第22章 かつての戦友3
今回はキリがいいところまでということでちょっとだけ短めです。
主人公最強系のはずが、ゲロったり周りに心配されまくったりで全然そう見えない
戦闘があれば最強系だから(震え声)
ブックマークと評価いっぱいありがとうざいます(ドゲザァ
誤字報告くださった方々?ありがとうございます。適応させていただきました
――昼、外は今日も快晴、太陽が元気いっぱいに輝いている。
(いや、いきなり私がいるより最初は一人で会いたいっていうのはいいけど。これはないんじゃないかしら?)
「ゲヒヒ……」
ウィリアムが最初は一人で転移者と話したいと言うのでアリスとモアは執務室の近くで姿を隠していた。
具体的には屋敷の三階にある執務室の窓の外にぶら下がっていた。
アリスがぶら下がっている窓の向こう、執務室の中では呼び出された数人の転移者とウィリアムが顔を合わせていた。
「よく来てくれた、転移者諸君。もう一度自己紹介をさせてもらおう。
ここアンジェリスに居を構える、ストムロック領領主、ウィリアム・ストムロック伯爵だ」
ウィリアムはそう言って両手を広げ大げさにアクションを取る。
「あ、あの、それで私達なんで呼ばれたんでしょうか? 議会というので何か大事なことが決まったんですか?」
魔法使い風の衣装に身を包んだ転移者のエルフの女性が遠慮がちに発言する。議会の話が頭から出てくるくらいには冷静な転移者の言葉に内心、少しの感心を抱くウィリアム。
(お、議会のことを覚えてるか。あの時きっちり話を聞いてた証拠じゃねーか)
「自分達の今後が関わっているんだ、君達も色々気になるだろう。しかし、待ってほしい。順を追って話をしようじゃないか」
ウィリアムはそう言って転移者達の顔を見渡す。貴族の屋敷に招かれたことで多少の緊張が見える者もいるが、皆一様に落ち着いている。
一瞬視線が赤い髪の竜人と合う。
(コイツが『騎士様』か……。ちっ、綺麗な面しやがって)
内心毒を吐いたウィリアムは一度目を瞑った。
「君達に来てもらったのは、力を借りたいと考えているからだ。あぁ、安心してくれ強制ではないし、君たちは第一陣だ。今日以降まだ見込みのありそうな転移者を呼んで同じように話をさせてもらうつもりだ」
ウィリアムの言葉を聞いた転移者達に緊張が走る。ここにいるのは初期から比較的冷静だったメンバーだ。当然この世界が『現実』ということをある程度は理解している。故に、慎重に慎重を重ね戦闘など一度も行っていない、一人を除いて。
その一人、赤い髪の青年だけは緊張した面持ちを見せず、目を細め伯爵を見つめている。
「私達王国は君達を便利な道具として使うつもりはないが、それでも君達はこの世界で生活をしなければならない。
金を稼ぐ当ては? 身分を保証するものは? どちらも存在しない。技術を持っていれば別だが、この世界でそういったものが就ける職業は限られている。
冒険者か娼婦か裏か野盗が精々だろう。前者三つは国とも関わりがあり恥じるものではないが、野盗だけにはなられると困る」
娼婦と聞いた女性陣に嫌悪の表情が表れる。恥じるものではないと言われたのでさすがに騒いだりはしないが、それでも受け入れられるものではないのだろう。
「君達に望むのは四つ目の選択肢、そして他国へ渡る転移者が出ないように抑止力になってもらうことだ」
その言葉を聞いた転移者達の頭に浮かんだのは、プレイヤー同士の戦闘(PVP)と呼ばれるものだった。ゲームの時は楽しむ要素として納得もできたが、ここは現実だ。それが理解できない面々はここにはいなかった。
「君達はもしかしたら気付いていないかもしれないが、君達の力は強すぎる。
この世界の人間は高くてもLV150に届かない」
転移者達の一部はその発言に違和感を覚える。目の前にいるウィリアムは転移者について詳しすぎるように感じた。
転移者の存在を知っていたのはまだいい、だがAWOの最高LVを知っているかのような発言は違う。
「あの、俺たちが元の世界に帰る方法とかわかりませんかね?」
黒髪の巌のような男戦士が問いかける。ここまで詳しいウィリアムなら帰る方法も知ってるのではないかと思ったからだ。
「残念ながら、君達を元の世界に帰す方法は見つかっていない。原因すらわからないままなんだ。
こちらとしては来てしまった以上できる限りの援助は惜しまないつもりではある」
ウィリアムの発言に僅かに肩を落とす転移者達。
「それで結局僕たちに何をさせたいんですか?」
そう口にしたのは赤い髪の竜人の青年だった。一人だけ肩を落とすこともなくウィリアムへずっと視線を向けている。
(なんでコイツこんなガン見してんだよっ! もしかしてコイツそういう趣味なのか?)
