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ヴァンパイア辺境伯 ~臆病な女神様~  作者: お盆凡次郎
第22章 かつての戦友
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第22章 かつての戦友4

今回もちょっとだけ短くなった

ん~、5000字くらいでキリがいいところでって考えると

中々うまくいかないなぁ


「ちょっと、待て。何だとかげ山はいぱーって!?

 トカゲ呼びはドラゴンの逆鱗だとか、どこがどうハイパーなのかとか、そういうのはこの際目を瞑る。でもどう考えても人の名前とは思えないだろ!」


 一瞬で驚愕から立ち直ったウィリアムが怒涛のツッコミを入れる。それを意外そうに見つめるのはアリスを含む転移者全員だ。

 ネタネーム、それはオンラインゲームの伝統であり名物。『†聖天使†』だとか、ゲーム内のペットに肉料理の名前をつけたり、名前が文章だったり。とにかく多種多様に及ぶ。あのネーミングセンスには脱帽である。


「あーそういえばその辺説明するの忘れてたわ。とかげ山くらい可愛いじゃない。そこの機械人のあなたの名前は?」


 そう言って機械人の女性に話を振るアリス。


「私の名前は、LD-19です」


「ラブ○ール・イク?」


「はい」


 その二人の会話を聞いて首を傾げるウィリアム。そこにそっとモアがラブ○ール・イクの意味を教えると、一気に吹き出して盛大にむせた。


「ゲホッ、ゲホッ、女でそんな名前付けて恥ずかしくねーのかよっ!」


「元男ですから」


 ツッコミに対して間髪を容れずに返答を返すLDに、頭が痛くなるのを感じるウィリアム。アリスという『ネカマ――ネット上で女性キャラを演じる男性――』の前例は知っているが、まさか呼び出し一発目から当たるとは思っていなかった。


「ちなみに私もネカマ仲間よ。それで、いつまで呆けているのよ、とかげ山」


 アリスの言うとおり、とかげ山はアリスを見てからずっと呆けた表情をしている。何を言ったらいいのかわからない様子で口をパクパクさせている。

 ちなみにアリスのネカマ発言に驚く転移者はいない。銀髪ロリ吸血鬼のネカマなんていてもおかしくないからだ。


「えっと、いいかな? 辺境伯さんはとかげ山さんだっけ? その人と知り合いなんですか?」


 エルフの女性がアリスに問いかける。アリスは少し困ったような表情をするが、一度とかげ山を見た後口を開いた。


「えぇその通りよ。AWO時代によくパーティーを組んでいたわ。まぁ、私から見たら50年も前の話なんだけどね」


「ご、50年だって!?」


 50年という言葉を聞いてとかげ山が反応する。とかげ山はアリスがどこか別の場所にいるくらいにしか考えていなかった。それが違う場所どころか違う時代に来ていたのだから、固まってばかりもいられない。


「呆けてたと思っていたら騒がしい『騎士様』ね。まったく……。

 私は一人、50年前の大草原に転移してきて色々あったのよ。さっきも聞いたでしょ?この国には吸血鬼の英雄がいるって。私はまったくそんな気はなかったんだけどね。

 私の話はこの辺りでいいかしら? この町にいれば嫌でも私の話は聞くことになるでしょうし、この館の近くにも私の像が立ってるし」


 そこで屋敷の近くに建てられた『祈りの女神像』を思い出して顔が渋く変わるアリス。とかげ山はアリスの顔をじっと見つめている。


「一つ聞かせてくれ。お前は、辛くなかったのか?」


 そう質問したとかげ山の顔は真剣そのもので、アリスの顔から視線を外さない。アリスはその問いかけに対して、優しくも悲しそうに笑う。


「酷い質問をするのね。でも、『現実リアル』なんてそんなものでしょう?」


 明確な答えではない、しかしその言葉の意味が理解できない者はいなかった。とかげ山は変わってしまったように思える友人の言葉に頭を殴られたような衝撃を感じた。


(護るどころか僕は……)


「アリス、僕はっ!」


「期待させてもらうわよ、『白銀の竜騎士』様?」


 とかげ山が何かを口にしようとしたが、アリスはそれを遮って発言した。そしてそこには聞き覚えのない単語が含まれていた。


(は? 白銀の竜騎士Summerって誰だ? ここにいる他の転移者か?)


