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ヴァンパイア辺境伯 ~臆病な女神様~  作者: お盆凡次郎
転移者転移編・プロローグ
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プロローグ 第1章 そして『俺』は『私』への一歩を踏み出した0

このプロローグは本編と違い主人公の一人称で書かれています。

ログアウト理由にメンテナンス時間を追加


 ――なんだろ眩しいなぁ。それにすごくだるい。


 目蓋越しに強い光を感じる……。

 俺は確かVRMMOゲーム『アストラル・ワールド・オンライン(AWO)』をプレイしてて、ダンジョン攻略して……。

 あぁ、なんとなく思い出してきた。ゲーム内でできた友人とダンジョンボスを倒してタウンに戻ってPT解散したんだ。

 その後はメンテナンス時間が近づいてログアウトして……あれ?

 ログアウトしてそれからどうなった?

 VR機器を外した記憶はないし、俺の部屋はこんなに明るくないはずだ。

 機器は目を覆うバイザーもあったはずだから、外さずに目に光が入ってくるはずないのに……。

 目を開けてみればわかるかな?


「……は?」


 目の前に映るのはどこまでも続く青空。まるで吸い込まれそうだ……。

 って、そうじゃない、何でポエムっぽくしてるんだよ。俺の部屋はいつから吹き抜け構造になった?

 そうでもない、これ明らかに外だ。草の匂いもする。ベッドに預けてたはずの身体に伝わる感覚はすごく硬い。これ地面だろ絶対。

 あ、風だ。超気持ちいいわ。これならいくらでも昼寝できそうだ。

 空に銀糸の何かがかかって、より風景が綺麗に見える。

 ……銀糸? これどこから現れた。とりあえず掴んでみ――。


「え、ちっさ?」


 小さい? 俺の手ってこんなに小さかったっけ? それに肌も白く、日本人である俺の肌とは違う。それなのに一緒に目に映る黒くフリルの付いた見覚えのある袖……。


「まさかっ!」


 勢い付けて起き上がってみたけど、いつも以上に身体が軽い。それに銀糸も一緒に動いた。

 身体を見渡してみればやはり見覚えのある服装だ。信じたくないけど、まさかこれって……。


「アリスの身体なのか?」


 AWOで俺が使ってたキャラクター、アリス。銀色の長い髪に小さく華奢な身体、フリルと薔薇をふんだんにあしらった黒のゴスロリ服。

 鏡があるわけではないので顔つきや目の色は確認できないが、恐らく人形のような顔立ちに赤い瞳をしているだろう。

 リアルの俺のごつごつした身体とは違う、と言うか性別からして違う。

 この身体のだるさはアリスの種族が吸血鬼だからなのか?

 AWOの吸血鬼は太陽光でダメージこそ受けないが、知力以外のステータスが大幅減少する特性がある。

その代わり日の出てない時間は、素の状態の非常に高いステータスが反映される。

屋外では特定の時間帯以外では弱いので、AWOでは機械人(オートマタ)という種族と並んで不遇種族と言われている。

 もし俺がアリスの身体になったのだとしたら、その種族特性も当然あるはずだ。

 だが確実にログアウトしたはずなのに、アリスの身体であるのはどう考えてもおかしい。

外と思わしき場所にいることと合わせて、頭の中に一つの可能性がよぎる。


――異世界転移


現実世界で無数に作られた創作のジャンルの一つ。ある日主人公が異世界に飛ばされて、様々な活躍をするものだ。俺もいくつか見たことがある。

古くから続くジャンルなだけあり様々なタイプがあって、今俺が経験しているのはオンラインゲームのプレイキャラクターで転移する、変則タイプの異世界転移の一つなのだろう。


そこまで考えて周りを見渡すとどこまでも続いていそうな、緑が生い茂る草原だけが見える。

日本ではあり得ない景色だ。少なくとも俺は日本にこんな場所があるのは知らないし、近所には絶対存在しない。

ここにいる人間?はどうやら俺だけらしい。まるで異世界転移物の主人公だな。ちょっとワクワクする。

だが、1人だとどうすればいいかも思いつかないな。定番の展開だと町を目指したり、モンスターに襲われている馬車を助けたりするのだろう。

いや、この世界にモンスターがいるかどうかもわからないけど。

そもそも今の俺はアリスの身体だけど、ステータスもそのまま引き継いでいるのだろうか?