などとウィリアムは内心驚愕してはいるのだが、それをまったく表情に出さないのはさすがと言えるだろう。だが当然赤髪の青年はウィリアムが思っているような理由で見つめているわけではない。
(帰る方法については追々でも構わない。最優先はアイツを見つけることだ。なら当然ここで自分をしっかり売り込まなきゃいけない)
「まずは力とそれを振るえることを証明してほしい。方法については後で話す。まずは先日王都で行われた議会で決まったことを報告したいのだが、正直何も決まっていない。基本的には俺が場当たり的に対処していくことになる」
(まぁ、そうだろうなぁ。LV150に届かない世界にLV250が現れたら対処方法なんて思いつかないよなぁ。
それにしても随分と都合のいい状況だ。ここで自分の力を示せれば目標に一気に近づける。)
赤髪の青年は内心この国の貴族に同情する。日本に実際やたらと強い巨大怪獣が複数現れれば政府は正しく対策に動けるだろうか? 答えは否である。この世界の現状はまさにこれなのだ。
「だが、もし野盗に身を落としこの国の民の害になるようなら、こちらの法に則り確実に転移者を処刑するつもりだ。そのための手段もないわけではない」
ウィリアムは睨み付けるような表情をすると、そう転移者達に告げる。その気迫を受けた転移者達はつばを飲み込んだ。その音が耳に響く。
(そうだろうな。伯爵は僕達に友好的だが、優先されるのは国だろうし。彼は貴族だもんな。ノブレス・オブリージェがこんな所で見れるとは思わなかったな)
赤髪の青年は冷静に言葉の意味を理解し感想を抱く。むしろ手段があるという発言の方に驚きを感じた。
(確かにこの世界はゲームとは違う。スキルが使えるだけじゃどうしようもないのは『鍛錬』で理解できた。この世界では純粋な肉体の技術も実力に上乗せされる。
LV150なら装備問題と相性さえよければLV250に対抗はできるかもしれない。ほんとにそれだけなのだろうか?)
この世界ではLV差を純粋な技術と経験である程度は覆せる。だがそもそもこの世界の人々にとって技術と経験はイコールでLVと結びつく。それが適応されるのは転移者を相手にした時だけだろう。
「脅すような真似をしてすまなかったな。だがそれだけの覚悟がこちらにあるのは理解してほしい。
それと竜人、鬼人、機械人、吸血鬼には少し不自由を強いることになるかもしれないことは先に伝えておく」
「それはどういうことでしょうか?」
ウィリアムの最後の言葉に真っ先に反応したのは、少し長いくらいの青髪の女性だった。女性の身体はそれなりに胸があり腰もくびれているのだが、やけに刺々しく金属的で生物的ではなかった。また服装から覗ける関節部には機械の部品の様な物が見える。更に声が平坦であり、それを総合して女性が機械人であることを示している。
「うむ、まずは鬼人だが、これはこっちの世界にも存在するのだが、この国の友好国の一つで以前国家転覆を企んでいた。今は不可侵の状態だが、それもいつ爆発するかもわからない状況だ。
次に竜人だがこれについては全くの謎だ。人化したドラゴンの末裔と言われ、今もドラゴン達と暮らしているだろうということしかわかっていない。
そして機械人については、そうだな、この剣と魔法の世界に魔導具はあるがキカイなんて道具があると思うか?」
それを聞いた転移者は納得した、してしまった。鬼人は友好国を刺激しかねず、竜人は知られていないが故に畏怖の対象となっているのだろう。
そして機械人についてはいくら魔石が動力とはいえ、きっと存在そのものがオーバーテクノロジーなのだろう。