 とかげ山は理解できなかった。しかし、そこで先日言伝を持ってきた兵士の呟きを思い出す。どうやら自分は噂になっているらしいということしかわかっていなかったが、『白銀』で『竜』で『騎士』、その符合が表すのは……。


「僕、そんな恥ずかしい呼称で呼ばれてんの!?」


 気付いた。気付いてしまった。小っ恥ずかしい呼び名で自分が呼ばれていることも、アリスがゲーム時代に見せていた意地の悪い笑みを浮かべていることも。


(変わったと思ったけど、こういうところは変わんないのな)


 それは目の前の少女が確かに捜し求めた友人であるのだと、そう確認するのには十分な表情だった。


「あなたのせいで近隣の討伐依頼の半数がおしゃかになったって、昨日サブマスが怒ってたわよ。あーあ、大変ねぇ。十数日もろくな稼ぎもない冒険者なんてどうなるかわかったもんじゃないのにねぇ?」


 ここぞとばかりにとかげ山を責め立てるアリス。その姿には傍から見ていたウィリアムも苦笑い気味だ。ちなみに他の転移者は事情がわからず首を傾げている。


「ちなみにここにいるウィル坊にも苦情が回って来てるんじゃないかしらね」


 それを聞いたとかげ山は淀みの一切ない動作で正座になり……


「すいませんでしたぁあ!」


 土下座した。


(これがアリスやキュウテン卿から話にだけは聞いてたドゲザか。確かアズマでも用いられるハラキリと二分する最大級の謝罪方法の一つとか聞いてたが……)


「……これは酷い」


 大の男が身体を小さく丸める土下座の姿にウィリアムはその恐ろしさを感じていた。背中とうなじを無防備に晒し、頭を地面に付ける様はまるで命乞いをしているようにも見え、プライドも誇りも感じられない。

 誇りを持って謝罪するハラキリ、誇りを捨てて謝罪する土下座、その恐ろしさを目にしたウィリアムは引きつった顔で一歩後ろに足を引いていた。

 もちろんアリスはクスクス笑い、モアはゲヒヒと笑っているのだが。


「見事な土下座ね! 許してあげるわ! これにて一件落着!」


「お前が許すのかよっ!」


 アリスの転移者達がどこかで聞いたことのあるセリフを聞いて、引きつった顔のまま思わずツッコミを入れるウィリアム。それを聞いて視線だけを二人に向けるとかげ山。


((……なんだこれ))


 そして一つになる取り残された転移者達の心。


「あーとりあえずあんたは立て。んでさっき言おうと思ったことだけど、もうめんどくせーから適当にまとめるわ」


 もはや取り繕うこともせずに話を始めるウィリアム。立ち上がったとかげ山は頭をかいている。その話をまとめるとこうなる。

――他人に迷惑をかけるな

――兵士と揉め事を起こすな

――自分の力の使い方を覚えろ

――あとそっちの通貨は誰にも見せるな

である。


「ゴールドを見せるなという言葉の意味が理解不能です。説明を要求します」


 ウィリアムが取り繕うのをやめたためか、LDは先ほどよりも更に感情を感じられない口調で疑問を口にする。その姿にほんの一瞬だけアリスの視線が厳しくなる。


「あー、こっちのそのゴールドってのはプレミアが付いてんだよ。美しい造形の純金のコイン。現在この世界に二枚しか存在しない超レア品だ。昔は純金に少しの付加価値が付くだけだったんだけどな。

 まぁ、当時でも宿に一ヶ月以上は泊まってられる金額になったんだけどな」


 世界に二枚だけ。その言葉を聞いた転移者達の視線はアリスに向いた。


「仕方ないでしょ、金もコネも余裕もなかったのよ」


 そう言ってアリスは懐から数枚のコインを取り出して見せる。銅のコインと銀のコイン、そして金のコインだが、どれも素人目に見ても不純物が多く見えるし、形も微妙に綺麗じゃない。


「これがこの世界の通貨よ。銅貨百枚で銀貨、銀貨百枚で金貨になるわ。これを見ればゴールド硬貨がどれだけ価値があるかわかるでしょ?」


 頷く転移者達。そして涎を垂らしながらアリスの手にあるコインを見つめるモア。その視線に気付いたアリスがジト目でモアを見やってコインをしまうと、モアは残念そうに呻いた。

 ふとアリスが何かを思い出したようにとかげ山を見て口を開く。


「あと、とかげ山、あんた本名のカイトを名乗りなさい。あんたの名前が原因でドラゴンが大挙して押し寄せて来るとか洒落にならないわ」


「お、おう、さすがにそれは僕も御免蒙りたいな。じゃあ改めまして、甲賀 海人、こっち風に言うとカイト・コウガ、あ、いや貴族じゃないから、ただのカイトです。

 ジョブはメイン神聖騎士、サブ鉄騎兵、補助教官だよ」


 アリスの要求に納得したカイトはそこにいる面々に自己紹介をする。

 神聖騎士は剣士ジョブの最上位の一つ、騎士系聖騎士の4次ジョブで、鉄騎兵は槍兵ジョブの3次ジョブの一つで騎兵系になる。教官は味方の経験値効率を上げることに特化した補助ジョブだ。