「ステータスオープンっ!」


……何も出ない。

ここはテンプレじゃないのかよっ! 異世界転移のお約束の一つステータス表示がないとか、どうやって自分の強さ確認すればいいんだよ。

そういえばアイテムってどうなってるんだ? 防具は今付けてるっぽいから武器以外は問題ないだろうけど。

ここも定番ならアイテムボックス的な動作ができるはず……。


「おっ?」


愛用の剣を思い浮かべて手を突き出すと、そこから愛用の剣『背徳竜の牙』が柄から生えてきた。これはあるボスモンスターを仲間達と何度も撃破して、ようやく入手した思い出の品の一つでもある。

普段タウンでは武器を解除していたから、アイテムボックスが使えなかったら失くすところだった。

他のアイテムは取り出せないかと頭の中にアイテムボックスを思い浮かべると、頭の中にアイテムボックスの中身が浮かんでくる。どうやらアイテムボックスはテンプレ通りらしい。

とりあえず剣を引き抜いて軽く振ってみると、周囲に軽く風が舞い草を揺らし、鈍器でも振りまわしたような鈍い音がする。

小さな身体で風が舞うほど剣を振り回してるにも関わらず身体は全く振り回されていない。

これは身体能力には期待できるな。


他にもこの身体について確認しなくてはならないことがある。女になった事の確認とかそんな疚しいことではない。そんな事は張り付く下着の感触で十二分にわかるし、アリスは俺にとって娘のような存在なのだから、そんな変態みたいな真似はできない。

では何を確認するのかと言うと、当然スキルだ。

スキルとはAWOで存在する、能力値を上昇させたり、必殺技みたいのや魔法を放つことができるシステムの一つだ。

パッシブスキルと言われる常時発動スキルは確認できないが、アクティブスキルと言う任意発動のスキルは確認可能なはずだ。

まずアイテムボックスの要領で頭の中にスキルを思い浮かべる。すると先ほどアイテムボックスの中身が思い浮かんだ時と同じように、スキルが次々と思い浮かんでくる。

攻撃スキルは何が起こるかちょっと怖いので除外して、補助スキルを思い浮かべる。その中でも特に使用頻度の多かったスキルを選択する。


「プリンセス・ヴェールッ!」


 宣言すると同時に俺の身体が何か膜のような物に包まれる感触がする。

 プリンセス・ヴェールはアリスがメインジョブに設定している『プリンセス』――男キャラの場合は『プリンス』になる――のスキルの一つだ。

 AWOのプレイヤーはメインジョブとサブジョブ、補助ジョブを一つずつ選択することができる。これは所謂職業というもので、メインとサブには剣士や魔導師などの戦闘ジョブを設定でき、補助ジョブには鍛冶師や商人などの生産・販売などの戦闘外のジョブを選択できる。


 そしてプリンセスは支援に特化した特殊戦闘ジョブである。

 また本来ジョブは1次ジョブを限界まで成長させると、2次ジョブが開放されるといった具合に、4次ジョブまである。

また上位のジョブでは下位のジョブのスキルもそのまま引き継ぐので上位になればなるほどスキルも増えていく。

しかし、プリンセスは違う。プリンセスは1次ジョブにして最終ジョブなのだ。下位も上位も存在しないジョブなので当然スキル数は4次ジョブに劣る。

だが、支援能力については他のジョブを圧倒的に凌ぐものである、ボス戦には1人は必須とまで言われるジョブなのだ。

サブジョブに指定できるのが3次ジョブまでであり、サブジョブでは下位ジョブのスキルが適用されないと言う仕様のため、サブジョブのデメリットの薄いサブ姫・王子はかなりの人口がいた。

メイン姫・王子の人口は残念な状況だったが、特殊ジョブにだけ存在するメインジョブ専用スキルがかなり使い勝手がよかったので、アリスにはメインで設定していた。当然ロールプレイの意味合いもあったが。

個人的にはサブ姫・王子ってどういう状況だよ、と言いたい。何? 王様が昔おいたした一般市民とかの子どもなの?

その点うちのアリスは正真正銘、吸血鬼のお姫様――って設定――だけどな!