「そして最後に吸血鬼だが、これはこの世界に存在する。ただし二人しかいない。
一人はこの国とっての英雄であり、人々から慕われ愛されている。それ故にこの国では吸血鬼に悪い印象を持っている者はほぼいないと言ってもいい。
もう一人はわけあって一人目の吸血鬼の眷属となった者だ。こいつも色々と慕われている。
転移者の吸血鬼の中から犯罪者が出ると冗談抜きで困るんだ。吸血鬼はこの国では英雄だからな」
違和感は感じるが納得はできた。吸血鬼を英雄のままでいさせたいのだろう。だから吸血鬼に悪い印象を与えたくない、だが……。
「あーそれは安心していいと思いますよ。吸血鬼でPK、あ、こっちで言う人殺しとか野盗に当たる人って絶滅危惧種ですし。
日が出てると能力が下がるって、そういう人たちにとっては致命的なんですよね」
巌の様な男性が語るのは事実だった。PKは昼夜問わずプレイヤーを狙い狙われる。基礎能力が高いからといって、昼には半減する種族を選択するのは致命的を超えて自殺志願者とも言えた。
「そ、そうか……、まぁ予備軍みたいのがいないのは僥倖だな」
愛する女性の種族にダメ出しされたようで少し納得いかないウィリアムだが、そこは呑み込んだ。
「種族についてはそんなところだな。それじゃ次なんだが……」
そう言ってウィリアムは話を続けようとしたが、急に窓が叩かれる音が聞こえて中断する。
「あー、次なんだ……」
再度窓が叩かれる音が聞こえる。それから何度か話を再開しようとするが、その度に窓が叩かれる。しまいには窓に皹が入る。
「だぁっ! うっせーよクソババァ! もう少し我慢できねーのかよ! あと窓の修理費は後できっちり請求するから覚えておけよ!」
ウィリアムが今までの威厳ある態度を崩し、荒い口調で窓に向かって叫ぶ。そのあまりの変貌に呆然とする転移者達。そしてウィリアムの言に対する返答は皹の追加という形で現れた。
それを見たウィリアムは頭をガシガシとかくと、舌打ちを一つして口を開いた。
「わかったから、もう出てきていいから、窓は割るんじゃねーぞ。掃除すんのうちの連中なんだからよ」
窓が開かれる、風が室内に入り込み空気を冷やす。窓の向こうにはどこまでも続く青空が見えた。
そこから現れたのは蒼銀の髪、赤い瞳、人形の様な顔立ち、小さな華奢な身体……を抱きかかえた目が髪で隠れたメイドの女性だった。
「モア、放しなさいよ。てか、抱きかかえる必要なくない?」
「ゲヒヒ、かっこよく登場なんてそれっぽいことできる雰囲気じゃねーでしょ? ここはネタに全振りするところでーす」
モアに抱きかかえられた少女アリスはジト目でモアを見ながら言った。
張り詰めた空気を破壊したその姿に驚愕を隠せない転移者達。
「てか、窓にぶら下がるの疲れるんだからさっさと呼びなさいよ。そんなんだからいつまでもウィル坊なのよ」
アリスはそう口にするとモアの腕を振りほどき、床に着地する。抗議しようと前に出るウィリアムを無視して、転移者達に向かってスカートを摘まんで可愛らしくお辞儀をした。
「はじめましての方ははじめまして。私はグリムス領領主、アリス・ドラクレア・グリムス辺境伯。王国11議会の一員でもあるわ。
この世界への来訪、心をより歓迎いたします。そして……」
アリスの視線が目を見開いた赤髪の青年に向けられる。
「久しぶりね。とかげ山.H」
瞬間ウィリアムの表情が赤髪の青年に向いて、そのまま固まる。
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いや本当は†とかも使おうと思ったんですが、さすが盛りすぎかなぁっと