 一種類のジョブには基本的に二つの系統と四つの4次ジョブが存在する。


「私はLD-19と申します。ジョブは機械人なので専用ジョブのソウルマシンです」


 ただし、機械人のみ固定のジョブから変化することがない。スキルの習得は新規パーツやパーツの合成にて行われ、戦闘方法もパーツによって変わる。この仕様がたたり、吸血鬼と並んで二大不遇種族とか言われていた。

 この後LDに続いて残り二人も自己紹介を終える。


「あー自主的に自己紹介までしてくれて助かる。この後フィールドで戦闘するわけだけど、準備が必要なら一度キャンプに戻ってくれて構わない。

 まぁ、アイテムボックスがあるだろうし、必要ねーかもしれねーけど」


 ウィリアムはそう言うと、クローゼットから一本の剣を取り出す。


「あれ? 伯爵も一緒に来るんですか? 危なくないですか?」


 カイトがその行動を疑問に思って聞き返すが、返事の代わりに返って来たのは凄まじい殺気だった。そしてウィリアムはマントを翻して転移者達の顔を睨み付ける。


「おい、舐めた口利いてんじゃねーぞ、異世界人。俺達はこの世界で生まれ、この世界で生きてきてんだ。その俺達の中でも民を守るべき貴族である俺が戦えねーわけねーだろうが」


 有事の際には先陣に立って戦うのがこの国の貴族の在り方だ。それだけが理由ではないがウィリアムもまた鍛錬を欠かしたことはない。LV94、転移者に比べれば低いLVかもしれない。しかしこの世界では極まる直前のBランク冒険者に相当する実力なのだ。

 20台後半の若さでここまで来る冒険者はそれほど多くはない。一部の才能のある冒険者はその領域に辿り着くが、早くても30後半というのが普通なのだ。

 故にウィリアムの努力は簡単に計れるものではない。それが愛する女性を護る為に足掻いた男の結果なのだ。

 ウィリアムが視線を動かしアリスを見つめる。彼女は彼に視線を向けることがないが、それでも彼は愛する彼女を見ていた。

 殺気、経験、覚悟、その全てで劣る転移者達はその気迫に圧倒された。一人覚悟だけは当の昔に決めていたカイトを除いて。


「上等ですね。じゃあ、こっちはこっちで勝手に実力を示させてもらいますね。貴族様の身を護らなくていいのは楽でいいです」


「はっ、言ってろ異世界人」


 カイトの言葉を聞いて彼の方を向いたウィリアム。二人が視線を合わせて互いに口を吊り上げる。そしてカイトが一歩、二歩とウィリアムの側に寄って、耳元で呟いた。


「僕はアリスを守るのに専念させてもらいますよ」

 

 そしてカイトがアリスの方を向いて微笑む。アリスは呟きが聞こえていなかったらしく、首を傾げている。聞こえないように呟いたのだから当然ではあるが。

 ウィリアムは目を見開いてカイトの顔を見ている。


(コイツッ、あり得ねーと思って油断したっ! 俺がアリスを見てたのも気付いてやがったな。コイツは俺の敵だ!)


 当のアリスは首を傾げるばかりで状況に気付いていない。次第に考えるのも面倒になったのか、首を傾げることをやめた。


「男二人の薔薇色空間はどうでもいいわね。そんなことよりLD、あなた後で話があるから戦闘の後、少し時間ちょうだい」


 薔薇色とか誤解された二人は疲れた表情で肩を落とすが、アリスはそんな事などお構いなしにLDに約束を取り付けていた。

 そして他の二人の転移者にも調子などを聞いたりした後、さっさと扉の方に歩を進めた。


「先に町の外に出てるわよ。南門に集合でいいのよね? 久しぶりにバカ弟子にでも会いに行こうかしら」


 アリスはそう言って部屋を出て行った。モアはアリスが部屋を出ると同時に姿を消し、残りの三人の転移者も肩を落として固まる二人を気にしながらも部屋を後にした。


「おい、異世界人。言っておくが、あの女を渡すつもりはねーぞ」


「渡すも何もお互い勝負の舞台にすら立ててないようですけどね」


「うっせ……」


 廊下ではLDが執務室の方を向いて呟いていた。


「腐海が広がる予兆を確認。以後あの二人から目が離せませんね」


BLタグがアップを始めたようです。GLタグは前回で一仕事終えてお茶飲んでます。

とかげ山.H改めカイトがいつ、何故アリス(In孝道)を好きになったのか!

え?孝道って誰だって?いやだなぁ、一回しか出てないけど主人公のリアルネームですよ

それにしてもそんなに恋愛的な要素は多くする気はなかったんだけど、いつも気付いたらウィルが暴走するなぁ

あと今回ジョブについてちょっとだけ細かい話出せました。

まだ全部は出来てないんですけど、スキルツリーとかも作ってはいます。

次とその次は戦闘シーンがあるはずなんでがんばります!

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