と、うちの子自慢は言いとして、今使ったプリンセス・ヴェールは、そんなプリンセスのスキルで、一定量までダメージを無効化するバリアを自分に張るといった物で、一部の回復職の持つ他者にも張れて効果もこっちより高いスキルに比べれば微妙な代物だが、支援をメインとし、攻撃・防御・回避のスキルを他に一切持たないプリンセスにとっては、これの有無が生存に大きく関わるほど重要なスキルだ。

それが使えたのは大きな成果と言えよう。これがどこまで効果があるか知らないが、これで一撃死する事態だけは防げるはずだ。

異世界転移でまず最初にすべきは、自分の安全を確保することだろうからな。

 戦闘自体は吸血鬼とサブジョブのスキルで補えば、たぶん大丈夫だ。


 よし、準備は全て整った。武器よし、防具よし、スキルよし、アイテムもよし。

 今日から俺は異世界転移主人公だ。

 異世界での第一歩を踏み出……。


「ぶぇあっ!?」


 せずに盛大な音を立てて転んだ。

 AWOにはアクションアシストというシステムがある。これは様々なアクションに対してシステムがアシストしてくれると言った物だ。

 歩く、走る、飛ぶ、武器を振るう、全ての動作にアシストが入る。ゲームプレイでなれない靴や悪路でも問題なく動けたのはこれが理由だ。

 だが、異世界にはそんな便利な物は実装されてないわけで、歩きなれない身体と服装で見事に転んだわけだ。

 ちなみにアリスの履いてる靴はヒールのない厚底ハイヒールブーツだ。そら転ぶわ。てかよく普通に立ってられたな俺。

 

 あぁ~、地面ちべたい……。


 まずは歩くところからスタートだな。こだわりにこだわった装備外観変更(課金)がこんな形で仇になるとは思わなかった。

 もう一度立ち上がり、不安定に揺れる身体を高い身体能力で安定させる。後はゆっくりと足を踏み出すだけだ。

 踏み出した足は無事に地面に付く。かかる体重の感覚が普段より小さく、バランスを崩しそうになるが、堪えて反対の足を踏み出す。

 

 ここでAWOのステータスについて少し話そう。STR(力)、AGI(素早さ)、VIT(頑丈さ)、DEX(器用さ)、INT(知力)、MND(精神力)、LUK(運)とある。

 ステータスはLVUP時に種族特性に合わせて一定量上がり、更に現在のLVに応じて自由に1~3個を上げることができる。そこにメイン・サブ双方のジョブ補正がかかったものが最終ステータスとなる。

 ちなみにジョブによる補正は最低1倍なので補正後でステータスが下がる事はない。

 アリスは現在LV250。これはAWOでのプレイヤーの最大LVだ。最大LVのステータスは種族特性で一時的に減少していても、並みの人間以上あると考えていいだろう。

 つまり何が言いたいかと言うと、人並み以上に器用な存在が歩くことに慣れるのにどれくらいかかるのかと言うことだ。


「ほっ、いぇっと!」


 二歩目からは既に飛んだり跳ねたりできるようになる。しかも明らかに超人的な距離を飛んだり跳ねたりできる。これが正解だ。

 想像を絶する身体スペックの高さには驚かされるが、それ以上にリアルでもVR空間でも感じることができなかった風を切り、筋肉の躍動する感覚に喜びが隠せない。

 まさに気分は召還された勇者だ。

 その内お姫様――設定上はアリスもお姫様だが――が出てきて


『魔王を倒してください。勇者様!』


 とか上目遣いに潤んだ瞳で言ってくるのではないだろうか。

 あ、アリスの身長低いから上目遣いは無理か。

 吸血鬼のこの世界での扱いもわからないし、それがわかるまで派手なことはできないかな。

 まあ、いざとなればこの明らかに人外なスペックのごり押しで逃げればいいか。

 なによりまず、町を探して情報収集と、存在してて可能なら定番の冒険者ギルドに登録だな!

 その前にモンスターが存在してるか探してみないとな。


 よし、とりあえずの方針は決まったな。後は行動あるのみ。

 異世界の風に導かれて今、俺の冒険が幕を開ける!

 ……なんつってな!




【この時は確かに希望を抱いていたんだと思う。

 異世界転移という異常事態をどこかフィクションのように捉えて、この身体の能力ならできないことはないと、変な自信だけを持っていた。

 元々の自分はただの一般人で喧嘩一つろくにしたことなく、戦争はどこか遠い出来事だった。

この世界をAWOの延長のように考えていた。

だから気付かなかった、思いもしなかった。


この世界がどうしようもないくらいに残酷な『リアル』であることを……】


この続きは本編の合間に明かしていきます。

怒涛の主人公ゲロイン展開にご期待ください。

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