さいね」


 『女神部屋』という言葉聞いたアリスの顔が渋くなった。カイトはわけがわからず首を傾げてしまう。女将は一度だけクスッと小さく笑うと、その部屋の説明を始める。


「『女神部屋』というのは、アリス様が50年前に泊まり、現在もアリス様専用になってる部屋のことですよ。女神の加護にあやかりたい冒険者のお客様が、その隣の部屋をよくご利用になるんです」


(町を歩いている時も思ったけど、アリスのこの町での人気は凄いな。日本でアイドルが町を歩いたってああはならないだろうなぁ)


 女将の言葉にカイトがそう感想を抱くのは仕方ないだろう。町の案内の最中どこに行っても町人はアリスを見かけるなり歓声をあげていた。銭湯の時は怪しい視線も感じたが。


「さすがに疲れたし、僕は早めに休もうと思うけど、アリスはどうするんだい?」


「こっちも早めに休むことにするわ。別に起きてる理由もないもの」


 二人はそう話して女将に部屋の場所を聞いて、軽く挨拶をしてから廊下の奥へと足を向けた。


(今日は驚くことばかり、というかまず最大の目標だったアリスが自分から出てきたり、50年前に転移してたり、驚くってレベルの話じゃないよなぁ)


 今日一日の驚きを反芻するカイトだが、翌日はまた驚く一日になるのだった。ギルドでアリスが冒険者達に大喝采を受けたり、アリスがサブマスのイェレナと『いつものやりとり』をしたり、カイトが『白銀の竜騎士』の件でイェレナにこってり絞られたり、LDまでギルドに呼んでて一緒に冒険者の登録をすることになったり、翌日は今日に負けないくらい驚きの一日となるのだが、そんなこと全く予想もできずに、カイトはアリスと言葉を交わしながら準備のされている部屋へと足を進めていた。

 そしてその夜、休もうとしたカイトは宿の少女から『臆病な女神様』の童話を聞かされることになる。その内容は彼がより強くアリスを想うには十分なものだった。




――ウィリアムは屋敷の執務室で今日の出来事を考えていた。


(思ったより感触は悪くねーが……)


 さすがのウィリアムも今日は濃い一日になったと思っている。そして思い返すのはアリスが別れ際に言ったことだった。カイトを町に住まわせるのはいい。だが……。


 ――機械人と吸血鬼はリストから外しなさい


 何の説明もなくそう告げたアリス。納得はしたが理由はわからなかった。


「ちっ、説明くらいしやがれ、クソババァ」


 つい毒吐いてしまう。アリスは説明せずに行動することが多いわけではない。それでも今回説明しなかったのは何か理由があるのだろう。そう納得できる自分と、話してくれないことを歯がゆく思う自分がいた。


(いつまでもガキ扱いしてんじゃねーよ、クソが……)


 そう考えてしまうが、アリスと比べれば親子ほどの歳の差があるのは事実だった。事実ではあるのだが、大人として、男として扱われないことに苛立ちが隠せない。

 ウィリアムの苦悩は続く……。




 ――ここは日の落ちたキャンプの一角。そこに数人の転移者が集まっていた。


「なぁ、旦那、この騒動いつまで続くと思う?」


 旦那と呼ばれた座り込んだフードの男へと、額に角の生えた鬼人の巨漢が話しかける。フードの男は微動だにせず、視線すらも動かした様子はない。


「サァ? いつまでカハわからないヨ。けどあえテ言うなら、いつまでモじゃないカナ」


 独特のイントネーションで喋るフードの男はそう告げて手に持ったナイフを地面に投げ刺した。


「デモ、それハ大した問題ジャないダロウ? こノ世界は自由じゃなイカ。だっタラ、楽しめばイイ」


「ははっ、ちげーねぇな!」


 大男はフードの男の言葉に笑って同意すると、視線を鋭くして門の方を見た。


「まずはこの状況が終わるまで待つとすっか……」


 フードの男は動かない。どこにも視線を向けずただ座り続けていた。




――キャンプの中にフードの男を見つめる視線があった。その視線の主は一人の人間の男だった。男の容姿は特筆することもないほど平凡に見えた。黒髪をありふれたショートカットにし、眼鏡をかけた男。


(……お前には何が見えている?)


 男は動くことなくただフードの男を見続けていた。


冒険者ギルドでの話もやろうかと思いましたが、もうカットしちゃうことにしました

次章は少し時間が経った状態から始まります。

次章、第23章『鮮血の万軍殺しブラッド・ヴラド』ご期待下さい。

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